宝物庫
不死者討伐任務を始めてからかれこれ1週間経過していた。
《リデオン王国跡地》内部の構造に詳しい首無し騎士の協力もあり、ほとんど戦闘という戦闘をすることなく着々と浄化作業は進んでいる。
まず、首無し騎士が案内をし、死霊術師が低位不死者操作をかけて大人しくさせる。その大人しくなった不死者をギルドの募集で集まった冒険者達が念の為に拘束し、聖騎士の元まで連れていく。
聖騎士達は交代制で祈りの力を回復しながら、不死者達の浄化作業にあたっていた。
10万体居た不死者達は1日にだいたい1000体近く浄化され、残る数は7万9千体にまでその数を減らしていた。
この調子でいけば5週間近くあれば、不死者の大群は消滅するだろう。
「なんか、依頼っつうより、“重労働”って感じだよなぁ。」
大人しくなった不死者を縛り上げながら若き戦士、ロザン・リクレイが小言を呟く。
彼は身軽さを活かし、敵に攻撃を仕掛ける軽戦士であり、筋力は味方を守る盾戦士や筋力を活かし、大型剣で重い一撃を加える重戦士と比べるとどうしても筋力で劣る。
そのため、単純な“重労働”には苦手意識……いや、めんどくささを感じざるを得なかった。
「そんなこと言わないで、手を動かしてくださいよ……それに僕達冒険者の仕事で“重労働”じゃない時がありましたか?」
不死者達に初級雷魔法麻痺付与をかけながら魔術師であるトト・ルトラがロザン・リクレイに小言を飛ばす。
本来、不死者には能力低下は意味をなさない。
それは不死者は疲労や眠気といったものを感じないからだ。唯一効く能力低下といえば電気によって筋力を硬直させる麻痺くらいだ。
「そうだね、それに依頼募集を見た時は大変な討伐になると思ってたけれど、不死者討伐でこれだけ安全にことが進められて、しかもあんな多額な報酬がギルドから出るなんてそうそうないよ。」
このパーティのリーダーである盾戦士であるクリス・ケラウスが宥めるように声をかける。
彼は見た目は優男だが、その細腕に似合わずにかなりの筋力を誇っており、小麦袋を担ぐように縛り上げた不死者を両肩で担ぎながら聖騎士隊がいる方角へと歩いていく。
「はぁーあ!あの野郎が活動資金を盗まなけりゃなぁ!」
「ちょっと、やめなって!」
ロザン・リクレイの言葉で二人はある人物を思い出す。
かつて同じパーティに在籍し、魔物への不意打ち、宝箱の開錠、罠の探知と解除を引き受けていた盗賊の彼のことを……
「今どこで何やってんだか!!また何処かで盗みでも働いてんだろーぜ!!」
未だに苛立ちが治っていないロザン・リクレイの愚痴をトト・ルトラが必死に諌めている。
ロザンは彼と特に仲が良かった……裏切りがその感情を一気に反転させたのだろう。
正直、クリス・ケラウスは未だに彼が活動資金を盗んだことに納得がいっていない……しかし、本人があっさり認めてしまっている。
(ジャック……君はどうして………)
クリス・ケラウスは先ほどまで軽々と運んでいた足を一気に重く感じる。
“まだ盗みを働いている”……本当にロザンの言う通りなのだろうか、一緒に活動していた彼は本当にそんな人間だと言うのだろうか……。
(君は……今どこで何をしてるんだい……?)
