61:後始末 ≪クリーニングアップ≫
25/02/22 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。
25/04/22 ターニングアンデッドの漢字表記を変更しました
就寝時間を迎え静かになった教会に突然不穏な空気が溢れた。
当直に当たっていた司祭は異変に気がついて、司教に声をかけた。
司教も異変には気づいており、私室から執務室に移動したところだった。
不穏な空気が地下から来ていることを感じたので、当直であった司祭に地下の確認を命じ、司教は宿舎に皆を起こすために向かった。
まだ眠りについている者はおらず、手早く身支度を整えさせて、年若い見習い達は一人の司祭が直接外に連れ出し、ある程度の技術のある見習いはもう一人の司祭と共に、礼拝堂に向かった。
地下を見に行った司祭が戻ってこないので、司教は自ら地下に向かった。司祭と見習いたちはそのまま礼拝堂に残った。
墓所にたどり着き、辺りを見ると部屋の中央に司教が遣わした司祭が倒れていて、そこに駆け寄ろうとした瞬間、突然足元が崩れ、落下した。
落ちた時に気を失ったらしいが、気がつくと、地面に横たわっており、立ち上がったところ、屍鬼と思われる屍人が見えたので神告浄化の力を行使した途端、背後からものすごい力で両手をつかまれ、左腕、そして右腕と引きちぎられたそうだ。
そして意識を取り戻したときには、我々がいた。
要約するとこういうことらしい。
「これが角の悪魔だとすると、こいつが首謀者、という線は消えましたね」
目の前で悪魔の死体が消えていく。
そこに残っていた魔力が完全に尽きたため、元の住処に戻されたのだろう。
「僕も詳しい訳じゃありませんが、悪魔の中では中堅やや下、ってイメージですかね。もちろん知性は人間以上に高いですが、どちらかと言えば荒事専門の悪魔です。何かものを集めて悪だくみをするようなキャラじゃありませんから」
「で、レンブラント司教。貴殿は教会の地下にこのような場所があることはご存じじゃったのかな?」
Gさんが司教に尋ねた。
「もちろん知りません。この地に最初の教会が建てられたのは、今から180年ほど前のことと聞いております。現在の教会が建てられたのは20年ほど前で、その際に地下の墳墓も用意されたと聞いております。墳墓はまだ使われたことはありませんが」
つまり、入り口も知らないわけだ。
「となると、今回の襲撃にはもう一人魔法使い、そこそこ仕事のできるレベルのものがおったんじゃろう。
幸いここはストームポートの北の端で、教会裏はすぐに城壁になっておる。
正確な場所を認識できんとこの大陸で瞬間移動の魔法は使えんが、だいたいの場所と位置が分かっておればこの距離なら次元扉の呪文が使えよう。2、3度やれば城壁の外側から侵入も可能じゃろうて」
「侵入経路が出来てしまえば、下級悪魔をここで呼び出して、下から分解光線で穴をあけることも可能ですね」
「そうじゃな。それに、ちょうどよい所に聖職者がおったので、結界を解く能力を使わせたわけじゃ。恐らくは正のエネルギーの類が防御壁を解除するのに必要じゃったんじゃないか?先に様子を見に来た司祭は…おそらくワイトにされたんじゃろうな。そこで魔術師は仕事を終え、ドアを通って外に出てから痕跡を消した。
後は悪魔が本を手に入れて、空から脱出、そんな計画じゃったんじゃろ」
前回最初の本が持ち去られた際の様子がよみがえる。滅ぶ覚悟でリッチが結界に入り力づくで本を取り出した様子を。
「まあ、ここに来て聖職者を確保することは考えておったんじゃないか」
「そうですね。あとは本を調べてみると何かわかるかもしれませんね」
「その手の呪文は用意しておらんので、明日以降じゃな」
「外はもう落ち着いたのかな。少し心配だよね」
ロアンが不安げに言う。ここですることはもうない。早々にここを出て、外の状況を確認すべきだ。
「そうですね、急いで戻りましょう」
その言葉に、Gさんが『待った』をかける。
「済まんが大急ぎで戻るのは無理じゃ。今日は飛行の呪文は1つしか用意しておらん。スクロールも一枚くらいは持っておると思うが、人数分は絶対にない」
そこで、脱出手順は次のとおり。
1.レイアに飛行の呪文をかける。
2.レイアが近くで集められるだけの飛行の巻物を確保する。
3.巻物が無い場合はできるだけ長いロープをレイアが用意する。
