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栄華の崩壊

私はこの国が好きだ。

大国というほど領地があるわけではないが、高い国力を誇り、日々を生きる人々は活気に満ちている。

明日は今日よりいい日になる……そんな希望を皆が共通して持ち、日々を懸命に生きてきたからこそ、このリデオン王国の繁栄があるのだ。


…………そして、私はそんな故郷を護る騎士であることに誇りを持っている。


「あ!ママ!見て!!騎士団が帰ってきたよ!」


私たちの凱旋を観に来た聴衆の中から無邪気な声が聞こえてくる。

4〜5歳の子供のようで、瞳を輝かせながらこちらに大きく手を振っていた。

私は、そんな彼に見えるよう、小さく手を振りかえす。


「やった!聖騎士様に手を振ってもらった!!僕ね!大きくなったら聖騎士になるんだ!」


隣にいる母親であろう女性に満面の笑みで夢を語らっている。

そんな彼と共にこの国を護れる日が今からでも待ち遠しい。



「魔王軍との交戦、誠に大義であった……報告では、王級大鬼(オーガロード)が指揮を取っていたそうだが、貴殿の活躍で無事に打ち取れたそうだな。」


「いえ、私一人の力ではなく……周りの魔物を退け、私があの魔族の元へと行ける道を作ってくれた兵士や騎士のはたらきがあってこそです。」


「そういうな……その兵士や騎士が、貴殿の活躍を褒めたたえているのだぞ。クロスライト聖騎士隊長。」


王からの祝辞を受け賜る。

私への賛美は我が部下、我が部隊……そして、この国を守護する勇気ある者達への賛美……王からの祝辞は、私を通して皆に伝えねばなるまい。

久々の故郷だ……皆に英気を養わせて………そうだな、祝杯の酒も、今日ばかりは大目に見てやろう。


「それにしても……不謹慎ではあるが、私は貴殿がリデオン王国に残る決断をしてくれて……正直言ってホッとしておる。」


私は突然呟かれた王の言葉に、思わず顔をあげた。


「魔王軍との戦いは世界の……いや、人類の存亡機器と言っていい……今までいがみ合ってきた国々が足踏みを揃えて立ち向かわなくてはならなくなったほどのな……だからこそ、その魔王を討ち果たす使命を帯びた勇者にはどの国も尽力を惜しまない……だから、勇者には殿が貴殿を旅のお供にと誘われれば、我が国としては首を縦に降らざるを得ないのだ……どんなに手放したくない人材でもな。」