クリス・ケラウスの疑問は胸中に止まり、誰の耳にも入ることはなかった。
・
「やっぱり……予想通りの場所に宝物庫があったな。」
ジャックは朽ちた大きな扉を前にして一人呟く。
不死者討伐隊が任務に出た後、ジャックは彼等に気付かれないよう、こっそりと跡をつけ、《リデオン王国跡地》へと辿り着いていた。
理由はかつてのパーティメンバーと鉢合わせしたくなかったのと、この宝物庫に一番乗りするためだった。
討伐隊が律儀に不死者を一体一体片付けている間に数が少なくなった合間を潜り抜け、難なく宝物庫に辿り着いた。後はこの扉の鍵を開けるだけ。
「少し型は古いけど、王族や貴族がよく使ってるタイプの鍵だな、迷宮にある扉に比べたら簡単すぎるね。」
ジャックは腰につけている鞄からピッキングツールを取り出すと、開錠作業に入る。
すると、すぐ後方から複数人の足音が聞こえてきた。
ジャックはすぐに跳躍し、天井に張り付くように身を隠すと近づいてくる足音の正体を確認する。
(足音の数からして五人……歩幅や足運びのリズムからして中柄の男性達であり、防具と武器が当たる金属音から獲物は刃がむき出しであることが想定される……よって武器は斧か大剣……。)
ジャックは自分の身体をフックと縄で天井に固定すると、背負っていたクロスボウを構える。
近づいてくる人物たちは遠距離武器を持っていない……ならばこちらが圧倒的にアドバンテージがある。
すると、ジャックの視界の先に予想通りの人物達が歩いてくる。
風貌からして冒険者パーティ……この不死者討伐依頼に参加した者たちだろう……
しかし、何故そんな奴らがこんなところにいるのだろうか?不死者の討伐はまだ城外部で行われているはずだが……
「いやぁ、ほんとにありましたね宝物庫。」
「ああ、やっぱり情報通りだったな、依頼を受けて良かったぜ。」
歩いてきた冒険者パーティの会話でジャックは理解した。
こいつらの目的は初めから自分と同じく王国の財宝……だからこそ首無し騎士と不死者の脅威が薄まることを期待して聖騎士隊の任務に同行したわけだ。
容量は悪くない、ジャックもかつてのパーティメンバーがこの依頼に参加していなければ同じことをしていただろう。
しかし、その財宝は自分の獲物だ、みすみす譲るわけにはいかない。
ジャックは先端を麻酔針に付け替えられた矢をクロスボウに装填する。
すると、最後尾の男目掛けて発射した。
「ゔっ!?」
矢は見事最後尾の男に命中し、情けない声を上げながら倒れる。
「なんだ!?おいどうしたぁ!!?」
パーティリーダーらしき男の声に全員が振り向く。
お粗末なことだ、こう言う時は声を上げたやつだけが仲間を介抱し、残りのメンバーはあたりを警戒するべきだというのに……
ジャックは続け様に麻酔矢を打ち出す。
狙いは振り返った事で誰の目にも映っていない先頭だった男。
「うぐっ!?」
その男もまた変な声を上げながら倒れる。
こうして五人だった男達は三人になってしまった。
「彷徨う霊体か!?彷徨う霊体が襲ってきたのか!??」
「馬鹿野郎が!よく見ろ!!矢が刺さってんだろぉが!!いるんだよ!俺たち以外にも財宝を狙ってる奴が!!!」
慌てふためく仲間に苛立ちを隠しきれない様子のパーティリーダーが声を荒らげる。
それもそうだろう、もう目的の財宝が目と鼻の先にあるのに何者かに邪魔をされ、取ることができない。
これほど苛立つことはない、ジャックも今目の前の男達に向けて同じような苛立ちを覚えている。
ジャックはクロスボウを構えると、先程慌ててふためいていた男に狙いを定める。
奴が眠れば後は二人を相手にするだけ……それならば盗賊である自分でももう一つ会得している職業技術さえあれば相手にすることができる。
ジャックは勝ちを確信し、クロスボウから矢を放った瞬間、パーティリーダーであろう男が仲間に飛んできた矢に瞬時に気づき、矢を弾く。
一方庇われた方の男は何が起こったのかわからない様子で尻餅をついた。
「いたぞ!天井だ!!」
「ちっ!」
パーティリーダーの男は矢が飛んできた方角からジャックの位置を特定する。
ジャックは急いで体を固定しているフックと縄を分離し、床へと落ちようとする。
その刹那、ジャックが縄を外したギリギリで何もしていなかった相手の一人が斧を投げ飛ばしてくる。
斧は天井に突き刺さり、落ちてこなくなった。
「馬鹿野郎が!!何してやがる!!」
