魔物の襲撃
夜闇の中で遠吠えがこだまする。
首無し騎士達はその声を聞いた瞬間に、弾かれるようにその場を立った。
「…………既に囲まれているようですね。」
「この遠吠え……魔犬か。
遠吠えの主はおそらく魔犬……子牛ほどの大きさの犬型の魔物で、夜闇のように黒い毛並みを保有しているためか、夜行性だ。
統率力が高く、リーダー各の個体には絶対服従であるため、魔物使いには重宝されている魔物……しかし、野生の個体に不用意に触れれば、即死魔法を放ってくる恐るべき魔物だ。
「遠距離主体で戦おう、ジャックとトトが攻撃を……僕とロザンは彼らの防御に専念。」
クリス・ケラウスの指示に、三人が頷く。
なるほど、指示が的確だし他の者も彼を信じて余計な口を挟まない……この連携だけで、彼らが良いパーティだということが理解できる。
「そして……クロスライトさんには申し訳ないのですが……」
「わかっている、私は毛並みに触れても平気だからな……近接戦は私が請け負おう。」
「すみません!お願いします!」
首無し騎士が彼らと離れると、フォーメーションをくみ上げる。
それだけ長いこと旅路を共にしていたのだろう……統率の取り方に無駄がない。
魔犬にも負けないほどだ。
「全く……いい仲間なのだからさっさと仲直りしてしまえばいいのに……」
首無し騎士は木々の闇の中に飛び込むと、剣を抜く。
奴らは黒い体毛に覆われているため、見つけるのは至難の業だ……だが、絶対に見つからないというわけではない。
木々の隙間……茂みの影から赤黒い眼光が見え隠れしている。
「そこ!!」
首無し騎士が眼光をとらえると、一気に近付き、刃先で魔犬に切りかかる。
首無し騎士にとらえられた個体は「キャン!」という鳴き声を上げて、距離をとる。
反撃を受けたことを知らせる遠吠えをすると、威嚇するようにウ穴リア締めたのだ。
「さぁ……それでいい……私の元にお仲間を誘導させてもらおうか。」
首無し騎士は改めて剣を構えると、周囲を警戒し始める。
闇夜い紛れて行動する魔物に対して、警戒するべきは奇襲と不意打ち……後手を取らないためにも、周囲には充分気を配る必要がある。
そういったことでジャック達の負担を減らすためにも、首無し騎士は陽動として魔犬を引き付け、同時に数を減らさなければならないのだ。
・
クリス・ケラウスが柄頭で大楯を叩き、《敵視》を発動させる。
これで、クリス・ケラウス達を視界に入れていた魔犬は少しの間、クリス・ケラウスに気を取られ、無視することができなくなる。
クリス・ケラウスを狙っている隙だらけの状態にジャックはボウガンで、トト・ルトラは魔法で攻撃を仕掛けるのだ。
ロザン・リクレイはうち漏らしが出た際に、向かってきた個体を切り捨てる……胴体に触れないよう、細心の注意を払いながら。
「それにしても、なんて数!!キリがないよ!!!」
「トト!お前は無駄口叩いてる暇ないぞ!詠唱に専念しろ!」
「こっち側の魔物は大抵始末した……クリス!もう一度敵視とれるか!?」
「任せて!!」
森の中で首無し騎士が魔物の気を引き付けてくれているおかげか、こちらには少数の魔犬しかやってこず、何とか対応できている。
それでも、決して油断をしていい相手ではない。
「ジャック!お前、新しく死霊術師の資格とったんだろ!?なんか使えそうな新技ねぇのかよ!!」
「残念だけど!まだ大層なものは使えないよ!!」
「使えねぇー!!」
ロザン・リクレイは迫ってくる魔犬を切り捨てながらジャックに話しかけている
ジャックも、彼に気後れすることなく……まるで昔の様なやり取りが行われていた。
それを背中で聞いていたクリス・ケラウスは……魔物の襲撃時にしては全く不謹慎なのだが、彼らの心の距離がこの戦闘を機に、再び縮まっていくことを期待していた。
・
首無し騎士は、魔犬を切り捨てると、周囲を見回す。
辺りには無数の赤い光がこちらを凝視しており、その数の膨大さを物語っていた。
この切り捨てた個体とて、何体目だったかも定かではない……確実に言えるのは、首無し騎士の周囲には奴らの亡骸が大量に転がっているということだ。
「それにしても……妙だ……これだけ被害が出ているのなら、退却してもおかしくないのだがな。」
魔犬は決して愚かな魔物ではない……むしろ、高い統率力を誇るほど、頭がいいのだ。
当然そのリーダー格の個体は他の個体よりも頭がよく、利益と被害が釣り合わないとみた場合、撤退する傾向がある…………これだけ大量の仲間が殺されているというのに、いまだ奴らは誰一人として仕留められていない……普通なら撤退しておかしくないのだが……
首無し騎士がそう考えていると、また暗闇の中から遠吠えが聞こえる。
すると……遠吠えを聞いた魔犬達は一斉にジャック達の方へ視線を移し、首無し騎士を無視して、彼らの方へと向かったのだ。
「させるか!!……………!?」
首無し騎士は魔犬を逃がすまいとするが、彼女の足元に大量に転がっている奴らの亡骸が、足場を悪くし、首無し騎士を行く先を拒む。
魔犬達は仲間の屍を華麗に超えていくと、あっという間にジャック達の方へと駆け出していく。
