74:処遇 ≪トリートメント≫
25/02/22 誤字脱字の訂正、および表現の一部変更を行いました。
回収された茶色の革装丁の本が、地の書であることが、Gさんによって確認される。
この本の扱いを巡ってパーティ内で意見が分かれた。
僕はこんなもの、さっさと処分してしまうべきだと思っているが、Gさんは今回、反対の様子だった。
パーティメンバーの意見をまとめるとこんな感じ。
<破壊派>
・断固破壊すべき:僕、レイア
・消極的賛成:コマリ、ザック
<活用派>
・積極的に活用すべき:Gさん
・売却して利益を得るべき:ロアン
<その他>
・私の活躍の場をもっと増やすべきだ:ローズ
ローズの意見はともかく、破壊するか活用するかの2択になっている。
僕は基本的にこんなものは百害あって一利なしだ。処分することを主張した。
Gさんはこの意見には賛成してくれる。しかし、それでも使う方向で進めるべきだと強く主張した。
「奴らが天の書を持ち、その力の使い方を解明しようとしている。わしらにも対抗手段が必要だとは思わんのか?」
Gさんの主張は天の書を制するために地の書が役立つ可能性が高い、というものだ。
その言い分もわからないではない。
「この本は聖炎も探してる訳じゃん?だったら彼らにお任せしちゃってさ、あたしらはお金になるし。一石二鳥でしょ?」
ロアンは使う使わないよりも、収入にしようという考え方だ。基本的に聖炎が悪事に使うとは思わない。
だが、僕は個人的に彼らを信じることができても、聖炎という教団を信じていいものか、と思っている。
僕が聖炎教団を信用しきれない最大の理由は彼らのライカンスロープ狩りだ。
話は脇にそれてしまうが、聖炎の功績として語られる狂獣化病狩り、は僕個人としては功績ではなく、虐殺だと思っている。
今から200年ほど前に、当時の聖炎は大規模な狂獣化病の撲滅を行った。その活動は50年に及び、ほぼ撲滅される結果となった。
多くの人々は、それを功績として称えている。
だけど、その陰では、かなり強権的なことが行われたと聞いている。
僕が各地を旅してまわっているときに、辺鄙な田舎のその奥の森で、ひっそりと暮らす先天性のライカンスロープの人たちに出会ったことがある。彼らは今でも聖炎の攻撃を恐れ、身を潜め生きている。
病気としてのライカンスロープは非常に危険だとは思う。感染すれば潜伏期間の後に、人を凶暴な野獣に変えてしまう。
だが、治療は容易ではないが、現在の魔法で治すことも不可能ではないし、先天的な獣人たちは、凶暴ではない。ごく普通の人たちなのだ。
無知が生んだ悲劇なのかもしれない。だが、正義を掲げる聖職者が踏み超えてはならない一線を、彼らは超えてしまったと僕は思っている。
「僕も彼らが本を悪用するとは思いたくありませんが、誰かに委ねていい話でもないと思っています」
僕はロアンに言った。Gさんもこの点では同意見だ。
だがGさんも譲らない。
「アレンに聞くが、この本を解析して使えれば、闇司教の企みを阻止できるかもしれんし、多くの人の命を守れるかもしれん。
わしがこれを悪用するとでも思うておるのか?」
Gさんも少し感情的になっているように見える。
僕は慎重に言葉を選ぶ。
「まず、Gさんがそれを悪用するとは思っていませんよ。ですが、その力を使えるようにすること自体にはやはり否定的な立場です。
今の世界で、その力が必要かと問われれば、やはり不要と答えるしかありません。
大きすぎる力は世界の均衡を崩すでしょう。それを知るものがたとえGさんだけだとしても。
僕たちは今、まさにその大きな力に振り回されているのではありませんか?」
Gさんはじっと考え込んだ。
僕は言葉を続ける。
「たとえ神であっても、人の未来を決めることは出来ないと僕は思っています。人はその自由意思で、自らの行動を決めるべきです。
だから僕たちは闇の司教を止めようと必死になっているわけです。
神は常に僕たちを見ておられるんですよ。何を考え、何を選び、そして何を為すか。
選択肢は多いに越したことはない。その考え方自体は正しいと思います。ですが、闇の司教が使おうとしている力に未来を託す選択は、間違っていると思うんです」
僕はGさんを見つめる。Gさんはまだ黙っている。
ほんの僅かな時間。でもとても長く感じる時間。
「アレン。お前の言うておることが正しい。その通りじゃな。
この力に頼ること自体が間違っておる。
まだ見ぬ秘術にわしは酔っておったようじゃ。すまん」
Gさんはそう言って頭を下げた。
「頭を下げるところじゃないですよ、Gさん。ロアンも破壊でいいですね?」
「仕方ないなぁ……じゃあ、不死鳥亭のフルーツパンケーキで買収されてあげる!」
一応の一致を見た。
「明日Gさんに破壊方法を調べてもらって、それで破壊することにしましょう」
方針は決まったので、僕たちは墳墓を後にした。
