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God Bless You !!  作者: 灰色狼
第二章 月影の司教
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69:緊急事態 ≪スクランブル≫

25/02/22 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。



 司教に聞いた話だと、今、聖炎(ホーリーフレイム)の分隊は4つで、一つは司教が直接指揮を執っているそうだ。

 ソウザ、デニス、エウリの3人はローテーションで城門警備と地下墳墓の探索に当たっている。

 エウリシュアは現在、捜索の担当になっており、2、3日後には交代に戻ってくるそうだ。

 食事を終えて休む段になると、僕たちのために中型の天幕が二つ用意されていた。一応男女別にしましょうかね、と提案したがコマリの強い反対に遭い断念。僕とコマリ、ローズと同じ天幕で、レイアとロアンとGさんがもう一つの天幕で休むこととなった。ちなみにザックは天幕は必要ないので装備だけ置かせてほしいとのことだった。


 夜が明けて久しぶりのジャングルの中の朝の空気を堪能する。

 潮風が混じるストームポートや、ラストチャンスと違って、ここは朝は特に濃厚な緑の匂いがする。

 高い湿度のせいで少し霧が立ち込める中、朝日が昇ると夕焼けとはまた違った赤い世界が姿を見せる。

 陽が昇るにつれて、霧が晴れ、緑はより濃く世界を彩る。

 見張り台の上に昇らせてもらい、そこから見るジャングルは緑の絨毯だ。南西方向に陸が見えるのは墳墓だろう。ここから徒歩で3日、現地には小規模のサポート部隊が常駐している。探索隊は戻ってから次が出発という流れらしい。そこに向かう細い道がここからでも見える。

 この森はドロウたちの暮らす場所だ。コマリもラッシャキンもこの森で生まれて育ったんだ。

 そう思うと、少し複雑な気分になる。僕には故郷がないから望郷の念という感覚が分からない。


 僕たちは、エウリが戻り次第、デニスたちの探索隊に同行して墳墓に向かうことになっている。

 今回は僕たちのパーティ7名と、デニス率いる探索隊8名の計15名編成になる。どちらかといえば大規模(レイド)探索に近い陣容だ。

 予定ではあと二日ほど時間があるので、この時間を使って各自トレーニングを行っている。

 僕もレベルが上昇していることは分かっていたが、ストームポート襲撃後時間が取れず、そのままになっていた。

 今日の朝の祈りから、一つ難易度の高い奇跡を準備することにした。

 新しく、より強力な奇跡を使うことを許されると、嬉しい反面、どの奇跡を準備するか、大いに悩むことになる。

 聖職者は新しい奇跡の行使を許されると、その力の内容や行使の方法を神から教わる。なので、大まかにどんなことが出来るのかは理解してはいるのだが、実際に行使してみないと実感できないことも多い。使い勝手という奴は実戦の中でしか体得できない。

 時間とその他資源に余裕があれば、事前に試したいとも思う反面、強力な奇跡になればなるほど、周囲に与える影響だとか、行使に必要になる資源類が貴重なものになったりとか、おいそれと使えないのも現実だ。特に貧乏冒険者にはだんだん辛くなっていく。秘術魔法(アーケインマジック)も同じようだけど、より高位、より強力な魔法の類は、簡単には使えないし、使ってはならないという暗黙の世界のルールみたいなものだ。


 コマリはお爺さんに書き取りを習っているようだった。いや、これはそういう光景に見えた、と言う話で、実際にはGさんの呪文の書(スペルブック)から自分の呪文の書に書き写している。時々魔法の構築のためのポイントや、細かい部分を教わりながら。

 レイアとザックは模擬戦をしていた、時々止まって、体裁きやスタンスなんかを細かくレイアが教えている。複数の攻撃を一連の動作として行うための順番とか、状況に応じた次の手を討議したりと、熱が入っているようだ。