「あいつら……まさか初めから仲間を犠牲にする気で……!?」
魔物と言えど、正気の沙汰ではない…………群れのリーダー格が同種の魔犬であるならば、まずありえない行動だ…………。
「まさか…………この群れを操っているのは魔物使いか!?」
そうだとしたら、群れをまるで駒のように扱うこの作戦にも納得がいく……しかし、それもあり得ない。
そうだとしたら……この大量の個体を操っている説明がつかない。
魔物使いが使役できる個体など、数体が限界だ。
「…………!ともかく、彼らの元へ急がなければ…………!!」
首無し騎士は魔物の亡骸に足を取られながらも、ジャック達の元へと急行する。
・
「なんだ!?動きが変わったぞ!?」
先ほどの遠吠えを境に、魔犬達の行動が劇的に変わる。
敵視を取っていないにも関わらず、全個体がクリス・ケラウスに集中して襲ってくるのだ。
「作戦変更だ!!みんな!クリスのサポートにまわるぞ!!」
「了解!」
「言われなくても!!」
ジャックら三人はクリスに向かってくる魔物を集中的に打ち取っていく……しかし、先ほどまでと違い、迫ってくる魔物の数はどんどん増えていくばかりだ。
「…………く!首無し騎士はなにやってんだ!!」
「まさか……やられちゃったんじゃ…!」
「縁起でもないこと言うな!!」
不死者がやられて”縁起でもない”というのは可笑しな話だが、実際この作戦では彼女の陽動が必要不可欠だった。
その陽動が機能していないところを見るに、首無し騎士が打倒された可能性は否定できない。
…………しかし
「おい!あの向かってくる人影!!あの人じゃないか!?」
ロザン・リクレイの視線の先にはこちらに猛ダッシュしてくる首無し騎士の姿が見える。
よかった、やられてはいなかった様子だ。
「気をつけろ!!この群れ!誰か手引きしている奴がいる!!」
「なんだって!?」
首無し騎士の渓谷に、四人は動揺する。
魔物をここまで完璧に……しかも大量に使役するなど…並みの魔物使いには不可能だ。
首無し騎士は彼らに合流すると、ロザン・リクレイとは反対側……クリス・ケラウスの左側に着き、応戦する。
「首無し騎士さん!なぜか急に一人を集中的に狙うようになってしまって……!今はクリスが狙われています!!」
「わかった!!」
首無し騎士とロザン・リクレイは向かってくる魔犬を切り殺していく。
ジャックとトト・ルトラも後方から攻撃をし、クリス・ケラウスはそんな二人を庇うように、大楯を構えていた。
魔犬の群れは彼らの前方から次々と押し寄せ、攻撃してくる。
馬車を背にして戦っていたこともあってか、波状攻撃のように迫りくる奴らの群れに、背後がおろそかになっていった…………。
そして、やっとできた隙を魔犬は見逃さなかった。
群れの一体が馬車の上にのぼると、背後からクリス・ケラウスに突撃する。
「クリス!!」
「くそ!!」
ジャックの叫び声に即座に反応した首無し騎士は、襲ってきた魔犬を真上から剣先で串刺しにする。
しかし、魔犬はクリス・ケラウスを噛んで掴むと、最期の力を振り絞り、クリス・ケラウスを群れの中へと放り投げる。
「きゃぁ!!」
群れの中の一体がクリス・ケラウスを咥え、掴むと、引き摺るようにして撤退していく。
他の魔犬もクリス・ケラウスを連れ去った個体を囲むようにして撤退していく………足止めだろうか、数体の魔犬がこちらを牽制するように、残っている。
奴らは何故か、自身の身体がクリス・ケラウスにあたらないように配慮しながら撤退しているように見える。
「あの運び方はおかしい……やはり、裏で何者かが手をまわしている……!」
「そんなこと今はいい!!それよりクリスが!!」
首無し騎士のつぶやきに、ロザン・リクレイが慌てた様子で突っかかる。
しかし、今は目の前にいる魔犬をどうにかしなければ、何ともならない。
「ちっ!!」
後ろから舌打ちが聞こえたかと思うと、一本の矢が撤退する群れの方へと飛んでいき、最後尾の一帯へと突き刺さる。
矢にはロープが結ばれているようで、それに轢きずられるように、ジャックが飛び出していった。
「あいつ!!痛み消しを矢に塗って追いかけるつもりだな!!」
ロザン・リクレイも慌てて後を追おうとするが、それを魔犬が立ち塞がり、阻止する。
「…………今はジャックにクリスを任せるしかなさそうだね。」
「正気かよ!?また裏切るかもしれないだろ!!?」
トト・ルトラの言葉に、ロザン・リクレイが激昂する。
すると、それをたしなめるように、首無し騎士が語りかけた。
「キミは………本気でそれを言っているのか?危険を顧みず、自らあの中に飛び込んだジャックを見て……?」
「……それは」
「私は……キミたちの間に何があったか、詳しくは知らない……だが、ジャックとは短くない期間過ごしていて、信頼もおいている。」
首無し騎士は足止めをしている魔犬を一体切り捨てると、言葉を紡いだ。
「ならば、私たちが今できることはこいつらをすぐに始末して、二人の元へ向かうのみだ!!」
首無し騎士の言葉に、トト・ルトラは頷く。
ロザン・リクレイも剣を構え、魔物を見据えた。
「わかってるよ!!」




