合流
足止めをしていた魔犬達を退けた首無し騎士達はジャック達の捜索のため、暗い森の中をさ迷っていた。
辺りも暗く、同じ景色が続く中、時折襲ってくる魔犬に手を焼きつつ、進んでいる。
「急がねぇと……クリスが……!」
一行の表情には焦りの感情が顕著に表れている……そのなかでもロザン・リクレイは特にだ……。
彼が相当”仲間思い”であることをうかがわせる。
「気持ちだけ焦っても仕方ない……ここで焦り、私たちが迷ってしまえば元も子もないからな。」
「そんなこと……!……わかってるよ……。」
私に当たり散らしたところで状況は変わらず、無為に体力を消耗するだけ……そこに気づけるくらいにはまだ冷静なようだ。
そんな折、索敵魔法をかけていたトト・ルトラが不意に夜空を見上げる。
「……!?正体不明の魔力反応……?ブレがない…?これは……生き物の発する魔力じゃない!」
トト・ルトラがそう言い放った瞬間、星々が輝く天空に、ひと際眩い小さな光が、木々の中から飛び上がっていく。
その光は、やがて重力に負けたように狭い弧を描くと、また木々の間に消えていく。
「あれは……〈淡い光〉……?どっかに聖職者でもいるのか……?」
「いや……さっきも言ったけど、あの魔力出力のブレのなさは無機物によるものだよ……それこそスクロールで発動したみたいに……」
「…………!!ジャックか!」
確かジャックは〈淡い光〉のスクロールを所持していたはず。
あれを矢に付与してまさに照明弾のごとく天に向かって打ち上げたのだろう。
首無し騎士がジャックの名前を口にした途端、三人は弾かれたように光の上がった方角へと向かい始めた。
・
「くそ!本当にキリがない!!」
ジャックは相変わらず、クリス・ケラウスを引き連れて逃走劇を続けている。
本当ならば、もう少し距離を取りつつ、木々を利用したトラップを仕掛け、逃げ延びたいのだが……大量に召還され、次から次へと奇襲を仕掛けてくる魔犬にそんな隙はない。
魔物に人海戦術をされるだけで厄介だというのに、奴らは森の中の狩りに適した種族でもある……たとえトラップを仕掛けても、その大半を看破され、陣形の瓦解にはつながらないだろう。
まさに焼け石に水……ならば、このまま逃げ続けたほうが、まだ勝機が見込める。
そんな中、ついにジャックの構えていたボウガンが放っていた光が失われる。
「ちっ……!効果切れか……!!」
ジャックは舌打ちをしつつも、逡巡することなく逃走を続ける……もうすでに、二人が取れる手は一つしかない。
「ジャック……僕を置いて、キミだけでも……!」
「……それ以上言ったら怒るからな。」
ジャックは短剣を抜き出すと、ボウガンと共に構える。
首無し騎士達に出していた目印が消えてしまった以上、この地点から離れれば合流の可能性はどんどん低くなる。
……つまり籠城戦だ……クリス・ケラウスを生け捕りにしようとしているのを上手く利用し、即死魔法を抑えつつ、牙と爪の攻撃に対処しなければならない。
……なんとも無謀で、作戦などとはとてもいえない策だが……これしかないのだ。
木々の影から魔犬達が赤い目を光らせてこちらの隙を伺っているのがわかる。
暗闇が続く限り、奴らは四方八方から襲うタイミングをうかがっているだろう……全方位に、気を配らなくてはならない。
不意に気の枝が折れる音がして、魔犬の一体がこちらに襲いかかる。
「〈魔力弾〉!」
何処からともなく聞こえてきた詠唱と共に、放たれた攻撃が飛び出した魔犬に直撃する。
それを合図とするように、二つの影が木々の中から飛び出すと、ジャック達の前に立ちふさがった。
「遅れてすまない!!」
「クリス!大丈夫か!?」
飛び出してきたのは首無し騎士とロザン・リクレイだった……二人の影に隠れるように、トト・ルトラが近くに寄ってくる。
「クリス!怪我は……!!」
怪我の治療のために近付いたトト・ルトラはクリス・ケラウスの恰好を見て驚愕する。
……いや、驚いたのは恰好ではないだろう……それを察してか、クリス・ケラウスは頬を赤らめながら、胸元の隙間を鎧で隠す。
「今はそんなことはいい……!まずはこの魔犬達をどうにかしないと……!」
ジャックは話題を逸らすように、周囲への注意を呼び掛ける。
やはりどう考えても異常な数の魔犬を使役している……しかも、これだけ自由に動いているというのに、あの男が消耗した様子も、魔犬の動きからは感じ取れない。
やはり……どう考えてもおかしい……こんなに強力なチカラを人間が持てるだろうか……?
