78:出撃 ≪ソーティー≫
25/02/22 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。
司教は僕の決断を理解してくれ、明日の朝の出発に同意してくれた。
だが、今しなければならないこともたくさんある。
聖炎の部隊は可能な限りの食料や毛布、医薬品を集めているようだ。
僕はトランスポーターの事務所に行き、ストームポートに連絡を入れる。
街のオライエンの事務所へハーバーマスターに出向いてもらい、直接短文の交換を行う。
まずセーブポイントが壊滅したこと、甚大な被害が出ていること。ラストチャンスに被害はないこと。
推測ではあるが、闇の司教が古代の大魔法を使った可能性が高いことを連絡する。
最初は警告を受けたため、被害はあるものの大半は無事であることを伝えようかと思ったが、ケイトリンさんの動きが少し気になる。
ハーバーマスターに彼女の動向を聞いた際に、彼が知っていたことに加え、内密にするよう求められた。
彼としては漏らしてはいけない情報を教えてくれたのか、知らないはずの情報を知っていたのか。
いずれにせよ、ハーバーマスターの上司の影がちらつく。行政官殿は何かを知っているし、何らかの関係があるのも間違いないと思う。
こちらの報告が一通り伝わった後に、ストームポート側にも被害が出ていることが分かった。
天上神教会が崩壊したという話だ。
幸いにして死者は出ていないが、行方不明者2名で現在捜索中だそうだ。
心配ではあるが、彼らに任せるしかない。
最後に明日の朝、予定通り玉座門遺跡に向かう事を告げてこちらからの連絡を終わる。
向こうから最後に届いた一文は、
-貴殿に神の祝福のあらんことを-
だった。
最初は少し彼らしくないと感じたが、皮肉と見れば彼らしくもあるように思える。
僕は、その一文を
「神の加護を受けてんだろ?何とかしてこいや」
と理解することにした。
トランスポーターの事務所を後にして、宿に向かい、下にいたGさんとレイアに今の話をする。
「そうか、ストームポートの祭壇が使われたんじゃろうな」
Gさんはそう言って続けた。
「祭壇の上の教会が崩落したのは、下の構造が壊れたからだと推測できる。
であれば、この地にある大魔法の発生の為の仕掛けは、稼働するが完全な状態ではないのじゃろう。
大災厄の際にダメージを受けておるじゃろうしな。
確実に動作するのはあと一度か二度。数少ない機会を確実に使うために奴は慎重になるじゃろう。
あと、希望的観測であるが、この希望の魔法をポンポンと使えるとは思いたくない。次に使うまでに数日の猶予はあるのではないかと思う」
「で、アレン。お前はどう考えている?これからの段取りについて」
レイアが僕に尋ねる。なのでざっくりではあるが今の作戦を簡単に説明した。
「確実に勝てる戦力を集めるのが最も正しい方法ですが、時間的な猶予はありません。なので、今回は奇策の類となります。
少数による奇襲攻撃。奇跡の力を使って玉座門遺跡を急襲します。相手の予想を上回る速さで。
奇跡の力の都合上、人数が限られています。僕も含めて5名。申し訳ないがお二人には参加していただきたい」
そう言って頭を下げる。
「何やってんだよ馬鹿。俺はこの日の為に生きてきたと言っても過言じゃないぞ?行くなと言われても行くからな」
レイアの言葉にGさんが続く。
「ここで引いたら大魔導師の名折れよ。魔法使いの端くれとして、あれは葬らねばならん」
はっきり言って成功の確率は高くない。奇襲すると言っても向こうは万全の迎撃態勢を取っているはずだ。
先の墳墓の戦いよりも厳しいことが予想される。だが、戦力はさらに少ない。
「で、5名と言ったが、ここに3人、司教を入れて4人だ。あと一人は誰を連れて行くんだ?」
レイアが再び尋ねる。僕はその人選を済ませてある。本人には伝えていないが、了承してくれるはずだ。
僕はその名を告げると、二人は頷き最善の選択だろう、と言ってくれた。
3人で乾杯してから、僕は外に出て再びトランスポーターの事務所を訪れる。うたた寝していたオライエンの通信員を起こし、ハーバーマスターに伝言を依頼する。保険も必要だ。
再び宿に戻って部屋に入り横になる。
先に戻ったレイアやGさん、コマリやローズも休んでいる。
気が昂ぶるからこそ、落ち着かなければ。
今のうちにしておかなければならないことをもう一つ。
薄暗い中で手紙を一枚書き上げる。
それから僕は瞑想に入ることにした。
翌朝、いつものように早めに動き始める。神に祈りを捧げて、魔法の準備をしてから、外の空気を吸いに出る。
外に出ると、偶然コマリと出くわした。
「おはよう、コマリ。散歩?」
僕はいつものようにコマリに話しかける。
コマリは笑いながら僕にこう答えた。
