報告
激戦を乗り越え、リペリシオン王国へと舞い戻った首無し騎士たちはクリス・ケラウスたちと別れて中央教会へと戻ろうとしていた。
「じゃあ、ちゃんとした話し合いは宿に戻ってからにしようね。」
「あ……ああ。」
クリス・ケラウスの言葉にジャックはぎこちなく返事をする。
馬車の話し合いの最中から彼女の一挙手一投足に目を逸らすようになっていた。
ジャックは振り返ると,中央教会に向かって歩き出す。
「私が一人で行ければいいんだが……すまないな。」
「あ……?いや、それはいいんだよ。」
首無し騎士の表情すらジャックは真正面から見ることが出来なくなってしまっていた。
自分でも自分がどうしてしまったのかわからない。
こんなことは今までなかった経験だ。
(いや……今はそんなことよりクリミア聖王国で起きた出来事についてだ⋯⋯それに、道中で遭遇した不気味な男についても⋯⋯)
ジャックは気持ちを切り替えて歩を進めるのだった。
・
「まずは、ご苦労だったな。」
中央教会を訪れたジャック達を出迎えたのは、優しく微笑むリトス司祭⋯⋯⋯⋯⋯ではなく、眉間に深い皺を刻んだデューク司祭だった。
鋭い眼光をギロリと両名に向けて居る⋯⋯⋯⋯特に、首無し騎士への視線は一層厳しいものだ。
「クリミア聖王国に出現した火竜については中央教会でも確認していた⋯⋯ドネラル山脈に出現した多数の不死者に関してもな。」
「「不審者!?」」
あまりにも寝耳に水な情報に、二人は素っ頓狂な声を上げる。
話をしたとうのデューク司祭は二人の表情を見て逆に驚いているようだ。
「なんだ?知らなかったのか⋯⋯?あの火竜が出没してしばらくしてから、奴の出没した地点から多数の不死者が出没したのだ⋯⋯調査から帰ったばかりの聖騎士達には申し訳なかったが⋯⋯その対処に尽力してもらった。」
「げ⋯⋯原因は⋯⋯?」
口を開いた首無し騎士にデューク司祭はまた鋭い視線を向ける。
その視線に晒された首無し騎士は少し身を縮めた。
「⋯⋯⋯⋯発生原因は明らかになっていない⋯⋯ただ、私達は〈邪神崇拝者〉が絡んでいるのではないかと見ている。」
「邪神⋯⋯崇拝者⋯⋯?」
聞き馴染みのない言葉に、ジャックはデューク司祭の言葉を反芻する。
言葉を聞いた首無し騎士も、言葉を発したデューク司祭も不快感と嫌悪感を合わせたような、侮蔑の表情を浮かべている。
その感情の行き先がその〈邪神崇拝者〉に向けられていることがジャックにも瞬時に理解できた。
「その⋯⋯そいつらはいったいなんなんだ?」
「⋯⋯⋯⋯奴等は魔族が信仰する邪神達に魅入られた人間や亜人種達だ⋯⋯アイツらは邪神に気に入られるために様々な犯罪や背神行為を続けている連中だ⋯⋯300年前に一掃したと記録されていたハズなんだが⋯⋯」
そいつらが今になってまた現れたということなんだろう。
そして⋯⋯なんらかの方法で、火竜を目覚めさせ⋯⋯死んだ。
だが⋯⋯⋯⋯⋯
「どうしてその〈邪神崇拝者〉達は、伝説上の存在でしかない火竜が実在しているってことを突き止めたんだろう⋯⋯?それに、復活の方法も⋯⋯⋯⋯」
「確かにジャックの言う通りだ⋯⋯私が生きていた時代でも、火竜など伝説の存在でしかなかった⋯⋯実在するなど⋯⋯ましてや復活方法など⋯⋯」
首無し騎士より生きた存在⋯⋯例えば森妖精のような長命種であれば知っていたのかもしれない。
実際、ディネリントも古代種の存在を認知し,確信していた。
ならば⋯⋯裏で糸を引いているのは森妖精や闇妖精なのだろうか?
「あの男⋯⋯強大なるものを使役していた奴も〈邪神崇拝者〉だった⋯⋯」
「何⋯⋯?」
デューク司祭の険しい顔がより一層険しくなる。
その表情にすこし怖気付いた首無し騎士だが、すぐに持ち直して道中に起こった事態を説明する。
子孫にビクついている先祖とは……何とも情けない。
「ふん……何故ここに来て〈邪神崇拝者〉共が勢力を付けてきているのか……疑問は尽きないな。まぁ、いい……お前たちから受け取った情報を精査し、判断を下す必要がある……また何か頼むかもしれないが……」
「ちょ……ちょっと待ってくれ……その、身体の方は大丈夫なのか?隈がすごいぞ……?ちゃんと休めているのか?」
退室するように促すデューク司祭に首無し騎士は話しかける。
確かに……よく見ると目の下の大きな隈がある……もしかすると、目付きが鋭く見えていたのも疲労が原因だったのだろうか……?
「ふん……不死者に心配されるほど落ちぶれてなどいない!……無能もそれなりに働いていたと言うことだけだ。」
……いや、これは虚勢である。
中央教会内での一人当たりの書類作業量は二倍に増えていた。
中央教会襲撃事件の際に腐れ聖職者達は一掃された。
しかし、人手が減れば、一人当たりの仕事量が増えるのは当然のことで、デューク司祭もあらゆる仕事に追われていた。
リトス司祭が不在の理由も各地域にある教会へ、人員を募りにいったからである。
こう言ったことは人望の厚いリトス司祭が適任だ……ほとんどの人間から避けられているデューク司祭では人っ子一人集まらないだろう。
適材適所というわけだ。
「………じゃあ、俺たちはこれで」
「ああ……ご苦労だったな。」
ジャックの簡潔な挨拶に、デューク司祭も簡潔な返事で答える。
〈邪神崇拝者〉だかなんだか知らないが、ジャックにとっては関係のないことだ。
また襲われたり、ソイツらが絡んだ犯罪に巻き込まれたりするかもしれないが、ジャック自身が積極的に行動することではない。
これは、本来国家や教会の案件なのだ。
ジャックは首無し騎士を引き連れて、部屋を後にした。




