63:4冊の本 ≪ザソース≫
25/02/22 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。
25/04/22 ターニングアンデッドの漢字表記を変更しました
25/04/24 一部表記を修正しました。
真っ白な光の中に僕は浮いているような感じだ。
この感覚は聖炎の神が降りたときに感じたものと似ている。
でも、今回は明確に自分と世界との境界を感じることができている。そのうえで意識が何かと触れている感じがする。とても大きな力と。
-答えを求む者よ、汝の問いを述べよ-
声ともイメージとも識別できない、声か意識なのか思考か。頭の中に声が響いた。
女性的でもあるがどちらかというと男性的な声に感じる。
僕は質問を行う。悠長に構えている時間はないはずだから。
重要な質問から始めて、僕に関する質問は最後に回すつもりでいたので、それに従い質問を始める。
「今回の本にまつわる事件にオースティン・ヘイワードは関与していますか?」
-然り-
正直に言って動揺はした。だが、今は用意した質問の答えを頂かなくてはならない。
淡々と質問を続ける。
「ロアンという探索者が私たちのパーティを去るか悩んでいます。彼女はパーティーから抜けるべきですか?」
-定かならず。去れば得る機会を失い、残れば失うものがある-
「ザックという名のレーヴァは人として生き、人としての生を全うできるでしょうか?」
-定かならず。だが望めば全うするであろう-
「レイアという名の戦士が、彼女の秘めたる心願を成就できますでしょうか?」
-定かならず。ただし、他の者がそれを同じく望めば、成就する-
「私とコマリの婚姻を月の神様は祝福してくださるでしょうか?」
-然り-
「私が太陽剣を所持し使う事を、月の神様はお許しくださいますか?」
-定かならず。その在り様を汝自ら問え-
最後に皆に告げてはいない質問をする。
「月の神様は私を愛してくださいますか?」
その質問を発した途端、周囲に感じていた神威がより強くなり、軽い眩暈を覚える。
何が起こっているかわからない。周囲の白い空間が集まり始め、光が去った場所が闇に埋められていく。
僕は正気を失いかけたが、集中を継続できるように冷静を保つ努力を続ける。
目の前に集まった光が、人の姿に感じられる。
光が余りに強く、その輪郭を見ることは叶わなかったが、間違いなく人に近いシルエットだ。
-汝が我が信徒であればそは然り。
汝が欲するは分をわきまえぬ愚行なり。
されど真に望むのであれば、道をたがわず進め。
その時そなたは月にも手が届くであろう-
直前まで聞いていた声とは異なり、女性の声に聞こえた。
「ありがとうございます。肝に銘じます」
僕は精一杯その声に答えたつもりだ。
その瞬間、神威は遠のき、土壁の前で僕は跪いていた。
「終わったようじゃの」
Gさんが声をかけてくる。
僕は我に返ったが、かなり強い疲労感と虚脱感が襲ってくる。
かなり消耗したようだ。これは頻繁には使えない奇跡だと感じる。
少しふらつきながら椅子に戻り、カップの豆茶を飲んだ。
「とりあえず伺ってきました」
それから、個人的な4つの質問をそれぞれに伝える。
コマリはシンプルに喜び、ロアンは、少し考え込んだ。
レイアは、深く考えているように見え、ザックは…表情は分からない。
ザックに関しては、僕は少し思い当たる節がある。おそらくだが、彼が口にする人間として、という定義が、彼の中においても曖昧なのではないかと思う。
彼が望めば叶う、というのは、おそらくだけど、もっと人と、そしてレーヴァとしての自分を知りなさい、というメッセージだったのではないだろうか。
これは今はザックには伝えない。彼は今、言葉から何を受け取るのかを問われているはずだから。
「あと、太陽剣に関しては、ダメとは言われませんでしたが、『在り様を自ら問え』と言われました。
僕自身はこの剣を振るう事に少し違和感を感じてはいたので、僕はこの剣は使わないことにしようと思います」
「それだけ強力なのにか?」
僕の発言にレイアが疑問を呈した。
「確かに強力です。悪魔を滅ぼすような力を持っているわけですし。
ただ、その僕には強力過ぎるのです。威力とか力がとか直接的な意味ではなくて、何と言えば良いか…そう、在り様が。
この剣はあまりにも苛烈なのです。まさに太陽の光のように。そういう意味で、これは僕が手にすべき武器ではないと思います。
レイア、使いませんか?」
「いや、俺も太陽ってガラじゃねえしな。お前の言いたいことは理解できるよ」
レイアはあっさりと引き下がった。彼女も武器へのこだわりが強いと感じている。盾を使うために長剣を装備した際も、普段使いの両手刀は背中に背負っていたくらいだし、第2選択として、使っても良いだろうとは思うのだけども。
