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God Bless You !!  作者: 灰色狼
第一章 嵐の港町 ~ストームポート~
6/90

4:最初の遭遇 ≪ファースト・コンタクト≫

25/02/17 誤字脱字の修正、一部表現の変更を行いました。



 その後サザーランドと二人で<気まぐれロブスター>に戻り、明日の朝の約束をしてから別れた。

 宿の中に入り荷車や鍋といった借りたものの返却を済ませてから、明日の朝のお願いをする。少しボリュームのあるシチューのようなものを50人分と、パンを100人分。道具類の貸し出しも含めて金貨3枚で交渉はまとまった。

 そしてもう一度桟橋付近に戻る。

「おや、どうしました神父さん?」

 そんな感じで声を何度もかけられたが、

「気にしないでください、ちょっと見学です」

 そんな感じで軽く流しておく。


 桟橋近辺に崖面に直接作られた扉が2か所、あとマンホールと思われる地面のふたのようなものが3か所確認できる。

 すべて鍵が掛けられており、近くにいた作業員に「あれは何?」と尋ねると、シティーガードが管理しているらしいけど、良くは分からないという返事が返ってきた。

 ん……胡散臭いな。

 そう思いながらも収穫はなし、一度宿に戻ることにした。


 小一時間で宿に戻る。

 まだ夕刻までは少し時間があるので、中はまばらだ。

 見渡してみるとテーブルに3人組のパーティと思われる連中が座って話をしている。


「冒険者の方々とお見受けしますが、少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」


 3人は少し怪訝そうにこちらに視線を向ける。。

 一番目立つのは、燃えるような赤毛をざっくりと束ねた人間の女性。両手刀を持っているし、重装備なので間違いなく戦士(ファイター)系だろう。年のころは30代後半くらいか。

 その次に目を引いたのが、無造作に伸ばした髪と比較的整えられている髭。どちらも白髪でローブを纏った人間。おそらくは魔法使い(ウィザード)だ。年齢はぱっと見では60代に見えるが体格の良さや背筋の伸び方を見ると見た目よりもずっと若いはず。

 3人目は小柄な体に革製の軽装鎧、腰には短剣(ショートソード)という出で立ち。うん、ハーフフットの女性でならず者(ローグ)系だろう。ちなみにハーフフットの年齢を予想できるほど、知り合いは多くない。

 よくもまあ、と言ってしまいそうになるほどに、童話や昔話に出てくるような、本当にお約束な感じの人たちだ。


「あんたは?」


 最初に答えたのは戦士と思われる女性。眼光は鋭く、こちらの一挙手一投足を監視してる、と無言で語っている。


「見ての通り月の神(デミムア)に仕える聖職者でアレンと申します。昨日こちらに着いたばかりでこの辺の事情に疎くて、いろいろと教えていただきたいのですが」


 友好的スマイルは忘れない。


「そうかそうか、それは色々とお困りじゃろう。何なりとお教えするので聞いて下され」


 魔法使いのおじいさんが人のよさそうな笑みを浮かべて答えてくれた。

 ぱっと見は気難しい感じなのだが、この感じだと普通にいい人のようだ。


「ありがとうございます。あ、ご店主、僕にエール一つと、こちらの皆さんが飲まれているものをひとつづつお願いします」


 僕はそう言ってテーブルの空いている椅子を指さして彼らに聞く。


「こちらに掛けても?」


 了承されて、椅子に座りエールを一口飲む。そうすると簡単な自己紹介をしてくれた。

 ファイターのレイアさんはこの中で最古参で南の大陸にきて15年になるそうだ。ウィザードのガイアさんと探索者(シーカー)のロアンさんは同時期に渡ってきててちょうど1年くらい。3人ともシティの中に入る許可は取っていて、今日はたまたま用があってハーバーにきているそうだ。

 ひと段落着いたところで、さっそく気になっていることを聞いてみたところ、非常に興味深いことを教えてくれた。

 この街、ストームポートは見ての通り古代巨人族エンシェントジャイアントの遺跡の上に建てられているわけだが、この都市の下層には無数の通路や洞窟が張り巡らされていて、全容は未だにわかっていないらしい。一部はシティの下水道として利用されていて、そこはシティガードや冒険者たちが<掃除>に入る事もあるそうだ。桟橋近辺にある扉やマンホールは、それらのメンテナンス用として使われている。なるほど、今朝見た<清掃依頼>のタイトルは正しいことを僕は知った。

 他にもシティへの通過許可はかなり簡単に取れるとか、倉庫街は定期的に蟲だの小蜥蜴人(コボルド)などが湧くから、稼ぎには困らないだろうとか。

 色々と勉強になったのは間違いなかった。少しと言うには色々話してもらったので、そろそろお暇するか、と思っていた時に意外な話題を切り出してきた。


「アレンさん、あんたうちのパーティに入らないかい?」


 ガイアさんが直球で切り出してきた。

 彼らのハーバーでの用は採用(リクルート)だったのか。僕も話が出来てツイてたと思ったが、彼らもついていた訳か。

 確かに彼らの中に癒し手(ヒーラー)はおらず、中堅以降の冒険にはヒーラーは必須と言っても良い。野良(即席パーティ)で仕事をこなす際も、ヒーラーは絶対数が少ないので仕事に困る事はない。余談だが、ローグは信用できるかという点において野良では募集しないのが通例だ。

