57:贈り物 ≪ギフト≫
25/02/22 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。
その日のうちに玉座門遺跡を出発するつもりだったが、少し予定が変更になった。
事の発端は僕の我儘だ。
進行する際に打倒していった屍人たちを、簡単でいいから供養したいと申し出たのだ。
仕事みたいなもんだからね、とロアンは軽口で応じ、他の皆も同意してくれた。
墓を作るのは作業量的に無理なので、死体を見かけたら聖水を少し撒いて、祈る。
それを繰り返して、来た道をたどっていった。
陽が傾き、そろそろ出口付近という所で、それと遭遇したのだ。
空が朱に染まる中、最後の日の陽光が地平に沈んだ瞬間に、おぼろげな、人の姿の光が目の前に現れた。
反射的にレイアとケイトさんが武器を構える。
「待って、善良な亡霊のようです。敵意はないと思います」
僕は彼女らを制してから、亡霊に一歩進み出る。
鎖帷子に、大型のロングソードを装備した、エルフの亡霊だ。
色彩までは分からないけど、恐らくは帷子は銀色だと思うし、額当ても宝石のはめ込まれた高価そうなもの。
恐らくは身分の高い、エルフの戦士だろう。この遺跡で暮らしていた人だろうか。
そういえば玉座にあった死体、骨もエルフかドラウのものだった。
遥か昔、巨人たちが支配していたころ、この地はエルフの街だったのかもしれない。
「あなたの町を踏みにじるような行為を謝罪します。どうか寛容の心でお許しください」
僕はその亡霊に話しかける。もちろん、エルフ語で。
彼は首を横に振った後に、深く頭を下げて謝意を示した。
僕には、それが謝罪は必要ない、弔いをしてくれたことに感謝する、と言っているように感じた。
「では、あなたのために、今一度祈りましょう」
そう言うと慌てて手を振る。
そして遺跡の方に向かい歩きはじめた。
少し歩いてこちらを振り返り、手招きする。こっちに来い、と。
もちろんその様子は他のみんなにも見えていて、
「大丈夫か?罠じゃねえだろうな」
とレイアが呟く。
僕は悪意は感じないし、大丈夫でしょうと答え、彼について行く。
「まあ、聖職者だもんね」
ロアンの発言の意味を少し悩みながら、みんなも歩き出した。
5分ほど戻って遺跡の外れに差し掛かると、彼は自分の足元を指さす。
「ここに何かあるのですか?」
彼は縦に首を振る。
そして僕に重なるように消えていった。
憑依とかされたわけじゃないようだ。何かを伝えて去っていったのだろう。
僕はその時に声を聞いた気がする。
役立ててくれ、と。
僕は彼が示した場所を掘り始めた。
土がかなり固いので、掘るのは難航したが、ザックとレイアがすぐに手伝ってくれたので順調に掘り進む。
1メートルくらい掘ったところで土よりも固い何かに当たった。
そこから横に掘り進み全体を確認すると、石棺が現れる。
さっきの彼はここで眠っているのだろうか。
手伝ってもらい、ゆっくりと蓋を動かすと、中にいくつかの品物が残されていた。
この遺跡の年代、地下の祭壇を考えると4万年ほど昔の話だ。
乾燥した気候で骨も崩れ去ってしまったのだろう。
そこに残されていたのは、彼が身に付けていたのと同じ鎖帷子と、ロングソード。宝石の散りばめられた豪華な額当て。
指輪が2個。腕輪が一本。ネックレスが一つ。
「これ、使って欲しいって言ってました」
僕はポツリと言う。彼は今までこの地にとどまって、この町を守っていたんだろうな。
いくらエルフが長命と言えど、数万年の時をずっと守っていたんだ。そう思うと自然と涙があふれだす。
死者の時の感じ方は僕にはわからないけど、彼はいままでずっとここに留まっていたんだ。自分の意思で。
もしかすると彼はディープフロストの一族のそのもとになった人かもしれない。そんな事も思った。
「ぶっちゃけ儲けはなしだからさ。これはありがたく頂くことにしようよ」
ロアンが言う。
「そうだね。彼はそうしてほしいって言ってたから」
僕は涙を拭いてから、そこにある品物を手に取る。
どれも素晴らしい出来栄えの品々だ。
一番驚いたのはロングソードだ。長さ的には片手半、バスタードソードだろう。だが手にした瞬間に感じる。
とても軽い。
鞘から引き出すと黄金の刀身が現れる。
「太陽の剣、じゃな。しかも遥か昔の。今も同名の武器は出回っておるが、これほど見事なものは見たことが無いわ。
おそらく、現在出回っている物は、この時代のものの写しじゃろう」
バスタードソードは両手武器としてなら両手剣を扱える人には誰でも扱えるが、片手で扱うには普通は重すぎて特殊な訓練を必要とする武器だ。