「セーブポイントの皆さんが一人でも多く無事でおられることを祈っていました」
「そう。そうだね、僕も祈ろう」
そう言ってその場に跪き、昇ってくる太陽に向かって祈る。
静かな朝のひと時だった。
ギヴェオン司教を交えた8人で朝食をとる。ザックは食べないが同席してもらっている。
いつもと変わらない朝食の時間。ギヴェオン司教がいることで少しだけ緊張感があるのだけど。
他愛のないおしゃべりをしながら、食事も終わりに差し掛かるところで、僕は話を切り出した。
「今回の作戦を簡単に説明します。
今回は、何としても闇の司教を討ち、あの惨事を繰り返させないことが最大の目的です。
奴はあの場から撤退することは想定していないでしょう。逃げないと分かっているので最大戦力を集めて確実に叩くのが王道だとは思いますが、
時間的な余裕がありません。
そこで、少数での奇襲を行おうと思います」
そこまでみんな真剣に話を聞いており、ギヴェオン司教も強くうなずく。
「最速で玉座門遺跡に到達するために、使用する奇跡の都合で人数を絞ります。
今回の作戦に参加するのは、僕、ギヴェオン司教、レイア、Gさん。そしてローズの5名とします。皆さん、よろしいでしょうか」
僕は最終確認を取る。
即座にコマリが声を上げた。
「待ってください。ローズ姉さまではなく、私が参ります。私がアレン様のお供を致します」
目に涙を浮かべて、必死の訴え。もちろん、こう言うだろうとは思っていた。
移動の確実性を担保するために、ドロウのメンバーは必要。だからその枠は自分が勤めると、コマリは決めていたはずだ。
「今回の作戦では個々の生存能力が重要なんだよ。単独で生き延びられる可能性が高いという点でローズの方が適任だと判断したんだ。
それに、聖炎には聖職者やパラディンはいるけど、魔導師はいない。だからコマリには残ってもらいたいんだ」
個人的にはこれは2番目3番目の理由だ。最大の理由は危険であること。行ってみなければわからない危険ではなく、危険と分かっているところに行くのだ。まだ子供と言える年齢のコマリを連れて行くわけにはいかないし、何があっても生きて欲しい。
「でしたら師匠の代わりに私が行きます。生存能力ならジャングル育ちの私の方が-」
「遺跡や本に対しての知識が必要だ。Gさんは外せない」
コマリが抗議を続けるが、僕は途中で遮り、
「コマリ、これは決定だ。今回はこのメンバーで行く」
少し強い口調で言う。
「嫌です。絶対についていきます。走ってでも一人でも!」
コマリは立ち上がり、僕に歩み寄ってくる。僕も立ち上がる。
コマリの瞳から大粒の涙が流れ落ちる。僕はローズに視線を向けた。彼女は僕の視線の意図をすぐに理解した。
カタッと椅子がわずかに音を立てると、ローズはものすごい速度でコマリの背後に移動した。
「アレン、さ、ま…」
「コマリ様お許しください」
ローズがコマリを抱きかかえている。そして彼女をそのまま二階の部屋へと連れて行った。
僕はロアンのところまで進んでから、
「ロアン、お願いがある。この手紙を後でコマリに渡してくれないか?」
そう言い、ポケットから出した紙をロアンに渡す。
「アレンちゃん、分かるけど少しひどくない?あたしもコマリの気持ちはわかるよ。でもあれは-」
「コマリはラッシャキンに似て頑固だからね。どんな方法を使ってでも、僕たちの後を追おうとするだろう。
今回は危険だって分かってる。彼女の気持ちは尊重したいけど、死なせるわけにはいかないよ」
「それって、まるでー」
僕は素早く1歩近づき、ロアンの唇を指で押さえる。
「それは言っちゃダメだよ」
ロアンが涙目になる。
それからザックに向かってこう言った。
「ザックも言いたいことが沢山あると思うんだ。でも、今は口にしないでほしい」
「無論、共に戦えぬことは残念ですが、私は貴方の判断を支持します」
「ありがとう。ザック。僕からもう一つお願い。コマリを守ってあげて」
ザックは無言で頷いた。
二階からローズが下りてきて、
「薬を使っていますので、しばらくは起きないでしょう。起きたら殉死するとか言い出しかねませんが」
「僕が死ぬ前に殉死は無いでしょう。ロアンたちがケアしてくれると思うから、きっと大丈夫ですよ」
僕はロアンとハグして、ザックと固く握手を交わす。レイアもGさんもそれに続く。
それから荷物を持って外に出る。
手配してあった乗用馬4頭に荷物を載せ、それぞれ騎乗する。司教も自らの愛馬を召喚してまたがった。
司教はそのまま僕の脇まで馬を進めてから小さく言う。
「良い仲間に恵まれたな」
「半分は司教のお陰です」
そう言葉を交わしてから、ロアンとザックに向き直り、
「それじゃ、行ってくるね」
そう言って馬を進める。
後ろでロアンが大きな声を上げているのが聞こえた。