 彼らは人柄には問題なさそうだし、腕も十分に立ちそうだ。加入することはむしろ僕にとってもメリットが大きい。

 だけど。


「ありがたい申し出ですが、少し考えさせて頂いてよろしいですか?」


 僕はこの場では即答を避けた。

 パーティーに加入して、で、気に入らないならすぐ抜けるというのは、よくある話で誰も咎めやしない。

 ただ、この人達は冒険者にしては真っすぐで、適当にお試し、と言うのは違う気がしたからだ。


「即答できない理由を聞いても良いか?」


 レイアさんも直球で来る。


「私はここに来て間もないので、皆さんのお役に立てるかわかりません。それに今一つ案件を抱えておりまして、まずはそれを片付けたいと思っています」


「わしらもその案件とやらを手伝えるし、なに経験なんぞそのうち勝手についてくるわ。なんなら手取り足取りわしが教えて…ぐふっ」


「わざわざ誤解を受けるような言い方するじゃねぇジジイ!」


 ガイアさんの言葉を遮るように座ったままのロアンが蹴りを入れる。ガイアさんはそのまま机に突っ伏してしまった。

 何事も無かったかのようにレイアさんが続けた。


「理由は分かったよ。クレリックは多くないからね。あんたが来てくれるとこっちも助かるんだ。よく考えてくれ」


 僕が今日のお礼を述べると、しばらくここに滞在することを確認してから彼らは数日後にまた来ると言い残して酒場を出て行った。

 それから僕はもう一仕事。

 今日は使わなかった空き樽を部屋に担いで上がると(少し周囲の人の視線が痛かったが気にしない)部屋の中で静かに精神を集中し、デミムアのシンボルを省略形で宙に描く。そして短く

「食物の創造」

と口にする。すると、樽のなかにドライフルーツやナッツ類が練りこまれた、蜂蜜の香りがするパンがいくつか現れた。

 これも神の力を借りた奇跡である。神の力の行使には精神集中は必要だが、祈りは必要ない。その日の朝に使わせていただく神の奇跡は決められており、その際に許しを得ている。実際に使う際に許しを請う必要はないのだ。口にする必要があるのは「どの力を行使するか」だけ。中には奇跡の行使に特殊な条件があるものも存在するが、多くの力はシンボルを描く動作と、奇跡を行使する宣言の二つで発動される。神の力を借りる奇跡を、神秘魔法などと呼ぶ人がいる理由でもあるのだが。

 ではなぜ、昼間はわざわざ祈ったのか。

 理由は簡単だ。それが神の力による奇跡であることを周囲に知らしめるため、である。

 知らない人から見ると、ウイザードの呪文も、クレリックの奇跡の行使も「同じ」に見えてしまう。聖職者としては魔法と奇跡が同じ扱いを受けるのは非常に困る。というかあってはならない。だけど、説明をしたところで理解してもらえないので祈りの形態をとる訳だ。もちろん、冒険のさなかや緊急時には最短で奇跡の力の行使を行うのが大前提だ。


 それから今日の診察を思い出しながら(記録を取らなかったのは失敗だった)明日必要となる薬をリストアップして、近所の雑貨屋へ走る。余談だが薬屋と言うものはあるが、そこで扱っているのは高価な魔法薬(ポーション)やその材料だ。一般的な薬草から作る咳止めや解熱剤などは雑貨屋で扱われている。手に入らない物があったので薬屋に行き、材料をいくつか購入する。雑貨屋で手に入るものよりも高価であるが、薬草の成分を高濃度で抽出したもので、ポーション類ほどの効果はないにせよ薬としては強い。このまま服用したりは出来ないので、宿に戻って調合だ。

 いくつかの小瓶に予定量の薬が調合できたのはだいぶ遅い時間だ。簡単に体を拭きあげて、休む準備をする。

 …あ。

 失念していたことを思い出す。布を用意していない。清潔な浄化済みの布。

 少し疲れたので休息を取りたい。

 うん。明日にしよう。

 僕はベッドに横になると目を閉じた。




 どれくらい時間がたっただろうか、瞑想に耽る僕を現実に引き戻す音が聞こえる。

 何かを軽くたたく音。人の足音の類いではない。

 起き上がり音の聞こえる窓の方に目を向けると、カラスが窓のへりに止まり、窓をくちばしで突いてる。

 エルフは夜目が利く。カラスは鳥目なのでは?などと思いながら、ゆっくりと動き、三日月刀と盾を手にしてから窓に向かう。不意にカラスと目が合った。

 

「警告スル、我ガ行イニ、干渉スルナ」


「君は使い魔だね?言葉を発しているのは君かな?それとも君のご主人かな?」


 僕の問いかけに同じ言葉を繰り返すとカラスは飛び去った。


 どうやら先方は僕の行いが気に入らないらしい。

 接触があるとすれば明日だと思っていたが、思いのほか早かった。

 とりあえず想定内なのでこれ以上考えるのをやめた。

 僕は疲れているんだ。今はまず休もう。

 なに、これなら上手く行く。

 僕は自然と微笑みながら再び瞑想に入った。



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