55:屍人の群れ ≪アンデッド≫
25/02/21 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。
25/04/22 ターニングアンデッドの漢字表記を変更しました
朝になって呪文の準備を済ませる。僕の場合は正直言うとあまり変わり映えはしない。
いくつかの対屍人用の呪文を用意するだけだと思っていたが、第2段階呪文については少しばかり考えることになった。
ともあれ、朝の準備を終えて、出発の準備もそろそろ終わる。
決まった作戦は割とシンプルなものだ。
僕たちのパーティは正面から騒ぎを起こしつつ前進する。
あの近辺にいる屍人を掃除しなければならない。
であるなら、集まるだけ集まってもらって、まとめて成仏してもらうことにする。
進めるだけ進んで、中央の玉座を目指すが、限界点を迎える前に余力を残して撤退。
騒ぎに乗じてケイトさんが隠密行動で単独潜入し、玉座にいると思われる敵のボスを狙撃する。
使うのは、強力な抹殺の矢の対屍人用と対人間用の2本。
強力な魔法の矢で、当たれば一定確率で対象を文字通り抹殺することができるものだ。
ケイトリンさんの所有物だが、彼女も持ってはいるものの、使ったことはないという代物だ。
高級品ではあるが、状況を考えると使うべきだと言ってくれた。
我々の想定は、敵のボスはアンデッドであれば、吸血鬼か強欲なる術者である可能性が高いと見ている。
これらの場合は、完全に脅威を排除することはできないが、一時的にでも無力化できれば、その後の対応が楽になるはずだ。
もう一つの想定は、人間の魔法使いか聖職者だ。
実は想定した中にはもう一つあって、地獄に住む連中、デビルやデーモンとかの類だが、確率は低いだろうということで考えないことにした。
現実問題として、デビルやデーモンを一撃で仕留める手段は持っていない。
丘に近づいた辺りで、僕はケイトさんに屍人からの隠蔽の奇跡を願う。
僕らから見ていつも通りにしか見えないが、これで不死者から探知される可能性は極めて減るはずだ。
さらに、悪からの防御の奇跡も祈った。こっちは時間的に途中で切れるだろうが、ないよりはましなはずだ。
呪文をかけ終えると、ケイトさんはエルフのマントを羽織って姿を消した。
僕たちも屍人からの隠蔽を祈ってから進み始める。
遺跡群の中に入り、ちらほらと骨や死体が突っ立っていたり、意味なく歩いていたりするが、こちらには全く気が付かない。
「前方に姿を隠している恐らく屍鬼がいるね」
ロアンの小声が聞こえる。
僕はGさんと顔を合わせて頷くと奇跡の行使を始める。
僕は祈祷の奇跡を、Gさんはヘイストの呪文をほぼ同時に唱え、少しだけ遅れてコマリが祝福の呪文を唱える。
僕の祈祷の効果範囲にいた屍人たちは奇跡の効果を受けて、同時に僕たちの遮蔽も解けたようだ。
僕は前方に向けて神告浄化の力を放つ。すると、姿を隠していたワイトも含め、数体のスケルトンとゾンビが灰のように崩れ去った。
Gさんは一枚目の炎の壁を僕たちの進行方向左側に張る。
後ろから接近してきた骨をザックが砕き、右側から出てきたゾンビをレイアが引き裂いた。
前方の少し離れたところに、コマリが杖による火球の呪文を放つ。
周囲から一斉に死霊だの死体だの骨だのが集まり始めた。10や20ではきかない数だ。
僕は次の奇跡を行使する。聖別の呪文だ。比較的効果が長い呪文で、アンデッドに対して弱体化をもたらすことが出来る。
一体のゾンビを殴り倒したところで、Gさんの2発目の炎の壁が僕たちの隊列の右側に張られた。これで前後の敵に集中できる。
運悪く右側から接近してきていた、死霊が炎の壁に焼かれながらも接近してきたが、コマリの放った魔力の矢4本が霧散させた。
戦闘開始から数分が経ち、敵の数が目に見えて減ってきた。
レイスやワイトには警戒が必要だが、他の連中は脅威ではない。
もっとも、レイスは最初に見た1匹だけで、ワイトも数匹倒したが、その後は見ていない。
「思ったほど強力な敵は出てきませんね。ケイトさん大丈夫でしょうか?」
「あれは殺しても死なん。じきに連絡が来るじゃろう」
「敵の抵抗がかなり減ったな、押し上げるか?」
「そうですね、前進しましょう」
前方に僕とレイア、最後尾にザックで大きめの三角形を作り、ロアンを先頭にGさんとコマリの小さな三角形を内包するような陣形で、進み始める。
幾ら腕力の無い僕でも、骨や死体ならどうとでもなる。
戦闘を継続しつつ、僕たちは前進を始めた。
魔法による援護は最小限で、余力を残しながら進む。
組織的とは言えない、散発的な攻撃が続く。前線をコントロールする個体がいないのか、もしかしてケイトリンさんがボスを片付けちゃった?
