50:嵐の港町 ≪ストームポート≫
25/02/20 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。
それからしばらくは何かと目まぐるしい日々となった。
翌日の輸送船には、避難していたラストチャンスの住人たちが戻り始めた。
少し早いのでは?とも思ったが、住民としても早く戻りたい気持ちが強かったのだと思う。
彼らはある程度戦争の被害を覚悟していたようだが、避難した時とほとんど変わらない様子に安堵していた。
翌日の出航で聖炎の数名、亡くなった従士、マッカラン、司教、シティガードの一部隊、ラッシャキン、そして乗れるだけのドロウたちを乗せて、ストームポートに向かった。
入れ替わりで来た船でラストチャンスの全住民が帰還することになる。
ドロウの全員を運ぶには今日も入れてあと3便は必要だ。レイアやロアン、Gさんは先にストームポートに戻ることになった。
僕は立場上最後のドロウたちと船に乗る予定だ。もちろん、コマリとザックも。
戦死したドュルーワルカの民は、これから暮らす土地に埋葬してやりたいとのことで、奇跡による死体の保存を行い、多くのドロウたちと共にストームポートに移動することになった。
鉄の監視団の部隊は暫くここに駐留するそうだ。
追加派遣されていたシティガードの一部隊は早々に撤収したが、元からの部隊と合わせて2部隊がこの地に残る。当面の警戒のためとのこと。
使用しなかった物資類もストームポートに戻すこととなっているので、船の乗り降りする人々と、荷物で港は常に大混雑だ。
だけど、3日目ともなれば何かを指揮することも、管理する必要もなくなっていたので、僕はのんびりと過ごしていた。
元司令部、今は宿の食堂で、僕はエウリと昼間から一杯やって過ごしている。
エウリはこの地に残り、僕は明日ストームポートに向かう。そんなわけで約束通りのささやかな祝杯を挙げている。
酒が進み、愚痴がこぼれ始める。
まあ、教会という組織は基本的には人間が運営している。世界の人口比率からすると当然と言えるだろう。
当然異種族には風当たりが強かったりする。僕は教会内部とはほとんど関わらないで過ごしてきたので、その辺の軋轢は無いのだけども、エウリはそういう所で生きているのだ。愚痴の一つや二つ、出て当然だと思う。僕ならさっさと飛び出してるだろうな。
ハーフエルはこれまで何人か接する機会があったが、これほど親密になる事は無かった。
彼からしてもたぶんそうだと思う。僕が人間社会で育ったことが一番大きいのではないだろうか。
彼は生まれてからずっと人間とエルフの狭間で生きている。僕はエルフとして生を受けたが、人間の中で育った。
たぶん価値観的に近いものがあるのだろう。
少し気になったので、酔った勢いで聞いてみた。
「エウリくらい綺麗だと、言い寄ってくる女性も1ダースや2ダースじゃすまないでしょ?」
「そりゃ、浮いた話の一つや二つは無い訳じゃない。が、そこはお前らエルフとは違うぞ?」
エウリもだいぶ酔ってるね。この言い様だとエルフの習慣みたいなのは知ってはいる感じだが、自分はそうじゃないとおっしゃってる。
「随分な言われような気がしますね。そこまで言うってことは、想い人がおられるわけですね」
理論展開を無視して、カマをかけてみる。
「そうだな、あの方に仕える剣として生きる。それが俺の願いだからな。だが、まだ俺の力は足りてない」
残っていたカップの酒をぐっと煽る。中は葡萄酒を蒸留したもの、火を付ければ燃えるくらいにはアルコール度数が高いはずだけど。
エウリは店主にお代わりを要求。
付き合うように僕もカップを空にして、お代わりをもらう。ちなみに僕の方はエールだ。
