幕間4 装備 ≪イクイップメント≫
25/02/20 誤字脱字の訂正、および表現の一部変更を行いました。
「愛着があるのは分かるけどさ、そろそろ替え時じゃねぇか?」
レイアが僕の三日月刀を指さしてそう言った。
「まあ、能力的にもう少し上のものをとは思うんですよ?でも、僕の腕力を考えたら武器は何を持っていてもあんまり変わらない訳で…」
「それは分かってるよ。お前に戦士としての能力は期待してねえからな。だがよ、高い能力の武器を持っていれば、全く役に立たない、が、役に立つかもしれないくらいにはなるだろ?」
「そうなんですけどね…これ、以前に話した僕を育てなおしてくれた神父さんの形見なんですよ」
これは本当の話。でも一番の理由は先立つものがないことなんだけど。
「あーそう言うやつな。気持ちはわかるけど、でも、そろそろ替え時だ。お前、レベル上がってんだろ?
そろそろ名の知れた冒険者の仲間入りだし、それなりの物を持っておくべきだろ?」
確かにおっしゃる通りなんですけどね。僕は皆さんと違って貧乏なんですよ。
でも言えない。
「それにその防具も、大概にはくたびれて見えるし、後衛の盾としては働かないといかんだろ?それも一新しろ」
簡単におっしゃいますけど、レイアさん。
「なので、これを使え」
レイアはバックパックの中から銀色に輝くプレートメイルを取り出した。人間サイズより小さい。エルフサイズだ。
「わざわざ用意してくれたんですか?せっかくなんですけど、僕の体力だと重装はちょっと…」
「まあ、手にしてみろよ」
レイアは笑いながら僕に鎧を押し付ける。とりあえず持ってみると、
「え?軽い?」
レイアは得意げな笑みを浮かべた。
「これってミスリル製ですか?」
「そうだよ、ミスリル製の優れた魔法の板金鎧だ。風の加護のオマケつきだ。オークションで見つけて安く買えたんだよ。エルフ用の重装は需要が少ないらしいな。これなら使えるだろう?」
「安かったって言っても、かなりの値段したんじゃないですか?そんな高価なものはいただけませんよ」
「うちのパーティのリーダーが貧相なのは、さすがに情けなくないかって話でさ。だったらそれぞれなんか見繕うか、って話になったんだよ。俺は鎧担当だ」
いくらで買ったのかは知らないけど、ミスリルのプレートの+4とか。最低でも豪邸が一軒買えるレベル。いや、城が買えるかもしれない。
「幸い金に困ってる訳じゃないし、お前がいてくれりゃ前衛としては薬代が安く済む。これからいくらでも稼げるしな。借金の利息も払えないくらいにカツカツなのはわかってんだ。黙って受け取っとけ」
「ありがとうございます、レイア。本当にありがとう」
「あーレイアが抜け駆けしてる。Gちゃんずるいと思わない?」
そこにロアンとGさんがやってくる。
「ロアンよ、それは済まん事をしたな。倉庫を色々と物色しておって時間がかかったんじゃから仕方ないと諦めてくれ」
「ま、いいか。はい、あたしからはこれをプレゼント」
差し出されたのは、一本のライトメイス。
「なんか聖職者っぽいと思わない?自分で使うかもって思って確保しておいたんだけど、出番がなかなかなくてさ。軽いし扱いやすいよ」
銀色に輝く、小ぶりなメイス。8枚のフィンが立っていて、一枚一枚に緻密な文様が施されている。
「それさ、あたし、ライトメイスと思って持ってたんだけど、実はロッドなんだって。Gちゃんに聞くまで気がつかなかったよ」
「それは警戒の杖と言うてな、確かにライトメイス+2としても使えるが、殴るのに使うのは緊急時だけじゃな。
持ち主に看破系の呪文の力を与える。能力を使うのには宣言は必要じゃがの。あとは一日に一度じゃったか周囲にある潜在的危険を探知させることができる。あとは何じゃったか、もう一つくらいなんか能力があったはずじゃ。それは調べておいてやるわ」
ロアンからロッドを受け取ると、「半年後に予約入れて」と言われた。はい、もちろん喜んで。全力でご奉仕させていただきます。
「最後はわしから2点。一つ目は死霊退散の聖句箱。なぜ保管しておったかわからんが、聖職者の悪霊祓いの能力を向上させるはずじゃ。使い方は分からんから、適当に試してくれ。もう一点がこれじゃ」
