59:奇襲×奇襲 ≪サプライズ≫
25/02/22 誤字脱字の訂正、および表現の一部変更を行いました。
僕は教会を後にして、まずはコマリを迎えに行く。
僕にとっては衝撃的な事実だったが、冷静に考えれば赤の他人だし、なんの思い入れもない。
レンブラント司教の感情に少し引っ張られた感があるものの、僕の中では悩む要素はない。
神父様――ヘイワード神父には確かにお世話になったと思うし、今でも彼に対する感情は変わらない。
そして闇司教に対しても僕の感情は変わらない。彼は一線を越えてしまった。許されるべき相手ではない。
少し足早にドロウの集落に着くと、パーティの全員がそこでのんびりと農村の風景を眺めていた。
「皆さんお揃いでどうしたんですか?」
僕の問いかけにロアンが答える。
「いい天気だしすることもないし、なんかお昼寝日和だよね」
質問の答えにはなっていないけど、そういうことなのだろう。
「いま教会に行ってきたんですが、闇司教に関する情報が少しありました。まあ大勢に影響はありませんが」
そう言ってから、かいつまんで闇司教とレンブラント司教の関係、僕と闇司教との関係に関して話をする。
「いや、それって義兄弟ってことだろ?」
レイアは驚きの表情を隠さない。
そんなに驚くこともないと思うけど、そもそも義兄弟ではないんだから。
「義兄弟に近いかもしれませんけど、血も繋がっていなければ、面識もない。おまけに僕は養子ではなかったので義兄弟でもありませんよ。
つまりは赤の他人です。まあ師が同じと言えばその通りですけど」
「にしても、何と言うか因縁めいたものは感じるのう」
レイアの視線が少し痛く感じた。ちゃんと確認しなかったのだが、驚き以外の感情がたぶんあったと思う。
Gさんの言う通り、因縁めいたものを感じないわけではないし、レイアの反応はその類のものだろう。
「なあ、爺さん。俺たちはあの悪魔に勝てるかな」
レイアがGさんに尋ねる。この間の悪魔のことだろう。
「どうじゃろうな。簡単に負けるとは思わんし、かと言って勝てるかどうかはわからん。敵が単体とも限らんしな。状況次第じゃろう」
「根拠はないんだが、俺たちはあれと戦うことになるんじゃないかって思うんだよ」
「奇遇じゃのう。わしも同じことを考えとる」
「少しでも力を上積みしてえな」
「そうじゃのう」
ロアンとコマリは何か甘いものの話題で盛り上がっている横で、Gさんとレイアの会話。
どちらも僕たちの生きる世界の話なのに、対極にあるように思える。
その脇に座っているザックが何を考えているのか、僕にはわからない。こういう時に聞いてみても良いのだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながら、僕はレイアに言った。
「少しでも稼がないとですね。早めに次の仕事を決めましょうか」
「そうだな」
レイアは頷いた。
「とりあえず、なんかするか」
レイアは立ち上がり、シティの方に向かって歩き始めた。
掲示板のチェックでもするのかな。
僕はその後ろ姿を見送りながら、もう少しだけお昼寝日和を楽しむつもりだったが、ロアンとコマリに引きずられるように居酒屋フェニックスに拉致された。
その日の夕刻、次の目的地についての話し合いが行われる。
候補に挙がっているのは二つ。
一つはストームポート北方の荒地に最近住み着いた丘の巨人族の掃討。
もう一つはジャングルの奥地にある遺跡の目撃情報に基づく捜索。
「確実に金になるのは北だよね」
ロアンが料理を口に入れたままで言う。
「南はロマン枠、というところか。時間も読めんし、当たれば大きいかもしれんが」
これはGさんの意見。
