47:ラストチャンス防衛戦 ≪バトルオブラストチャンス≫
25/02/20 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。
4時間ほど過ぎて、僕が瞑想から覚めるころに、最初の騒ぎが始まった。
どうも町中に向こうのドロウが侵入したようだ。
近くにオリヴィアの姿があるので、状況を確認する。
現在、ラストチャンスの港湾地区西、および港湾地区東で、工作部隊と思われるドロウと交戦中。
近くにいた冒険者パーティと随行している鉄の監視団の兵士、シティガードのチームとが対処に当たっている模様だ。
ということは……
「鉄の監視団の魔法兵は稼働可能?」
僕の問いにオリヴィアは間髪入れずに
「すでに稼働状態。魔法の準備はできていませんが、ワンドによる支援戦闘には問題ありません」
「じゃあ、全員に戦闘準備を通告して。急いでお願い」
Gさんは起きてこない。まだ休んでいるだろう。コマリは起きているだろうが、どこにいる?
そう思って寝泊まりしている部屋に行くと、コマリは呪文の準備中だった。
Gさんはもう少し寝かせておきたい。
僕は下に戻ってオリヴィアにしばらく指揮を任せても良いかと確認し、了承を得てから呪文の準備に入る。
おそらく、ドロウの攻撃は散発的なものだと思う。想像だが、このタイミングで攻撃を仕掛けることでこちら側の呪文の準備を妨害して、向こうの準備が整った段階で最初の総攻撃を仕掛ける流れなのだろう。
聖炎の聖職者達の呪文が封じられるのは痛いが、ここは付き合うしかない。
小競り合い程度では、防衛線が突破されることはないはずだ。
外からはドロウたちの突撃してくる雄叫びと、断末魔の叫びが入り混じって聞こえてくる。
その声が近寄ってくることは今のところない。
少し敵を甘く見ていたことを反省し、改めて集中する。
呪文の準備が終わる。
周囲の様子に変化は見られない。ただ敵の雄叫びの声は圧倒的に遠く感じる。
すぐにオリヴィアに状況を確認する。
「侵入してきた工作部隊はすべて排除に成功。負傷者は出ておりますが、町その他に被害はありません。
正面からの突撃の回数は現在のところ停止しております。数度に渡って攻撃が行われましたが、当方には被害は出ておりません。
カタパルトは現在5番のみが一定間隔で投擲を継続中です」
「向こうの狙いは嫌がらせでしょうね」
僕は口に出して言う。もっとも嫌がらせの為に命が消費されるのは気分の良いものではない。腹立たしくすら感じる。
ただ、前線で弓を射るドロウたちも同じような気持ちになるだろう。これは敵の狙いなのかもしれない。
考えうる限りのリスクは抑えておかなければ。今回は明らかに僕の不手際で、余裕があるがゆえに判断を誤った。
致命的には至っていないが、このちょっとしたミスが後で響いてくることも考えられる。
「前線を回ってきます。引き続き状況の監視をお願いしますね」
僕はオリヴィアにそう伝えて、降りてきたコマリと共に、前線に向かった。
ゲート脇に聖炎の聖職者たちが集まって眠っている。なるほど、セーブポイント駐在は伊達ではないという事か。
司教の指示だろう、敵の攻撃が本格的なものではないと判断し、司祭たちの休養を継続させたのだと思われる。
あたふたしている僕と違い冷静な判断だ。
ドロウの各部隊を回っていくが、士気は高い。
今の所こちらが圧倒的に敵を防いでいる状況なので、余裕はかなりある感じだ。
だが、防衛戦の怖い所は長期化すると時間に比例して士気が下がり続ける点でもある。
攻撃側は比較的好きなタイミングで攻撃を仕掛けられるが、防御側はそうはいかない。
短期決戦が望ましい理由もその辺の都合がある。
一通り見て回って、ゲートに戻ると司教がジャングルの方を腕組してみている。
僕はその隣に立って、「どう見ます?」と短く問いかける。
司教は小さく唸った後に、
「こっちの消耗を狙っておるのだろう。このままじわじわ精神的に削られるのは、あまり歓迎できんな」
「そうですね。できれば一発ガツンと殴っておきたいところですが、こっちから仕掛ける手段がないのも事実です」
「カタパルトでのジャングルへの攻撃は地味には効いていると思うが、それだけだとな」
当初予定されていなかった5号カタパルトは、港のクレーンと搬入された木材での急ごしらえではあったが、現状では一番活躍している。
一番大きなサイズであるため、移動こそできなかったが長いアームのお陰で港からでもジャングルまで届く射程が確保できた。
心配なのは耐久力であるが、使えるだけ使って壊れても、なかったものが役立っているのだからそれで良いというスタンスだ。