「そうですか、僕はエウリをとても気に入っているんですよ。今夜はしばしのお別れに寝台を共にしたいと思っていたんですけど」
「勘弁してくれ、お前がどうかは知らんが、俺はストレートだ。てか、お前、あの時抱き付いたのは下心か?」
「エウリが望まないことは押し付けませんよ。それに下心もありませんから。エルフの性欲が極めて弱いことはご存じでしょ?」
「ああ、そうだな。悪い。疑ったことは謝罪しよう」
こんな時でも律儀なところは、彼の人柄を物語っている。
あの方の剣として仕える、って事はエウリの上司に当たる人物。この時点で想像できるのは二人に絞られる。
彼はストレートだと言う。ということは、残りの一人。
「まあ、そうですよね。炎の中で初めてお姿を拝見しましたが、テレシア様、お美しいですもんね」
「聖戦士の宣誓式で、あの方から剣をお返しいただいた時に、間近にあの方がおられて、どれだけ心が高鳴ったか。
あの方の為になら命を捧げる事が惜しくはない。だが、少しでもお役に立ちたい。そのためにはより強くならなくては」
ビンゴかな。恋愛感情かどうかははっきりしないが、そう言う点では、僕たちは似てるんだと思った。
まあ、貞操観念に関してはかなり差があることは認めるけどね。
「少し飲み過ぎたようだな。どうも調子に乗ったようだ、すまん」
「酒の席ですよ?気にしたら負けです」
僕は笑って受け流す。恐らくエウリは自らの口にしたシーンを思い出して、少し酒が覚めたのだろう。
「さて、今日はこの辺でお開きにしますか。特にすることもないですが、飲んだくれていたのでは聖職者として問題視されかねませんからね」
「そうだな、それが良いと思う」
「では、おひらきに。乾杯!」
僕はエールを一気に流し込む。
エウリも同じ勢いで…無理はしない方が、と思っていたら、一気にカップを開けて、そのまま倒れてしまった。
神様、ごめんなさい。
聖印を結び奇跡を行使する。
「毒の中和」
ま、気絶だけのようだし、少し経てば目を覚ますでしょう。
このところ、神様にごめんなさいを言う回数が増えている気がする。気を付けないと。
朝の出航の際にオリヴィアと握手を交わし、ソウザとデニスとも握手を交わし、エウリは握手の後に彼から抱きしめてくれた。
昨日のことをまだ気にしているのだろう。
「それではまた」
そう言って僕たちは船に乗った。
ここは南の大陸の冒険の最前線。いつだって通る道のはずだ。
何度だってみんなに会う機会もあるだろう。その時に驚かせるための土産話を用意したいと思う。頑張ろう。
船は順調に進む。
海風が湾内に流れ込んで、南向き、北向きの風が渦を巻くように吹いていて、風に乗るのが容易だという話だ。大きな湾ではあるが、外洋に比べれば圧倒に揺れが少ない。
夕刻にはストームポートのシルエットが見えてきた。
港は影に入って暗いが西日を浴びるシティの様子は、壮観だ。黄金の都、の風情すら感じる。
コマリもこの眺めは気に入っているらしい。
ザックの目にはどう映るのだろう?感想を聞いてみる?やめておこう。
そんな話をする機会はこれからいくらでもあるはずだから。
港に入るころには周囲が暗くなる。
桟橋にみんなが出迎えに来てくれていた。
レイア、ロアン、Gさん、ラッシャキンもいる。え?港湾管理者?
接岸し、早々に船を降りた。
真っ先に港湾管理者の前に立ち、
「何とか事態を凌げました。ご協力に感謝の言葉もございません」
そう言って深く礼をする。
「ご苦労だったな、これほどうまく事が運ぶとはだれも思ってなかったよ。いや、その話はあとでするとして、今対処してほしい事があるんだが」
帰ってきていきなり、ですか?