「でもよ!リーダー!!」
床へと降り立ったジャックが素早く相手のリーダー格の男へと迫り、懐に潜り込む。
既に一人は獲物を失い、戦力は大幅に低下している。この男さえ始末してしまえば後はザコ二人だ。
しかし、殺すことは許されない。浄化が進んでいるとはいえ、この場所は不死者の密集地域、殺してしまえば何かのきっかけで不死者となったこいつらに返り討ちにされかねない。それは笑えない。
ジャックは懐にあるダガーの代わりに先ほどまでクロスボウに装填していた麻酔矢を握り、リーダー格の男の腹へと突き刺す。
「ぐぅっうっ!!!」
リーダー格の男は気合いで迫り来る眠気に耐え、ジャック目掛けて斧を振り落とそうとするのだが、強烈な意識の離脱に耐えきれず、そのまま後ろに倒れ込んだ。
「ガキぃ!?おい討伐隊にこんなガキいたか!?」
「知らない!!見たことない!!!」
リーダーが小さな少年にやられるのを目撃し、動揺を隠しきれない男二人。
確かに戦士などに要求される強さとは違うだろう、しかし、何も勝負の全てが体格差で決まるわけではないのは常識のはずだ。
それも、暗殺者の技術を持つ者を相手取るならば尚更。
ジャックは反撃に出られる前に、斧を所持している方の男へ麻酔矢を投擲する。
麻酔矢は綺麗な直線を描きながら、勢いを殺すことなく、相手の方へと直撃する。
「ふぅっん……」
何が何やらわからなかった男は一瞬のうちに睡魔に誘われた。
既に獲物を失った最後の一人が自身の巨躯を活かし、ジャックへと襲いかかる。
もはやヤケクソの域であるその突進をジャックは難なくかわして、男の足を引っ掛けた。
「へぶっはっ!!」
男は自分でつけた勢いで地面に叩きつけられ、その上から背中に麻酔矢を突き刺される。
ジャックは倒れた男達を跨ぐように宝物庫の扉へと向かうと、開錠を始める。先ほどまで戦闘を行っていたせいで高鳴る鼓動と、乱れる呼吸のせいで手元が振るえてしまう。
「はぁーーーー……落ち着け、俺の本職は盗賊だろ。」
ジャックは深呼吸をすると、再度開錠を試み始める。
・
「申し訳ない……無理を通していただいて……」
朽ち果てた王城の中で首無し騎士の声が響く。
後ろにはリリア・フォードリアスと、数名の聖騎士がついてきている。
浄化が進み、王城までの道を確保できた際に首無し騎士が王と王妃、そして一人息子である王子の浄化を早めに行ってほしいと嘆願してきたのだ。
かつてこの《リデオン王国》に忠誠を捧げたこの首無し騎士にとって、その王族達が苦しみ続けていることは耐え難い苦痛であった。
「いえ、心中はお察し致しますから……それより…」
リリア・フォードリアスはチラリと首を持っている胴体へと視線を向ける。
胴体はしっかりと前を向いて歩いていると言うのに、手に持っている頭はしっかりと後ろをついてきている聖騎士達と対面しながら話をしている。
「……ちゃんと前を見て歩かないと転んでしまいますよ?」
リリア・フォードリアスはそんな慣れそうにない光景を目の当たりにしながら首無し騎士へと注意を促す。
「これは心配いたみいります、しかし私は長年この城に仕えた身…王城内ならず街の中なら目を瞑ってでも闊歩することが可能です。それに、このような身になってから身体の使い方も試行錯誤しましたから。」
首無し騎士はリリア・フォードリアスの顔をしっかり見据え、自信満々に答える。
なんなら首をブンブンと回りながら全速疾走することも可能だ。片手が使えない分を補うために色々と頭を使った。
「そ……そうですか……」
リリア・フォードリアスは若干引きながら首無し騎士に相槌を打つ。
王城をしばらく歩くと、メイドの格好をした二体の動死体を目にする。
「皆さんは一旦ここで待機していてください……リリア殿、すまないが私の頭を動死体が見えるように抱えてていただけないだろうか?」
「ええっ!?」
リリア・フォードリアスは首無し騎士から頭を託される。
間違っても首の断面を持たないよう、慎重に耳の付け根の部分を持ちながら首無し騎士の首を動死体の方へと向ける。
もっと肉の腐った嫌な臭いがするかと思ったが、頭からは石鹸のいい匂いがした。
この首無し騎士に出会ってからずっと謎だったのだが、ほかの不死者に比べると身体の腐敗も進んでいるように見えない。正気のない青白い肌をしており、首と胴体がおさらばしている以外はなんとも人間らしい。
