不死者
ジャックと首無し騎士は半獣人の少女に連れられ、彼女の住む村へと続く街道を歩いていた。
理由はもちろん、半獣人の少女を無事に送り届ける為なのと、魔物の手によって死んでしまった獣人の遺体を運ぶ為だ。
首無し騎士は遺体をお姫様抱っこのように運んでいるため、現在彼女の頭部はジャックが運んでいる。
「何から何まで……ありがとうございます。」
「え?いえ、別に……」
半獣人の少女は改めてジャックに対してお礼を述べる。
ジャックはその言葉を気まずそうに受け止めていた。なにせ、彼女を村まで送り届けようと提案したのも、遺体を運んでいるのも、すべて首無し騎士が提案し、実行していることなのだ。
しかし、この半獣人の少女はこの首無し騎士がジャックの使役不死者だと認識していることもあり、首無し騎士の行いすべてがジャックの手柄になってしまう。
そのことにジャックは違和感といたたまれなさを感じるとも、否定することができないことにもどかしさを感じる。
当の首無し騎士は何も気にしていないのか、何を言うでもなくただただ遺体を運んで、半獣人についてきている。
「……ヘルム、残念だったな。」
「………え?ああ、防具など、使っていればいずれ壊れる物だ。仕方がないよ。」
ジャックは居心地の悪さが有頂天に達し、適当に首無し騎士へと話しかける。
首無し騎士が首の炎を隠すように被っていたヘルムなのだが、先の一戦、巨大蜂の巣熊によって吹き飛ばされたことでバラバラに破壊されていた。
一応、残骸はバックに詰め込んできたのだが、損傷が激しく、街についたとしても修理できるかは定かではない。
いずれにしても首無し騎士は気にしていない様子だった。
「…………あ!見えて来ましたよ!」
半獣人の呼びかけにジャックと首無し騎士は視線を移す。
彼女の言うように、前方には木でできた人工的な柵を確認することができる。
半獣人に連れられ、村へと到着すると、人間の女性が近づいてくる。
「あら、リィラちゃんお帰……っひっ!!」
半獣人の少女に声をかけた人間の女性は、後ろで佇んでいる首無し騎士を発見し、息を呑む。
「だ…大丈夫だよ!ドリアさん!この不死者はここにいる冒険者さんが使役してる不死者なの!!」
今にも腰を抜かしそうな人間の女性に、半獣人の少女は慌てて説明をしている。
その間、首無し騎士は如何にも自分は使役された不死者ですと言うような表情をどうにか作り出そうとしているのをジャックは見逃さなかった。
「どうも、使役された不死者です……。」
言った。
どうにもできずに口に出して言った。
「そ………そうなの…?」
「そう!危ないところをこちらの冒険者さんに助けていただいたんだから!………でも」
半獣人の少女の顔がみるみる曇っていく。
「叔母さんが……魔物に殺されて………申し訳ないけど、お父さんを呼んできてくれないかしら。」
「まぁ………そんな……………わかったわ、待っててちょうだい。」
人間の女性は半獣人の少女から事情を聞くと、村の奥へと駆け出して行く。
それを見届けた半獣人の少女はジャックに向き直り、村の中へ案内する。
村の中へ入った首無し騎士は両手で抱えていた獣人の遺体を丁寧に下ろすと、ジャックに預けていた自分の頭を受け取った。
「さて……えぇと、リィラ殿…で、合っているだろうか?」
頭を受け取った首無し騎士は半獣人の少女に話しかける。
「え!?なんで私の名前を………!?」
「え!?やっ!!すまない!先程のご婦人との会話で名前を呼ばれていたので……」
半獣人の少女……リィラは今でも首無し騎士自体のことは警戒しているようで、唐突に名前を呼ばれたことに驚いていた。
首無し騎士も首無し騎士で、驚かせてしまったことに罪悪感を覚えたのか、言葉が尻すぼみになっている。
そんな二人の様子を見かねたジャックは、助け舟を渡すように声をかけた。