さすがにこれは口にできない。とりあえず事情を聴くと、
「いや、スラムの移転をしようと思ったんだが、スラムの住人に猛反発されている。説得してくれないか?」
詳しい話はこうである。
この作戦が始まる段階で、急遽ハーバーの倉庫街の外側に、ラストチャンスからの避難民を受け入れるスペースを作った。
公共事業と内政の一環として、その部分に恒久的にハーバーの一部となる住宅街を建設して、そのさらに外側にドロウの居留地を作る計画になっているそうだ。
先行してこちらに来ているドロウたちは協力的で、倉庫街奥の防壁の向こう側に広がるジャングルの伐採を手早く済ませてくれて、城壁に簡易のゲートを作成し、避難民はそこでキャンプを張ることが出来た。避難民が帰還したので開いた土地に建設を行う段で、スラムに協力を求めた。
日当が出て、しかも完成後にはそこの住居が提供されるという破格の条件、なのだが。彼らは現在の居住地から離れることを拒んでいるという。
ちなみに、その先にある、ドロウの居留地は、順調に準備が進んでいるそうだ。
「えっと、説得に当たるのは引き受けますが、最初に移住予定地を見せてもらっていいですか?」
「そりゃ構わんが、なんでだ?」
ハーバーマスターは意外そうに聞いてくる。
「説得するにしても、移住先が良い所なのを伝えられないと。説得するための材料が欲しいじゃないですか」
「そりゃまあ、そうだが」
「そのうえでスラムで話を聞いてみます。なぜ移動が嫌なのか、理由があると思うんです」
「段取りは任せるが、出来るだけ早く取り掛かりたい。始めてしまわないと、中止する理由にされちまうからな」
街の統治者の横やりが入るかもしれない、という事か。
確かにハーバーマスターの権限が大きくなるのは、他の統治者たちから見て気持ちのいいものではないのだろう。
「とりあえず、今日は見学がてらドロウのキャンプで一泊します。遅くとも明後日までにはご報告入れますので少し時間をください」
ハーバーマスターは渋々と言った感じで了承してくれて、
「出来るだけ急いでくれよ、せっかくの事業を台無しにしたくないからな」
と、捨て台詞のように言い残して去っていった。
「これって、良いことをしようとしてるんですよね?」
目が合ったGさんに聞いてみる。
「たぶん、な。もっとも、良いことと言うのが誰にとってか、で変わる事も往々にしてあることじゃて」
ここで立ち話も何なので、久しぶりに気まぐれなロブスターに行って食事を取りながら話をすることにして移動。
落ち着いて現状を確認した。
ラッシャキンが入植地の状況に関して説明してくれた。
さっきの話で順調なのは分かっていたが、そこそこ広さのある土地の使用権が認められているらしい。
詳細な境界とか、土地に関する権利に関しては説明がなされていないようであるが、この辺一帯は、とりあえず使っても構わないという感じのざっくりした説明で、場所を確保するために森とジャングルを切り開いて、簡易的なものであるが住居は確保されているそうだ。
それなりに獲物は獲れるし、シティからの穀物供給もあり、食うに困ることもない。
「だが、穀物に関しては3か月の期限付きだ。それまでに確実に一族が食っていける食料を確保しなければならん」
ラッシャキンは楽観的になれない状況であることを説明した。
僕はその点、それ程問題ではないと思っている。
「恐らくですが、狩人の皆さんには、仕事の依頼が来るとおもいます。そうすればある程度のお金が支払われるはずですので、当面は族長が管理されて食料の購入などに当てられれば良いと思いますよ」
「仕事?お金って?」
誰かに雇われて労働の対価として金を受け取る習慣がないようなので、そこから説明する。
ここでは物を手に入れたり、サービスを受けたりする際に、対価として貨幣を使うことを教える。
実物のコインを見せて、一般的な労働者はこの銀貨1枚か2枚で、一日働く契約を結ぶのですよ、とか、金貨1枚で、山羊くらいなら買えますね、とか。
「危険な仕事ほど、それに見合った金額が支払われます。ジャングル内でのガイドや、荷物の護衛などは、結構な金額が支払われるはずですので、良い収入になるでしょう。ただ、その辺の取引に関しては少しルールがあるはずですので、少しずつ覚えましょう」
「なんか面倒臭いな。必要だったら覚えるしかねえけどさ」
ラッシャキンは後ろ向きな発言だけど前向き。彼の年齢がもう少し上だったら、柔軟な対応は難しい所だろうし、まあ、そもそも移住の話は無かっただろうけど。