聖炎には『本は発見したが破壊した』とだけ伝えることにしている。Gさんの意見も正論ではあると思うし、正義を信じる彼等にはそれを悪用するという発想はない。だが、彼らになくても、その力がある限りそれを私物化しようと企む者は必ず出てくる。
無駄な議論に時間を費やしている暇はない。今、僕たちがやるべきことをやらなければ。
視線の端に、少し拗ねたローズの姿が目に入る。僕としては彼女は勝気なお姉ちゃんキャラなんだけど、だからこそかな。拗ねてる姿が妙にかわいらしく見えた。
聖炎のキャンプに戻ると、かなりの速度で撤退準備が進んでいた。
得るものを得たので、早々に帰還するつもりのようだ。この調子だと今日中に出発するかもしれない。
僕は近くにいたデニスを捕まえて、予定を確認すると、
「荷造りはもうすぐ終わる。出発は明日の朝の予定だよ」
とのことだった。
資料を確認したいので見せて欲しいと頼んでみたが、
「見せるのは構わないと思うが、梱包が終わってる。セーブポイントに戻ってからにしてもらえないか?」
本のことを黙っている負い目もあり、あんまり強いことも言えないし、ここは引き下がることにする。
そのことを皆に伝えて、我々の出発のタイミングを決めなければ。
明日の朝、彼らと一緒に帰還するのは本の処分の都合でマズイ。
そのため、今日のうちに出発するか、明日の午後に出発するかを決めようと思ったが、相談するまでもなく結論は出た。
ここに残っていても仕方ない。早々に出発しようという結論に至った。
基本的に僕たちは身軽で、天幕なども使っていないから、今出ると言えば今出られる状況だ。
「デニス、私たちは今から帰路に就きます。セーブポイントで会いましょう」
そうデニスに伝えると、僕たちはすぐに出発した。
「資料が見られないくらいで、拗ねなくてもいいのに」
デニスのつぶやきが微かに聞こえたような気がする。
夕刻まで歩いて進んで、今日はここでキャンプ。
翌日からが本番だ。
翌日は早々にGさんが『地の書』の調査を始めた。
朝食をとり始めてから程なく、Gさんが言った。
「今回は答えが早かったわ。この本は普通の方法で破壊できる。焚き付けに使えば燃えるようじゃ。
だが、念には念を入れたい」
そう言ってから、Gさんは手に持っていたパンを口に押し込み、立ち上がる。
いや、急ぐのはいいけど、口をもぐもぐさせながらじゃ呪文は唱えられないでしょ?
Gさんは慌てて豆茶の入ったカップを手にすると、一気に飲み込んだ。
それから咳払いを一つして呪文の行使を始める。
「分解」
彼の手から秘術の輝きが放たれると、そこに置かれていた本は紙片すら残さず、一瞬にして塵と化した。
「これで簡単には元に戻らん」
少なくとも僕たちにこの本を元に戻す術はない。
一つ大きな荷物が片付いた。僕たちにとって一歩前進だと思う。
その後キャンプを片付けて、Gさんは全部で6頭の乗用馬を召喚した。
ロアンとコマリが相乗り、他はそれぞれの馬に乗って、セーブポイントを目指した。
ずっと早駆けで移動できるわけではない。途中で休憩も必要だが、歩くよりも圧倒的に早い。
夕刻を迎えたがキャンプを張らずに移動を続け、その日の遅くにセーブポイントに到着した。
到着したその足で、僕はギヴェオン司教の天幕を訪ねた。
幸い、司教はまだ起きていたようだ。
司教が戻った後に捜索で本を見つけたこと、それを破壊したことを告げる。
「事実に相違ないな?」
司教は短く、確認の言葉を発する。
「月の神の名に懸けて」
僕も短く答える。
司教は少しの間を置いてから、
「やはり探索者がおらんと見つけられんか。適材適所、とは言え我々の立場的に厳しい現実だな」
そう言った。
探索者がいないことが、この手の探索任務を困難にしている現状。教会の性質を考えると、信者に探索者はいないだろうと言う現実。
そういったものが伝わってくる。
僕は他にも、現場でGさんが推測した内容も伝える。
「興味深い推察だな。その通りだと仮定すると、闇の司教は『天の書』の研究が進んでいることになるが、まだ使うには至っていない。
奴が何かを企んでいるにして、それを阻止する時間はある、ということでもある」
「おっしゃる通りかと思います。ですが、奴の足取りはつかめません。
そこでお願いなのですが、エウリたちが持ち帰る現地で回収した資料類の閲覧させていただけますか?
Gさんにしかわからない内容も含まれると思いますし」
僕は資料開示を依頼する。
「これも適材適所だな。ここにいる魔導師にも調べさせるが、資料は好きに見てもらって構わない。
貴殿も疲れているだろう。今日はゆっくり休むといい」
司教の言葉に僕は一礼して天幕を出て、仲間たちの元へ。
今日はちゃんと武具の手入れをしよう。ベルト類も新しくし、少し磨いておきたい。
印象はとても大事なんだよ。僕みたいな聖職者とか、吟遊詩人にとっては。