「えぇと、まだお互いに自己紹介していなかったよね。俺はジャック、そしてこっちがさっきも話した通り、不死者の首無し騎士。人を襲わないのは俺が保証する。」
「あ!はい!私はリィラ、リィラ・ドルと言います!」
「よろしく、リィラ。」
ジャックはリィラ・ドルに握手の意味で手を差し出す。彼女もおずおずとしながらそれに答え、互いに握手を交わした。
「それでなんだが、リィラ殿、この村に聖職者はいるのだろうか?」
首無し騎士がまた問いかけると、リィラ・ドルはビクリと肩を震わせる。
それを見ている首無し騎士の表情はとても申し訳ないなさそうだ。
「あ………いや……えっと……はい、小さいですけど教会がありまして………でも…貴女に危害を加える気はぜんぜん無くて…………」
リィラ・ドルは涙目になりながらしどろもどろに首無し騎士の問いかけに答えている。
いや、途中から質問に関係のないことまで話している様子だった。
「………え?いや、違っ…私の脅威になるかとかそう言うのを確かめたいのではなく、というか浄化してもらえるのならこちらとしてもありがたいが……今は違くてだな……」
首無し騎士も怯えられてしまったのが気まずいのか、だんだんとしどろもどろになっている。
「…………この遺体が不死者化しないように葬りたいんだけど、その教会の聖職者を呼んでこれないかな?」
見かねたジャックは首無し騎士の聞きたかったであろうことをリィラ・ドルに質問する。
「………え?はい!もちろんです!!……と言うよりも、もうこちらに向かっているかと思います!」
リィラ・ドルはジャックの質問にテキパキと答えている。ジャックは首無し騎士が何とも言えないような表情でこちらを見つめているのを極力無視した。
「リィラ!!」
突如、リィラ・ドルの名を叫び、こちらへ向かってくる獣人が現れる。
「お父さん!!」
リィラ・ドルも涙を浮かべ、走り出すと、その獣人へと抱きついた。
「リィラ!大丈夫か!?何処も怪我なんかはしてないな!?」
「大丈夫……私は大丈夫よお父さん……でも……叔母さんが………っ!」
リィラ・ドルは先程まで涙目で抑えていたところを決壊したダムのようにワァッと泣き出す。
リィラ・ドルの父親と思われる獣人は彼女の後ろで横たわっている無惨な姿の獣人へと視線を移した。
「助かることが出来ず……申し訳ない。」
「………いえ、娘だけでも助けていただき、感謝して…………不死者!!??」
耐えられなかったのか、首無し騎士が謝罪の言葉を口にし、その言葉に反応したリィラ・ドルの父親が首無し騎士へと視線を移し、仰天する。
その直後に、駆けつけて来た聖職者であろう人物にリィラ・ドルを抱きしめながら駆け寄って行く。
「し……神父様!!不死者が!!村の中に不死者がっ!!!!」
「なっ……!首無し騎士!!?上位不死者がどうしてこんなところに!!?」
「神父様!お助けください!!」
「む……無理です!!私だけ程度のチカラでは上位不死者に敵いません!!!」
「お父さん!大丈夫なの!あの不死者は冒険者さんに服従してるから!大丈夫なのよ!!」
目の前で繰り広げられる展開に、ジャックは話が進まないとため息を吐く。
その後ろで何とも悲しそうな表情をして地面を見つめている首無し騎士のことは無視した。
なんなら「どうして獣人の女性を助けてくれなかった!」という感じの責め句を言われる槍も応えているかもしれない。
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「改めまして、娘を助けていただいて本当にありがとうございました。」
リィラ・ドルの叔母が無事に聖職者によって浄化された後、改めてリィラ・ドルの父親がジャックへ感謝の意を伝えに来た。
「いえ、たまたま通りがかっただけですから。」
ジャックは手を横に振りながら、彼に応対する。
