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God Bless You !!  作者: 灰色狼
第二章 月影の司教
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58:運命の悪戯 ≪ディスティニー≫

25/02/22 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。



 報告の後、今回の報酬を受け取って当面のお金の心配はなくなった。

 あんまり贅沢は出来ないけども、お湯で体を流して、美味しいもの食べて、安全で安心な寝床を確保できる。いや、エルフは眠らないけど。

 まあ、こんなことを言えるのも、冒険者稼業だからではある。

 ごめんなさい神様。ちょっと自堕落過ぎました。

 前回から宿に泊まるときはコマリと相部屋である。部屋代はルームチャージなので二人で泊まっても料金は変わらないし、人間サイズのベッドだから僕とコマリの二人なら狭すぎるってこともないし。

 のんびり食事を取ってから、新エリアとドロウの集落に顔を出す。少しずつだけど街づくりは進んでいる。

 顔見知りたちに交じって知らない人も結構多い。坂道の脇の人たちも移り始めているようだ。

 前回来てからもう3週間近く経っているから、変わるのも当然かな。人間の町だし、今まさに作られているわけだし。

 礼拝所も無事に完成して、神像もこちらに移っていただいている。まずはお祈りに。

 するとエリーが掃除の真っ最中だった。久しぶりに彼女とも話をする。

 礼拝所の管理者としてちゃんと務めを果たしているようだ。なんでも天上神(セレスティアン)教会から時折神父が訪れているそうだ。

 隣の聖炎(ホーリーフレイム)の教会にも顔を出しているらしい。

 まあ、商売敵とかそういうのじゃないから、仲良くできるんだし、それで良いと思う。そう、その際にエリーも神学の勉強をしているそうで、いずれ正式に聖職者となる日が来るのかもしれない。人間って本当に成長が早いから。

