幕間3 昔話 ≪ザダークサイド≫
25/02/20 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。
順調にドュルーワルカの集落の建設は進んでいる。
皆が働き、皆で獲物を分け、皆で語らい……なんか、こういう生活っていいよなぁ、と漠然と思う。
設備がしっかりしていてサービスも行き届く。ただし、すべては金次第、というのも分かるしそれはそれで、というのもあるんだけど、昔ながらというか、そこにいる人たちのまとまり感みたいなのは、都市と言われるような人口密集地では過去のものだったりする。
狩りに出ていた者が獲物を持ち帰り、手際よく解体していき、部位によって鍋に入れて煮込まれ、火にかけられ、いい匂いが漂い始める。
その匂いにつられるかのように、畑仕事に出ていた者や、建設作業に従事していた人たちが集まり始めて、広場を埋めていく。
ほぼすべての一族が集う夕食が間もなく始まるのだ。
800人近くの人が一か所に集まって飲み食い。今日は何か特別な日なのか?と聞いたが、これがいまのこの集落の日常になっているそうだ。さすがに毎日ではないらしいが、週に2、3回はちょっとしたお祭りになるらしい、少し驚きだ。一族と呼ばれるが、本当に大きな家族なんだろうなと思う。
ここに来てからまだ時間がたっていないので、彼らの酒は出来上がっていないが、時折ハーバーマスターなどから差し入れられる酒を、ジャングルで入手した果物の果汁で割って、浅く追発酵させたものが今の定番らしい。甘酸っぱくて、独特の発酵臭があるが、これはこれで悪くない。
これは宴会や公式な行事ではないので、酒や料理が届いたところから自然と始まっていく。
最初のころは『あまりにも子供』と思われ、酒を飲めないことにひどく怒っていたロアンも最近は誤解が解けて酒を勧めてもらえるのでご機嫌の様子だ。
僕はGさんと、ドロウの昔話を聞くために今日は訪れたのだが、結局みんな一緒に来ることになった。
飲み食いしながら、長老の話に耳を傾ける。彼は今や唯一の長老衆となった人物だ。だけどさすがに多くの昔話を知っていて、驚くべき内容が語られることになった。
僕の知る歴史では、北の大陸でエルフとドロウの戦争になって、ドロウは北の大陸を追われる形で南に渡ったと聞いていたが、彼の口から語られた伝承によれば、かつて古代巨人族が支配していたこの地で、エルフもドロウも暮らしていたのだと。
古代巨人族は、非常に高度な魔法文明を持っていて、エルフやドロウを支配していた。
それに反抗する形でエルフは離反したが、巨人族に追い詰められて北に逃れた。伝承ではそうなっている。
僕の知ってる話とほぼ真逆だった。
「古代巨人族が強力な存在であったことは事実のようじゃし、その力ゆえに滅び、この大陸が呪われた、といわれておるわけじゃ。
エルフがもともと南の地域から移住したとして何の不整合もおきんじゃろう。断言はできんが、これが真実と言う可能性もあるということじゃな」
僕にとっては、エルフがどこで発生し、どう発展したかなんて、正直どうでもいい話だが、かつて北の大陸を支配していたエルフや、そのころの夢を見る者にとっては重要な問題だろう。知られざる歴史の闇を見た気分だ。
驚く話は、それだけでは終わらなかった。
ジャングルの南側の特定地域には、ワイルドエルフ、と呼ばれる種族がいて、見た目こそほぼエルフであるが、文明を失って原始的な生活をしているという。
これは昔話ではなく、まさに今の話だ。彼らは多少の言葉を使うが魔法などの技術は持っていないらしい。
あのプライドの高そうな行政官が聞いたら、無視してスルーするか、エライことになるか。
さらにレーヴァに関しても驚くべき伝承がある。
レーヴァはエルフとドロウの双方の技術がもたらした人造兵で、エルフの古代巨人族に対する抵抗の際に、兵士として用いられた、と言うのだ。
そしてその後もドロウにはレーヴァを作る技術が継承されたが、大厄災を機に失われたという。
大厄災が我々の歴史で語られるものと同じと仮定すれば3万9000年ほど昔の話ということになる。
彼らの話によると、南大陸では当時に作られたレーヴァが活動しているのに遭遇することがあるらしい。彼らの認識だとザックのような現代のレーヴァは古代のレーヴァと似た雰囲気があり、見間違える可能性はあるが、決定的な違いもあるという。
古代のレーヴァは原則として意識を持たない。自我がないそうだ。原則として、というのは彼らの胸部に宝玉が埋め込まれている者は意識や高度な知識を持つという。現代のレーヴァは胸部にコアに代わるものがあるようだが、それはコアではないという。
現代のレーヴァが誕生して戦場に投入されてから200年は経っていない。それはケイニステクニカが作り上げた、ということだが、太古のレーヴァと非常に似通っているという。
僕の頭には一つの仮説が浮かぶ。
南大陸がウエルナート家に割譲される前に、すでにケイニスの探索隊はこの地の調査を行い、レーヴァに関する技術を手に入れていた。
もしかすると、彼らの他の技術の基盤になるものも、この南大陸から得られたものなのかもしれない。
そう考えると……
僕はここで考えるのをやめる。話が大きくなるし、極めてセンシティブな内容でもある。
ただ、この話はハーバーマスターに伝えておいた方がいいだろうと思う。
とにかく驚きっぱなしだ。南大陸では常識が通用しない。それは方々でよく聞かれる話でもある。
だが、今回聞いた話は常識が通じない、レベルではなく、常識が覆される話だ。
その他にもジャングルの向こうの土地に関しての話や、数千年前に栄えた王朝の繁栄と滅亡の話など、伝承や噂話なども含め面白い話がたくさん聞けた。
後日、雑談ついでにハーバーマスターに伝えておいた。ポーカーフェイスの彼の微妙な表情の変化は、なかなか見物だった。
少なくとも彼はケイニスとウエルナート家が関係あることは知らないようだ。
彼が知らないだけなのか、本当に関係がないのかは分からないが、これは政治の話なので僕はこれ以上首を突っ込まない。
個人的には、戦争に発展しないことを祈るだけだ。