「申し訳ない、ではお待ちください。」
首無し騎士の頭からそんな声がしたかと思うと、胴体が駆け出していく。
メイド姿の動死体達は首無し騎士の胴体が近づいているにも関わらず、まるで見えていないように気にも止めず掠れた声を漏らし、呻き声を上げながらふらふらと彷徨っている。
「くっ……やはりこれは距離感が難しいな…なかなか掴めないぞ……おい、そんな動かないでくれ……」
リリア・フォードリアスの胸元から首無し騎士の苦戦する声が聞こえる。
どんな感覚で動かしているのか、彼女の胴体は何度も動死体を取り逃がし、4回目にしてやっと動死体の腕を掴むことに成功した。
「よし……あとはこのまま連れてくれば……すまないが、浄化の準備をしててもらえないだろうか!?」
首無し騎士の指示に促され、聖騎士の一人が神の奇跡の一端をお借りする祈りに入る。
今現在、魔法分野が進んだことで、聖職者が借り受ける神の奇跡を魔法学と同一視し、“聖属性魔法”と呼称するものが多いが、それは適当ではない。
何故なら魔法は人間や魔物、魔族といった天界下の者が超常のチカラを行使する際に魔力を媒体に行うものであり、神の力を借り受ける聖属性は魔力は関係ない。
完全に直接的に超常のチカラを行使する神の奇跡を借り受けるには祈りの力と高い信仰心によってもたらされる。あくまで借り物の力であり、そのため神に背いた者はどれだけ高位の神官であろうと、聖属性を扱うことはできなくなる。
(首無し騎士に支持され、浄化の準備に入り、動死体を浄化する……なんとも奇妙な光景だが、指示は完璧だ……)
もともとこの《リデオン王国》の騎士隊長をしていたと言うのだから指示出しが的確なのは当然だろう、しかしながらやはり違和感を覚える。
首無し騎士が浄化の指示出しをしたタイミングは距離的にちょうど初級浄化祈祷聖なる光の発動までにかかる最適な時間であり、動死体一体ならば充分それで浄化することができる。
そう、まるで我々聖騎士がこの聖なら光を選択するのを分かり切っているような指示の出し方だった。
あまりにも聖属性に精通しすぎているとしか思えない。
(同僚や部下に教会から派遣された聖騎士でもいた?かつて《リデオン王国》に派遣された聖職者と親しかったとか?300年前ここに派遣された聖職者って……)
リリア・フォードリアスが考え事をしている間にも首無し騎士が連行してくる動死体が近づいてくる。
初めは大人しく虚空を見つめるだけの動死体だったが、こちらに近づくに連れジタバタと暴れ出す。
生者の気配を感じ取ったのだろう、今にもこちらに襲いかからんと必死に身体を動かしている。
「こら!暴れるんじゃない!みんなお前達を助けに来てくれたんだぞ!!」
不死者は生きる者を恨み、自分だけ苦しみたくないと、生者を引き摺り込もうと、襲いかかる。それが普通なのだ。
つまり、リリア・フォードリアスの両腕でメイド動死体に叱咤を飛ばしているこの首無し騎士の方がおかしいのだ。
「いきます!聖なる光!!」
首無し騎士の胴体と動死体が到着すると同時に祈りを捧げていた聖騎士が浄化の光を放つ。
すると、動死体はみるみるうちに灰のように崩れ去っていき、目の前にはシュウシュウと煙を腕から放つ首無し騎士の胴体だけが残った。
「やはり、初級の浄化では上位不死者にはあまり効果がありませんか。」
聖なら光を放った聖騎士が首無し騎士に向かって話しかける。
首無し騎士の胴体はリリア・フォードリアスから自らの頭を受け取ると、その聖騎士へと頭を向ける。
「そのようですね、私もこの身に堕ちてから初めて祈祷を捧げられたのでなんとも言えませんが……やはり初級浄化では腕にピリピリくる程度としか……いや!ここで浄化されても皆が解放されるのを見届けられなくなるのでそれはそれで心残りではあるのだが!!」
首無し騎士の言葉に聖騎士達は苦笑する。
確かにここまで来たのならしっかり仲間達が浄化されていくのを見届けたいだろう。
しかし、リリア・フォードリアスだけは別のことを気にしていた。
(いくら初級浄化といっても不死者には特攻なのだからもう少しダメージがあっても良いはず……)
少なくともピリピリ程度では済まされないだろう……嫌な予感がリリア・フォードリアスの胸中に渦巻き始める。
しかし、そんな不安を突き詰める間もなく異変に気付く。
それは小さな悲鳴と、何かが倒れる音。この任務で一番聴きたくはない音だ。