「………私の故郷はリデオン王国(ここ)であり、あくまで私はこの国の騎士だというだけのことです。」


人類を救済する旅に同行したくないわけではない。

むしろ、大変名誉なことであり……すぐにでもついて行きたくはあった。


………しかし、既に勇者の周りは人類の中でもトップクラスの実力を持つ仲間がおり、連携も完璧だった。

彼らは間違いなく魔王を討ち果たし、世界に平和をもたらすだろう……なら、その間に国が滅びぬよう……私は私の使命を真っ当することこそが重要だ。

言うならば勇者一行は魔王に向けた人類の“剣”なのだ。

ならば、人類を護る“盾”の役割を担う者が必要なのだ。

攻撃だけに専念し、彼が平和を取り戻した世に人類が居ないなんてことが起こらないよう、人を一人でも生かす者がいる。

私は、その使命こそを全うしたい。



王との謁見の後、私は城下におりて部下達に振る舞う酒とツマミを買いに出ていた。


「おや、聖騎士様!聖騎士様がウチをご利用してくださるとは光栄だなぁ!」


「世辞はよしてくれ……むず痒くなる。」


「なに遠慮なされてんですか!聖騎士様は俺たちの誇りですぜ!」


戦いから戻ってくると、行く店々、すれ違う人々……相対する民から賛辞が投げかけられる。

正直、慣れたことはない……だが、感謝をされて悪い気はしない。

だからこそ、私も素直に彼らに感謝を伝えるのだ。


「私こそ……物資や生活用品で世話になっている。皆さんのおかげで、こうして私たちは任務を真っ当できるんだ……いわば、皆さん一人一人が国を護ってくれている。」


「へへへ…!聖騎士様は良いことを言いなさるなぁ!」


酒屋の亭主は照れながら後頭部をさすると、酒の手配を了承してくれた。

これで、夕時には兵舎に届けられるだろう。


「よし、後は…………」


他の買い物をすませようと、後ろを振り返るのと同時に凄まじい轟音が響き渡る。

今思えば、この瞬間こそが《リデオン王国》の栄華の終焉であり、王城に突き刺さったあの漆黒の杭が我が国に手向けられた墓標だったのだ。


王城の……ちょうど宝物庫の屋根に突き刺さった杭の威力は凄まじく、あまりの轟音と衝撃波によって王城の窓が一斉に割れるのを確認する。


「な………っ!」


________________敵襲。

瞬時にそう判断した私は、王城へと急いだ。

敵の攻撃は既に王城まで届いてしまっている……王と王妃様……そして、幼い第一王子の安否を確認しなくてはならない。


「みんな!落ち着いて!!衛兵達の指示に従って建物の中に避難するんだ!!」


私はパニックなった民衆へ呼びかけるように大声をはりながら王城へ走る。


「王!王よ!!何処においでですか!!?」


全速力で王城まで戻った私は必死になって王達を探した。

書斎、居室……玉座の間………王や王妃、王子殿下がおられそうな箇所をくまなく………………

………………結論から言えば、王の姿はなかった。

秘密の脱出路を使い、逃げ延びたのかとも思ったが、通路を開けた痕跡もない。

私の焦りはどんどん加速して行き……そして、事態に気付くのが遅れたのだ。


「クロスライト殿!」


幼い声が、私の名を呼び止める。

振り向けば……そこには幼い第一王子がこちらに駆け寄ってきていた。


「王子!!ご無事で!!!」


私は即座に駆け寄り、王子の安否を確認する……何処にも怪我をした様子はなく、ひとまず胸を撫で下ろした。


「王と王妃様は!?」


「お父上とお母上も宝物庫にいらっしゃるはずです!」


「宝物庫!?いけません!先程あの場所は攻撃を受けて……!」


焦りは頂点に達し、私は王子を連れて秘密の脱出路へと向かおうとした。

どんなことがあっても、王子だけは生かさなければならない……彼の命がある限り、リデオン王国は滅びることはない。

王子を脱出路へ逃したら、宝物庫へ直行して王と王妃様の安否を………

考えながら走る私の眼前に……赤い光がチラつく。

燃えているのだ。

割れた窓ガラスの向こう側……城壁のある方向が紅蓮の炎によって燃え盛っている。

その向こうには、壁のように並び……こちらへ向かってくる魔物の数々……。


「まさか……あの杭は陽動か……?」


あの派手に穿かれた杭も……大きな衝撃波と轟音も………全てはこの王城に、人々の目を背けるため………。

外壁門を手薄にするためだったのではないか?


