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泥沼の支配者

湿地帯の泥に塗れた草むらを素早く動く人影。

いや、その影は()()というにはあまりにも人間とはかけ離れた頭部をしていた。

頭部だけではなく、本来皮膚で覆われているであろう肌は凸凹とした鱗で覆われ、尾骶骨の先からは太く大きな尻尾が地面スレスレを移動していた。


俗にいう蜥蜴人(リザードマン)である。

挿絵(By みてみん)


その見た目と鳴き声や喉の音などでコミュニケーションを取ることから近年まで“魔物”として認知されていた彼等であったが、彼等が他種族の魔物と敵対していること、一部の行商人と取引をしていることから“亜人種”として認識されつつある。

そして、彼等が“亜人種”として認識されることとなった最大の要因……


そっちの様子はどうだ(アッアーヴグァ)?」


いや、ボウズだ(ウヴググルル)泥蟹すら取れてない(オッオッアーウォ)。」


それは長年鳴き声だと思われていたものが彼等の“言語”だったことだ。

人間の間でも国家間で母国語が違うように、彼等の鳴き声が彼等にとっての()()()と認識されたことが大きい。

これは蜥蜴人(リザードマン)と取引をしていた行商人の使っていた公用語を“人々の言語”として蜥蜴人(リザードマン)が学習し、話したことで発覚した。

言葉が通じる者には一定の理解を示すようになるのが人間というものである。


これじゃあ(グルル)女子供が食う分も(ガバガキャガバァ)足りないぞ(ギャルルルル)


それもこれも(グルグルヴゥゥ)あの悪童鬼(ガバグゥ)のせいだ(ガァ)


この蜥蜴人(リザードマン)の集落では現在、とある問題を抱えていた。

それは、最近集落の近くに挟み始めた悪童鬼(ゴブリン)と沼魚や甲殻類などの獲物の取り合いから起こる食糧難である。


このままじゃ(ギャギャヴ)俺達も(グルギャヴ)衰弱しちまう(ルルル)。」


そうなりゃ(ルルグゥ)いつあいつ達が(グァッグアッ)攻めてくるか(ガヴルル)わからんな(グァグルルラァ)。」


蜥蜴人(リザードマン)の皮は防具に使える。

それゆえにかつては人間からも襲われていた歴史を持つ彼等だが、話ができるようになったことで人々から襲われることは無くなった。

現在もなお、皮目当てに襲ってくるのは悪童鬼(ゴブリン)のようなある程度の知能を有した魔物などであり、それゆえに蜥蜴人(リザードマン)達は子供鬼(ゴブリン)を敵視している。


早めに(グルガァ)若い衆(グルルグ)を集めて(グガグルル)駆除した方がいいな(ギャギャヴグル)。」


同感だ(ガルグル)……。」





雲ひとつない晴天の中、ジャックと首無し騎士(デュラハン)は《リペリシオン王国》王都を目指して歩いていた。


「……それで、王都に着く前に三つくらい街を経由して行くんだけど、絶対にそのヘルム外さないでね。」


「ああ、理解してるとも。」


挿絵(By みてみん)


ジャックは二つ穴の空いた皮袋を体の前で持ち、首無し騎士(デュラハン)の胴とその上には教会から返してもらった鎧が装着されている。

首無し騎士(デュラハン)の声はジャックの持つ皮袋から聞こえてきており、言うまでもなく、胴体についているヘルムの下は空洞である。

最初は首無し騎士(デュラハン)の頭を胴体の上に乗っけて、鎧とヘルムで固定しようとしたのだが、その案は首無し騎士(デュラハン)本人によって拒否された。

なんでも、以前同じように頭を首の上に固定しようとしたら信じられないくらいの激痛が走り、しばらく悶え苦しみ、転がるしか出来なかったのだと言う。

しかし、上位不死者(アンデット)である首無し騎士(デュラハン)を連れて普通に旅など出来ないし、王都に入るどころか、街を経由することなど出来るはずもないので、苦肉の策として“ヘルムだけを装着し、あたかもその下に頭がありますよ”と誤魔化す作戦に出たのだ。