Gさんが見せてくれたのは一冊の魔法の本。
「Gさん、これってまさか…」
「うむ見て分かったか。理解力の書≪トウムオブアンダースタンディング+3≫じゃよ。ワシが自分で使おうと思っておったのじゃが、すっかり忘れておった」
オークションに出したら青天井になりかねない代物だ。
「わしはすでに+2を使っておるでな。ワシがこれを使うよりも、お主が使う方がはるかに有用じゃ」
トウムと呼ばれる魔法の書物は何タイプか存在していて、内容は読むと対応する能力を上昇させるコツみたいなことがぎっしりと書かれている。もちろんすべてのページに緻密に計算された魔法が込められていて、読み終わる事には文字通り能力自体が向上し、本は消える。いわば使い捨てのアイテムだ。
装備していれば能力が上昇するアイテムは結構種類があったりするが、装備状況に依存しない能力向上は基本的にこのアイテムしかない。事実上本人の能力が上昇する訳だ。
Gさんはすでに同タイプの+2を使っている。今回使えばさらに1つは上昇するはずだ。でも僕が使えば現状の能力から+3の向上が見込める。
聖職者にとって判断力は最も重要な能力だ。確かに僕が使うのがパーティにとって最良の選択であるのは事実だ。でも、それに見合うだけの価値が僕にあるのか?
「さすがにこれは受け取れません。ご自身でお使いになる方が良いと思います」
僕は辞退を申し出る。最低でも金貨10万枚の値段は付く。それでどれほどのことが出来るか。
「お主は物を知っておるから、値段の想像もつくのじゃろう。お前さんがこれを読むことによってわしらが得る利益は、金額的に言えばそこまでないかもしれん。じゃがな、どうしても苦しい状況でたった一つの呪文が多く使えるだけで状況は一変するんじゃよ。
それは、金では買えん価値なんじゃ。
それにな、これは世界への先行投資でもある。お前さんはわしらよりもはるかに長く生きるじゃろう。間接的にお前さんが世界に貢献できれば、この本の効果は最大限に発揮されるというものじゃ」
「それだけの価値が僕にあるんでしょうか?」
「価値があるかと言われると、分からんとしか答えられんな。これはギャンブルみたいなもんじゃ。少なくとも勝つ見込みがない賭けはわしはせんぞ。
それにな。そう思うのはお前の美徳でもあるが、悪い癖でもある。コマリに言われたじゃろ、まず自分を愛してやれ、と。
わしが良いと言っておるんじゃ。それで十分じゃとは思わんか?」
返す言葉が見つからなかった。
少なくともみんな期待してくれているんだから、僕に出来ることはその期待に応えることだけだ。
応えられるかは分からない。でも、精一杯やるしかない。それが僕にできる唯一のことだから。
「Gさん、ありがとうございます。有難く使わせていただきます」
そう言って深く頭を下げて、本を受け取った。
コマリもGさんからトウムをもらっていた。
明晰なる思考の書。
ウイザードにとって重要な知力を上げる効果があるらしい。
二人で読書の日々が続いた。
六日後に二人そろって読み終えた時に、少しだけ世界が明るく感じた。
何が変わったという実感は正直なかった。
翌日、明らかに準備できる奇跡の数が増えていることに気がついた。
そしてさらにレベルが上昇した感覚も。
このひと月で、僕は多くのことを経験した。たぶんその結果だと思う。
ちなみに、コマリはこの日を境に共通語をほぼ正確に喋れるようになった。時々おかしな言葉遣いが混じるのは、ロアン、Gさん、レイアの影響っぽい。言葉に関してはザックの影響を受けてほしかったが、ザックはそもそも口数が少ないので、仕方ない。
あと、まったくの余談であるが、プレートメイルに付与されている能力の『風の加護』と言うのは、この鎧を着ている間、わずかに地面から浮いた状態になるというものだった。安定しない場所や水の上でも歩けるらしい。
警戒の杖には、他にも小さな物体を自立行動させる能力があるそうだ。小さなものに限られるが人が使うような道具類を一定時間、その物体の用途に即した形で勝手に作業させることが出来るという強力な能力だった。




