巨体の王
【強大なるもの】_______
その怪物は、かつて魔物が魔物と位置付けれられなかった神世の時代……
神々が争いを繰り広げていた時代に創造られた神の戦車。
ありとあらゆる動物達の頂点であり、王。
青銅の骨を持ち、山のような肉で巨躯を動かす堅牢な怪物。
それが、【強大なるもの】_________“神の傑作”
(なにが〈神々が争った時代〉だ……そもそも神々に勢力などなかった………!盤上での遊戯に等しく、私達を創り上げ、遊んでいただけだ!!)
首無し騎士は、勇者の日記を思い起こし、歯噛みする。
この〈巨体の王〉すら、物語の味付けとして〈制作陣〉なる神々に設定されたに過ぎないのだ!
首無し騎士が纏う黒炎がさらに勢いを増してゆく。
彼女の足元は溶解し、溶けた硝子のように流動的になって行く。
「強大なるもの!踏みしゅぶせぇっ!!」
醜悪なる見目の男は唾を吐き散らしながら強大なるものへ命令を出す。
すると、天を覆う程の巨大な“脚”が首無し騎士の頭上で巨大な影を落とす。
「…………“神の傑作”も、あんな奴に良いようにされては形無しだな。」
首無し騎士の両足から炎が吹き荒れると、彼女は瞬時に“影の外”へと移動する。
目の前には……今にも発火しそうな脂ぎった顔の男。
「ひゅっ!」
漢が慌てた様子で首無し騎士を叩くような素振りをする。
しかし、男の腕は彼女に当たっていない。
触れれば、即座に肉の塊は灰となって消えたはずだ。
代わりに飛んできたのは、強大なるものの前脚……。
男がした素振りと同じ動きで、強大なるものが首無し騎士を薙ぎ払ったのだ。
首無し騎士は蹴られた小石のように、弾き飛ばされて行く。
「かはっ!」
首無し騎士は飛ばされた進行方向とは逆方向に、炎を吹き上げ、速度を減少させて踏みとどまる。
あのまま飛ばされていたなら、数日前に乗り越えた谷底に落とされていたことだろう。
奴の巨体なら一歩踏み出せば、あの谷に辿りつく。
「危にゃいにぇ!焼けるところだったにぇ!!」
男は激昂しながら自身に着いた火を必死に払い除けている。
その時、ふと首無し騎士の視界にあるものが入ってくる。
男の背中に刻まれた、失楽する翼をもった大きな瞳。
王冠を被った大きな瞳は、円の中央に鎮座し、六本の腕を携えている。
「邪神崇拝者か……!」
「失礼な!!おまへらの崇める奴こそ邪神だにぇ!!」
首無し騎士の一言に、男は激昂し、強大なものをけしかけてくる。
確かにそうだ。
不用意で、意味のない言葉だった。
何故なら、邪神も神も………等しく同じ”神”なのだから。
「神が邪神であり、邪神もまた神か……。」
ああ、全くどうして反吐が出る。
結局私たちは盤上の駒に過ぎない……今頃、神々とやらはこの大いなる天の上で、酒でも飲みながらゲラゲラと互いに笑い転げているに違いない……。
そうでなければ、どうして…………
あの勇者が…………この世界に全く関係もなかったのに、尽力してくれた青年が……血反吐を吐いてまでようやくつかみ取った平和を、こうもあっさりと破壊するだろうか?
「駒の安否など……気にする者はいない……。」
首無し騎士がそう呟くと、彼女の首から炎が吹き荒れる。
それを抑え込むように、彼女は自身の頭を首の上に置いたのだ。
行き場を失った黒い炎は、彼女の身体を熱し続ける。
その熱気は、最高潮に達し……迫りくる巨大な前脚を着火させたのだ。
地鳴りのような雄叫びが、天にこだまする。
「ぎひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
男は、頭の両脇を必死に抑えるが、どうにもならずに身もだえる。
それはそうだ、いくらなんでも、あの大音量の咆哮をあんな間近で食らえば鼓膜が無事なわけがない。
身もだえる男の耳と手の間から、次第に赤い血液が滴り落ちていく。
「これは意外だ……貴様にも赤い血が流れていたのだな。」
首無し騎士の皮肉も、最早男には届かない。
しかし、男は聞こえなくはなっても、声を発することはできる。
使役獣に命令を下すことはできるのだ。
「殺せ!!さっさとその怪物を殺すにぇ!!!」
男が叫ぶと、首無し騎士めがけてまた巨大な前足が飛んでくる。
首無し騎士はそれを交わしながら、炎の剣で強大なものの前脚を切断しようと試みる。
しかし……
「…………っ!!なんて硬い皮膚だ!!」
皮膚は焼け焦げていくものの、切断には及ばない……分厚い皮膚すら貫通せず、肉すら見えてこない。
先ほどの咆哮は、熱した鍋に素手で触った際の驚きの声でしかなく、首無し騎士の獄炎は奴にとっては軽い火傷にしかならない。
あの火竜同様、身体への攻撃は全く通用しないとみていいだろう。
「流石は、”神々の傑作”……!」
いけ好かない神々だが、創造の力は本物なのだ。
どうすれば、こいつを殺せるのだろう。
「首無し騎士!!」
突如、彼女を呼ぶ声がする。
振り返れば、遥か遠方からジャックが呼んでいた。
彼は、ボウガンを構え、矢を放つと、倒れている男に、突き刺した。
「ぐえっ!!」
耳が聞こえない男は死角から突如飛来した矢に対応できるはずもなく、突如やってきた痛みに変な悲鳴をあげていた。
「首無し騎士!!その矢には〈負傷反射〉のスクロールが巻き付けられてある!!そのバケモノの攻撃をそいつに当てろ!!くれぐれも首無し騎士が男を燃やさないようにして!!!」
ジャックはそれだけいうと、また非難する。
これ以上熱波に近付いたら彼の身も危ないからだ。
「…………!恩に着る!!」
首無し騎士は強大なものの攻撃を男を中心に避け始める。
熱波でせっかくに矢を焼いてしまわないように、注意しながら。
男は背中に手を伸ばすが、ぶよぶよと太った身体では矢まで手が届かずにいる。
首無し騎士は強大なものへ挑発するように、黒い火球を飛ばし、ヘイトを稼ぐ。
そのうち、強大なものは叩き潰すように、前脚で首無し騎士を踏みつぶそうとし…………
「いまだ!!」
首無し騎士は男のほうへ駆け出すと、すんでのところで方向転換し、炎の噴射で加速する。
「へ……?」
急にあたり一面が暗くなったことに驚いた男は、巣頓狂な声をあげると…………そのまま自らの使役獣に踏みつぶされた。
大きすぎる足と、分厚い肉の壁でつぶれた音すら聞こえてこない。
すると、ほどなくして、強大なものの頭がつぶれ始め、眼球が飛び出し、口や目…………ありとあらゆる穴から、滝のように血を噴出させたのだ。
みるみるうちに、強大なものの身体はつぶれていき、分厚い皮膚は裂け、肉や臓物が血とともに、濁流のようにあふれ出る。
黒炎で焼かれ、灰になりつつあった木々も押し寄せる血液で鎮火され、赤く染めげられていった。




