54:玉座門遺跡 ≪スローンゲートルーインズ≫
25/02/21 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。
翌日は少し早めの出発となった。
休息に入るのがかなり早かったので、自然と時間の前倒しになったのだ。
謎の小迷宮から外に出ると、バジリスクの腐臭と、異次元の魔獣が放つ独特の瘴気が周囲に満ちていた。
強くはないが、この瘴気には毒性がある。
周囲にも影響を与えるだろうが、次から次へと発生してくるので、死体をどうにかしない限り対処ができない。
結論としては放置するしかなかったので、僕たちはそこを早々に離れた。
それからさらに二日。
荒野を進み、前方に陸が見えてくる。
「あそこが玉座門遺跡だよ」
ケイトさんが指さしながら説明する。
「どういう所なんですか?」
「古代の遺跡だね。数万年は前のモノって話だよ。規模とサイズからして、巨人族のものじゃなくて、人間サイズの都市の後じゃないかって言われてる。
200年も昔は貴重な遺物が見つかったりもしたらしいけど、今は掘り尽くされて、大した出土は期待できないね。
それでも、時折それなりのものは見つかったりするから、比較的リスクの低い、冒険者のいわば定番みたいな場所だよ」
事前の知識通りである。
少なくとも以前はそういう場所だったのは間違いないだろう。
だが今は少し違うはずだ。
あの行政官殿がケイトさんに偵察を依頼し、その後ハーバーマスターから僕たちに調査が来たくらいだ。
何かあるだろうと予測しているはず。
今のところそれが何かは分からないけど。
「どうしましょうか、これくらい離れていれば安全にキャンプは張れると思いますけど、遺跡近辺に行く時間もまだありそうですし」
「とりあえず様子見に行っていいんじゃないか?こっちは万全の状態を維持できてるしさ」
レイアの一言で方針が決まり、このまま前進することになった。
僕たちは少しだけ警戒しながら進んでいく。
1時間ちょっと歩いて丘に差し掛かると、僕は少し違和感を感じた。
言葉にはしにくいのだが、通常と異なる感覚。ごくごくわずかに視界が歪むことがあったり、音の聞こえ方が違う気がしたり。
「なんか妙な感じですね」
僕はそう言ってみる。
皆も同じようなことを感じているようだった。
さらに慎重に進む。先頭を歩くのはロアンとケイトさん。
レイアと僕が続き、その後ろにGさんとコマリ。殿を務めるのはザックだ。
崩れ去った建物の残骸と思われる石の間を慎重に進んでいく。
赤茶けた大地に少し白い砂が積もっているような所だ。白い砂のようなものは石が崩れて風化が進んだものじゃないだろうか。
「玉座門と呼ばれるのはこの先に広場があって、そこに玉座と思われる朽ちていない椅子があるんだよ。
その後方に石造りの巨大なアーチがあって、名づけた奴はそれをゲートに見立てたんだろうな」
レイアが解説してくれる。彼女もここに来たことがあるらしい。
不意にロアンから停止のハンドサイン。
ロアンとケイトさんが慎重に前進して、岩の柱の陰からその先を確認している。
そして静かに戻ってくるとこう告げた。
「かなりの数の屍人がいるよ。大半は骨と歩く死体だけど、死霊の類も混じっているみたい。この先に気付かれずに進むのはかなり難しいんじゃないかな」
ロアンの分析は多分正しいだろう。これ以上進むのなら、交戦は必至だ。
「しかし昼間から屍人とはな。何らかの空間に対する干渉が発生しているという事か」
屍人は太陽の光を嫌う。直撃を浴びれば瞬く間に滅んでしまうからだ。
だがまだ陽のある時間にも関わらず、屍人が歩き回っているという事は、何か魔法的な作用がこの一帯に存在することを意味している。
さっき感じた違和感はその影響か。
いずれにしても、それは意図的に行われている可能性が高く、それだけ強力な魔法の使い手がいる可能性が高い、ということだ。
「嫌な感じだよね、あたしはこれ以上進むのはやめたほうがいいと思うよ」
