新たな目的
教会から宿に戻ったジャックと首無し騎士はクリス・ケラウスの名義で借りられていた部屋に入っていく。
「ごめんクリス……待たせたな、早速だけど今後の方針を……」
扉を開け、ジャックの目の前に真っ先に入ってきたのは、着替えをしている途中のクリス・ケラウスの姿だった。
彼女は、なにが起こったのかわからないというような驚きの表情で、ジャックを見つめており……徐々に顔面が赤く染まっていく。
「…………………へ?」
「…………え?」
二人とも動揺し、硬直していると、首無し騎士が後ろからジャックの目を覆い、扉を勢いよく閉めた。
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「お前………っ!ばっかじゃねぇぇの!?」
宿屋の一室にロザン・リクレイの怒号が響き渡る。
彼らはクリス・ケラウスの名義とは別に、トト・ルトラの名義で隣室を借りていたのだ。
「いや……今まで、お前ら同じ部屋で泊ってじゃないかよ……だから、何の疑いもなく今回もそうだと……」
「クリスが女だってわかったんだから部屋は普通に分けるよ……今まで分けてなかったのは男三人パーティだと思い込んでただけなんだから……」
「それに、今まで通りだとしても、あの首無し騎士の人がいるんだから必然的に部屋は二つとるだろうが!」
「………あ?なんで?今まで俺ら一緒の部屋で寝泊まりしてたけど………」
ジャックの発言に、ロザン・リクレイもトト・ルトラも頭を抱える……。
話し合いを再開しようとしたところで、部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。
「……ごめん、みんな……おまたせ。」
部屋のドアを開け、クリス・ケラウスと首無し騎士の二人が入室する……心なしか、クリス・ケラウスの様子がたどたどしく、ジャックに視線を向けようとしない。
その様子を見たロザン・リクレイは肘でジャックを小突いた。
「さっきは……悪かったよ。」
「え……!?いや、ううん!大丈夫だよ!」
そういいつつも、クリス・ケラウスはジャックと距離を置くように部屋に腰掛ける。
ジャックの隣には首無し騎士が座った。
全員が部屋に集まったところで、クリス・ケラウスが恭しく咳ばらいをする。
「……………さて、本題に移るんだけど……ジャック、僕らのパーティに戻ってこない?」
先ほどまで目も合わせなかったクリス・ケラウスがジャックの顔をまっすぐ見据えて提案する。
その表情は真剣そのもので、決して冗談ではないことを確信させる。
「…………良い提案だと思うぞジャック、誤解もわだかまりも溶けたんだ……仲違いした仲間に改めて求められるなんてことは早々ないだろう?」
「いや……俺は………」
クリス・ケラウスの意見を援護するように、首無し騎士が発言する。
首無し騎士としては正直、ジャックにこのまま自分の元を離れてほしいと思っていた。
彼はまだ若く、優秀な冒険者だ……いつまでも自分のために時間を無為に過ごさせるわけにはいかない………いつまでもジャックに頼ってばかりはいられないのだ。
「…………悪いけど、やっぱり俺はお前の誘いに乗れないよクリス……。」
「え……」
「なんで!?どうしてなんだ!?」
ジャックの返答に大きな声で動揺したのは首無し騎士だった。
誤解もなくなり、ここまで真剣にパーティへの復帰を望んでいる仲間の誘いを断るなんて……考えられなかった。
「………俺のことを気にしてんなら、お門違いだぜ?もう、お前に対して怒っちゃいないんだからよ。」
「いいや、ロザン……そういうわけじゃないんだ。」
「……じゃあ、どうして?」
トト・ルトラの問いかけに、ジャックは顔を伏せると首無し騎士の方へ視線を向ける。
ジャックもジャックで、やはり首無し騎士のことを放っておけずにいた……それに、なんやかんやでここまで一緒に旅をしてきた”仲間”でもあるのだ。
リトス司祭に頼まれたのも理由として脳裏に浮かび上がってくる……この首無し騎士は一人になれば間違いなく自身のけじめとして自害を選ぶだろう……【憤怒の炎】の影響で、唯一の自害方法であった焼身を奪われた彼女は、ただどこかの洞窟に引きこもるかもしれない……。
それはあまりに理不尽だ……あの時のクリス・ケラウスと同じように、首無し騎士のことも見捨てられずにいる…………だからこそ、この哀れな騎士が胸を張って過ごせるような環境を作りたいのだ。
「…………俺には俺の目的がある、そのために首無し騎士は必要不可欠だし、これから首無し騎士の故郷である〈リデオン王国〉跡に向かうつもりなんだ。」
「………は?何だそれは聞いてないぞ?」
「当たり前だろ、今初めて言ったんだから。」
困惑顔を浮かべている首無し騎士をジャックはいつものようにあしらう。
我ながら言葉足らずで不器用だとは思うが、仕方ない。
「だから、クリス達の活動に参加することはできないんだ……申し訳ないけど。」
「……………そっか。」
ジャックは頭を下げながらクリス・ケラウスに宣言する。
彼のその発言に対し、クリス・ケラウスは納得したような表情を浮かべると、決心したように顔をあげる。
「じゃあ、〈リデオン王国〉跡地まで僕たちもついていくよ!」
「は?」
「え?」
クリス・ケラウスが下した結論に、ジャックと首無し騎士は勿論……ロザン・リクレイとトト・ルトラも素っ頓狂な声をあげる。
「だって、どうせジャックの目的ってクロスライトさん関連のことでしょ?僕らだってクロスライトさんにはお世話になったし、何か手伝いたいしね。」
「ま……まぁ………」
「そうだね。」
「それに、元々ジャックと一緒にクロスライトさんも僕らのパーティに勧誘する気だったし!」
「……え?」
思いきりのいいっクリス・ケラウスの発言に全員が困惑の声をあげている。
特に首無し騎士の驚き様は尋常ではなく、顔が溶けているような……世界の心理について思考して回路が溶けたような表情を浮かべている。
不死者を使役するならまだしも、不死者をパーティに勧誘する冒険者など聞いたことがない……。
その姿に、破天荒なお嬢様の影がちらちらと見え隠れしてしまう。
「だからジャック!これなら文句ないよね!?だって同じ目的だもん、別々に行動する方が不自然だもんね!?」
クリス・ケラウスは押し切るように、どんどん詰め寄っていく……やがてジャックが観念したように頷くと、大きくガッツポーズをあげた。




