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God Bless You !!  作者: 灰色狼
第二章 月影の司教
75/90

68:枠組み ≪フレイムワーク≫

25/02/22 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。



 初日こそワイバーンとの遭遇があったが、その後は静かなものだった。

 旅は順調に進み、4日目の夕刻にはセーブポイントに到着する。


「道も荒れていませんでしたし、馬を使えば二日くらいで来られそうですね」


「馬を使い潰すわけにはいかないから、途中で馬を換えるか休ませるかする場所が最低一か所は必要だな」


 僕の感想にレイアが付け加えた。

 忘却の王(オブリビオ)の呪いがなければ、という前提ではあるがドロウの案内人がいれば、その心配はない。

 ストームポートからセーブポイントまでの距離が急に近くなったように感じられる。


「この街道は余裕が出来たら整備する計画があるそうですから、そうなると二日の行程も現実になりますね」


 ローズが付け加えた。

 目の前に以前のセーブポイントとは違う石造りの門が見えてくる。門脇に続く囲い地の壁はまだ木造の部分が多いが、門の造りはかなり立派だ。

 ゲートの扉は通常の扉の形状ではあるが、扉の両脇に立派な監視塔が設置されていて、おそらく最終的には跳ね橋式の城門になることが見て取れる。

 ジャングルの夕日の中に現れる石造りの城門。どこか幻想的に思えたりもする。

 僕たちが近づくと、監視塔から声がかけられた。


「本日は閉門の時刻を過ぎている。明朝に再び出直すがよい」


「ドュルーワルカ族の名誉族長にして、聖月神教会の司教、アレン・ディープフロスト様のご到着である。

 速やかに開門せよ!」


 ローズの声が響き渡る。いや、これってものすごく恥ずかしいんですけど。

 一呼吸おいてから門扉がゆっくりと開かれる。

 開いた扉の前に衛兵が8名ほど並び、奥から甲冑をまとった人物が歩いてくる。


「ご無沙汰しております、ディープフロスト猊下。まずはご無礼の段、平にご容赦願いたい。

 北門の守護を任されております、ソウザ・イブリースにございます。遠路のご訪問、御礼申し上げます」


 もちろん、この人物は知っている。ギヴェオン司教の配下の聖戦士(パラディン)、ソウザだ。

 膝をついての最敬礼。立場を考えれば正しい振舞いなのはわかるけども、やはり落ち着かない。

 ローズがあんなことを言うから。


「イブリース卿、守護の大任ご苦労様です。形式はこれくらいで十分でしょう。ソウザさん、元気にしてましたか?」


 僕の言葉にソウザは立ち上がると、握手を求めてきた。


「短期間に大出世だなアレン。まあうちの大将と仲良しだから、司教くらいでちょうどいいって話はあるか」


 僕は彼の手をしっかりと握り返す。


「短期間でこの状況の方が驚きですよ。まるで城塞じゃないですか」


「まあ、本国からかなりテコ入れがあったし、順調に進んでいるよ。立ち話はこれくらいにして、まあ入ってくれ」


 門をくぐり中に入る。そこはまさに建設現場の様相だ。

 外囲いを最優先で工事をしているようで、テントや仮小屋が圧倒的な数を締めている。


「中のほうは、おいおいと、な」


 歩きながらソウザは今の建設状況をざっくりと説明してくれた。

 魔法使いが数名派遣されていて、彼らが城壁建設を支えているそうだ。聖炎の信徒に魔法使いは少なく、辺境まで足を運んでくれるような人はさらに少ないらしい。ここに入植している人の多くが、先の大戦で故郷を追われたり、生活の基盤を失った人たちで、新しい生活に向けての士気は高いそうだ。

 僕は気になっていたことを訪ねてみる。


「私たちよりも最新の情報を持っている人はいないはずなのに、なぜ私が形ばかりの司教になったって知ってたんですか?」


「ああ。ストームポートの教会とは、毎日情報交換を行っているからな。複雑な話は難しいが、トピック程度なら伝わってくる。

 だから3日前には知っていたんだよ。予想では明日到着となっていたから、少し慌てたけどな」


 耳が早いのはハーバーマスターの特権ではないようだ。

 僕が推しておいてなんだが、あえてシティの中ではなく、新設される地域に教会を設置したのも、なんとなくではあるが裏がある気がする。正直言って政治的な駆け引きなんて関わりたくは無いが、周囲に権力者がいる以上、関わらざるを得ない。