 ローズとロアンも模擬戦をしていた。ローズは二刀スタイル、ロアンは短剣を右手に持つスタンダードなスタイル。圧倒的にローズが攻めているが、ロアンは防御的な戦い方を学んでいるようだ。剣を盾のように使う技術。なるほど、防御を徹底するスタンスだと、一本の短剣でも二本の剣をさばくことができるのか。


 僕はそれぞれのグループに水と軽食を運んで、休憩を促した。

 その後でGさんに魔法の基礎に関しての講義を受けてから、ローズとロアンに魔法装置の扱いについて少し教えてもらう。

 ロアンは魔法装置は慎重に、でも思い切りよく使うのが肝要と言い、ローズは魔法装置をいかに騙すか、だと言い切る。

 どちらも僕には無い発想で面白い。そのための方法を聞くと、なるほど思えることが多く、今まで上手くいかなかったことのコツを掴んだりもできるから、不思議なものだ。ちなみに魔法装置に関しては、僕は原理の理解が一番重要だと思っていた。

 頭に刺激を与えた後に僕はその場を少し離れてから、リュートを取り出して奏でる。たまには楽器を弾かないと弾き方を忘れてしまいそうだ。

 もちろん遊んでいるわけではない。これも生き残るために必要な技術なんだから。


 こんな感じで二日が過ぎた。


 今日はエウリシュア隊が戻ってくる日だ。

 入れ替わりに出発するデニス隊が南ゲートの警備を行いながら交代で出発の準備をしている。

 その合間にデニスと現場での行動に関して話を詰めた。

 2パーティ編成できるのだから二手に分かれて探索をする方が良いのか、数の優位性を重視して全員で行動するのかが最初の議題となる。

 デニスは2部隊で手分けしての探索を希望した。そちらの方が効率が良いのは事実だろう。

 聖炎の部隊と、僕たちのパーティという分け方なら、指示に混乱をきたすこともなく、探索は勧められるはずだ。

 だが、僕たちが協力するにあたって最も重要なのが墳墓内に存在する罠への対応で、幸いシーカーが二人いるので2部隊構成も可能ではあるが、ロアンにしてもローズにしても、一人分かれて聖炎と行動を共にするのは気が進まないだろう。混成で2部隊に編成し直すならば連携に不安が残る。

 というわけで僕は全員での行動を主張した。

 議論は平行線をたどるかもしれない。そう思っていたが、意外にも、デニスはあっさりと主張を取り下げた。

 それからこれまでの探索状況などについて細かく教えてもらう。

 最新の状況はエウリシュアが戻ってくるまで分からないが、前回、ソウザ隊が捜索に行った時点で、第一階層が自然洞窟でその下に墳墓の第一階層が広がっている。ここは走破済みで詳細な地図が仕上がっていた。

 墳墓第一階層は複雑な迷路になっており、所々に棺桶が納められる部屋がある構造になっている。死者の兵を配置した防衛層と見ているそうだ。

 墳墓の2階層目は現在探索している地域で、順調に行っていればエウリシュアが持ち帰った情報と統合されて完成した地図になるだろう。第一階層よりも通路が少なく、いくつかの部屋が連なる造りになっているそうだ。下層に続く通路と思われる場所は確認済みらしい。

