53:魔弾の射手 ≪アリトルシークレット≫
25/02/21 誤字脱字の訂正、および表現の一部変更を行いました。
「デューザル卿の依頼で、玉座門遺跡の偵察に向かう途中で観察者に遭遇したってわけさ」
食事を取りながらケイトリンさんはここまでの経緯を語ってくれた。
デューザル卿というのは僕も忘れかけていたが、行政官殿のことだ。エルフ繋がりということもあって、よく依頼が来るそうだ。もちろん、それだけが理由ではないのだろうけど。
「いや、バジリスクだけなら余裕だったんだけどね、観察者に地上で遭遇するとは思ってなかったし、完全に不意打ちだったからね。参ったよ」
地上で遭遇したということは、観察者はどこからか移動してきた、と考えるのが妥当か。確かに野外で、あれに遭遇するという話は聞いたことがない。
「そもそも、何で玉座門遺跡を偵察に、って話になったんでしょう?」
「詳しいことは聞いてないよ。ただ、面倒があるかもしれないから慎重に、とは言われたっけ」
パンとスライスしたベーコン、簡素ではあるが彼女は完食して、ドロウの豆茶をすすっている。
「こういう飲み方いいね、すっきりしてるし香りも楽しめる」
少しご機嫌なようだ。
僕はケイトリンさんがここに来た時期を聞こうとしたがその前に、
「食べるものも食べたしさ、ねえ、アレン君だっけ?少し楽しまない?君くらい綺麗な子だったら身籠っても良いなって思うんだけど?」
完全に不意打ちを食らった。即座に対応できない。気を取り直して問い直すことにする。
「ここはエルフの集落内じゃないんですよ?おふざけは程々にお願いします。それより、いつ頃ストームポートを出発されたんですか?」
「お、拒否はされなかったね。じゃあ、街に戻ってからということで。ストームポートを出発したのは、えっと、ラストチャンスで戦闘が始まったって話を聞いてすぐかな」
一月とちょっと前。石化してる間の時間は分からないだろうけど、恐らく先の冒険者たちがこの辺に到着する前だろう。
それに先んじて偵察を出していたのに、なぜ危険を冒険者たちに知らせなかったのだろうか。
「素朴な疑問なんだけどさ、Gちゃんとケイトちゃんって、古い付き合いなの?」
ロアンが素直に質問をぶつける。
「北の大陸からの付き合いだからね。古い仲間兼、育ての親?」
「ケイトリン!」
Gさんが慌てて彼女の口を塞ごうとする。がロアンはその話に非常に興味があるらしい。
「それって、Gちゃんはケイトさんに育てられたってこと?」
質問の矛先がGさんに向く。
「う、うむ。一応、そういうことに……なるかのう」
すごく歯切れの悪い言い様だ。
その様子を見たケイトリンさんがGさんに尋ねた。
「もしかして、転生した話はしてないの?」
「うむ。隠しているわけではないが話が少しややこしいからな、説明する機会がなかったんじゃ」
「あー、面倒だったってわけか。ガイアらしいけど。いい機会だろうから私から説明してあげるね」
「ケイトリン、やめろ。どうせろくなことを言わんだろ!」
Gさんが結構マジになっているのが妙に生々しく感じる。隠してるわけじゃないなら問題ないよね、とロアンがザックに手伝ってもらい、Gさんを押さえつけてケイトリンさんの話が始まる。
「いや、本当に大した話ではないよ。少し前、30年ちょっと前かな。私とガイアは他にも数人のパーティを組んであっちこっち旅してまわってたのさ。戦争中だったからね、治安が悪くなった場所での護衛とか警備が多かったんだけど。
で、旅の途中で未発見と思われる遺跡を見つけたんだ。古い神殿のようだった。
そこを調査中に罠にかかってね。二人が犠牲になったんだよ。その一人がガイアだった。で、そのグループでは蘇生できず、教会に払う金もなく。我々に残されていた手段が転生の呪文だった訳だ。
知っていると思うけど、転生の呪文は新しい体を作って、そこに魂を定着させるんだよね。その際に用意される器となる体の種族は指定できないし、あと年齢は現在の年齢に即した形で準備される。
もう一人のドワーフは人間に転生したよ。彼的には残念だったろうけど、すでに他界してる。
ガイアの場合は一つ問題が起きたんだ。運よく人間に転生したんだけど、どういうわけか、赤ん坊の体で生まれ変わったんだよ。そんな話は聞いたことがなかった。
で、赤ん坊になっちまったガイアを放置するわけにもいかず、私が育てた、と言う訳さ。ガイアにはもう少し感謝してもらっても良いと思ってるんだけどね」
「思い出したくもないわ」
ケイトリンさんの話にガイアさんが毒づく。
思い出したくもない、これは正直な気持ちなんだろう。だからこれまで説明しなかった。確かに説明する必要もないとも思えるし。
「想像してみてくれ。魂はそのまま、赤ん坊の体に押し込められた自分を。
五体満足なのに、何一つ自分のしたいことができんのだぞ?