 見覚えのある天幕の前に着いた。司教はいまだ天幕暮らしか。まあ、らしいと言えばらしい。


「猊下、アレン司教がお越しです」


「入っていただけ」


 ソウザの呼びかけに司教が応じる。僕たちはそろって天幕に入った。


「なるほど。良く来たなアレン。まずは司教就任おめでとう」


 顔を見たギヴェオン司教の第一声がこれであった。


「お久しぶりです猊下。お変わりなさそうで何よりです。ですが、なにがなるほど、なのですか?」


「いや、司教になると聞いていささか驚いたのだがな。貴殿の顔を見て合点がいったのだよ」


「私の顔に何か書いてあります?」


「ああ、書いてあるとも。私のお気に入り、と月の神の筆跡でな」


 月の神様。異教徒の言うことですので、お気になさらないでください。僕は無言で祈り、この人のジョークのセンスを思い出した。


「あまり私は自覚がないのですが、他の人はそういってくれるのでそうなのでしょうね」


 月の神様、ごめんなさい。僕も失礼な物言いです。それに無自覚というのも立派な罪ですね。僕は口にした後に無言で祈った。


「さて、ご一同もお疲れだろうから、食事でもしながら話をするか。大したものは出せんが、腹は満たせよう」


「お心遣い感謝いたします。ご相伴に預からせていただきます」


「ソウザ、すまんが8人分の食事を運ぶように伝えてくれ」


「畏まりました。では私はこれで」


 一礼してソウザが天幕を出ていく。

 設置してある棚からガラス製のグラスを8つ、司教自らテーブルに運び、北の大陸から取り寄せたであろう葡萄酒のボトルを開けて注ぐ。


「すまんな、順番に回してくれ」


 僕は司教のこういう偉い人っぽくないところは好きだ。僕もこうありたい。


「では、再会を祝して乾杯」


 司教の音頭でグラスを掲げる。口に含むと、みずみずしさと豊かな香りが同居する、さわやかな味わい。若い酒だが口当たりがよく申し分ない。


「さて。このところ街で何が起こっていたのかを聞かせてもらおうか」


 僕は玉座門遺跡からの一連の出来事を司教に説明した。

 一通り説明すると、司教は感想を漏らした。


「そうか、神託を受けた際に神の目に留まり、加護を頂いたか」


 神託の際の個人的なお伺いは一切喋っていない。にもかかわらず、それを言い当てるとは。

 いや、興味の対象がそこって、なにか間違ってるでしょ。

 もちろん、これは口には出さない。


「闇司教が関わっているのが明らかになっただけでも十分大きな成果だろう。その本を二冊破壊したのも、お手柄だな」


 司教はしみじみと言った。僕には少し含みを感じる言葉に感じられた。

 僕は少しだけ探りを入れてみる。


「司教はご存じだったのですね?闇司教がその本を探していることを」


「知っていたか、そうだな、確かに知ってはいた。だがあまり大きな問題とは思っていなかったのだよ。私には聖炎の神の威信を広める事が最重要だと思っていたからな」


 テーブルに並んでいる料理を自らの皿に取り、一口食べてからワインを口にする。そして司教はつづけた。


「2年ほど前に虚無の血(ブラッドオブヴォイド)の支部を潰した際に得た情報の中に、オースティン・ヘイワードが組織を裏切り、秘宝の一つである天の書を持ち出した、と言うものがあった。

 オースティン・ヘイワードはちょっとした有名人だ。それが組織を裏切った、それも良くある話。だが、虚無の血の秘宝である天の書なるものがどういったものかはわからない。正直に言って、それ程興味を引かれるものではなかった。

 その半年後、私に任務が下ったのだよ。この地に来て橋頭保を築き、4冊の書物を手に入れよ、と。手に入れられぬなら破壊せよとな」


「失礼ながら良いのですか?教会内の情報や、御身の置かれている任務に関して話しても?」


 僕は少し驚いて、彼に尋ねる。立場のある人が重要と思われる情報を外部に漏らすのはマズいのではないか。


「構わんよ。貴殿らは私の利に適う働きをしてくれたのだ。今探索中の地下墳墓が、誰の為のものかは分からないが、そこに探す書物があるというのは確度の高い情報だ。今の所探索は順調とは言い難いがな」


「もし分けございません。私が助力を仰いだばかりに」


「そこは気にするな。むしろ結果として貴殿たちが私の仕事を半分も片付けてくれたのだ。急がば回れとはよく言ったものよ」


「我々もオースティン・ヘイワードを放置するわけにはいきません。お手伝いさせてください」


「それはこちらとしても願ってもない。墳墓の探索で屍人(アンデッド)が多いのは何とでもなるが、意外と罠や仕掛けの類に苦労させられている。本業の冒険者の方が探索が進むだろうし、事情を知っている貴殿らが手伝ってくれるのは本当にありがたい」


