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God Bless You !!  作者: 灰色狼
第二章 月影の司教
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66:援軍 ≪リインフォースメンツ≫

25/02/22 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。



 翌朝一番で桟橋に集合する。

 桟橋脇の崖面には大きな穴が残っており、その周囲を数名のシティガードが警備に当たっている。

 桟橋には深刻な被害が出ておらず、すぐに修復された後に、ラストチャンスへの定期便は運航を再開している。

 週一だった定期便は、このところ二日に一往復に増便されているそうだ。

 セーブポイントへの物資運搬が安定的に増えているため、増便されたらしい。

 僕たちは船に乗ってしばしのんびりの時間を過ごす。


「そう言えばケイトリンさんとは帰還して別れてから、結局会いませんでしたね」


 Gさんが毒を吐くように答えた。


「そういう奴じゃから仕方ない。なに、『話すのは次で良いかって思ってたよ』とか言いながら3年くらいしたら顔を見せるじゃろう」


 Gさんはケイトさんが苦手なのは間違いない。彼の口からあまり好意的な意見を聞いたことがないからだ。

 それも無理はない。ケイトさんって良くも悪くもエルフだから、Gさんの言い様もあながち間違いではない。

 エルフの『この間の話だけど』って半年とか一年とか前の話であることが普通だし、次の機会にと言えば数年先はざらだ。

 エルフにとっては問題にならないが、人間にとっては問題だったりする。

 僕はとりあえず話を変えることにした。


「輸送量が多いってことは仕事も多いってことですよね?」


「そうじゃな、経済規模が大きくなるというのは、そういう事じゃ。新しい仕事が創出されて、人手が必要になる。

 金が動けば人が動き、人が動けば物も流れる。これが循環して世の中が回るわけじゃな」


 僕の何気ない質問にGさんが答えてくれた。経済、僕が今まで考えたことのない視点だ。

 確かに僕もお金で動いている。宿に泊まり食事をするのに金は必要だし、多くの冒険者は金を求めて仕事を受けるわけだし。


「そもそもお金って何なんでしょう?」


 僕は素朴に感じたことを口にする。


「かね、なぁ。そうじゃのう、世の中を回す潤滑剤と言ったところかのう」


 少し意外な答えが返ってきた。潤滑剤?


「潤滑剤って、どういう意味です?」


「昔は物々交換で品物を手に入れておったじゃろうよ。ドロウたちのようにな。

 じゃが、価値があまりにも違うものを交換しようとすると、問題が起きる。麦を一袋欲しいが、交換できるものは牛しかない。

 欲しいが、割が合わない場合、交換は成立せんじゃろ?