痒みを感じても、自分で掻くこともできん。訴えることすらできんのじゃ。できることは泣きわめくだけ。
よう狂わんかったと、自分を褒めてやりたいわ」
ガイアさんの言葉をスルーして、ケイトリンさんは続ける。
「記憶は残ってたからさ、しゃべるようになったら、ホント面倒臭いガキで。
自分じゃ何もできないくせに、あれこれと口うるさく言うんだよ?
結局14くらいまでは保護者してたかな。そのあとは出て行って、それっきり。で、今に至るわけ」
「何が保護者だ。半ば放置で出歩くのが日常じゃったくせに」
「いや、十分すぎるほど努力したし。無事に育ってるんだから問題ないじゃない」
「断言するが、お主は母親には向いておらん。というかなってはいかん種類の人間じゃ。乳児のうちに死ぬか、生きながらえても歪んだ子供が育つわ」
「まあ、私はエルフだし。人間社会で子育てしようとも思わないし。私もよく我慢したと自分を褒めてあげたいね」
文化的差異があるのも事実だし、どちらの言っていることも理解できる気はする。
まあ、Gさんが無事に大人になれたなら、それでよかったんじゃないかな。
「昔の記憶が残っていたということは生まれながらにして魔法使いだったんですか?」
僕も素朴な疑問を聞いてみた。
「正確に言えば生まれ変わった段階で一般人じゃったわ。肉体的に成長せんことには魔力を操る事や呪文を正確に唱える事が出来んかったからな。
再度経験を積みなおさねばならんかったよ。まあ、知識としては最初から持っておるから、普通に研鑽するよりは早く育ったとは思うが」
「こう見えてもガイアは昔、大魔法使いと言って良い能力だったからね。今でも片鱗はあるんじゃない?」
常々Gさんが口にする大魔法使い。見栄とか嘘って訳じゃなかったんだ。知識が異常なくらい豊富なのも、魔法オタクって訳じゃなかった。
「いや、いくつかの技能は知識として持っておるから使えるが、呪文そのものは今の職能レベルでしか使えんのも事実じゃ」
説明が難しいのもまあ、理解は出来た。極めてイレギュラーなケースであることは間違いないし。
でも、根本的にGさんとの関係が変わるような話でもない。そう言う意味では大した話ではないともいえる。
僕個人としては、知れてよかったとも思うし、いい機会だったのだろうとも思う。
「つまり、GちゃんはGちゃんなんだから…本当にどうでも良い話だったね」
ロアンはさらっと言ってのける。彼女の言っていることは間違ってはいないが、当事者の感情を考慮すればもう少しこう…
まあ、いいか。
僕はケイトリンさんに尋ねた。
「さて、ケイトリンさん。今後はどうされるんですか?」
「お、アレン君、その気になってくれた?」
「いえ、そう言う話ではありません。僕たちはこの後、玉座門遺跡を目指す予定なのですが、ケイトリンさんはどうされるのですか?」
「まあ、私も今のところ無事だからね。当初の予定通り玉座門遺跡を偵察に行こうかな、とは思ってるけど」
「なら、目的は一緒ですし、ご一緒しませんか?」
僕は迷うことなく提案する。目的以前に、想定よりも強力な魔物が出現し、しかも、人為的な可能性が高いとなれば戦力が多いに越したことはない。
Gさんは僕の提案に顔を少し引きつらせたが、状況を鑑みれば必要な選択であることは理解しているはずだ。
大魔導士とパーティーを組んでいた人で、魔弾の射手と呼ばれるレベルの人だ。僕たちよりも腕が立つのは間違いないと思うし。
「うん、一人旅も少し飽きてたからね。私には異議はないよ」
その言葉を聞いて皆の顔を見る。
みんなも同意の意思を示すように、うなずいてくれた。
結局その日はそのままキャンプを張って、休養日になった。
Gさんの高位呪文が底をつきかけているし、万全を期して先に進むためにも必要だった。