「あと、あまり人前で話さないでいてよ?声の位置でバレかねないから。」


「そうだな、注意する。」


首無し騎士(デュラハン)は袋の穴越しに外を見ながら歩くのが難しいのか、返事がえらく単調だ。


「歩きづらいなら俺の肩に手を置いていいけど。」


「本当か?すまないな。」


ジャックの申し出に首無し騎士(デュラハン)はすぐに反応し、手を置く。

するとその瞬間、鬱蒼とした木や草の中から何かが飛び出してくる。

その何かは勢いを殺すことなく首無し騎士(デュラハン)のヘルムに直撃し、その衝撃でヘルムは凹み、後方へと転がって行く。


首無し騎士(デュラハン)!?」


ヘルムに直撃したもの……その正体は“小石”だった。

なんの変哲もないただの石。

その石が目にも止まらぬ速度で、首無し騎士(デュラハン)のヘルムを弾き飛ばしたのだ。

ジャックが首無し騎士(デュラハン)の胴体へと視線を移した瞬間、また草陰から数体の小さな影が飛び出してくる。

その影は子供ほどの大きさで、そのどれもが緑色の体色をしており、歪な武器を携えている。

そいつらは醜い顔を更に笑顔で歪めながら、草陰から飛び出した勢いのままジャックへと襲いかかろうとするが、武器を振り下ろそうとした瞬間、先頭にいた者の胴体が真っ二つに切り裂かれ、赤黒い血を周囲に飛び散らせる。

その光景に後続していた緑色の小さな魔物は硬直し、前方に佇む首のない怪物を凝視する。


「………悪童鬼(ゴブリン)か。」


首のない怪物、首無し騎士(デュラハン)は目の前で自分をみて恐れ慄いている小汚い鬼達を()()()()

幼い子供が考え付く残虐な悪戯のようなものを最大限罠や戦法として利用する魔物でも死体が動くのは恐ろしいらしい。


「いつまでも頭を地面に転がしたままにはしておきたくない。悪いが手早く処理させてもらう。」


首無し騎士(デュラハン)は足元に散らばっている悪童鬼(ゴブリン)の臓物を土ごと蹴り上げる。

すると、その土や臓物が目に入ることを嫌がった他の悪童鬼(ゴブリン)達は反射的に目を閉じた。

その作り上げた一瞬の隙を利用し、首無し騎士(デュラハン)悪童鬼(ゴブリン)の目の前に移動すると、次々と奴等を切りつけていく。

一匹は首と胴体を斬り離し、一匹は肩から腰にかけて斜め斬りにし、最後の一匹は前の二匹が斬り殺されている間に目を開けていたので、防御してきた武器ごと真っ二つに斬り裂いた。


「ジャック、石を打ち出してきた個体は……」


「大丈夫、この通り始末したよ。」


首無し騎士(デュラハン)が草陰に声をかけると隙間からジャックが顔を覗かせる。

その手には悪童鬼(ゴブリン)の耳とパチンコが握られていた。どうやらこのパチンコで石を飛ばし、先程の奇襲を行ったらしい。

首無し騎士(デュラハン)はジャックの無事を確認すると、飛ばされたヘルムを回収しに向かう。


「あーあ……私のヘルムが……どうせ壊すならこの腕輪を壊してくれれば良かったのに。」


「まだそんなこと言ってんのかよ……。」


ジャックは呆れながら他の悪童鬼(ゴブリン)の耳を削ぎ落とし、回収する。

この耳のように倒した魔物が何かわかるような部位を持っていくと、街に到着した際にギルドからある程度の報酬が受け取れる。


「だけどこんなところに悪童鬼(ゴブリン)が現れるなんて珍しいな……この近くには蜥蜴人(リザードマン)の集落があるから滅多に魔物は出ないのに。」


「そうか……ではその蜥蜴人(リザードマン)も始末しに行くか。」


ヘルムを回収して戻ってきた首無し騎士(デュラハン)のその一言にジャックは思わず吹き出す。


「何言ってんの!?アンタとうとう不死者(アンデット)に精神引っ張られたか!??」


「なっ!?失敬だな!!!道行く人々の安全のためにも魔物は排除しておくべきだろ!?」


話が噛み合わない。

魔物を排除するのは賛成だ、駆除すればするだけギルドから報酬が期待できる。

だが、それと蜥蜴人(リザードマン)を殺しに行くと言う話となんの関係があると言うのか。


「強さを気にしているのか?大丈夫だ、確かに蜥蜴人(リザードマン)悪童鬼(ゴブリン)に比べれば戦闘能力が高い魔物だが、脅威というほどではない。心配なら私一人で倒してくるからジャックは後でギルドに持っていく部位とやらを回収するだけでいいぞ?」