いずれにせよ彼が族長で良かったと思うし、このタイミングでなければドロウとストームポートの共存の道は開けなかっただろうと思う。
その後明日の予定を確認して、レイア、ロアン、Gさんと別れる。彼らはロブスターで一泊するそうだ。
僕たちは4人でドロウの居留地に向かう。
のんびりと歩いて10分ちょっとで倉庫街を抜けて、外につながるゲートを抜ける。
緩やかな傾斜地が広がっていて、この辺がスラムの人たちの移転先になる場所だ。
ゲートを抜けた段階で、気象制御の範囲から抜けるらしく、本来のこの地域の暑さと湿度が戻ってくる。夜だからそこまできつくは無いが。
そこをさらに10分ほど歩いていくと、小さな小屋がいくつも見えてくる。
ジャングルを切り開いた際の木材と植物の葉などを用いた簡素な造りだ。近くに行くと小屋と呼ぶには簡素なもの、傾斜させた屋根だけの雨よけとか、そういうものの方が圧倒的に多いが、集落の体を為している。短期間で居住する体制が取れるのは、凄い事だと思う。
近くを巡回していた夜警だろう、僕らの姿に気付いて走り寄ってくる。
そして跪くと「おかえりなさいませ、族長」と言った。
そして立ち上がって振り返り、何かしようとしたところでラッシャキンが止める。
「良い、時間も遅いし、族長もお疲れだ。お前らは警備にもどれ」
そう告げられたドロウは一礼して去っていった。
「ラッシャキン族長お疲れなんですか?」
僕はラッシャキンの顔を見て聞くとあきれ顔で言われた。
「族長はお前だぞ」
はい、そうでした。
翌朝になって、族長らしい事を一つすることになった。
「…これから少しずつではあるが、生活は豊かになっていき、一族は更なる繁栄を享受するだろう。皆さんの一層の働きに期待します」
ラッシャキンからの指示で、まずは族長から訓示の一つも、というアドバイス、と言うか半ば強制的な感じだったので、それに従う。
一応原稿を用意して、ラッシャキンに『族長としての威厳が足りない』と言われた
戦場から戻った人たちにぎらいの言葉、先行してこの地に入って入植の準備を行った人たちへのねぎらいの言葉。
そんでもって最後の締めに向かったが、最後に力尽きた。
少し締まりがないな、とラッシャキンに怒られたが、僕的にはこんなもんだろうと思う。
その後に再度人間側の居住区画の予定地に行き、明るい時間にその場所を確認する。
思ったよりも広い。ハーバーの商業区画と同じくらいの広さはあるようだ。そこで作業していた、ハーバーマスターの部下がいたので、話を聞く。
ここはメインストリートに商業施設を並べて、その城壁側と下側に居住区画が出来るそうだ。大まかな街の図面もあるという事で、見せてもらう。
結構な規模だ。生活排水の流れも浄水の供給経路も、道の計画もしっかりとされている。
そしてこれが、かなり先までを見通した計画であることに気が付いた。
シティの中にも十分な空き地はあるが、そこにドロウをすぐに入れるわけにはいかない。
様子を見る意味で、人間の緩衝地帯を作って、徐々になじませる目的と、想像ではあるが将来的に小規模の町をストームポートから離れた場所に作る際のモデルケースにしようと考えているのではないだろうか。
ラストチャンスもそう言う町ではあるが、規模が大きくない。今後ドロウたちの支援があればラストチャンスも大きくなるだろうし、その先に今のラストチャンスのような小規模の町がいくつもできることになるだろう。
その時の為のテストケース。それが最大の目的なのではないだろうか。ドロウ以外の異種族との交渉なども想定して。
と考えれば、あのエルフの行政官殿あたりが、裏で糸を引いている可能性が高いし、ハーバーマスターの焦り様も納得でもある。
ジャングル側の防壁は無いが、ドロウたちに警備を依頼しており、問題はないだろう。計画ではシティ程の壁は無理だが、石造りの防壁を建てる予定だそうだ。
状況の確認を終えてハーバーに戻る。ロブスターでロアンとGさんと合流。レイアはオズワルトやブレイブ(輸送任務以来の共同任務に当たっている冒険者グループね)と打ち合わせとかで出かけている。
5人になってスラムに向かう。
僕の訪問をそこにいた人たちはみんな歓迎してくれた。
が、少しだけ距離感を感じる。
理由はザックであった。ここにいる人たちでレーヴァを見たことのある者は少数で、実際間近で見るのはみなが初めて。
僕が彼はザック、僕の大切な仲間だよ。そう説明すると、男の子たちが群がった。
ザックの表情は読めないが、子供たちの扱いに困っているのは間違いないだろう。ロアンも近くにいるから、問題にはならないと思う。