「まさか!?誰かが不死者に襲われたか!!?」
「そんな……兎も角確認しに行かないと!!」
首無し騎士と聖騎士達はもう一体いたメイド動死体を放っておいて、悲鳴のした方向へと急ぐ。
「そんな……やめてくれよ…私の我儘のせいで彼等が犠牲になるなんて……そんなの赦されないからな…??」
走りながらも不死者である首無し騎士は息を切らすことなくそんな呟きをし始める。
責任を感じてしまうのは仕方がないだろうが、それを言うなら彼女の申し出を受け入れたこちらにだって責任はある。
どちらにせよ急ぐ他に選択肢などない。もし襲われていたとしても、死んでさえいなければ回復魔法で一命を取り留めさせることはできるし、不死者化も防げる。
首無し騎士とリリア・フォードリアスが悲鳴のしたあたりへと到着すると、五人の男達が倒れていた。
「彼等は見覚えがあるぞ!?討伐任務に参加していた冒険者パーティだ!!」
「なんでこんなところに!!?」
聖騎士達はすぐさま五人の脈を確認する。
「全員息があります!!」
「周囲に不死者反応ありません!!首無し騎士だけです!!」
聖騎士達の報告でリリア・フォードリアスは胸を撫で下ろすが、隣にいる首無し騎士だけは男達の向こう側にある扉を凝視したまま動かないでいる。
「扉が……宝物庫の扉が開いている………?」
リリア・フォードリアスは首無し騎士の言葉を受けて、開け放たれた扉を見つめる。
報告によれば宝物庫には《リデオン王国》の宝が手付かずのまま放置されているという話だ。そのことについては首無し騎士からも確認をとっており、浄化のお礼にその宝物たちを支払いたいと言う申し出もあった。
つまり、この宝物庫の中身はそのまま集まってくれた冒険者達への上乗せ金になり、ギルドへの情報お礼金になり、教会への寄付金となるはずなのだ。
それが、開いてしまっている。鍵のかかっていた扉が勝手に開くはずもない。
つまり、誰かが故意に開けたと言うことなる。
「何者かが盗みを働いたことになるわね。」
別に手付かずの財宝を発見した者が回収したところで何の罪に問われる者でもない。
今回はその宝物をお礼に支払いたいと申し出があったが、その申し出をした者は魔物である不死者……罪に問えないどころか、問題にすらならない。
しかし、隣に立つ首無し騎士の……300年国を守り続けた騎士のこんなにも悲しそうな顔を見せられたら心情的にはやるせないものがある。
首無し騎士が宝物庫に入っていくのをリリア・フォードリアスも付いていく。
中を両手を使って見回す彼女にリリア・フォードリアスは問いかけた。
「かなり…盗まれたのかしら。」
その問いかけに首無し騎士は腕を首の代わりにして横に振ると、リリア・フォードリアスの問いかけに返答する。
「いや……実は私もこの宝物庫にどれだけのものが安置されていたかわからないんだ……何せ私は財務大臣でも王族でもないからな…ただ首無し騎士として目覚めた時に鍵がかかっているかどうか確認しただけで………」
首無し騎士はリリア・フォードリアスと聖騎士達に向き直ると、申し訳なさそうな顔をする。
「もう浄化されるだけの私達にとってここの宝はどうでも良いものだったんだが……せめて最後にお礼として、尽力してくれたみんなに支払えればと……最後の使い道が出来たと思っていたんだが……私の監視不足だった…本当に申し訳ない。」
首無し騎士は腰を曲げ、深々と頭を下げてきたが、何も彼女が謝ることではない。
一番の被害者は彼女であるはずだから。
「謝らないでください、それにまだ幾つも宝物は残っているじゃないですか、元の数を知らないのです。私達が盗まれたことを黙っていれば、みんな気になりませんよ。」
リリア・フォードリアスの言葉に首無し騎士は更に申し訳ない気持ちになる。
それはつまり、聖騎士である彼女達に沈黙を強いることになると言うことだ。
聖騎士である彼女達は神の教えに背くことはできない、そして教会の教義には“人を欺くなかれ”と言うものがあるはずだ。
嘘をつけば力が弱まるだけではなく、最悪神の奇跡を授けてもらえなくなる可能性もある……彼女達は沈黙するしかない。
「本当に……申し訳ない……。」
日々の祈りでこの身が焼かれるよりも強い痛みが首無し騎士を襲う。
不覚にも聖騎士である彼女達に沈黙を強いるように陥れてしまった……教会の教義には“人を陥れるなかれ”と言うのもあるのだ。