 現地のサポート部隊の陣容等も確認が終わり、一応の準備は整った。


 昼を過ぎ、日も傾き始めるころセーブポイント内が急に慌ただしくなった。

 何か起こったようだ。

 僕は司教の天幕に向かおうとしたときに、当の司教が目の前に現れる。


「デニス、アレン、すまんが墳墓方面に向かってくれ。救援要請の信号弾が上がったのを確認した。

 距離はおよそ1日の地点。詳細は分からんが、私は単独で先行する」


「司教、少しお時間をいただけませんか?我々も司教に同行しますので」


「同行?どうやって?」


「レイア、ロアン、騎乗は出来るよね?」


「騎乗はもちろん訓練を受けている」


「乗るだけならたぶん大丈夫かな?」


 二人の質問を受けて、僕は奇跡の行使を準備する。


「司教のドラゴンと同じように移動可能な生物をお借りします。少しだけ待ってください」


 月の神の聖印を握って、聖句を呟きながら地面に魔方陣を描く。多少歪んでも問題は無いが、記される図形の形状と文字を間違える訳にはいかない。

 口にする聖句も、地面に描く魔方陣も、間違えないように慎重に。

 数分で書き終えて確認した後に、その魔方陣に向けて祈りを捧げ、そして願う。


-敬愛する月の神様、今私は助け手を必要としています。どうか私に翼を持つ助け手を貸し与えてください。

  願わくば、空を駆ける天馬をお貸し与えてください-


 祈りと共に地面に書かれた魔方陣が輝き始める。やがて魔方陣そのものが光り始め、天からそこに向けて雪のように光が降り注ぎ始めて、薄っすらと姿を現し始める。そして光が一瞬強くなり光の粒が集まって明確な姿を形成し、光は消えた。

 そこに銀色に輝く天馬(ペガサス)が3頭。天界に住まう天馬、天界の(セレスティアン)天馬(ペガサス)だ。

 奇跡の行使の影響か、若干の脱力感を覚える。普段使いには向かないようだ。

 僕は天馬に歩み寄り、頬を撫でる。彼等は真っすぐな瞳で僕を見ていた。


「力を貸してほしいんだ。これからしばらくの間、僕たちを乗せて運んで欲しい」


 僕の言葉に頬を撫でていた天馬が、ぶるる、と答える。たぶん了承してくれた。

 彼らは喋ることはないが人語を理解する知性を持っている。

 本来であれば天馬用に作られた専用の鞍が必要ではあるが、乗ったまま戦う事は想定していない。現場まで司教の(ドラゴン)に同行できればそれでいい。

 その様子に見とれていた聖炎の従士を一人捕まえて、(くつわ)を借りてペガサスたちに付けてもらう。

 裸馬同然で最低限度ではあるが、何とかなるはずだ。

 レイアと僕はそれぞれ一頭に、コマリとロアンをもう一頭にタンデムで乗る。

 ローズがコマリが行くならロアンに変わって自分が行くと言ったが、ドロウがいた方が移動が確実で、現場で魔法使いが必要な可能性もあり、さらにドロウがもう一人地上からの合流班にいた方が良いからと、説得する。