 貨幣があれば、そういう部分を穴埋めできる。牛1頭が金貨10枚の価値、麦1袋が金貨1枚と決められていたとすれば、

 牛1頭の対価として麦1袋に金貨9枚という取引が成り立つし、何なら牛を金貨10枚で売ってから、金貨一枚で麦を買えばよい。

 ものを動かし、取引を円滑にするために必要な潤滑剤、といったところなわけじゃ」


「でも、それってお金の価値を保障する人が必要ですよね?」


「昔はそれぞれの国が。今は主にギュンターテクニカがそれを担っておるわけじゃ。

 先の大戦でも、ギュンターのおかげで国が一つ二つ滅んだところで、経済が狂うことなく回ったわけじゃよ。

 奴らは多くの地域の人から資産を預かることで、金を回しておる。だから価値が安定するんじゃよ。

 広く浸透しているが故に影響力も大きい。じゃが、その影響力を誇示せぬようにしておるのが奴らの賢明なところじゃな。

 誰もが金の価値を信用しておる。じゃが、それは誰もがギュンターを信用しておるということと同義なのじゃよ。

 ところが、多くの人がギュンターの実像を知らなかったりするわけじゃ」


「ギュンターがなくなったりしたら大変なことになりません?」


「大変なことになるのう。じゃからこそ、大きな影響力を誇示せず行使する。だからこそ、なくなりはせぬ。

 今となっては政治は経済抜きでは成り立たん。言い方を替えればギュンターがなければ今の世界が成り立たない、ということじゃよ」


 謎かけのようだけど、何となくわかった気がする。


「なるほど、潤滑剤。そして同時に接着剤でもあるわけですね」


「ほう、察しが良いの。まさしくその通りじゃよ」


 ギュンターの存在で経済が国に依らず回るものになっている。だからギュンターをなくすわけにはいかない。そこには国や人種を超えた思惑が働く。

 国の規模が小さく、自給自足できるのであればギュンターはなくても良いが、巨大都市を抱えるような今の国の形だと依存せざるを得ない。

 動かす物の単位が大きく、さらには運ぶための物流の問題も出てくる。それが経済の本質でもある訳だ。


「テクニカって存在の本質が、少しだけ見えた気がします」


「ふむ。いまや政治、王侯貴族はその存在意義を失いつつある。政治に携わるものが、おぬしくらい賢明であれば世の中もまた違うものになっていたかもしれんな」


「仮に知っていたからといってどうかなる話でもないと思いますけど」


「知らぬより、理解できぬよりもはるかにマシじゃとわしは思うぞ」


 僕がよく知っている世界の、全く知らない側面。こういうことがまだまだ沢山あるんだろうと思う。

 それを知ってどうする、と思わないでもないが、もし何かを守りたいと思うのであれば、知っていた方がいいに決まっている。

 知らないから何もできなかった、それは結果に対しての言い訳にはならない。


 そのあとGさんと暫く魔法の話で盛り上がった。

 秘術魔法(アーケインマジック)神秘の力(ディヴァインマジック)の差、魔法使い(ウィザード)精霊術師(ソーサラー)との違いも理解できたと思う。

 余談だが、ウィザードとソーサラーは使う呪文の種類が同じであるが、ウィザードは自分の呪文の書(スペルブック)から魔法を朝のうちに準備することで呪文を行使する。準備さえできるのであれば自分のスペルブックにあるすべての呪文を使える。魔法を知識として理解しているから出来るのだそうだ。一方ソーサラーは先天的に魔法の素質に恵まれていて、理解ではなく、感覚で魔法を使うらしい。呪文の書は持たず、自分の中に構築されている魔法を行使する。準備する必要が無く、歩くのと同じように魔法が使えるため、呪文の行使が早いのだ特徴だそうだ。一方で臨機応変に魔法を使い分けることが出来ないのが弱点だ。