そう思っていると、そよ風が伝言を運んでくる。
~モクヒョウチテンニ、テキエイナシ。ゲンチニテタイキチュウ~
目標地点に敵影なし、現地にて待機中?
ケイトさん、退避せずに玉座付近に残っているのか。まだ遮蔽が残っているってことだよね。
少なくともボスは倒せてない、もしかすると、ボスなるものはそもそもいなかった?
いずれにせよ情報が足りない。現地にケイトさんが残っているというのは、何か判断すべき事情があると考えるべきだ。
「ケイトさんからメッセージが届きました。現地にて待機中だそうです。我々も少し急ぎましょう」
進行速度を上げて、前進を続ける。相変わらず雑魚が散発的に襲ってくるが、脅威ではない。
後方からの襲撃が目に見えて減ったので、僕はザックと位置を交代し、さらに進んでいく。
そして10分後、玉座の広場に到着した。
近辺には数体のワイトとゾンビ類の死体が転がっている。ケイトさんが処分したのだろう。
だとすれば対屍人の遮蔽は解けているはず。
僕たちは彼女の姿を探しつつ、広場の中央付近に進んだ。
視線の先には数段高くなった位置に設えられた石造りの椅子があった。彫刻が施されているようだ。
そしてその後方に大きな石造りのアーチ。
ただ、そのアーチは不気味な脈動する影のようなものに覆われて、その中央部分に人が一人通れるほどの空間の歪み、恐らくはポータルと呼ばれるどこかに繋がる魔法的な接続点が見て取れる。
僕たちは警戒しながらそこに近づく。
椅子の後ろ側、アーチの手前にケイトさんはいた。
彼女はポータルを眺めながらこちらに視線を向けることなく尋ねてきた。
「玉座には白骨化してるがかなり身なりの良い死体が座ってた。もちろん、以前にここを訪れた時にはそんなものはない。
そして、目の前には起動したゲートのように見えるこれ。ガイア、どう見る?」
「何者かが仕掛けを動かしたのじゃろう。死体が椅子に座っておるのは、その仕掛けを動かすために必要じゃったと考えるのが妥当じゃな。
問題は、この仕掛けが何なのか。見た目的にはポータルなんじゃが、仕掛けの動作がこれで正しいわけではないように感じるのう。
そして誰が起動させたのか、じゃな」
「少し近辺を調査しましょうか。何か見つけたら、とりあえず触らずに全員で確認しましょう。」
そう言って僕たちは互いが見える距離内で捜索を開始する。
僕はまず、椅子に座る死体の確認に向かった。
白骨化した死体は、頭蓋骨の形状から、エルフかドロウのものだろう。法衣を纏っており、それは大半が朽ちている状態ではあったが、所々に残る布地は品質のかなり良い絹の類で、金糸の刺繍が施されていたことが見て取れる。頭部には冠、宝石がいくつか散りばめられており、手には権威の象徴だろうメイスが握られている。
両手に腕輪と指輪。魔法看破で調べると、ローブはともかく、それ以外のものは何らかの魔力を帯びているのが分かる。
死体そのものにも、魔力、正確には残滓であったが感知できる。
この死体をここに運ぶ際に用いられたものだろうか。残滓の感じから1週間ほどは経過しているか。
次に椅子を見る。
豪華な彫刻が施されていたであろう面影はあるが、風化やおそらく冒険者による略奪によって破損が目立つ。
椅子にも魔力の残滓。
そこから周囲を見渡すと、円形の広場全体に魔力の残滓が広がっている。この広場自体が大きな一つの魔方陣、魔道装置の類であることが想像できる。
その力がアーチに向かい、装置を起動させるのだろう。
この死体は鍵であることは間違いないが、そこに注がれた魔力は本来想定されたものとは違うのだろう。
強制的に魔力が注がれて、起動された。Gさんの正しい動作ではないという見立ては正しそうだ。
僕が確認できるのはそこまでで、主にアーチを調べていたGさんたちと合流し、情報を交換する。
Gさんの断定できない予想として、魔力量から推測するに、ゲートは恐らく同じ世界に繋がっていること。起動に用いられたエネルギーが切れるのは時間の問題で、どんなに長く維持しても3日。早ければ今日中にもゲートは閉じるであろう、とのことだった。
もし、このポータルを通過し、その先の調査を行うのならば、今決断して進むしかない。
「僕はこの先を調べるべきだと考えますが、みんなの意見を聞かせてください」
僕は皆に問う。
そして全員一致で、先に進むことが決定した。
リスクを回避してちゃ冒険者の名が廃る。ロアンの言葉だ。
僕たちはポータルをくぐっていく。