「まだ焦る段階ではありません。予定通り、ことを進めましょう」
「そうだな、それが良かろう」
時折ジャングルから聞こえてくる叫び声。それを聞きながらの迎撃態勢。
そのまま3時間ほどが過ぎたころ。
聖炎の聖職者たちは呪文の準備を進めている。敵も同じだろう。もう少しで本格的な衝突が始まる。
そんな緊張感の中、南ゲートすぐの前線本部にラッシャキンが走ってやってきた。
「ローズから連絡が来た。司祭の部隊の一部が前に移動したそうだ。おそらく蠍の群れが先頭で突撃してくるぞ」
「蠍の司教の動きは?」
「いまのところ報告はない」
スコーロウの司教たちはあの大型の蠍を操る力があるらしい。規格的外殻が固い蠍を肉薄させて弓兵隊を潰す作戦か。
総大将は動くつもりはないようだ。
「こちらも容易には接近させませんし、そもそもできないでしょう。くれぐれも後列の射手たちは曲射を続けるように徹底してください」
「わかった」
ラッシャキンが各部隊に向かって檄を飛ばしに回る。
僕はオリヴィアに、監視塔からスコーロウを目視した場合には、それに対する攻撃を優先するように指示を出す。
それにこたえるタイミングでオリヴィアが言った。
「敵がジャングルから進軍を開始しました」
「カタパルト隊は予定通り攻撃開始。弓兵隊にも射撃開始の指示を」
「了解」
「監視塔の魔法兵は初撃で堀に点火し、それ以降は通常通りの攻撃を行って」
「了解」
僕はもとからあるゲート脇の物見台に上がってジャングルの方を見る。
約120メートル先のジャングルから次々に走り出してくる、人影と地を這う蠍。
炎の川と化した堀の明かりが戦場を照らし出して、カタパルトから射出された樽が地面に落ちて石と油をぶちまけている。
そこに監視塔からの火球が飛来してその周辺を一気に火の海に変える。
その近くに着弾した次の樽が炎の波のように広がり、引火した石の火球が周囲に飛び散る。
先頭を走る蠍たちは堀に到達するが、そこから先に進もうとすると、燃え始めたばかりの小枝にハマって身動きが取れなくなりそのまま焼かれていく。
その間も降り注ぐ矢の雨が確実に敵を討ち減らす。
時折向こうからも曲射による攻撃はあるが、数は圧倒的に少ない。
火矢も混じって入るが、あらかじめ消火要員を配置してあるので、被害にはならない。
堀も柵も用意されていない中央にかなりの数の敵が集まるが、それこそ攻撃魔法の格好の的だ。さらに左右からの弓の直接攻撃を防ぐものが何もないので、敵の被害が目に見えて大きくなる。
遮るものが無いので味方を盾にしてゲートまで肉薄してくるものもいるが、そこで待っているのは聖炎の聖戦士たちだ。
数名近寄れたところで突破は叶わない。
約5分後、敵の突撃が止まった。
「攻撃の停止を」
オリヴィアに伝え、各部隊へ命令が伝えられる。
「被害状況を教えて」
「監視塔、カタパルト、被害なし。ドロウ部隊の死者なし。負傷者16名。聖炎に被害なし。
負傷者の治療は完了済みで実質損害ありません」
初戦は完全勝利だ。
「今のうちに少し人手を出して、防御柵の補修をしてもらって。あと各監視塔の一人に魔法の準備を。もう一人は監視を続けるように」
近くにいたシティガードを捕まえて、
「各部隊に矢と、それからバリスタにも矢と弾の補給をお願いします」
続けざまに指示を出す。
「敵もだいぶ痛かっただろうな」
司教がこちらに歩いてきた。多少の返り血を浴びてはいるが、涼しげですらある。
「オリヴィア、監視塔から敵の損害を、概算でいいから報告してもらって」
「各塔からの報告は重複するので、推定の集計ですが、敵兵150~250、スコーロウ15~25、蠍多数、です」
「総兵力の10%以上を失ったわけですね」
司教は腕組して頷いてから言う。
「さて。これでこのまま攻めても上手く行かないことに気が付いた奴らは、どう動くか」
「このまま引き返してくれれば楽ですが、そうはいかないでしょうね」
「連中にもプライドがあるだろうしな。半包囲の形にして陣容を浅く広く取っての一斉攻撃か、
強力な楔を打ち込むか。向こうの戦力からすると、どちらかだろう」
「どちらにせよ、私たちにとっては最大の好機となるでしょう」
陣容を広げれば、こちらが奇襲するチャンスが生まれるはず。
向こうの司教が前面に出てくれば、奇襲ではなく、最大戦力をそこに投入できる。
「私の希望としては、敵の司教とやらの顔を拝みたいものだが」
司教はそう言うでしょうね。
僕もその戦いを見てみたい気はする。
「どちらにしても即応する準備はしておかないと。向こうも再編の都合があるでしょうし1時間やそこらは動きはないでしょう」
「そうだな。次の準備はしておくか。厩舎から馬を10頭ばかり回しておいてくれ」
