密談
「いやはや、娘を助けていただいて、ありがとうございます!」
「いえ……僕たちは依頼をこなしただけですから……それに助けたのは…」
クリス・ケラウスはちらりと、首無し騎士達の方へと視線を向ける。
そうすると、クリス・ケラウスたちにお礼を言っていた男性……アリサ・ルルの父親はジャックの両手を掴み、上下に激しく振る。
「死霊術師の方もありがとうございます!こんなに強そうな魔物を使役なされているとは……!感服いたしますな!」
「いや……こいつは…それに俺のメイン役職は盗賊なもので……」
この村に入ってから首無し騎士はほとんど口をきいてこない……使役された不死者という体を装っているのだろうが、何だか調子が狂ってしまいそうだ。
「ほぉ……!複数の役職資格をお持ちだとは……!すごいですな!」
「いや、珍しいだけですごいわけじゃ……」
アリサ・ルルの父親がジャックをほめちぎる度、ロザン・リクレイが鋭い視線をジャックに投げかけている。
ジャックは彼が自分のことを許していないことを把握している……逆に、クリス・ケラウスとトト・ルトラが自分に普通に接してくる方に違和感や恐怖心を覚える……。
自分はみんなを裏切ったのだ……ロザン・リクレイの様な反応の方が普通だろう。
「クロスライトさん……ちょっと……」
ジャックがアリサ・ルルの父親と対応している最中に、クリス・ケラウスは首無し騎士を連れ出す。
首無し騎士としては、ここで自分が呼ばれる理由に皆目見当がつかないため、内心動揺しつつも、能面を貫きとおし、クリス・ケラウスの指示に従い、ついていく。
・
「クロスライトさん……!どうかこの通りです!!僕らとジャックの仲直りに協力してはいただけないでしょうか!?」
「……………待ってくれ、全く状況がつかめないんだが。」
村はずれの人気の少ない場所に呼び出された首無し騎士は唐突に、クリス・ケラウスからお願い事をされる……。
その内容というのは、ジャックとロザン・リクレイのパーティとの仲直りだとか……。
「そうですよね……急にこんなことを言われても、困惑されるのは当然だと思います……順を追って説明しますね。」
そういうと、クリス・ケラウスは事の顛末を順を追って説明しだす。
まず、ジャックとクリス・ケラウス一行は元々同じパーティのメンバーだったという……。
そこそこよく活動する、冒険者ギルド内ではいわば中堅パーティの様な位置づけに位置していたという……
ところが、ある時にジャックが何らかの理由でパーティの活動資金を持ち出し、姿をくらませてしまったのだとか…………これに、ジャックと特に仲が良かったロザン・リクレイが激昂し、そのままジャックはパーティを追放……という方氏になり、現在に至るのだとか……。
「…………………なんだそれは…?完全にジャックが悪いじゃないか!?」
「大まかな状況からすると確かにそうなんですけど……でもジャックがなんの理由もなくあんなことをしたとは考えづらいんです!!クロスライトさんだって、ジャックと行動を共にしていたのならそう思う節もあるんじゃないですか!?」
クリス・ケラウスの言も尤もだ……それこそ、現に首無し騎士はジャックにいろいろと助けられている……。
…………というより、ジャックには少々お人好しすぎるきらいがある………いや、それ自体は決して好ましくないことではなく、むしろその逆ではあるのだが……要するに、クリス・ケラウスのいう通り、何らかの理由がなければ、そんな行動をとらないと思うのだ。
しかも、彼の傾向からして……自分とは全く関係のないような……「お前が気にすることか!?」と問いただしたくなるような……そんな理由……。
「………しかし、アイツは頑なだぞ…?そう簡単に理由を話してくれるとは思えん……」
「それは……僕も重々承知していますけど……でも!だからこそクロスライトさんにお願いしたいんです!!」
クリス・ケラウスの真剣な眼差し…ふんすと聞こえてきそうな、鼻息に押され、首無し騎士は後退する……。
いや、これからは”自分のやりたいようにやる”と決めたじゃないか……いくら友人の頼みでも、そんなことに首を突っ込むのは………
今なお、クリス・ケラウスの大きな瞳は首無し騎士を見つめている………こんな純粋な眼差しで頼られるなど、いつ以来だろうか………。
「…………………わかった……善処しよう。」
「本当ですか!?ありがとうございます!!」
目の前の青年は、まるで純粋な少女のように喜び、首無し騎士の手を掴み、上下に振る。
まぁ……友人の仲直りの手伝いを”したくないわけではない”し、問題ないように思う……そう思おう…。
首無し騎士は自身にそう言い聞かせると、ジャック達の元へ戻るのだった。
・
「「はぁ!?王都まで同行するぅ!!?」」
ジャックとロザン・リクレイの声が同時に響き渡る……。
「そう!ほら!行き先が同じみたいだし、クロスライトさんは馬車を出せるっていうから……歩かないで、しかも早く王都まで戻れるよ?」
「さっき話をしていた時にそういう提案をしてな……ついでだからと思い……」
「……さっき二人で抜け出してた時にそんな話をしていたのか。」
ジャックの視線に、首無し騎士は顔を逸らす。
やはり、いなくなっていたことに気づいていたか………。
「あのなぁ!!クリスなに考えてんだよ!こんな奴と行動を共にするだなんて!!首無し騎士の人は知らないのかも知れないですけど!!アンタも早くこいつと離れたほうがいい!!こいつは……」
「ロザン!!それ以上いうと怒るよ。」
クリス・ケラウスの一喝により、ロザン・リクレイは悔し気に口を紡ぐ……。
なよなよというか…少々頼りなさげな青年の印象があったが、パーティリーダーとしてしっかり活躍をしているようだ。
「首無し騎士……彼らの同行には俺も反対だ。」
「ああ!?俺らになんか不満があるってのかよ!!」
ジャックの発言に、ロザン・リクレイが再び噛みつく……同行するのは嫌だが、拒否されるのはそれはそれで腹が立つらしい。
「……そうじゃない、こんな状態でもし道中、魔物なんかに襲われたらどうする?こんな険悪な状態でちゃんとした連携が取れるのか?背後にいる仲間に闇討ちされるのかもしれないんだぞ?」
「はん!闇討ちする危険性があるのはどっちだか!!それこそ暗殺者の得意分野だろうがよ!!」
「ロザン!!!」
ロザン・リクレイの発言に、再びクリス・ケラウスが一喝する……なるほど、確かに話の通りジャックを一番許せないでいるのは彼のようだ。
おそらく、依然は一番仲が良かった故の影響なのだろう……培った友情が、裏切られたことで一気に反転し、憎しみに変わってしまった……よくある話だ。
「………ほら、こんな状態で連携なんて無理でしょ?フォローどころか追撃を食らいそうだ。」
「なんだとテメェ!!」
ジャックも余計なことを言って煽る……いや、ジャックのこの場合わざと煽って嫌われようとしているように思える……。
ここまでして彼らと距離を取りたい理由は一体何なのだろうか?
「ジャック、そうやって煽れば煽るほど不和は広がるものだぞ?それに王都までの短い道中だ……別にいいじゃないか。」
「…………」
「まぁ……トトやクリスが納得してるなら、仕方ねぇか。」
不死者に生者が諭されるという何とも不思議な光景だが、まぁいいだろう。
「ルトラ殿も、それでいいだろうか?」
「え!?僕は別に……」
なんとか全員の同意をとれたことで安堵する。
ジャックからの返事は聞いていないが、無言は肯定ととらえられても致し方ないだろう。
首無し騎士は早速首無し戦車を召還し、出立の準備を進めるのだった。