「いや……蜥蜴人(リザードマン)の部位なんてギルドに持っていったら殺人罪で俺ら豚箱行きだよ……。」


しかし、首無し騎士(デュラハン)の発言でジャックは気になった単語があった。


「………………待って、アンタ今蜥蜴人(リザードマン)のこと“魔物”って言った?」


「……………?ああ、言ったが………??」


皮袋から取り出された首無し騎士(デュラハン)の顔は悪びれる様子もなくキョトンとした表情をしている。

その表情には差別主義者特有の悪辣な様子はどこにもない。本気で蜥蜴人(リザードマン)は魔物だと信じ込んでいる、差別主義者にそういう教育を施された子どものような表情だ。


「そうか……300年前はまだ蜥蜴人(リザードマン)は“魔物”ってカテゴリだったんだ……。」


ジャックは世代間(ジェネレーション)格差(ギャップ)を痛感する。

今のこの首無し騎士(デュラハン)のように蜥蜴人(リザードマン)は魔物なのだから駆除して当たり前という考えが普通だったのなら年寄り連中ほど蜥蜴人(リザードマン)を嫌うのは当然だろう。彼等にとってそれは嫌悪ではなく自衛だったのだ。

それは年老いた蜥蜴人(リザードマン)も変わらないのだろう。交流を持つのはいつも若い蜥蜴人(リザードマン)だけだ。


「いいか……?アンタの生きた300年前と違って、蜥蜴人(リザードマン)は亜人種なんだ。殺しなんかしたらそれこそ王都の司教様にだって叱られるぜ?」


蜥蜴人(リザードマン)が……亜人種!?そんな馬鹿な!!?言葉も持たない凶暴な奴等で人を見かけ次第殺しにくるような魔物なんだぞ!?」


ジャックは首無し騎士(デュラハン)の古い考えにため息が出る。


「そりゃ、俺ら人間側が蜥蜴人(リザードマン)に危害を加えてた時代の話なんだよ!アイツらだって自衛のために仕掛けてきてたの!!」


人間は自分等を殺す。だからやられる前にやらなければならなかった。

この言葉を蜥蜴人(リザードマン)から初めて聞いた商人はなんとも申し訳ない心待ちになったという。


「だ……だが、現にアイツらは人の村々を襲い、略奪行為を繰り返して……!」


「そりゃ人間にだって野盗とかの悪人はいるだろうよ!?悪党と一般市民を同列に扱うのかアンタ!!?」


首無し騎士(デュラハン)はジャックの言葉に困惑しっぱなしでいる。初めて叩き込まれる“常識”に頭がついてきていないんだろう。


「はぁ………駄目だ……アンタをこの価値観のまま王都に近い街に連れていくわけにはいかない。」


ジャックは首無し騎士(デュラハン)の手を取り、生い茂る草をかき分けて行く。


「お……おい!何処に行く気なんだ!?」


「決まってんだろ!?蜥蜴人(リザードマン)の集落だよ!現代の人と蜥蜴人(リザードマン)の関係がどんなもんか直に見て確かめろ!」


ジャックは多少口調が荒々しいものに変わっているのを自覚していたが、それでも変えることなく首無し騎士(デュラハン)に言い聞かせる。

蜥蜴人(リザードマン)が言われないことで差別されることが理不尽に感じ、それを平然と悪気もなく行っている首無し騎士(デュラハン)に苛立ちを覚えたからだ。

まぁ、それが“常識”だった首無し騎士(デュラハン)にとってはその苛立ちこそ理不尽に感じたかもしれないが………


「あ、あと蜥蜴人(リザードマン)の集落にいる間は武器没収だから!」

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