「僕としては粗暴とは言え知性のある巨人族をこちらから攻め込んで掃討っていうのはちょっと」
これは僕の意見。
「リーダーの意見を尊重すればジャングル一択になるが。そうでなければ他を当たってみるか?」
これはレイアの言。
「お代わりならパンケーキが食べたい」
これはコマリの言。
「食べるという経験をしてみたいものです」
これはザックの言だ。
一通り意見が出そろったので、今日は決めないことに決定される。
明日、他の仕事や探索類がないか当たってみてから決めた方が良いだろう。
コマリはデザート代わりにパンケーキを堪能していた。
聖戦士などがこの光景を見たら憤慨するだろうと思うが、僕はこれで良いと思う。混沌としていて、何より自由だ。
食事も終わり、今日はここで解散となりかけた時にシティガードが一人、錆釘亭の扉を荒っぽく開けて駆け込んできた。
「冒険者諸氏、緊急事態につき助力を願いたい。ハーバー桟橋地区に多数の魔獣が出現し、商業地区との間で戦闘中。
繰り返し助力を請う。」
「行きましょう」
僕たちは席を立ち、ハーバーに向かう。
桟橋地区。スラムの住民の移転が完了していて幸いだ。住民がいたら真っ先に被害に遭っていただろう。
ゲートを抜け、坂道を駆け降りる。
Gさんが加速の呪文を唱え、僕らの移動速度は一気に上がる。
下り終わってから桟橋方面に向かうとこの地区のガード達が必死の防戦中だ。倉庫街に繋がる道の方も戦闘中のようである。
数に押されて劣勢気味だが、道幅の関係で数の優位性を生かしきれていない。ここで踏みとどまっているのは正しい判断だ。
防衛線が崩れれば、一気に商業地区になだれ込まれ、乱戦になる。
「コマリ、村に走って動ける戦士を動員してもらって」
僕はコマリに声をかける。彼女は頷くと商業地区の奥、ゲートの方に走っていった。
それから戦闘中のガードに対して奇跡を行使する。
「集団に対する軽傷の治癒」
シティガード達の傷が癒されていく、倒れていた数名も立ち上がり戦闘を継続し始める。
僕たちはガードの間に入って戦闘を開始する。敵はオークとゴブリンの混成部隊だ。
レイア、僕、ザックの3人でブロックを作り、シティーガードを少し後退させる。道幅の都合で3人では封鎖しきれないが僕たちの並ぶ線を越えた連中をガードに始末してもらう。言葉は悪いがガードは戦士としてはそれなりに訓練されてはいるものの、今の僕たちの能力と装備からすると、決して強いとは言えない。被害を減らすためにもこのフォーメーションは有効なはずだ。
オークは人間とほぼ同じくらいか、やや大きな体を持ち、蛮勇を誇る種族だ。かつては大陸の殆どを支配下に置く王国を築いていた時期もあるが、今はかなり数を減らし人間社会から離れたところで生活している。連中は知性もあるし共存の道もありそうなものだが、基本的に他種族を認めないオーク至上主義なので、トラブルは絶えない。どういう訳かエルフ(ドワーフもらしい)を特に敵視するので、僕としては関わりたくない奴らだ。
すぐに戦線は安定し、切り倒されて行く敵の数がぐっと増え、こちらの被害が少なくなる。
僕は少し二人よりも後ろに陣取って、中央を強行突破しようとする奴を盾で受け止める。それを両脇のレイアとザックが薙ぎ払い処分していく。
手には治療用の杖。周囲を見ながら必要なところに治療を施す。
僕たちは最前線で敵の中に半ば突出する形で戦い始めたが、すぐに僕たちの前に戦線が形成され、敵の残りは10ほど。勝負はついた。
そう思ったときにかなり前方の崖の壁面が派手に吹き飛ぶのを見る。スラムの事件で使った下水へのメンテナスホールのある辺り。
そこから球体が勢いよく飛び出してきた。
「レイア、ザック、一気に敵を抜けよう」