 方針は一致している。この人の能力も人格も信頼できる。

 これで一気に解決に近づいた気がした。


「これは、本件とは関係の無い話ではありますが、司教のお耳に入れておいた方が良いかと思いますので、しばしお付き合いください」


 そう告げてから、僕とオースティン・ヘイワードの奇妙な共通点。それを知っていたレンブラント司教の話をして、こう締めくくる。


「今回の聖月神教会移転と司教就任は、かつての彼の二つ名、月影の司教を僕が名乗るための段取りだった訳です。

 私としても、この呼び名が悪名である事は看過できませんでしたので」


「なるほど。それは偶然では片付けられない因縁を感じる。月の神もそれをお望みなのかもしれないな」


「会ったこともありませんが兄弟弟子と言えばその通りです。であるなら私が彼を止めるのが筋と言うものではないかと思います」


「事情も貴殿の覚悟も理解したつもりだ。その上で改めて共に戦ってほしい」


 司教は立ち上がり、それに倣って僕も立ち上がる。

 彼から差し出された右手を、僕は力強く握り返す。


 大きな話は終わった。

 後はのんびり過ごすだけ。

 なので、司教に商談を持ちかけてみる事にした。


「司教、実は一つお願いがあるのです。旅先で偶然に手に入れたものなのですが、司教に買い上げて頂いて、エウリに下賜していただけないでしょうか?」


「買い上げる?私は金はそれ程持たんぞ?確かにエウリシュアよりは持っているとは思うが」


 とっても不安な幕開けだ。やっぱり私財をため込む人たちじゃないから仕方ないか。


「ひとまずご覧いただけますか?買取はそのあとでご相談、ということで」


 僕は脇に卸してあるバックパック(ホールディングバッグ)から、太陽剣(サンブレード)を取り出して、司教に渡す。

 それを受け取った司教は驚きの表情を見せた。


「過去にサンブレードは何本か見ておるが…これはそのどれとも違うな。格そのものが違う」


「恐らく当代のサンブレードはこの時代の剣のレプリカではないかと思います。少し使ってみましたが、悪殺し(イービルスレイヤー)としての能力は聖剣と言って良いレベルだと思いました」


 司教は軽く一礼してから剣を抜き放つ。溢れ出る太陽の輝きは一瞬まぶしく感じるくらいだ。


「これほどの剣ならば、自身で使えば良いだろうに」


「それが、一応私は月の使徒でして。それが太陽の剣を持って戦うのは…どうかと思いませんか?」


「言わんとしていることは分かるが、これ程の剣は一生に一度手にできるかどうかわからん代物だぞ。売るにしてもいくらで売れるかわからんぞ」


「仰る通りなんですが、そこらの誰かに買ってもらう訳にも行かないんですよ。

 この剣は玉座門遺跡で古代のエルフの戦士の(ゴースト)に託されたもので、できればエルフに持ってほしいですし、ただ僕が使うのもはばかられます。

 で、思いついたのがエウリシュアです。彼ならこれを持つに相応しいのではないかと考えました。

 あげても良いんですが、その…僕も財政的に厳しくて。で、出来ればお買い上げいただきたいな、と。」


「冒険者らしい、そして冒険者らしからぬ言い様だな」


 司教は笑いながらそう言うと剣を鞘に納めた。


「で、いくらで私に買えと言うのか?」


「金貨10万枚と考えておりますがいかがでしょうか?」


「破格の値段だな。なるほど。お前の言い分も良く分かった。買うのはやぶさかではないが、それでよいのか?」


「はい、そうしていただくつもりで参った次第です」


「うむ。しかしエウリシュアが一人だけ得をするというのも、なんぞ癪ではあるな」


「でしたら、貸与と言う形でエウリシュアに預けていただき、しっかりと働いてもらう。

 そして、いずれ彼に買い取ってもらえばよろしいのでは?」


「妙案だな。そうしよう。支払いは現在の手持ちの都合で半分ほど、残りは後日街に戻ったタイミングになるが、それでも良いか?」


「ええ、いつでも構いません。司教の御都合の良いときでお願いします」


「商談成立だな。少し待っていてくれ」


 そう言って後ろのチェストから皮の袋を取り出し、そこから大粒のダイヤモンドを10個ほど取り出す。


「ギュンターの保証付き宝石。金貨5000枚相当のダイヤを10。これで良いか?」


「はい、確かに」


 僕は宝石を受け取って、太陽の剣を司教に渡す。


「お買い上げありがとうございます。試し切りはされても構いませんが、くれぐれもエウリシュアに渡してやってくださいね」


「わかった。あいつが金を払うと言ったら貸してやることにする」


 そう言って司教はにやりと笑った。

 本気なのか冗談なのか正直わからないが、まあ、司教のことだから大丈夫だろう。

 彼のジョークが笑えないことを、僕はよく知っているから。




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