「……………やられたっ!」


ここでやっと、私は自身の愚かさと過ち……自体の深刻さを理解した。

私は脱出路へと急ぐと、王子をそこに押し込んだのだ。


「王子……いいですか!?しばらくして王か王妃が来なければ……一人でここから逃げてください!」


「そんな……!クロスライト殿も一緒に!!」


「私は………敵をどうにかしなければなりません!!」


私はそれだけいうと、脱出路を閉じて全速力で駆け出した。

城門を飛び出し、剣を抜き放つ。

銀を含んだ、退魔の剣を……


「神よ!御身の子に脅威へは向かう力を!!《神聖剣》!」


私が最も得意とする聖属性の祈祷……剣に光の力を宿す、聖属性でも最上位に位置する力だ。

それに合わせて、加護の力で大地を蹴り、一足飛びに侵攻する魔物の軍勢に向かっていく。


「〈高潔なる光(ノーブルインパクト)〉ォォッ!!」


跳躍しながら放たれた斬撃は壁のように立ちはだかる魔物共を閃光と爆発により一層せしめる。

この爆風に興じて着地と同時に残っている魔物を屠りに向かうのだ。


「来た!!体調が来たぞ!」


「雷光の如き!我が国の戦女神!!」


「行け!!隊長の進む道を開けろぉ!!」


壁のように聳えていた魔物たちが一掃されたことにより、目に見えて騎士たちの士気は上がっていた。

勝てる。

先日の戦場と同じ流れだ………このまま敵の大将を屠り、その首をもって勝利の証とする。


「この戦場に置いて一番の強者は……あの魔物か!!」


魔物の軍隊における最奥……そこに踏ん反り帰っている異形……間違いなくあの虫の様な魔族が、この戦場における指揮官だ。


「〈千光の御手(サウザントホーリー)〉!!」


剣から放たれる幾千の光の斬撃が、鮮血をまき散らしながら私の行くべき道を開け放ち、魔を滅していく。

この崇高なる信仰心こそ、私の力の源。

虫の将軍の周りを固めていた魔族たちを退け、私の一撃は大将の首をとらえて光る。

…………しかし、その一瞬のうちに敵の鎌の様な手が、私の斬撃をはじいたのだ。


「少しはやるか!」


身体に熱がほとばしる。

視界は取りクリアに、思考は鮮明に、相手の動きが……幾億も遅く見える。

私の身に宿る、神の加護が……力を与えてくれていた。

最早、この戦いにおいて敗北は見えない。

神の御名に誓って、ありえなかった。


私の身体は、先ほどよりも加速し、一瞬のうちに相手の懐へと入り込む。

相手が知覚できないほど早く……この動きによって生じる衝撃波が起きるよりもさらに早く。

その勢いのまま、私の剣は、相手の下あごから脳天にかけて貫かれた。

後から生じる衝撃波によって、虫の魔将の首は粉々に吹き飛び、血の雨を降らせたのだ。


「このイライザ!!敵将の首を打ち取った!!」


私の呼びかけによって方々から歓声が上がる。

士気は上場だ、後はこのまま残敵総統に持ち込めば…………

そんな方に脳裏で絵図を書いていると、はるか後方からまたしても爆発音が上がる。


「………お……おい……あの方角って……………王城の方からなんじゃ……。」


兵士の中の誰かがつぶやいた。

そんなはずはない……王の安否を確かめるために王城を回っていた時にはどこにも敵の姿はなかった……。

だからこそ、あの杭もこの魔王軍から放たれたものだと確信して、迎撃に急いだというのに………


「まさか………この魔物共も………陽動?」


私はまた全力で駆け出し、跳躍する。

加護の力で、空高く飛び上がると……煙を上げ、大穴をうがたれた王城が眼前に広がる……。

あの位置は……大広間がある位置だ。

私は大きな弧を描きながら、大穴から王城の中へと入っていく。

着地したその瞬間……斬撃が私の胴体を切り裂かんとばかりに飛び込んでくる。


「あーらら……外しちゃったねぇ。」


着地したその瞬間を狙った斬撃をすんでのところで交わした私の耳に、えらく幼い印象を受ける声が入ってくる。

敵地にいるとは思えない余裕のある声音と、戦地に似つかわしくないヒラヒラのドレス。


「でも……お(つむ)はあんまり強くないようだねぇ、面白いくらいに右往左往してくれて……一応、勇者に見初められた戦士だって聞いて……警戒はしてたんだけどねぇ。」


生気のない青白い肌に……片方しかない眼球………


「貴様………不死者(アンデッド)か……!」


「ご明察だねぇ!私こそ、この進行の指揮官!魔王軍幹部!!【傀儡(くぐつ)のアリス】!!よろしくねぇ!!」


不死者(アンデッド)は小ばかにしたような拍手と自己紹介をすると、武器を構える。

私も剣を構え、応戦体勢に入った。


「べらべらと……敵に情報を離すなど、馬鹿にしているのか?」


「だって……どうせみんな私のことなんて忘れちゃうんだしぃ………この国から一人も逃さないんだから関係ないもんねぇ」


いちいち癪に障る言い方をする……怒りを誘発させて、判断を狂わせることが狙いか……。


「……………それじゃあ、魔王様の保険のために、みーんな……死んでねぇ!」

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