73:棚ぼた ≪ギフトフロムヘヴン≫
25/02/22 誤字脱字の訂正、および表現の一部変更を行いました。
25/04/22 ターニングアンデッドの漢字表記を変更しました
翌日の朝はまだ、レイアとロアン、コマリと僕の4人の朝食だ。
昨晩、ロアンがコマリに何を言ったのかを確認して、少しほっとした。
ちょっとしたガールズトークの中でコマリが「どうしたらアレン様に女として見てもらえるでしょうか」と聞かれたので「女の喜びを教えてください、とか言ってみたら?」と軽く答えたらしい。まあ、ギリギリセーフかな。ロアンもその辺はちゃんと考えているようで野暮は言わないし、余計なことも言っていないようだし。
いつもと変わらない雰囲気に戻っているし、当面の心配事はなくなった。いや、闇司教の一件はもちろん心配なのだけど。
とは言うものの、Gさんたちと合流しないことには調査は進まない。
エウリが太陽剣を与えられてから、ものすごくやる気になっているのが少し微笑ましい。
撤収準備を他の人に任せてから、レイアに稽古をつけてほしいと言ってくる始末だ。
僕は後回しになっていた残りの二人を蘇生してから戻ってくると、エウリが汗だくになっていた。
レイア曰く、エウリはお行儀が良すぎるらしい。
清く正しく美しく、聖戦士だから仕方ないのだろうけど、もう少し手癖や足癖を悪くしたほうが実戦では役に立つことを指摘して、教えているようだ。
打ち込む角度や力加減を変えることで相手のバランスをコントロールする方法や、相手の重心を見定めるポイント。カウンターを入れるタイミングなどかなり細かく指導している。
「あんまり、あのおっさん、じゃなかったギヴェオン司教を手本にしない方がいいぞ?あれは並外れた膂力が前提だ。あんたはあんたなりの戦い方をした方がいい」
なるほど。それは間違いなさそうだ。
僕もある程度は戦闘能力があるとは思っているが、今のエウリと比べると…多分同じくらいだ。筋力で負けてる分、僕のほうが弱いかな。
あー僕も戦士の技能を少し学ぼうかな。
「誰もアレンちゃんの剣の腕なんて期待してないから、安心して!」
ロアンが突っ込んでくる。僕はそんなに物欲しげな顔をしていたのだろうか?
でも、ロアンの言うことはもっともだ。剣で戦うよりも奇跡の行使をより磨いた方がパーティとして見た場合は強くなるはず。
無い物ねだりをしても仕方ない。
予想よりも少し早く昼頃にはGさんとザックとローズ、デニス隊の聖炎が到着した。
「思ってたよりも早い到着ですね」
僕が声をかけるとデニスが答えた。
「途中で司教猊下が声をかけてくださらなかったら、もっと早くに到着していただろうよ」
どうやら司教が、事態は沈静化しているので、急がなくても大丈夫と伝えてくれたらしい。話によると、うちのパーティーメンバーは昼夜を問わず移動を継続しようとしたらしい。疲れ知らずのザックはともかく、Gさんもローズもそんなことをしたら倒れてしまうだろうに。
冷静な判断をしてくれたデニスに感謝だ。
「こっちは心配したんじゃぞ。感謝はわしらにすべきじゃろうに」
Gさんの抗議の声が聞こえる。それもごもっともだ。
「ご心配をおかけしました。おかげさまで何とか無事です。Gさんありがとう」
僕が面と向かって礼を言ったものだから、Gさんが照れている。何かをぶつぶつと言っていたが、それは聞き流すことにした。
「で、早速で悪いんですが、Gさんに調査をお願いしたいんですよ、例の祭壇がここで見つかりました。本は回収できませんでしたが、少々不可解な点もありまして」
「相変わらず人使いが荒いな。年寄りはもう少しいたわるべきじゃと思わんのか?」
こういう時に年寄り扱いされようとするの、やめてほしい。前世も数えれば年寄りなのかもしれないが、肉体的には十分若いはずだ。
ゴネるGさんをよそに、僕たちは出発の準備を始め、10分後には出発した。
道すがら、今回の事態を説明する。
「地獄の諸侯に闇司教ご本人がおったか。よう生き延びたな」
Gさんの感想ももっともだと思う。
幸いにして闇司教はすぐに撤退したし、悪魔の親分はギヴェオン司教が過去に倒したことのある相手でもある。
「下から順番に見ていこうか」
ロアンの提案に従い、墳墓の3層にまず向かう。
祭壇の前まで行くとロアンが状況を手短に説明する。
「この祭壇、他の場所のと同じ造りなんだけど、ちゃんと罠が解除されててさ、正規の手順で取り出されてるっぽいんだよ。
それに、最近は触られた形跡がない」
ロアンが指で祭壇をこすってその指先を見せて、細かい土ぼこりが全体にかかっていることを示す。
「なるほどのう」
Gさんは石板の位置を確認してから、いつものようにメモを取りながら概要を調べている。
「おそらくじゃが、ここにあったのは『天の書』じゃな。つまり奴がすでに持っていると思われるものということになる」
「ということは闇の司教は、何かを調べるためにここに戻ったんでしょうか?」
「奥に奴らが活動していた形跡があると言うておったな。そっちも見てみるか」
「資料は聖炎が回収してますけど」
「まあ、とりあえず見てみるさ」
そう言ってGさんは奥のスペースに進んでいく。僕たちもそれについていった。
さらっと眺めてからGさんが解説する。
「机は2台あるが、ものが書かれておったのは1台。ほれ、インクの跡がこっちにはほぼ残っておらんじゃろう?
