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God Bless You !!  作者: 灰色狼
第二章 月影の司教
74/90

67:立場 ≪ポジション≫

25/02/22 誤字脱字の訂正、および表現の一部変更を行いました。



 翌日になって、朝の準備を済ませると早々に出発する。

 昨夜は暗くなっていたのであまり様子を見なかったが、この時間になれば街の様子がよく見える。

 以前よりも少し活気がある感じがする。セーブポイントへの物資輸送の需要が多いからだろう。

 南ゲートに差し掛かると、シティーガードが敬礼してくる。防衛線に参加していた人だろうか?少しむず痒い。

 脇に差し掛かったところで、その一人が知人であることに気が付いた。


「サザーランドさん?サザーランドさんじゃないですか!」


 ゲートの警備についていた男の一人は、ハーバーでの事件に関わるきっかけとなったサザーランドだった。

 足を止めて彼に話しかけるが、彼は少し緊張し敬礼を崩さない。


「無事にシティーガードになってたんですね。元気そうで何よりです」


「わ、私には過分にて、恐れ多いこ、ことでございます」


 彼の額には汗がにじみ、膝が小刻みに震えている。酷く緊張しているのは分かるけど、なぜ?


「どうしたんですか?そんなに改まって。何かあったんですか?」


「い、いえ、大変申し訳ございませんっ!司教様とは、ぞ、ぞぞ存じ上げませんでしたので、なにとぞご容赦を……!」


 彼の緊張が極限に達しそうだ。汗が大粒に変わり、震えは硬直に変わり、ろれつが回らなくなっている。

 それにしても、なぜ彼がこれほどまで緊張するのか、さっぱり分からない。


「どうしたんですか一体?船でもハーバーでもお世話になったアレンですよ、月の神の神官です」


「それは分かっております。ですので、その際のご無礼をお許しいただきたくそうらう」


 言葉遣いがおかしくて舌も回っていない。全く持って要領を得ないので、ひとまずロアンに通訳を頼むことにした。僕は少しだけ後ろに下がって様子を見ている。

 ロアンが何かを聞いていて、最後の「あーそういうことね」だけが聞き取れた。


「ロアン、どういうこと?」


 僕の問いにロアンは答えてくれた。


「んと、今朝ハーバーマスターから通達があって、ディープフロスト司教がラストチャンスを出発するので失礼の無いようにって言われたんだって。

 そんでもって彼はハーバーに着いた頃のアレンちゃんを知ってる訳じゃない?