僕は二人に声をかけてから、腰から下げた太陽の剣を抜く。夜であっても周囲をほのかに照らす黄金の輝き。
残ったオークとゴブリンが一斉にこちらに気を取られる。レイアとザックは目の前の敵をそれぞれ切り伏せて、全力で前進を開始した。
僕も一歩遅れて彼らの後ろを走る。数体残った敵はシティガード達に何とかしてもらう。
いち早く、あの球体、観察者を片付けなければ、被害がどれだけ出るかわからない。
砂埃から姿を現したゲイザーは主眼を閉じた状態で、怪光線による攻撃を仕掛けてきた。
レイアに白い光線、おそらく石化光線。だがレイアは身をかわしながら接近を続ける。
緑がザックに当たる。彼は耐えたが、その場に膝をついた。
赤黒い光線が僕を狙ってくる。回避したつもりだが避け切れなかった。心臓を握りつぶされるような激しい痛み。だが死んではいない。
お返しとばかりに、素早く月の神の聖印を描き、奇跡の行使を行う。
「業火」
空中から奴にめがけて光と炎の渦巻く柱が発生する。
一撃くらいでは死んでくれない。
そこに膝をついた状態からザックが光の光線を放つ。額当ての焼けつく光だ。
観察者の体に当たる。相当なダメージを与えたはずだが、奴はまだ健在だ。
続いて後方から赤い光点が飛来して、奴のすぐ前で炎が四散する。
Gさんが後方から放った火球呪文のようだ。
だが、ゲイザーはまだ炎の中にあった。
不気味にニヤッと笑ったように見える。
すると奴は主眼を開いて、空を見上げた。
僕はそれが何を意図しての行動か、理解できなかったが、すぐに知ることになる。
上空から5体ほどのレーヴァが落ちてきて地面に叩きつけられた。
幸いみな生きている様だが、激しい肉体損傷。足から落ちたものは足が無惨に潰れ、肩から落ちたものは上半身がやはり半分ほど潰れていた。
背中から落ち、激しく地面から跳ね上がるもの。二人ほどは水に落ちた。
崖上のシティの城壁から、羽毛の降下の魔法を使って、直接戦場に到達しようとしていたのだろう。
だが、ゲイザーはその行動を見ていた。だから上に対して対魔法領域を向けた。
そしてそれはこちらに対して光線の攻撃が続くことを意味している。
触手の先の目玉から、次々と光線が放たれる。
ザックには白、レイアには赤黒、僕には緑。
ザックは再び光線を浴びた。彼は耐えようと懸命に耐えたのだろうと思うが、その場で石化してしまった。
レイアも光線をよけきれず、直撃する。彼女は耐えてなお前進を続ける。
そして緑の光線は僕を直撃した。体がバラバラになるほどの衝撃を感じる。僕は自分に言い聞かせる。耐えろ、耐えるんだ。
だが、その直後に意識を失った。
「コマリ?」
目の前にコマリの顔がアップで見える。泣いている?
そうだ、僕は…
「良かった、本当に良かった…」
泣きながら抱きついてくるコマリ。
ああ、僕は分解光線の直撃を受けたんだ。分解そのものは耐えたが、そのダメージに耐え切れず気を失った。
「不幸中の幸いじゃな。分解の作用は免れたが、戦闘不能になったんじゃよ。分解光線の呪文は分解されなかったとしても、そのダメージで死に至れば分解されてしまう」
Gさんの言っている意味が良くわからなかったが、分解はされずに済んだ、のは事実で運が良かったという事は理解した。
とりあえず、戦闘は終結しているようだ。
泣き続けるコマリをなだめながらGさんに状況を尋ねる。
「被害はどれくらい出ましたか?」
「鉄の監視団3名が重症。シティーガード2名が死亡。8名が重症。建物に損害は出ておらんし、市民の被害もない。
この規模の襲撃を受けたにしては損害は少ないと言えるじゃろう」
僕は杖で自分のダメージを回復させて、コマリと共に立ち上がる。石化したザックはそのままの状態だ。
レイアは周囲の警戒をしている。あれ、ロアンは?