「あの・・・差し支えなければ教えて欲しいんですけど、巨大蜂の巣熊のような危険な魔物はこれまでも出没していたんですか?」
「とんでもない!巨大蜂の巣熊どころか、巨大熊すらも出たこと無いですよ!!見かけても我々男衆で対処できるような下位の魔物だけです!」
ジャックの質問にリィラ・ドルの父親は両手と顔を勢いよく振りながら返答する。
蜥蜴人の集落に出没した悪童鬼といい、今回の巨大蜂の巣熊の件といい、何やら魔物の生息分布がやけに変動している印象を受ける。
思い返してみればこの前の街にあった冒険者ギルドの依頼掲示板も《道中の護衛》や《馬車の護衛》などの依頼が多かったように記憶している。
これは大手商人のような専属傭兵がいない中~小規模の商人が身銭を切ってでも道中の安全を確保したいという意識の表れだと推測できる。
「じゃあ質問を変えるんですけど、王都方面で何か事件があったとか、変わったことはなかったですかね?」
「そういわれてもなぁ……ああ!そういえばあったよ!変わったこと!!」
リィラ・ドルの父親の言葉にジャックは身を乗り出す。
「確か、何日か前にドードリアンで王都の聖騎士の遠征部隊が駐留してたって話がありまして!その前にも聖騎士部隊がこの村を経由していったもんだから……ほら、こっちなんて聖騎士様とは縁も所縁もないもんで珍しいもんで!」
その証言にジャックは聖騎士リリア・フォードリアスから届いた手紙の一文を思い出す。
”しばらく迎えにいけそうにない”
ジャックも首無し騎士もリリア・フォードリアスが聖騎士隊隊長という立場上、いろいろと忙しいのだろうと思い気に留めていなかったが、あの手紙のどこにも”自分たちで王都に来い”とは書いていなかった。
むしろ、”いまは迎えに行けないからしばらく待っていてくれ”という旨の手紙だったのではないだろうか?
紹介状も”約束はたがえない”という旨の意思表示、契りの証明として送っただけ………。
要するに、”今は来るな”ということだったのではないだろうか?
「………フォードリアス殿に何かあったのだろうか?」
ジャックの表情からいろいろと察したのか、首無し騎士が問いかけてくる。
首無し騎士は考えなしに突っ込んでいく悪癖がある。
この推測にしか過ぎない……思い過ごしの可能性が捨てきれない考えをはたして首無し騎士に告げるべきだろうか?
しかし、そんな表情も首無し騎士に読み取られたようだった。
「ジャック、急ごう!」
首無し騎士はすっくと立ちあがると、迷いのなく歩き出す。
「おい!ちょっと待て!!まだ何かあるって決まったわけじゃ!!」
「彼女は私の恩人なのだ!なにかあってからでは遅い!!」
ジャックは手を伸ばし、マントをつかむと首無し騎士を静止させようとするが、勢いは収まることなくズルズルと引きずられていく。
こんな様子を見られたのではどう見繕っても使役しているようには見えない。
そもそもこの首無し騎士は王都への道筋すら知らないだろう。現に、こいつは先ほど通った村の入り口へと歩き出している。
「わかった!わかったから!!どっちみちドードリアンには行く予定だったんだ!!ほら!もう行こう!!」
ジャックはとうとう折れて首無し騎士が行こうとする道を修正するように歩き出す。
もうこうなった以上、この場で説得するのは無理だ。道中時間をかけて説得するしかない。
そう考えていると、ジャックは急な浮力感に襲われる。
一瞬なにがなんだかわからなかったが、どうやら首無し騎士に持ち上げられたようだ。
「すまないがジャックの体力に合わせて悠長にしている暇はない!道案内は頼んだぞ!!」
「ちょ……!おま……!!待っ!!!っ!!」
ジャックの静止も間に合わず、首無し騎士は猛スピードで駆けていく。
その様子を口を大きく開けながら、リィラ・ドルの父親はただただ眺めるばかりであった。