 少しエリーとおしゃべりしてからドロウの集落へ向かおうとしたら、聖炎の神父に呼び止められた。

 司教から伝言を預かっていて、顔を出すように、とのことだった。

 それってセーブポイントまで来い、ということですか?と神父に聞いたら、


「レンブラント司教猊下ですよ」


 彼は笑ってそう告げた。

 あ、そうでした。本来であれば司教と言えばレンブラント司教を思い出すべきですよね。

 まあ、聖炎の司教様が色々と強烈だからこうなる。

 僕は神父に礼を言ってひとまずドロウの集落に行く。

 あんまり、教会には行きたくないんだよなあ。あの司教様、少し苦手だし。

 直々の呼び出しなので無視することもできないし。

 ということでコマリをドロウの集落に残し、教会に向かうことにする。


 足早にシティへ戻り、教会に向かう。

 教会の門をくぐり、近くにいた司祭に声をかけると、少々お待ちください、とのことだった。

 そこで待っているのも何なので、礼拝堂に向かい、それぞれの神像に短めに祈りを捧げていく。

 司教からすぐに声がかかるかもしれないので、今日は略式だ。

 8柱の神々に祈り終えた時に、先ほどの司祭に声を掛けられた。


「司教様がお待ちです、こちらに」


 以前にも案内された司教の執務室に通される。

 レンブラント司教は執務机で何か資料に目を通していたようだが、僕が部屋に入ると、笑顔で迎えてくれた。


「色々とお疲れの所をすまないね、掛けて楽にして」


 僕は勧められた椅子に腰かける。

 先ほどの司祭が戻ってきて、お茶を入れてくれた。


「君の活躍は聞いているよ。色々と大変だったみたいだね。おや、剣を替えたのかい。随分武人としての風格も出てきたようだね。

 君に来てもらったのは、いくつか聞きたいことがあるのと、年寄りの昔話に付き合ってほしいからなんだよ」


 武人の(くだり)はギヴェオン司教との関係を少々皮肉っているのだろうか?これは少し深読みし過ぎな気もする。

 彼の言葉を額面通りに取るならば、暇つぶしや茶飲み話、ということだが、そんなことは無いとも僕は思う。

 何かそれなりの意味がある事の為に呼ばれたんだろう。


「最初に、君の剣を見せて欲しいのだよ。今身に付けている剣ではなく、三日月刀の方だ。今お持ちかな?」


 僕は脇に置いてある荷物の中から三日月刀を取り出す。


「これの事でしょうか?」


「そうだ、その剣を見せて欲しい。手にとっても良いかね?」


「どうぞ」


 僕は司教に手渡す。別段特別というほどのこともないし、奪われるわけでもないだろうし。


「これは…少し珍しいものなんだよ。今では月の使徒でも三日月刀を使うものは多くないからね」


 そう言ってから鞘から抜き、刀身を少し眺めて鞘に戻す。月の聖印(みしるし)に軽く祈ってから、僕に返してくれた。


「ありがとう。まず君に聞きたいことの一つ目だ。

 オースティン・ヘイワードについてどれくらい知っているかね」


 僕は少し緊張した。

 この話題が司教から出ることを予想していなかったからだ。ギヴェオン司教の話だと信用しても大丈夫だとは思うが、それでも抵抗感はぬぐい切れない。

 少し考えた後に、


「彼が闇の司教と呼ばれて、独自の宗教集団を形成していると言われていること、そしてそれが決して褒められない集団であること。

 今、恐らくはこの大陸で何かを起こそうとしていること。街の統治者(シティ・ローズ)達も警戒はしているらしいこと。

 私が知るのはそのくらいです。今私が関わっている元スラム住人達とのかかわりも、闇の司教の配下が起こした事件がきっかけでしたので」


 僕の知る内容をほぼ正確に伝えた。

 彼が闇の司教と通じては居ないと仮定した場合、彼に情報を隠す理由はない。

 彼が仮に通じていたとしても、事実上何も掴んでいない事を示すだけであるから。

 目を閉じたまま僕の話を聞いていたレンブラント司教は頷くと、質問を続けた。


「先ほどの剣だが、あれはどこで手に入れたものかね?」


 なぜ剣にこだわるのだろう。

 彼の意図が少し見えないが、これも隠し立てするほどの事ではないと思う。


「あの剣は私が聖職者としてのイロハを教わった恩義ある神父様のものでした。ご高齢で、私がその教会でお世話になっているときに、形見として頂いたものです。神父様はその後すぐに亡くなられました。私が最初に弔いを行った方で、私の師と慕う方です」


 そうか、と彼は小さくつぶやく。

 わずかばかりの間を置いて司教はつづけた。


「君も知っているとは思うが、天上神(セレスティアン)教会で聖戦士(パラディン)となるのは太陽の神(ソロス)武勇の神(アルゴラン)裁きの神(アミューズ)、この3柱の信徒が圧倒的に多い。理由は簡単だ。属性の問題だよ。教会にパラディンと認められて教育が受けられるものは秩序にして善である必要があるからだ。だが、稀に他の信徒からパラディンとなるものが出ることもある。その稀な一人が、その剣の持ち主だったのだよ」