「ごめんね、君たちを操れるほどの技量は無いから、優しく飛んでくれると助かる」


 僕たちはペガサスにまたがり、準備ができた。


「司教、お待たせしました。参りましょう」


 少し離れたところで待機していたギヴェオン司教が相棒の黄金の竜に乗り、飛び立つ。

 僕たちもそれに連なって飛び上がった。

 上昇中はかなり恐ろしい。思っていた以上に彼らは早く飛べる。水平飛行に移り周囲を見る余裕が少し生まれると、他の二騎もちゃんとついてきている。

 先を飛ぶギヴェオン司教の背中を追うように僕たちも飛翔する。


「すごい。空を飛ぶってこういう感覚なんだ」


 自然と声が漏れる。かなりの風圧を感じて少し息苦しくはあるものの、風を切る爽快感は病みつきになりそうだ。

 前方右手に沈み始めた太陽。

 だが、このスピードなら陽が沈む前には目的地に着きそうだ。

 2時間ほどの飛翔の後、太陽が地平にかかろうかと言う頃に、ギベオン司教が片手で下を指した。何か見つけたようだ。

 彼はそのまま急降下を開始する。僕たちは無理なので、緩やかに旋回しながら降下を行う。

 司教は地上付近を掠めるように飛んだ後に急旋回してホバリングした。

 そして竜は咆哮を上げてから炎を吐いた。

 僕たちは地上付近に降下してきて、そこに何があるのかを確認すると、聖炎の部隊が醜いクリーチャーと戦闘状態になっているのが見える。

 その先頭付近に司教が飛び降りた。

 僕たちは聖炎の部隊のファーストポイント寄りに降りて、ペガサスに上空で待機するように言ってから、負傷者の元に向かうが、さすがに重傷者はいないようだ。


「レイア、ロアン、コマリ、前に出るよ。化け物どもを始末しないと」


 聖炎の聖職者や従者たちの脇を通って、最前列に。

 ギヴェオン司教は単騎奮戦中だ。

 少し後ろから(ワンド)で治療を一つ飛ばした所で、レイアが司教の横に入り、半分を受け持つ形になる。

 僕は一歩前進すると、味方全体にコマリの加速(アクセラレート)の呪文が入る。

 じわじわと押されていた前線がぴたりと拮抗し、逆に押し込み始めた。

 さらに僕は祈祷(プレイアー)を行使して、こちらのアドバンテージを確保する。

 低級の悪魔の類……どこから湧いてきたのか。

 そいつらは髭を生やした人のような姿をしているが、角があり、手には燃え上がるような爪が生えている。

 揃いの鋸刃のついた長柄(グレイブ)を持っていて、尻尾も生えている。愛らしいとは対極の姿。

 僕は二人前衛の後方、真ん中に位置取りして、二人の間を抜けてくる奴をブロックする。

 そこにコマリが放つ一本の火炎の光条が髭の悪魔を焼く。が、殆ど効いていないように見えた。


「コマリ、こいつら火に耐性がある!」


 一瞬振り向いてコマリに告げ、三日月刀で切り付ける。

 それほど強い相手ではない、時間をかければ僕でもたぶん倒せるが、近距離に寄られて力押しされると、筋力ではかなわない。

 悪魔はそれに気づいたらしく、片手で盾をつかみ、僕を引き倒そうとする。

 そこにロアンの放った矢と、コマリの魔法の矢(マジックミサイル)が貫き、奴は苦悶の呻きを上げた。

 盾から振りほどいて離れ際に一撃を入れると、髭の悪魔は沈黙した。


 治療のワンドに再び持ち替えて、前衛に治療を入れる。が、今度はワンドの治療が効果を表さない。

 奇跡の行使に切り替えてレイアに軽症の治療を行うと、奴の槍傷は治療に対して抵抗性がある事が分かる。

 聖職者の能力が反映される直接の治療の奇跡はほぼ確実に傷を治療できるが、能力が反映されないワンドの治療だと、半分くらいは治療効果が妨げられる感じだ。厄介だな。僕は小さく毒づく。

 悪魔の類はそもそもが危険な存在なんだ、という事を忘れてはいけない。それが低級の悪魔だとしても。

 僕は杖の治療を早めに数を撃つことにした。

 ワンドの治療が運悪く続けて効果を出さない場合は、奇跡の行使を行って、治療を行う。

 レイアも司教も常に1対2か3かで敵と対峙しているが、それでも十分相手を押していて、確実に数を減らしている。

 時折間を抜けてくる奴は僕が盾で押しとどめて、コマリとロアンが攻撃を集中させて沈める。

 この形が安定して、しばらくの乱戦の後に、15体ほどいた悪魔たちは全滅した。


 目に見える敵がすべて力尽きた後に、襲われていた聖炎の部隊の状況を確認する。

 いると思ったエウリシュアがここには見当たらない。

 司教が司祭に確認したところ、エウリシュアはサポート部隊に撤退を命じて、防衛線を築き迎撃しているという話だ。

 状況は良くないように思う。


「急いで救援に向かいましょう」


 僕は司教に声をかけて、指笛を鳴らす。

 上空で待機していたペガサスとドラゴンが下りてきて再び騎乗し、サポート部隊にはセーブポイントまで撤退するように伝えた後、再び空へと舞い上がる。

 夕暮れが迫っている。

 暗くなる前にキャンプ地まで行けるといいが。

 それまでエウリシュアが持ちこたえているといいが。


 僕は神に彼の無事を祈った。




 

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