 司教って聞いて驚いて、どうしたものかと混乱してたみたいだよ」


 なるほど。ハーバーマスターの耳が早い、と言うよりはレンブラント司教の動きが早いと言うべきだろう。

 昨日のうちに、あちこちに話を付けたんじゃないかと想像できる。


「サザーランドさん、気にしないでください。司教って言っても偉くもなんともないんですから、ね?」


「そう言っていただけると、私も助かるのですが…」


 サザーランドはまだ恐縮している。無理もないか。一般の人が司教と呼ばれる人と話をする機会はまずない。

 雲の上の人ってイメージだと思うし、実際にそういう人が多いし。


「あなたが僕に依頼をしてくれたから、ハーバーの今があるんですよ。一緒に働いた仲じゃないですか。

 今まで通りで全然いいんですよ。私は司教の前に冒険者なんですから」


「あ、はい、ありがとうございます」


 恐縮されるのが少し痛い。だが、口で言ってもどうにもならないのも事実だろう。僕の振る舞いでみんなに意識を変えてもらうしかない。

 ここで、それをやっている時間もないし。


「ハーバーに戻るときにはブットバルデ家の皆さんにもよろしく伝えてくださいね。それでは、行ってきます」


 そう言って月の神の印を書いて祝福を祈る。

 彼はその場に跪いて、祈りを受けた。

 僕たちはゲートを出て、ジャングルに延びる真っすぐな道を進む。

 周囲の戦場跡は綺麗に畑に戻っているようだ。途中に低木の生えるグリーンベルトが続いている。

 多くの人たちが命を落として、ここに眠っている。そしてその責任の一端は僕にある。

 その場に立ち止まり、祈りを捧げてから、僕は再び歩き始めた。


「お前のそういう所、いかにも司教って感じだよな」


 レイアが僕に声をかける。


「冷やかすのはほどほどにお願いしますよ。自分では司教ってガラじゃないって思ってるんですから」


「立場が人を作るなどともいうでのう。まあ、そのうち司教と呼ばれるのがしっくりくるようになるじゃろう」


「Gさんまで、そんな事を言って」


「でも、アレン様はアレン様です。司教だろうと神の使いだろうと、アレン様ですから」


 コマリの言葉に何となくホッとした。僕は僕。その通りだと思う。何と呼ばれようと、僕は僕でしかない。

 当たり前の言葉がとても身に染みた。たぶん僕も浮足立っていたんだと思う。

 僕はコマリの頭を撫でて、手を繋いで歩き始めた。

 これでいい。いや、こうじゃないと。




 ガイドについていないドラウが定期的に街道を見回っているのに遭遇する。その度に彼らは僕に片膝をついて最敬礼。


「ローズさ…。別に最敬礼とかしなくても良いでしょうに」


「いや、元族長ですし今も身分的に長老と同格ですよ?彼らの振る舞いは当然だと思いますけど?」


「ホント、あっという間にアレンちゃん、偉くなったねえ」


 ロアンが茶化してくるが、僕は動じないことにしている。


「どれも成り行きの一時的なものですし。僕は僕ですよ、ロアン」


 僕はロアンに向かってきっぱりと言い切る。強い姿勢で臨むことが大事だ。たぶん。


師匠(マスター)、あれも師匠(マスター)師匠を歓迎して、でしょうか?」


 ザックが前方の上空を指さして、尋ねてきた。


「そんなわけないでしょ!、散開して戦闘準備!」


 僕はそちらから接近してくるシルエットに見覚えがある。翼竜(ワイバーン)だ。数は4頭。一頭は群れのリーダー格か、一回り大きいようだ。


「奴らは低空飛行で一撃離脱を仕掛けてくるじゃろう。前衛陣は降下したタイミングでカウンターを狙ろうてくれ」


「飛び道具のある人は基本飛び道具で。Gさん、コマリはあれを落とす算段をお願いします」


 Gさんの警告に僕は指示を追加する。

 そのタイミングでGさんの加速(アクセラレート)の呪文が放たれる。コマリの祝福(ブレス)がそれに続く。

 一歩遅れて僕が祈祷(プレイアー)の奇跡を行使した。

 4頭のワイバーンは降下しながら接近してくる。

 ロアンとローズが弓を使って狙い撃つ。レイアとザックは最前列で敵の攻撃に合わせる構えだ。

 コマリが蜘蛛の糸(ウェブ)の呪文を放つ。奴らは難なく高度を落としてそれを躱した。


「良い誘導じゃ。少し寒いが我慢せい」


 そう言うとGさんは複雑なルーンを描き、呪文を発動させた。


氷の壁(ウォールオブアイス)


 低空飛行状態のワイバーンたちの目の前に、突然氷の壁が立ち上がる。最後尾から接近してきていた一頭は急上昇でそれを回避したが、前にいた3頭は躱しきれず氷の壁に激しく激突し地面に落ちた。

 あたりに砕けた氷片が飛び散り冷気が広がる。

 そこにレイアとザックが飛び込んで打ちかかる。地上での接近戦なら彼らは十分に力を発揮できる。

 レイアの両手刀(ファルシオン)が凄まじい速度で複数回叩き込まれる。激しくのたうつワイバーン。

 その隣で別の個体にザックが斧を叩きつける。強烈に叩きつけられた斧の刃はワイバーンの肉を引き裂き、さらにその傷口がジュッと焦げる音を立てる。あの斧は(アシッド)の追加ダメージの能力があるらしい。