 あの方はパラディンだったのか。僕の知らない事実だ。でも、司教はそれをなぜ知っているのだろう。


「君の師に当たるその神父の名を覚えているかね?」


「私は当時まだ子供で、神父様とお呼びしていたので名前は…」


 昔の記憶をたどりながら言いかけて、思い出す。

 弔いを行った後に、石に刻んだ彼の名前。ヘイワード神父。

 そこで今の話が少し繋がる。僕はハッとなって立ち上がり、レンブラント司教に尋ねようとするが、手で制された。


「もう少し年寄りの昔話に付き合いなさい」


 彼は静かに言った。

 僕は椅子に座りなおし、お茶を一口含む。


「私が神学校に通っていたころ14の時の話だ。12歳で神学校に入ってきた子供がいたのだよ。私も当然子供だったが。

 その子は明らかに周囲と違っていた。今でも強く印象に残っている程にね。

 寄宿舎では上級生が下級生の面倒を見る、そんな訳で、私はその子と生活を共にすることになった。

 彼はその年齢からは考えられないほど、あらゆることが出来た。生活全般だけでなく、祈祷の技術も、剣技においても上級生はおろか教官をも凌ぐほどだった。

 彼は常々言っていたよ。

 ここは温く、無駄な時を過ごす場所だと。

 当時の私には彼が言っていることが理解できなかった。規律は厳しく、質素な生活を送っているのに、とね。

 そして1年になろうかという頃に彼は施設の管理者である司教にこう言ったのだ。

 自分は教会務めは行わない、野にあって人々を救う道を選びます。今より奉仕の為の旅に出ます。と。

 その時に見たのが、私が彼を見た最後だった。

 それから数年経って、私は田舎の教会に神父として派遣されていた。そこで初めて耳にしたのだよ。

 月影(ムーンライト)司教(ビショップ)の名前を。

 私はピンと来た。あの時の少年は今も野にあって人々の為に奉仕を続けているんだと思った。

 彼が君と同じ三日月の剣を持っていたのを、よく覚えていたからね。根拠はそれで十分だった。

 時には苛烈に悪を滅ぼし、時に慈悲深く村を疫病から救った。

 彼の活動に注目していたよ。彼の行いが羨ましくさえ思えた。

 だが、彼の名声が広まる一方で、彼の教会での立場は危ういものになっていった。

 彼は方々を旅してまわり、行く先々で人々を救った。それ自体は誰も咎める者ではないが、時に地方の領主と対立することがあったのだよ。

 私個人としては彼のその真っすぐな点を称賛したい思いもあったが、教会の立場などを政治的に考える人も少なくはない。

 そしてある日を境に月影の司教の噂話は途絶えた。

 そして少し後に今度は闇の司教、オースティン・ヘイワードという名を耳にすることになったのだよ。

 私は教会の記録を調べて、彼が元パラディンであるジェイソン・ヘイワードの養子となっていることを知った。

 この15年程の間、彼の消息は不明だ」


「オースティン・ヘイワード…僕と同じように育った人間の聖職者…」


 同じ師を持つ兄弟弟子、いや面識こそないけども義兄弟に近い人物。それが闇の司教。かつて月影の司教と呼ばれた人物。

 僕は愕然とするほかなかった。


「その事実を知った私の元に、かつての彼と同じ剣を持った聖職者が現れたのだ。私も驚いたよ。

 そして興味と疑いの目を持った。

 彼の手にしていた剣と同じものを持った聖職者、彼の手の者かとね」


「僕は闇の司教との面識はありませんし、彼が神父様の養子であることも知りませんでした」


 僕は体裁を整える余裕もなく、彼に訴える。


「それは私も疑ってはいないよ。君の行いはこのひと月、良く見せてもらっているからね。

 だが、教会に背を向け、野にある生き方や、ひたむきな信仰はかつての彼を思い起こさせるものがある。

 私は彼が道を踏み外すなどとは思いもよらなかった。同じ悲劇が起きないか、正直心配なのだよ」


 司教はかつての彼を知っていて、その姿を僕に重ねてみているのだろう。

 今明らかになった同じ育ての親を持つという点も、それに拍車をかける話しであるし。

 だけど、僕は彼とは違うし、断言出来る。


「ご心配はごもっともかもしれません。一月前の私であれば、心折れて、闇に落ちることもあったかもしれません。

 でもこのひと月で、僕は少しだけですが変わる事ができました。

 信じられる友ができて、守りたい、共に生きたいと願う人ができました。

 私にとっては大きな財産であり、心の支えです。

 私が闇に落ちそうなときには、きっと支えてくれる大切な人たちです。

 だから私は闇には堕ちません」


「そうか、そうなら私から言うことはあるまい。ただ、一つだけ覚えておいて欲しい。

 私も君の力になりたいと思っている。だからもし何か、他の誰にも相談できないような事があれば私を頼って欲しい」


 司教の表情は複雑なものであった。苦悩、不安、苛立ち、それ以上に小さく読み取れない多くの感情。

 僕の言葉に安堵していない事は明白だ。


「なぜ、そこまで私を心配してくださるのですか?」


 僕は率直な疑問を投げかけてみる。

 彼はわずかな沈黙の後にゆっくりと答え始めた。


「恐らくはオースティン・ヘイワードという男への憧れと後悔、だろうと思う。

 私は彼の生き方に強く惹かれた。そしてその後の彼が信じられなかった。

 あれ程真っすぐだった男が、なぜなのか、という思いだ。

 もし、私に何かできたのなら、彼は闇に落ちなかったのではないだろうか。そんな思いもあるのだよ。

 同じ過ちを繰り返す者がいるのであれば、それを止めるのが私の責務かもしれない」


 少し歯切れの悪さを感じる返答であったが、むしろそれが彼の心情を物語っているということだと思う。

 彼とて漠然とした思いがあって、しかし明確な答えはないからこそ、思い悩むのではないだろうか。


「根拠は無いが、

 彼は今この大陸にいる。

 そしてかつての彼を知る私がいる。

 さらには、誰も知らなかったが彼と同じ教えを受けて、同じように旅するものがいる。

 これを偶然と呼ぶには、あまりにも揃い過ぎていると思うのだよ。

 良くないことが起きるのではないか、そう思わずにはいられない」


 司教の言葉が、まるで預言のように聞こえた。






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