4.レイアが巻物を運び下に落とす。
5.巻物が足りない場合はレイアがロープを下ろす。
6.巻物の枚数分だけGさんが飛行の呪文をかける。ただし、レンブラント神父は自力で昇る事は不可能なので、最優先でかける。
7.残りは一人ずつ順番に上る。
ここから天井までは40メートルくらいか、さらにそこから穴が20メートル。ロープを登るだけでも、かなりきつそうだ。
最悪の場合はロープで体を縛って、上に引き上げてもらわないとダメかもしれない。レイアに。
「なんか手順を見ると、全部俺がやれってことだよな?」
「と言う訳で、ゴメン、体力的にレイア以外には無理だから、よろしく」
Gさんが飛行の呪文をレイアにかけた。
レイアは真っすぐ上昇していき、姿が見えなくなった。
Gさんは荷物を確認して飛行の巻物を1枚見つけた。
あ、そうか、もっとシンプルな方法があったじゃん。
「ああ、レイアにエレベータになってもらえばずっと早かったですよね」
気づくのが遅かった。
レイアが戻ってきてロープを垂らす。確保できたスクロールは2枚で、あとはロープで、と上からレイアが叫んだ。
僕はロープを伝ってレイアに一度降りてきてもらい、スクロールをGさんとコマリに一枚ずつ渡してもらうと、Gさんの持っていた飛行の巻物でレイアに抱えて上がってもらう事をお願いした。
数分後には全員が外に出ていたが、最後に僕ひとり、ロープにつるされて、鉄の監視団のレーヴァ達に引き上げられることとなった。
『早く気づけよ、馬鹿』とレイアに小突かれたあと、吊るされたのは、言うまでもない。
僕が地上に戻った時には、襲撃騒ぎは完全に収まっていて平穏を取り戻していた。
下級悪魔の数もそう多くはなく、被害自体は出なかったようだ。先に脱出した見習いグループも無事。
唯一犠牲になったのが、最初に地下を見に行った司祭ということになる。
彼も場合によっては蘇生できたかもしれなかったが、アンデッドにされてしまった時点で、僕の能力では蘇生できない。
特に治療できることもなく、とりあえず寝て明日に備えようか、と話になった際に、レンブラント司教から呼び止められる。
「アレン、済まないが巻物を読んでもらえないか?」
レンブラント司教が司祭に行って巻物を持ってきた。
再生の巻物のようだ。
「現状僕では失敗する可能性があります。司教が自ら読まれた方が良いのではないですか?」
「私が読むとなると、自らに巻物が向けられない。つまり自分に発動させることができないのだよ」
いわれてみれば、確かにそうだ。
「では読ませていただきますが、私はまだ能力が足りておりませんので失敗した際にはご容赦ください」
そう告げてから巻物を開いて読み上げる。
言葉が宙に舞い巻物に魔力が満ちてくる。
発動面を司教に向けてから、奇跡の行使を宣言した。
巻物から文字が光の渦と化しながらレンブラント司教に流れて行く。
どうやら成功したようだ。
輝きが収まると、彼の肩のあたりからゆっくりと腕が伸び始める。
30秒ほどで、両腕がきれいに再生した。
「上手く行って良かった。それでは今宵はこの辺で失礼します」
司教と握手を交わして、我々は宿に戻った。
正直短時間での強敵との連戦は精神的にも疲れる。
でもまあ、前回の仮を返せたと思えるのは少しスッキリ感がある。
翌日になり、ザックの石化が解け、犠牲になっていたシティガードも<死者の復活>に成功した。
今回、蘇生を2回行ったが、その呪文を行使するために宝石類が金貨1万枚相当が消費された。これは完全に僕の持ち出し。
簡単に蘇生できない理由がここにある。
魔法で死を克服できるのは本当。でも、誰もがその恩恵に預かれないのが現実だ。
今の僕の能力で一日に2人蘇生できるとしても、毎日金貨1万枚なんてとても稼げない。つまりボランティアは成立しない。
あらゆる意味で、魔法は万能ではない。
そして、人助けも『助けたい』という理由だけでは成り立たない現実を、別の角度から実感した。
コマリ、ごめん。預かってるコマリの分のお金も、少し使わせてもらっています。
黙っているわけにはいかないので、コマリにはちゃんと謝る。
「アレン様、大丈夫ですよ。お金が必要なら、私が稼ぎますから」
コマリはそう言ってくれるけど、僕にも立場というものがある。
少しでも早く補填しなければ。
僕の立場が……ない。