「ここは私にまかせてくれ!即死魔法なら私には効かない!!みんなは自分の身を守ることを優先するんだ!!」
そういうと、首無し騎士は駆け出し、襲い来る魔犬の注意を引きつつ、奴らを切り殺していく。
距離も、ジャック達が襲われてもすぐに駆け付けられるような間隔を保ちながら戦闘しているのがすぐに分かった。
「…………!俺も負けてられねぇ……!」
「え!?ロザン!!?」
ロザン・リクレイは自身の武器を構えると、ジャックやクリス・ケラウスに近付こうとする魔犬を牽制する。
「首無し騎士の人!!こっちは気にしないでさっさとこいつら全滅しちまってくれ!!」
「すまん!恩に着る!!」
首無し騎士は遠慮がなくなったからか、先ほどよりも勢いを増して魔犬を蹴散らしていく。
ジャックも、射撃に集中できるようになり、二人の援護をするように、魔物を射抜いていた。
_________やがて、周囲から魔犬の気配が無くなると、やっと首無し騎士とロザン・リクレイは剣を鞘に納める。
「いったい何があったんだ……!それに、ケラウス殿のその姿は……!」
「そのことはいったん落ち着いてから話すよ……でもその前にこの森から一刻も早く出ないと……!首無し騎士、馬出せる!?」
「ああ……それは勿論構わないのだが……」
首無し騎士は戸惑いつつも首無し馬を召還する。
その背中にクリス・ケラウスを乗せると、ジャックは首無し騎士に話しかける。
「首無し騎士は馬に乗って先にキャンプ地にもどっていてくれ!できれば出立の準備も進めて!!俺たちは後から追いかけるから!!」
「おい!何かってなこと……!」
ジャックの発言に、ロザン・リクレイが抗議しようとした瞬間、全員が妙な気配に戦慄する。
ジャックは苦虫をかみしめるような表情をしながら、「遅かった」と確信した。
妙な気配のする方向、木々の暗闇の中から小太りの男の影が近づいてくる。
月明りに照らされた肌は水ぶくれのように腫れぼったく、脂ぎった皮膚は月光を反射させている。
「あいつが、この襲撃の犯人だ……!」
「あいつが……!」
ジャックの言葉に、全員が警戒する。
首無し騎士は、鞘にしまった剣を抜き出すと、男に対して切りかかる。
「待て!首無し騎士!!あいつが何をしてるかまだわかない!!」
ジャックの静止も間に合わず、首無し騎士の剣撃は男に降りかかろうとしている。
______いや、していた。
「動ひゅな。」
男がそう発現した刹那、首無し騎士の攻撃は男の目の前でピタリと止まる。
「………なっ!?」
一番驚きを隠せないのは首無し騎士本人だった……彼女は間違いなく、躊躇もなく男に斬撃をお見舞いしようとしていた。
しかし、男が発言した途端、自分の身体の自由が一切聞かない。
男はにちゃぁぁ……という気持ちの悪い笑顔を向けると、続けて発言する。
「跪け。」
首無し騎士の身体は、なんの迷いもなく、その場に跪く。
その姿は、まるで自身の主人に忠誠を誓う騎士のように堂々としたものだった。
唯一、首無し騎士の表情だけが、意味の分からないといった困惑の表情を浮かべている。
「犬どもは……使えなかったけど……おかげでいい駒が手にはいっひゃにぇぇ……!」
男は身の毛のよだつほどの下衆い笑みをジャック達に向けるのであった。