机を必要としたのは魔法使いかその類で、片方は何かを書くことは殆どなかった。一台の机はせっせと何かを書き続けておった訳じゃ」
それが何なのだろう?
「ここからは推測になる。片方は手紙くらいは書いたかもしれん机、片方はせっせと書き続けておった机。
わしらが知る限り、闇の司教の配下で机を必要とするのは二人しか知らん。片方は闇の司教。もう片方はリッチじゃ。
恐らくは手紙程度を書いておったのが闇の司教とすると、もう片方はリッチとなる訳じゃが、果たしてリッチは何を書いておったのか?
天の書の翻訳作業でもしておったのではないだろうか。奴が手元にリッチを置いておる理由も、あの文字を正しく理解できる死者をリッチとして蘇らせたとすれば納得の行く話じゃ」
「でも、リッチは見ませんでしたよ?」
「じゃが、闇の司教はおったんじゃろう?しかも逃げた」
「その通りですが」
「先にリッチを逃がしたとは考えられんか?何か大切なものを持たせて。必要ならば自分が時間稼ぎも厭わんかったとは考えられんか?」
確かにそうだ。
「でも、過去にリッチは本の回収現場にいたじゃありませんか?大切なら危険な場所に行かせますか?」
「他に魔法使いの手駒がおらなんだら、それもやむを得まい?」
Gさんの説明には一貫性があるし、確かに分解の呪文を使える魔法使いが沢山いるとは思いたくない。
でも、少しこちらにとって都合の良い話に聞こえる。僕は何となくしっくりいかない。
どういえば良いかを悩んでいたら、Gさんがさらに説明を続けた。
「もし、奴が天の書を使える状態であったなら、悪魔と対峙した場面で逃げるじゃろうか?
その力が本物じゃったなら、聖炎の黄金剣を始末する絶好の機会と考えたじゃろうよ。少なくともわしならそうする。
じゃが、奴は逃げた。時間が必要だと考えるのが自然ではないか?
それにのう、あの本の内容はわしにも理解できん。それを闇の司教が理解できると思うか?
少なくともそのまま理解できるものではないじゃろう、とわしは思うぞ?」
うん、僕の負けだ。Gさんの指摘は多分正しい。
「そうですね。机一つで、いや二つでそこまでよくわかりましたね?」
「仮定と推論、じゃな。幸いその辺りのピースはそろっておったしの。確実ではないがいい線行っておると思うぞ」
そこで素朴な疑問が生まれる。
「だとしたら闇司教は自らその魔法を使えない可能性もあるって事ですか?秘術魔法ならそう言う事になりますよね?」
「これも想像の域はでんが、勿論その可能性もある。
太古の大魔法の類であれば理解したところで行使ができん。どのみち魔力が足らんからじゃ。
じゃが、もしあの本が、例えば巻物のようにその魔力をも内包しておるものじゃったら?