「使わないんだったら、売っちゃう?かなりいい金額で売れるはずだしさ」
「そうは思うんですけど、これを受け取った経緯を考えるとオークションに出すって言うのも、違う気がしてて…」
ロアンの提案をやんわりと拒否してから、僕が思っていることを口にする。
「古代エルフの遺物ですし、これを役立ててくれそうな人に譲ろうかと思うんですよ」
僕の言葉にGさんが頷く。
「なるほど。聖炎のハーフエルフの聖戦士か。レーベン卿と言ったかの」
「はい、僕が真っ先に思ったのは彼です。まあ、僕も貧乏ですし、お金にもなって、彼もこの上ない武器が手に入る。そしてこの剣も正しく使われることでしょうし、いい落としどころかな、と」
「譲渡金額をどれくらいにみておる?」
「普通の高級品の値段くらい、金貨10万枚くらいなら、十分バーゲンプライスだと思いますが、どうでしょう?」
「確かにバーゲンプライスじゃな。問題は、あのパラディンが、それほど金を持っておるかな?」
清貧を絵にかいたような人たちだから、確かにその金額を持っていない可能性はあると思う。
「そうですね、その場合は仕方ないからあげちゃっても良いかなって思うんですが」
「それは賛成できないね。アレンちゃんの資産が目減りする一方じゃん?」
ロアンがここで再び異を唱える。
「わしもロアンに賛成じゃな。価値あるものはそれに相応しい取引をするもんじゃ。バーゲンプライスを提示してそれも払えんとなれば、それが正しい行いとは言えんと思うぞ」
Gさんも反対のようだ。正直困った。
「出せそうな人、例えばケイトリンさんとか、行政官殿とかに売るのも少し違う気がしますし」
「ケイトリンに売るなら、金貨300万枚で売れ」
Gさん、ケイトさんにはずいぶん当たりが強いな。
「とりあえず、これは使いませんが一応僕が預かる形で持っておきます。すぐにエウリシュアと会う予定もありませんし、一応そういう方向で考えている、という事だけご了承ください」
半ば強引に話を締めて、本題にかかる。
「で、一番の問題である今回の件に闇の司教が関わっているかと言う点についてですが、神は然りとお答えになりました。
首謀者かどうかは分かりませんが、裏にオースティン・ヘイワードがいるのは間違いないと思います」
「闇の司教か」
レイアが呟く。
「まあ、想定された事態、と言えばその通りじゃが。大物じゃし、直接対決になるのかのう」
「放置はできませんし、見逃すこともできません。僕個人としても彼に正しく制裁を与えるべきだと思います」
Gさんの言葉に、僕は言葉を重ねる。
奴は月の神に対する背信者だ。それだけなら目を瞑る事も出来るが、多くの命を奪っている。情状を酌む余地はない。
「とりあえず、それは置いておいてじゃな。この本が一体何なのか、気にならんか?」
Gさんが意味ありげに言う。これは、呪文の効果が現れ、情報が得られたという意味だろう。
「さっそく聞かせてよ、気になるからね」
ロアンがGさんをせっつく。
促されてGさんは話を始めた。
「この本は全部で4冊あり、それぞれ、生の書、死の書、天の書、地の書、と呼ばれるものらしい。
ここにあるのは生と死の2冊。
かつての巨人族が作ったものらしく、ここにあるのは人の持てるサイズだが、作られた時は巨人が手にするサイズだったようじゃ。
魔法によって手にしたものに適したサイズに調整されるらしい。
でじゃ、これが何なのかと言うと、古代の巨人族が魔法を作り出す際に用いられた、原典、らしい。
この4冊の本から得られる知識で、この大陸を破滅させるほどの大魔法を作り出したようじゃ。
それぞれ単体でも、多くの知識が得られるらしい。
エルフは巨人族に対して反乱を起こす際に、生の書を手にし、ドロウたちは死の書を手に入れたらしい。
その知識をもとに作られたのが、レーヴァ、という事のようじゃ。
ここで語られたのは必ずしも真実とは限らんが、概ね正しいと見ていいじゃろう」
「それって他に2冊あって、どれか一つでも理解できたら、エライこと、ってことですよね?」
「そういうことじゃろうな。魔法を使えば読めるやもしれんが、内容が理解できるかはまた別問題じゃし、簡単にはいかんじゃろうが」
僕の疑問にGさんが答える。闇の司教はこの本のことを知っていて集めようとしていた。
「オースティン・ヘイワードは、すでにそのいずれか、もしくは両方を持っている可能性がある、ということでしょうか?」
「うむ。その可能性は高いじゃろう。そして大体はその場所を知っておる、ということじゃろうな。さらに言えば、より高位の呪文を使えれば、少なくとも黒い本の現在の場所を知る事が出来る、ということになる」