だが、これは僕でも片手で扱えるくらい軽い。短剣の感覚で扱うことが出来る。
「これはオリハルコン製じゃな。かなり純度が高く良質に見える。聖剣を名乗るに相応しい一品じゃろうて」
鎖帷子もミスリル製で高度な魔法で処理されている。俗にいうエルブンチェインだが、かなり高品質だし、指輪も腕輪も、ペンダントも強力な魔法の品である事は間違いなさそうだ。長い時を経ても一切痛みが見られない。
とりあえず保存袋に入れて鑑定は帰りの道々で行うことにして、ほぼ空になった石棺を蓋をしてから埋めなおす。
ここには目に見えなくても、彼の亡骸があるのだから。
埋めなおしてから祈りを捧げる。
かつてここにはそれなりの墳墓があって、弔われていたのかもしれない。
祈る神も違うかもしれない。
でも、彼に安らかに眠り、魂の輪廻を正しく辿って欲しいと思った。
だから月の神に願う。
しばしの沈黙の後、僕たちはそこを後にした。
それからの行軍は比較的順調で、特に魔物の類に遭遇することもなく、標準日程を少し超えたものの6日でストームポートに帰還した。
もしかすると標準距離は6日が正しいのかもしれない。
まあ、正確なことが言えないのは事実だし、報告に向かう。ケイトリンさんも報告があるので、ここで分かれることとなった。
帰りの道々で鑑定した結果、ミスリルの鎖帷子を取り分として納めてもらった。優れた魔法クラスであれば申し分ないと思う。
余談だが、名も知らぬエルフの霊から頂いたものは、優れた魔法の防御の指輪、これはコマリに。
もう一つの指輪が魔術師のの指輪。これは魔術師専用で第4段階の呪文の使用数を2倍にするという優れものだ。ガイアさんに渡す。
腕輪は健康のお守り。耐久力を向上させるアイテムだ。腕輪にこの効果が付与されているのは少し珍しい。これはレイアに。
ネックレスは幸運の首飾り。なんでも幸運が働くらしい。これはロアンに。
額当ては、特殊なもので3つの使い方があるそうだ。一つ目は命令を発するとランタンと同様に光を放つ。2つ目は額当てをアイマスクのように目にかかる位置で使う事で暗視の能力を提供してくれる。3つ目は一日一回ではあるが焼けつく光を放つ。これはザックに。
太陽の剣は優れた魔法の片手半の長剣、対悪属性強化、対悪ダメージ強化、命令により太陽と同等の光を放つ。現代の技術では作成不能と思われる強力なものだ。一応僕が預かることになった。ショートソードとして扱えるからである。
強力な武器であるのは間違いないし、大喜びで使いたいところ、ではあるのだが。
実はこれを使うのは気が引けている。
月の神に仕える聖職者が太陽の剣ってどうよ?って思いませんか??僕は思うんですよ。大いに。
なので、一応預かり、だ。
神様に怒られることは無いと思うけど、どうもねぇ。。。
でも、大きな武器をぶら下げてると、なんか強くなった気がするよね。
見た目がかっこいいのも事実だし。
あぁ。神様ごめんなさい。
ハーバーマスターに帰還の報告をして、忘却の王の呪いに関しての報告と、行方不明の冒険者の探索。その後の出来事について一通り説明をする。彼は真顔で、なんかすっげーヤバい事になってんじゃねえのか?と素で返してきた。
それはそう思うが如何せん情報が無い。
途中でケイトリンさんと一緒になった事も報告してあるので、後で行政官殿と作戦会議でも行って欲しい。
相手は悪魔だ。――ああ、そうか。それを知って、彼はこの剣を託してくれたのかもしれない。
ゲイザーから手に入れたアイテム類を換金し、金貨他の宝石類と、合計で32500枚分。
一人当たり5400枚、ハーバーマスターからの支払いが一人金貨500枚。一人当たりの収入は金貨5900枚。これは銀行で各人の口座に入れさせてもらう。
こういう所は現金の持ち歩きを最小にできるから銀行があるのはありがたい。ちなみにコマリは銀行に口座を作っていないので、僕がまとめて管理している。
あ、ザックも口座を持っていたかった。今度ザックを連れて口座を作りに来ないと。とりあえずは現金で渡すことにする。
小規模の冒険をこなした方が、金にはなるんだろうな、そんなことを思っていた。
翌日には、運命って奴が悪戯好きな性悪だと思い知らされることになる。
今週分の更新はここまでになります。
柿ながら悩み始めると一向に筆が進まなくなることが良くあります。
勢いで書いているときの方が、話は進みますね。その分見落とし、アラが出るとは思いますが。
そんな感じですので、お気づきの点がございましたらお教えいただけると幸いです。