 バードの魔法はソーサラーに近いものらしい。


 知識を少しずつ増やすことで、この世界に対する理解が少し深まる気がする。そしてそこから想像の翼を広げれば、より遠くにある知識が見えるかもしれない。

 コマリを交えて日暮れまでこんな話をしていた。

 知らないこと、不思議なことが世の中にはまだまだたくさんある。

 Gさんの知識量に驚かされると同時に僕がいかに世界を知らないかを実感する。

 そうしているうちに日が暮れ、船はラストチャンスの港に入った。


 港に着いて船を降りると、意外な人物が僕たちを待っていた。

 ローズさんだ。


「お久しぶりです、どうしてここに?」


 僕の問いにローズさんは全然関係ないことを話し始める。


「花の甘い匂い、ですか。男のくせにいやらしい」


 え?僕は自分の匂いを嗅いでみるが、そんな匂いはしない。

 そのしぐさを見ていたのかいなかったのかは分からないが、ローズさんは続けた。


「族長からのご命令で、ロリコンから娘を護衛せよと言いつかりましたので、ここで待っていた次第です」


 ああ、ラッシャキンがローズさんを呼んでくれたんだ。戦力としてこれ程心強い人はいない。

 でも、これは少し誤解の生じている雰囲気だ。

 それを察してくれたロアンがローズさんに話しかける。


「まあ、それは族長の冗談だと思って問題ないんじゃない?それよりローズは今まで何してたの?」


「このところ街道の警備部隊の指揮を取っていました。集落から20名ほど警備のために雇われていまして、その統括を言いつかっておりました」


 なるほど、輸送部隊の警備兼ガイド役か。セーブポイントに街を作るってことだから、当然物資の運搬はかなりの量があるのだろう。

 現金を手っ取り早く稼ぐ方法だと思う。


「街道の安全は確保されているのか?」


 レイアが訪ねた。


「ええ、概ね。たまに魔獣の類が出ることはありますが、以前に比べて格段に安全になったとおっしゃってますよ。

 ただ、出る魔獣に一貫性がないので、当たり外れはあるようです」


「とりあえず宿に入って夕食でも取りましょうよ」


 僕が声をかけるとローズさんの視線がまだ冷たかった。

 宿に入り宿の親父に久しぶりと声をかけてから、部屋を確保。8人部屋を貸し切りで使ってくれと言ってくれた。

 それから食事を取りながら、ここまでの話をローズさんにする。

 彼女はこの件について何も知らないはずだ。

 一通り話し終えると、ローズさんの表情は少し神妙だった。


「殊の外、事態は深刻なのですね。できればコマリ様には関わらずにいただきたいですが、そうもいかないのでしょう。

 アレン様のお力になれるように努力いたします」


 ローズさんの改まった言い様に僕はすこし腰が引ける思いだったので、


「ありがとうございますローズさん、ですがアレン様は止めてくださいませんか?」


「コマリ様の主人となられる方で、元族長です。私からすればアレン様と呼ぶ以外は思い浮かびません。ああ、でしたらロリコンとお呼びしても?」


「どうしてそうなるんですか?ロリコンは誤解というか、事実無根です!普通に名前で呼んでくれればいいんですよ。敬称とかいりません」


「でしたら、私をさん付けで呼ぶのはやめてもらって良いでしょうか?」


「了解です、ローズ。これからもよろしくお願いします」


「分かりましたアレン。あなたのパーティに合流します」


 ひとまず落ち着いた。

 続いて、教会の移転と僕の今後の立場に関しての話をする。これはみんなにもまだ話してなかったから。

 説明が終わると、今度はみなが神妙な顔になった。


「つまり今後はディープフロスト司教猊下、と呼んだ方がいいのか?」


 レイアがまず先陣を切ってきた。


「いや、あくまでも形式上の話ですから。呼び方なんて変えなくていいんですよ」


「まあ、そう言うだろうと思ってたよ。俺は猊下なんて絶対に呼ぶつもりはないけどな」


 だったら、わざわざ言わなくてもいいだろうに。レイアは僕をいじり倒すつもりらしい。


「しかし、司教も考えたな。あ、レンブラント司教の話じゃ。

 彼にも思惑はあるだろうが、元・月影の司教は何かと複雑じゃろうし、天上神(セレスティアン)教会も外郭教会の人事であれば表立って口出しも出来ん。

 かといって教会としても無下にも出来んじゃろうし」


「ご本人もそう言っておられましたよ。それに世界のためにも奴のためにも、奴の旅を終わらせたいと」


月影(ビショップ)(オブザ)ビショップ(ムーンライト)、なんかかっこいいね」


 ロアンの言葉にザックも頷いている。


「響きはかっこいいですけど、前任者の事を考えると、素直には喜べませんね。

 それに、司教なんて肩書き、僕には重すぎますよ」


「自ら名乗る訳じゃないし、そう呼ばれるだけだからいいんじゃない?」


 ロアンの軽いノリは彼女らしいと思う。僕もそれくらい軽く思えれば良いのだろうけど。


「とりあえず、報告は以上です。皆さんも何かあれば今のうちに共有しておきましょう」


 僕はみんなの発言を促す。するとローズが手を上げる。


「ローズさ……あ、いや、ローズ、何かあるんですか?」


「大したことではありませんが、セーブポイントの状況についてです。

 入植も始まっており200人規模の集落になっていて、ちょっとした城塞と言った感じです。

 まだラストチャンス程ではありませんが。以前に比べれば設備も充実しています。

 あと、司教の指示で墳墓の調査も始まっています。

 まだそれほど進んでいないようですね。それなりの数の屍人が巣くっているようですから」


「以前に比べて駐屯している戦力も増えている感じですか?」


「戦力の詳細は分かりませんが、警備の人員は増やしているようですから、それなりには増えていると思います」


 墳墓の調査を行うための前線基地、ではなくなっている様だ。本格的に自治区を築くつもりなんだろうか?

 ギヴェオン司教……いや、聖炎(ホーリーフレイム)の目論見が少し見えない感じだ。内陸への中継点として発展はするだろうが。


「ありがとうございます。これから行くわけですし、実際に見てみましょう」


 報告会を終え、密林の港町の夜は、波音とともに静かに更けていく。





 

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