「黒い本の位置は分かる?白の方は分からない、ということですか?」
「物を探す呪文の多くは、実物を見て知っておる必要がある。白の方はそれを見た悪魔はもうおらんが、黒の方は一度持ち帰られておるし、見ての通り封印するための加工を施されておる。現場にわざわざ持ってきたのは、もしかすると本が他の本の場所を知らせるのかもしれんな」
だとすると、これを持っている限り、闇の司教の関係者に襲われる、ってことだ。
僕にはこの本が災いの種にしか見えない。なのでGさんに聞いてみる。
「この本が魔法使いから見て非常に貴重なものだという事は分かります。ですが、僕には災いの種に見えるのです。
破壊してしまった方が良いのではないですか?」
僕の言葉にGさんが少し考え込んだ。そしてゆっくりと答える。
「貴重と言えば間違いないが、過ぎたるは及ばざるがごとし。恐らくはわしらの手に余る代物であるのは事実じゃ。破壊するのが正しかろう」
Gさんの言葉を受けて、この場にいる皆に、確認を取る。
皆も賛成してくれた。
「ではまずは、破壊方法を探るかのう。これで分かればラッキーじゃな」
そう言ってからポケットから片眼鏡を取り出して目に付けると、呪文の詠唱を開始した。
いくつかの魔法文字を宙に描き、発動させる。
「魔力分析」
慎重にGさんはそれぞれの本を見ている様だ。
数秒観察した後に、分析の結果を教えてくれた。
「どちらもアイテムとしては解析不能。おそらくはアーティファクトに準ずるようじゃ。
黒の方は負のエネルギーの塊、白い方は正のエネルギーの塊、という感じじゃな。
特定の魔法でのみ破壊が可能なようで、黒の方は善の力を持つ攻撃魔法。あとこれは推測じゃが、死者の復活の呪文でも効果があるんではないかな。白の方は、死霊術の即死系呪文でなら破壊できるようじゃ。
で、黒の方のクリスタルのケースは、防御呪文が施されておるが、これは魔法解呪で破壊できそうじゃな。
とりあえず試してみるか」
言い終えるとGさんが再びルーンを描き、呪文を唱える。
「魔法解呪」
黒い装丁の本の周囲のクリスタルが、物理的に壊れた訳ではないが何かが弾けたように見えた。
「少し離れておれ」
そう言ってから宙にルーンを描いて呪文を唱えた。
「分解光線」
黒い本に直撃する。が、本は何ら損傷を受けなかった。
「ふむ。分解は出来なんだか。アレンよ、神告浄化を試してみてくれんか?」
僕は頷いてから、月の聖印を掲げる。
「不浄なる力に依りて有るものよ、退散せよ。神告浄化」
清浄なる神の力が一瞬の輝きを放つ。光を浴びた黒い本はゆっくりと崩れて灰になりながら消えて行く。
「上手く行ったようじゃの。次は白い方じゃが、アレン、もたらされる死の呪文は使えるか?」
「使えますが…個人的にはあまり使いたくありません」
「ああ、そうじゃったか。ワシは今日は死神の指先の呪文は用意しておらんかったからの、すまん。
取り急ぎ破壊したかったのは追跡される可能性の高い黒の方じゃったから、白は明日で良いか」
そう言ってGさんは白い本を手に取って、宝箱にしまおうとする。
「あ、Gさん、今のうちに破壊してしまいましょう。大丈夫、お許しはいただけますから」
そう言ってGさんの手を止め、今一度机の上に本を戻してもらう。
「で、申し訳ないんですが、触媒が今無いので、Gさんがお持ちのものを貸していただけませんか?」
「ああ、ああ、そうじゃった。そなたが使うのは死者の復活の反転魔法じゃったのう。必要なマテリアルは何じゃ?」
「金貨5000枚相当のダイヤモンドです」
「金食い虫な呪文じゃな。まあ、人の命と考えれば安いものか。ほれ。これを使え」
Gさんがポケットからダイヤを一粒投げてくれた。僕は受け取ってから、
「後程お返ししますので、しばらく貸しておいてください」
と言ったが、
「それくらいはくれてやるわ」
と言ってくれる。正直お金の無い僕にはありがたい。
「では始めますね」
僕は神様ごめんなさい。悪しき行いをお許しください。と祈ってから、月の聖印を逆に描く。
いくつかの短い祈りの詞を唱えてから、奇跡を行使する。
「もたらされる死」
神力が聖印を遡り、負のエネルギーとなって僕の手から白い本に放たれる。
少し間を置いてから、ゆっくりと本が塵と化していく。
「長い時間が経っておるからの。魔力が途絶えればあっという間に塵と化すか」
こうして手元にあった2冊の本は永遠に失われた。
僕はこれが正しい行いであると確信している。
だけどもう一度月の神に祈った。
ごめんなさい。でもこれは必要な事だと思いますので、大目に見てください。
月の神様は何も答えない。
今週の更新はここまでになります。
お楽しみいただけたのであれば幸いです。
皆様からのご意見、ご感想が寄せられます事を楽しみにしております。