女の子達はコマリに興味を示した。とても黒い肌の色と対照的な白い髪。つややかな白髪は光を反射すると銀の輝きを見せたりする。
少しずつ集まってきた大人たちとあいさつを交わして、本題に入る。
話を聞いてみると、非常にシンプルだった。
彼らはここを追われて、城壁の外に追い出されると思っているらしい。しかもドロウ、闇エルフが隣に住むと言われ、供物か何かにされると思い込んでいる。
それで断固反対の立場を貫いていたようだ。
話自体はまあ確かにそう取れるかもしれない。そしてドロウが隣にいるという話が恐怖心を煽ったのだろう。
実際にドロウの話を聞くことはあっても、実物を見る機会など普通は無いし、冒険者ですらドロウに接触した経験があるものは多くはない。
半分は友好的に、半分は敵対的だろうし、中にはドロウレイス、ローズさんのような手練れを相手に命からがら逃げてきた人たちもいるはずだ。
そんな話が先行して、ドロウは例えばヴァンパイアとか、今は亡き狼男なんかのイメージと同列で語られる。ある意味仕方ない。
なので、僕はまずコマリを紹介した。僕の仲間で、僕の奥さんになる人。その段階で周囲はとても好意的に見てくれている。
そして付け加える。彼女はドロウの族長の娘で、あなた達の隣人になる人たちの一族だよ、と。
コマリはにっこりとほほ笑んで、スラムの皆に会釈して見せる。この笑顔は色々な意味で衝撃的だったに違いない。
僕は改めて事情を説明する。
けっして追い出されるわけではないこと。
この場所が嵐の際などは被害が出るし、崩落の危険もあること。
城壁の外ではあるが、いずれはちゃんと防壁が作られるし、ドロウの戦士たちがみんなを守ってくれること。そして引っ越しに当たってみんなの権利は僕が保証すること。
順序だてて説明すると、皆理解し納得して、これが決して悪い話ではないことを理解してくれた。一番の障害はドロウに対する恐怖感だったはずだが、目の前にいるコマリはそれを払しょくさせるのに十分な威力があったと思う。
直ちに移転と言う話だったようだが、そこは僕が交渉して、住める状態になったら順次移転することとし、それまではこの地区で生活する許可を取ることを約束して、ひと段落。
するはずだったのだが、一人反対の姿勢を変えないものがいた。
それはエリーだった。
彼女は水場の祠を放置はできないから、自分はここに残ると言い張った。
なので、その件に関しても、ちゃんとした礼拝所を作って、そこにお移り頂く。もちろん僕が責任を持って。ということで納得してくれた。
ハーバーマスターが口下手なのか、それとも誰か別の人が説明したのかは知らないけど、そもそもコミュニケーションが取れていないのは、交渉以前の問題だ。
こんなことを愚痴っても仕方ないので、早速ハーバーマスターの屋敷に向かう。
ハーバーマスターは執務室におり、すぐに面会となった。
状況を説明し、現在のスラムもすぐに閉鎖ではなくて、進捗に合わせて順次移転に変更された。
そこで、もう一つお願いをしてみることにする。
スラムの移転区画とドロウの区画の境界に、聖炎の教会を作る事を推してもらえないだろうか。と。
ドロウの中にも聖炎を信仰する動きがある。目の前で奇跡を見て、司教の驚異的な力を見れば、当然の流れだと思う。
まだギヴェオン司教に了解は取っていないが、彼は了承してくれると思う。あとは政治的許可が下りるかどうか。教会は基本的に不可侵であることを認めることになるので、もめるネタの一つでもある。
ハーバーマスターが申し出を了承。絶対とは言わないがたぶん大丈夫だろうと、答えてくれた。
僕は調子に乗って、その隣に、天上神の礼拝所もごり押ししておいた。
ひとまず順調に話がまとまり、いい方向に動いていると思う。
それからひと月、あっという間だった。
新しい街の建設は順調に進んでいて、メインストリートの石畳も完成。アッパーサイドには住居が立ち並んでいる。
ドロウの集落も順調に建物が増えており、かなりの木造建築物が並んでいる。開墾されたジャングルに結構な広さの畑と、オーグを買うための牧場も準備されている。基本的には居住区内に住み、畑と牧場はその外に作られる形になっている。
聖炎の教会は、街の統治者の許可もすんなり通り、司教も二つ返事で良いことだ、との流れから今は建物もほぼ完成しており、司祭を務める聖職者とパラディンの卵2名の3人が常駐している。
ドロウたちと毎日作業に来るスラムの住民たちの交流も順調に進んでいて、トラブルが発生することもほとんどない。