魔法の構築が自分の外であってもきちんとできて、必要な魔力があれば、魔法使いだろうが司教だろうが、その力を行使することは可能となる」
Gさん、ごめん、途中から僕には少し難しかった。
「いずれにせよ、回収された資料を見せてもらわんとなんとも言えんな」
これで最下層は一通りチェックしたので一つ上に戻る。
「この石棺なんだけどさ、なんかあまりにも完璧なんだよ。何かに綺麗にはめられてる感じなんだ。封をするみたいに」
ロアンが説明するが僕にわかるのは、彼女が怪しいと思っていることだけだ。
「わしには見てもわからん。ロアンよ、どうすればいいか教えてくれんか?」
Gさんもお手上げらしい。
「石棺を分解して欲しいんだ。持ち上げようがないから。で、石棺の下10cmくらいまで削ってもらえると、何かわかるかも」
「随分と精密なことをやらせたいようじゃな。失敗したらすまん。みな、少し離れておれ」
そう言うとGさんは呪文の準備態勢に入る。僕たちは慌てて数歩下がった。
「分解」
Gさんの手から放たれた緑の光線がその場の石棺を一瞬にしてチリにする。
石棺が置かれていた床も10cmほどきれいになくなっている。
「どうやら石棺を分解すればよかったようじゃのう」
そこには60cm四方の穴が見えた。こんなの、どうやったら気づけるの?。
シャッター付きミニランタンで中を照らすと、穴の底まで3メートルくらいか。煙突とか、配水管のような感じに見える。
この大きさだと中に入っての捜索は難しそうだ。
脇でロアンが皮鎧を脱ぎ始めた。
「とりあえず下まで見て来るよ。ザック、ロープをあたしの指示に従って操作してくれる?」
彼女はロープを腰に巻き、さらにベルトと結束する。
「いや、危ないでしょう?罠なんかあったら避けようがないじゃない」
「アレンちゃん、心配ご無用だよね?こういう時こそ探索者の腕の見せ所だからさ」
穴の脇にうつ伏せになった後、頭から縦に延びる穴に入っていくロアン。
「逆さまって大丈夫なの?」
「見えないところに足を入れるとか、馬鹿のする事だよ」
ロアンはそのまま穴に潜っていく。
両手と、両足を壁面に踏ん張りながら、徐々に降下していく。
「もう少しロープのテンションを緩める速度を上げて」
穴の中から声が響く。ザックがロープを慎重に繰り出してく。
数秒後、下から声が聞こえてきた。
「下までは狭いけど、その先は少し広いね。奥まで続いてる、誰かバックアップでここまで降りてきてもらえないかな?」
「私が行きましょう」
ロアンの声にローズが答えた。確かに一番身が軽そうではあるけど、少し不安もある。
「僕が行きましょうか?鎧脱ぐのを少し待ってもらいますけど」
「いえ、私が行きます」
ローズは言い切ってから、荷物と弓、腰に下げたロングナイフを下ろしてから、ロープを伝って降下していく。
この動きは、僕には無理かな。
「何かあったらロープを引いて二人を引き上げてもらうので、何人かロープを持って待機していてください」
穴の底からローズの声が聞こえた。レイアと僕はザックの後ろでロープを握って待機だ。
「Gさん、飛行の呪文は無かったの?」
「すまんな、今日は用意しておらん」
再び下からローズの声が聞こえる。
「ロープの長さが足りなさそうです。ロアンが一度ロープを外すと言っています」
それなりの長さが横方向に続いているという事だ。
「危なそうだったらすぐに退避してくださいね」
僕はそう言うしかない。何はともあれ無事に出てきてもらわないと。
数分してから、下からの声が聞こえる。
「地中に埋まった形になってるけど、教会地下の祭壇とかと同じような造りになってて、本もあるよ」
玉座門遺跡の祭壇を思い出す。リッチを焼くほどのエネルギーで守られているって事か。
推測通りならバリアを解除するには、正のエネルギーを当てる必要があるはず。
「僕も行ってきますね、コマリ、鎧を外すの手伝って」
急いでプレートを外して身軽になる。そして羽毛の降下の呪文をかけてもらってから、穴に飛び込んだ。
ゆっくりと降下して底に到達する。
横穴は幅1.5m、高さ1.5mの通路の体だ。少し頭を下げていれば歩いて進める。
ローズにはここに残ってもらい、ロアンのいる所まで進んでみる。
明かりに照らし出されたのは、先ほどの説明通り。上半分、手前三分の二が露出した形になっている。
「罠は無いから大丈夫だけど、防壁は解除する方法が分からないよ。気を付けてね」
そう言ってロアンとポジションを入れ替わり、とりあえず試してみる事にする。
聖印を掲げて、月の神に願う。
「さまよえる魂を浄化し給え。神告浄化!」
聖印が光り輝き、前方に光が浴びせられると、障壁は消えた。
僕は慎重に手を伸ばすが、脇からロアンに手を掴まれた。
「ロアン?」
「黒い本の時は悪属性で、触ったら痛かったでしょ?あたしが回収するから、場所を変わって」
ああ、そうだった。流れ的にはこれは地の書。悪属性ではないとは思うが、用心に越したことは無い。
僕は再びロアンを場所を入れ替わり、少し下がる。
「おっけ。回収したよ」
ロアンは厚い革の装丁の本を手にしていった。
僕たちは来た道を戻り、ロアン、ローズの順に出た後、僕はロープを引っ張ってもらいながら縦穴を上った。
思いがけない収穫。
何より、奴にこれを奪われなかったのは大きい。