ロアンが最初に口を開いた。続くケイトさんも同じような意見で、
「事態の詳細は分からないけど、一応の偵察は済ませたし、現状を報告に戻る、でいいんじゃないかな?」
「良からぬことが起きているのは間違いないだろ?だとすれば少しでも早くに取り除くべきだ。万全の準備をさせたら、害となった時点で対処するのは難しくなる」
レイアはここでの突入を主張した。もちろん、その意見は理に適っている。
ザックもその意見に賛成を表明した。
「わしも、手を打つなら早い方が良いと思うぞ。レイアの言う通り時間を与えればそれだけ深刻な事態になるじゃろう」
Gさんも突入の意見だ。
コマリは僕の意思に従うと言ってくれた。
僕は意を決する。
「放置は気持ちのいいものじゃありませんし、屍人がうろつく状態を見過ごすわけにはいきません」
死者の魂を正しく輪廻の輪に乗せてあげたいし、死者に対する冒涜は個人的にも、神の使徒としても、許せない。
だけど、仲間に無理強いするわけにはいかないので、付け加える。
「戦力は少しでも欲しいというのが本音ですが、無理強いして危険に晒すわけにはいきません。ロアンとケイトさんはここから退避してストームポートに報告してください」
「いや、アレンちゃんが決めたならあたしはそれに従うよ。パーティの仲間だからね。一人で帰るとか出来る訳ないじゃん」
「なんかこの流れで私だけ帰るとか、人非人みたいじゃない?それこそガイアに嫌みの20や30言われそうだしさ。仕方ないから付き合ってあげるよ」
「ありがとうございます。では一度下がりましょうか。安全圏まで下がってキャンプを張って準備をしましょう。
Gさんも僕も、対屍人用に呪文の準備をし直した方が良いと思いますし」
そう言ってから僕たちは慎重に丘を下った。
一時間ほど離れてからキャンプを設営。
食事の準備をしてから、皆で火を囲み、食べながらの作戦会議だ。
「遺跡の中央部にあるし、やっぱ広場の玉座辺りにボスがいるんじゃねーか?」
レイアの一言から会議が始まる。
「それの可能性はもちろんありますが、断言する理由もないですよね。どのみち結構な数の屍人がいるようですから、そこを急襲って訳にはいかないでしょう」
「アンデッドから身を隠す魔法ってなかったっけ?」
ケイトさんが僕に尋ねてくる。
「はい、あります。ですが、知性を持つアンデッドには見破られる可能性もあります。ヴァンパイアあたりがうろついているようだと、ボスまではたどり着けない可能性が高いですね」
「どのみち雑魚にはある程度まとまってもらったほうが対処しやすかろう。範囲攻撃で一網打尽じゃし」
「こちらも出来るだけ固まっていた方が良いでしょうね。数が多いので乱戦混戦になった場合、やはり魔法の使い方が難しくなりますし」
「目の前に敵がいるならそれを倒すだけです。私にできるのはそれだけですから」
「雑魚とは言え数があんまり多いと、数減らすだけでも骨が折れるしな。サクッと魔法で片づけて、ボスをぶん殴るほうが俺としては楽だな」
活発に意見が交わされる。
いつも控えめなコマリだが、今日はいつにも増して引き気味に見える。
議論をよそに、僕は気になったので尋ねてみた。
「コマリ、何か気になる事があるの?」
「気になる事ではないのですが、その、少し幽霊とかお化けの類は苦手なのです」
消え入るようなコマリの返事。うん、そうだよね、苦手は誰にでもあるし。
「あんまり気にしなくて大丈夫だよ。そういうのは近づけないようにするし、魔法はそういうやつにも効果があるから。いつもと何も変わらないよ。ザックも僕も一緒だしさ」
そう言って彼女の手を取る。
コマリは笑顔を見せてくれる。
それは作り笑いかもしれないが、彼女の決意でもあると思う。
それからしばらくいろいろな作戦案が検討された。
いくつかの作戦案が出されて、検討の結果作戦は決定された。
そのために必要な装備もあるし、場合によっては撤退もあり得る、柔軟な形で行くことになったのだ。
大丈夫、きっと上手く行く。
僕はそう思った。