もちろん異種族で習慣も言葉も違うのだから、多少の揉め事は起きるが、常駐しているクレリックたちは献身的にそのケアに当たっているので、そのうち皆無になるだろう。
僕たちはと言うと、基本この近辺でうろうろしている感じだった。
パーティには少し申し訳なかったのだが、冒険と言う冒険には出ていない。ストームポートを離れることが難しかったのだ。
僕がドロウの集落と建設中の町のことが気になっていることも大きいし、まだ必要な交渉などが残っていたのもある。
なので、パーティのみんなは、ハーバーの清掃依頼や、近隣ジャングルの魔獣狩り、などをぼちぼちとしている感じであった。
僕がこの期間にしたかったことの一つ、ラッシャキンの義足を作る事にも協力してもらった。
ラッシャキンは膝関節までは動かすことが出来たので、膝下に固定する装具を作る。
大蠍の殻を主な原料にして作った義足は、木材の物に比べて軽くてしなやかなので従来の木製に比べて扱いやすいものになったと思う。
大きな工房で最新技術を用いた物なら、そりゃもっと洗練されて高機能なものになっただろうけど、それでもラッシャキンは喜んでくれた。
少しの訓練で使いこなすようになって、今では若い戦士たちに武術指南をできるくらいにはなっていた。
そのころにはドロウの居留地に関する取り決めがまとまる。集落に関する自治権は認められて、従来通りの一族の運営が可能であるが、一方で土地の所有権に関しては制限を受ける事となった。
農地に関しては自由に拡大させて構わないが、土地の所有権そのものは認められず、使用権を認めるというもの。
居住地に関してはドロウの所有権が認められるが、売買は原則禁止。居住地の拡大が必要な場合は都度協議することとなった。
商売も基本的に自由に行える。ここがシティの管轄でないことが大きく影響した。ただし、ロングコーンと、オーグに関しては御用商人による買取の規制が行われる事になった。
この話がまとまったので、やっとドュルーワルカの族長をラッシャキンに戻すことが出来る。
前族長は習わしに従って追放処分で構わないかな、とラッシャキンに相談したが、彼は『古い習わしに縛られることは無い』と言い、僕は名誉族長という立場に変わった。
文字通り名誉職であるが、長老会儀や族長に対して意見する権限を持つそうだ。
今後、外に出ることが多くなる僕に対しての配慮もあるのだろう。
戻ってきてから報告に行っていなかった天上神の教会にも顔を出さなければならないので、ギヴェオン司教に同行してもらい、教会へと向かった。聖炎と天上神教会の現地トップ会談の形を取って、ギヴェオン司教に見てもらいたいというのが僕の本音だった。
大きな波乱もなく、ここでの協力関係と双方への不干渉を確認する形で会談は終わる。
まあ、特にこれと言って収穫はないが、顔合わせは重要だと思う。
ギヴェオン司教の意見によれば、レンブラント司教は信頼のおける好人物、という事だった。
ギヴェオン司教も闇の司教に関する情報は入っていると思うので、彼がそう言うという事はレンブラント司教は白、と判断してもよさそうだ。
ただ気になる事を口にした。
教会内にかすかだが、妙な空気がある。注意に越したことは無い。と言っていた。もともと教会から疎遠な僕としては、心に留めておけば十分だろう。
そう、ギヴェオン司教がここに長逗留している理由がこの時にわかった。
セーブポイントを再構築するにあたって、街の統治者に入植と自治の許可を求める交渉を行っていたらしい。
結果は限定的ながら許可を得たようだ。これから、あそこに聖炎の信者たちによる町が作られることになるらしい。
なんだかものすごく忙しい日々が続いていた気がする。嵐の港町、という名前は伊達ではないな、と思う。
だけど、その分得るものは凄く大きかった。
僕は居場所と、仲間と、自分の在り様を手に入れることが出来たのだ。
もう少し新しい街が落ち着いたら、また仲間たちと未知の世界を旅することになるだろう。
少しだけ待ち遠しく思えた。
50話目で第一章終了です。
掲載開始から1か月で一章の終わりまで、と思っていましたが、想定よりも長くなってしまいました。
今思えばラストチャンス戦の準備は少し長すぎて間延び感が否めないなと思います。
今後の執筆予定なども含めて活動報告の方に書きたいと思いますので、ご興味があればそちらもご覧ください。
一章が終わったのを機に評価やご感想を頂けると幸いです。
引き続き皆様の御贔屓をいただけますよう、よろしくお願いいたします。