「行ってらっしゃい!フルーツパンケーキがまだなの、忘れないでよー!」
ロアンらしい。
5人の馬が南ゲートを出たところで、馬を加速させる。少しでも街から早く離れるために。
10分ほど高速で移動した後に、馬の速度を落としてから、Gさんとローズに声をかける。
「追手の気配はありませんか?」
「追手は無さそうですね、気配はありません」
「魔法による監視もなさそうじゃな」
その返事を聞いて馬を止めて降りる。
「どうした。休憩にはあまりにも早かろう」
司教が少しいらだったように声をかけてきた。
「馬での移動はここまでですよ。ここからは一気に空を進みます」
司教は馬から降りて、こちらに歩み寄る。
「作戦の詳細を聞いていなかったが説明してもらえるのだな?」
「勿論です。目的地に最短で向かう方法はこれしかないと思います。
馬でここまで移動したのは、敵の監視の可能性を考慮したからです。
馬での移動であれば最短で3日。途中から飛行可能な騎乗動物を使うにしても1日以上はかかります。
ですから、風乗りの奇跡を用いて一気に移動します。これでしたら忘却の王の呪いが影響しなければ2時間ほどで到着できます。実際の所は行ってみないとわかりませんが、1日以上かかる事はないでしょう」
僕は歩きながら大まかな説明を行う。旧街道の脇に移動し、木陰に入ってから腰を下ろし、一息ついて、さらに説明を続けた。
「この奇跡によって肉体が一時的にガス状に変化します。この状態では言葉によってコミュニケーションを取れなくなるので、詳細を詰めておきたいと思います」
一同は頷く。
「まず、遺跡までですが、ローズを先頭にして、皆がそれに続く形で移動します。ガス状になっているので上空を飛行中であれば、誰かに視認される確率も低いでしょう。大丈夫だと思いますが、くれぐれもローズを見失わないようにしてください。ローズは速度を変える際に、急激な減速や加速は控えてください」
ローズが頷いた。
「つぎに、現地に到達してからですが、目標は中央広場の玉座、およびその地下にある祭壇となります。
どちらかにオースティン・ヘイワードがいるはずです。
現地の防衛体制なども不明ですから、出たとこ勝負になってしまうとは思いますが、一応次の段取りを基本にして行動してください。
上空から玉座に奴を確認できた場合は近くの建物内に入って、実体化します。ガス状では戦闘行為は行えませんし、実体化するのに30秒ほど時間が必要になります。実体化したら極力集団を維持して奴を討ちます。
玉座にいない場合は、恐らく玉座後ろのゲートが開いていると思いますので、そこにガス状のまま突入し、中に入ったところで実体化したいと思います。
ここまではいいですか?」
「実体化ってのはどうやってやるんだ?アレンが魔法を解くって事でいいのか?」
レイアが聞いてくる。こういう所もちゃんと言っておかないと分からないよね。
「実体化、ガス化は魔法の影響を受けている本人が望めば、変化します。僕が解除するか、効果時間が終わるまででしたら何度でも自由ですよ。即時に変化を開始しますが、変化完了までに時間がかかる点には注意してください」
「ゲート側への突入ですが、突入した先の状態が分からない状態では、リスクが大きいのではないですか?」
「ローズさん、その通りなんですけど、玉座付近にはそれなりに敵がいると思います。その前でガス化を解いて突入となるとそこでの戦闘は回避できなくなります。
どちらがうまくいくかと考えた時、表の敵に気付かれずに中に入れるなら、その方が得策かと考えたのですが、どう思われますか?」
僕もそこは考えたが、入ってしまってあとはなんとか、の方が良いような気がした。根拠は無いので良い策があるのであればそうしたい。
「現地の状況が不明である以上詳細な計画が立てづらいのは当然だと思いますが、であれば、最終的な作戦は現地を偵察した後に決定しても良いのではないでしょうか?ガス状のまま高速度で遺跡の上を通過し、通過の際に敵の陣容を少しでも確認。遺跡を少し離れたところで最終的に打ち合わせをして、作戦実行の流れの方が良いのではないでしょうか?」
なるほど。今決めてしまわなくてもその方が策が立てやすい。
「そうですね、通過の際に偵察をして、その後に再協議しましょう。その方が実情に沿って計画が立てやすいでしょう」
一同異議はないようだった。
「では、改めて出発しましょうか」
僕は月の聖印を描き祈りながら、
「月の神に願います。風と共に舞う奇跡をお与えください」
そう言って祈った。
僕たちの体が徐々に霧のように霞んでいく。
それぞれの状態を確認して、頷くと、ローズが上空に加速を始めた。
僕たちもそれに続く。
文字通り疾風と化した僕たちは一気に遺跡を目指した。