「ロアンはどうしたんですか?一緒に来てましたよね?」
「心配は要らんよ。救護の手伝いをしておる。奴らが出てきた下水は鉄の監視団が捜索中じゃ」
僕は桟橋から商業地区に続く道沿いに作られた簡易の救護所に向かい、亡くなったシティーガードを確認する。
二人とも激しい刀傷がいくつも見えるが欠損している部位は無い。
これなら助けられる。
「この二人の遺体を上の詰め所まで運んでください。出来るだけ慎重に。
あと、桟橋で石像になってしまったザックを救護所に運んであげてください。放置しておくのは少し可哀そうなので」
そう言って近くにいたシティーガードにお願いして担架で坂道を登ってもらう。
「一人は詰所に、もう一人は礼拝所にお願いします」
僕は礼拝所の前に行き、目の前に担架を下ろしてもらう。
彼の亡骸の前に跪き、手を組んで祈りを捧げる。
今ここに神の御業により、失われた命の輝きを今一度取り戻すことを願い申し上げます。
失われた肉体と魂の絆を今一度繋ぐことをお許しください。
目を開き、宙に月の神の聖印を描いた後に、復活の聖句を宙に書き記してゆく。
「未だ彷徨える魂よ、自らの体を今一度見いだせ。そはいま、正しく繋ぎ直される」
宙に書き記した神秘の聖句は書き終わると淡い輝きを放ち始める。
準備はこれで整ったはずだ。
「囁く息吹、命の詠唱、祈りを神にささげ、この者の復活を願う」
死者の復活の奇跡の技が完成されて効果を発揮する。
宙に輝く聖句は一条の光に変わり天へと延び、そして消えた。
「ごほっ、ごほごほごほっ」
横たわるシティーガードが息を吹き返した。
奇跡の行使は成功だ。
僕は続けて聖印を切り、重症の治療の奇跡を行使する。
かざす手から放たれる神の力が、彼の体の傷を消し去ってゆく。
「お、俺は?」
シティーガードの声が聞こえる。彼は生き返りゆっくりと起き上がった。
彼を運んできた同僚たちが驚きと喜びを爆発させた。
「ロレンツ、良かった!ああ、神よあなたのお恵みに感謝いたします」
同僚と泣きながら抱き合う。ガード達。
僕はとりあえずホッと一息吐いてから、彼に告げた。
「とりあえずあなたに訪れた死は回避できましたが、全く代償無しとは行きません。
あなたは今まで持っていた力の一部を失っています。ですが、それはあなたが努力さえすれば取り戻せるでしょう。
もう一人の方は明日に復活の儀式を行います。さすがに何人もは生き返らせることは出来ませんから。詰所に安置して、死体が傷まないようにしてあげてください」
そう言い残して僕は救護所に戻る。
ああ、そうだった。蘇生用に用意していた宝石類がこれで尽きたはずだ。銀行に行って宝石でお金をおろしてこなきゃ。
そんなことを思いながら坂を下り終え、救護所に戻るとザックも運ばれてきていた。
そのころ、捜索中だった鉄の監視団から連絡が来た。
下水道内でポータルを確認、これを破壊。という事だ。
僕はかつて死霊術師が儀式を行おうとしていたトンネルの方も調べてもらうようにお願いする。
あの場所には何か意味があるんじゃないかと思っている。以前に見たストームポートの地図が頭に引っかかっているのだ。
とりあえず、治療も終わって一息入れられる。
蘇生の費用や消費した杖など、結構な赤字ではあるが、ハーバーマスターに掛け合えば補填はしてもらえるだろう。
そんなことを考えているとき、坂の上からシティーガードが駆け降りてきた。
「大変です。天上神教会が何者かの襲撃をうけています」
僕たちは顔を見合わせる。
ほぼ同時にストームポート市内の教会が襲撃を受けた。
恐らく誰も経験したことのない事態のはず。
「僕は教会に向かいます。お手伝いをお願いできますか?」
皆が声にこたえてくれる。
Gさんの呪文や僕の奇跡の残りが少ないことが少し気がかりだったが、放置できる事態ではない。
僕たちは急ぎ坂道を上った。