 二人の動きはGさんの加速の呪文の効果も相まって、すさまじい勢いで攻撃を叩きこんでいた。

 僕はもう一頭の前に立ち、三日月刀で切りかかる。当たりはするが、あの二人ほどダメージは与えられない。

 だけど、こいつが反撃してくるように仕向けるのが僕の役目。飛ばせなければ仕留めるのは早いはずだ。


「上から来るよ、気を付けて」


 ロアンが警戒の声を上げた。

 壁を回避した奴が上空から急降下で攻撃の体制に入ろうとする。

 ロアンが弓で牽制し、飛行コースを封じ、後衛への攻撃を阻む。

 そいつは二人の魔法使いを狙うのをあきらめて、僕に向かって降下してきた。

 僕は咄嗟に横に跳んで、ワイバーンの爪と尾の攻撃をよける。不格好だが、あんなのまともに喰らえば、命がいくつあっても足りない。

 そこにショートソードの二刀、片方はドロウロングナイフだが、に持ち替えたローズが飛び込む。

 地面を掴んでいた奴の背後から軽い身のこなしで背中に駆けあがって、奴の背の羽を切り裂いた。

 

「痛っ!」


 僕の脇腹に最初に対峙していた奴の尾が突き刺さる。鎧の表面を滑った後に継ぎ目に刺さった。こいつの尾には毒がある。

 激しい痛みが脇腹を襲うが、これくらいでは死にはしない。

 転がって2撃目を避ける。


「うおおおっ!」


 一頭目を仕留めたザックが、雄叫びを上げて僕に攻撃をしている奴に切りかかる。慌ててそちらに向きを変えたのが不運だった。

 風を切り裂く唸り。ザックの斧が閃く。鳴り響く轟音。ワイバーンの頭蓋を粉砕する。致命的(クリティカル)な一撃となり、魔獣の断末魔が響き渡る。

 だが、奴も一撃では倒れない。そこにレイアのさらなる一撃が加えられ、大量の血飛沫をまき散らして息絶えた。

 もう一匹もコマリとGさんの攻撃魔法を食らい、瀕死。逃げ出そうとしたところをロアンの矢が目を射抜く。


「飛べなきゃ、ただの哀れなトカゲに過ぎない」


 暴れ狂うワイバーンの喉元を、ローズの鋭い剣閃が切裂く。次の瞬間、骨を打ち砕く音が響き、絶叫すら発することなく巨体が地に伏した。


 僕はとりあえず、毒消しの奇跡を自分に行使し、周囲の状況を確認して、ザックとレイアの回復を行う。

 他に敵はいないようだ。

 偶然の遭遇戦だったのだろうか。少し気になりローズに尋ねる。


「この辺はワイバーンってよく出るんですか?」


「全くない訳ではないですよ。これも忘却の王(オブリビオ)の呪いの影響でしょうか、あまりジャングルにいない種類の魔物類が時々出るんです」


「ただ、街に比較的近い場所で4頭となると、疑いたくもなるのう」


 Gさんも僕と同じことを懸念しているのだろう。


「ワイバーンを使役してるなら、竜騎兵(ドラグーン)の一人くらいはいるはずだろ?ただの偶然じゃねえのか?」


 レイアはそう言うけど、飼えないことはない魔獣だけに、やはり気になる。


「これも冒険者の日常、ってやつ?」


 ロアンもレイアと同じ意見のようで、そう言いながらウインクした。

 こいつらの皮や尾は素材として使い道はあるが、ここで解体するのは現実的ではない。時間もかかるし、あっという間に荷物がいっぱいになる。

 後でドロウの哨戒部隊に片づけてもらおう。


 その後、日が暮れるまで進んでから、この日はキャンプを張った。

 静寂がジャングルに訪れ、小さな焚き火の炎が揺れる。





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