そう言って司教は聖炎の陣地に戻っていった。
入れ替わるように宿の方からGさんが歩いてきた。
「そろそろ出番も近いようじゃな」
Gさんは準備は出来ているらしい。
僕は補給作業中のシティガードを捕まえて、馬を10頭引いてきて欲しいと頼む。
携行している薬とワンド、スクロールを確認し、鎧のバックルを少し締める。
レイアとロアンも近くに集まっていて、ロアンはレイアの鎧の調整を手伝っていた。
そこにラッシャキンが走ってくる。なんかこの光景は何度か見ている気がする。
「敵が動いたぞ。陣形を横に展開する形で、少しエルダーも前進したようだ。直衛の数は変わらず。
司祭のスコーロウの部隊はエルダーの部隊の前ではなく、西側に移動中」
全方位からの一斉攻撃、司祭の部隊による一点突破の2面作戦か。
「ラッシャキン族長、ローズさんにこの後にエルダーの直衛部隊が前に出てエルダーが手薄になるタイミングが必ず発生するので、その時に合図を上げてください。と連絡をお願いします。あと、手勢を率いて6番隊、一番西に待機してください。おそらく奇襲があります」
オリヴィアは各隊に戦闘が近い事を通達する。そこにエウリが様子を見にやってきた。
「動きがあったのか?」
僕は彼の問いに状況を説明すると、とりあえず司教に連絡を、と言い残して走り去る。
すぐに司教も駆け付けた。
「なるほど、そう動くか。エルダーの大まかな位置は?」
「南門の正面約250メートルあたりと推測されます」
「エウリ、ソウザとマッカランを呼んで来い。最終的な作戦を詰める」
さらに待つことほんの少し。聖炎のデニス以外の指揮官クラスがそこに並んでいる。
司教はそこに置いてある図面を指さしながら指示を出す。
「我々はエルダースコーロウの襲撃隊を援護するために陽動攻撃を行う。
ソウザとマッカランはそれぞれ4騎を率いて私の後方から敵本陣方向に突撃せよ。前哨にいるであろうドロウは蹴散らせ。その後スコーロウの直衛と衝突することになるが、衝突は避けて転進。再度ドロウたちを蹴散らしながら陣に戻って防衛に当たれ。いいか、スコーロウとの直接戦闘は避けろ。
お前たちが簡単に負けるとは言わんが、数で不利だ。引っ張れればベストだが、死ぬことは絶対に許さん。
エウリ、お前は我々が出発する前に、錬金術師の炎を使って、大型カタパルトの着弾地点を爆撃しろ。高度200メートル以下には絶対に降りるな。
火種を巻き終わったら、本陣に帰還し、防衛線を維持せよ。
アレン、すまんが馬に矢除けを施してくれ。こいつらは矢の数本で死ぬことはないが、馬がやられては戻れんからな。
あと、私の騎乗するのにも矢除けを頼む」
エウリはコマリに「奥方様、お手伝いをお願いします」と言って馬の方にコマリとGさんを連れて行く。コマリは後姿から分かるくらいに喜んでいる。
エルフの血は侮れない。
しかし、ここで僕は気が付いた。ソウザとマッカランがそれぞれ4騎を率いるとなると、司教は何に騎乗する?
「司教、馬の数が足りませんが、もう一頭用意しますか?」
「いや、まて。今用意する」
用意するって、どういう事?
司教は荷物から黄金の杖、ロッドのようだ。を取り出して見せる。
それは黄金の輝きをした金属製のロッドで、頭部にははばたく竜の彫刻、その尾がロッドに巻き付く意匠だ。
「これを使う」
そう言って司教は何かを唱え始めた。
「我は命ず。仮初の姿を解き、真の姿にて我が前に姿を現せ」
そう言ってから少し離れたところにロッドを放る。
司教の手を離れた瞬間にロッドは火花を散らしながら膨張して、黄金の竜の姿に変わる。
それを見ていた一同は驚愕するほかなかった。
一般的なドラゴンのサイズからすればかなり小さいと思うが、それでも頭の先から尻尾の先までは4メートルほどか。
「竜の杖…」
僕はこういう魔法のアイテムがある事を聞いてはいたが見るのは初めてだ。
そもそもドラゴンを見るのも初めて。
「さすがに物知りだな。見たことがあるのか?」
司教が僕に話しかけた。
「いえ、伝説の類かと思っていました。実物は初めて見ます。これは本物の竜なのですか?」
「詳しくは私にもわからん。これが喋るのも魔法を唱えるのも見たことが無いし、そもそも本物も見たことが無いからな。
だが、こいつは命令に忠実に動いてくれて、軍馬よりも固く、竜の息も噴く。
幼体だとすれば本物と遜色ないだろう」
僕は一歩竜に歩み寄る。金色の竜は僕の方に顔を向けて、僕を見ている。
生きているようにしか見えない。
「興奮するのは分かるが、こいつに矢除けを施してくれ」
「分かるんなら、もう少し興奮させておいてくださいよ」
僕はそう言いながらポーチから杖を取り出して、竜に向かって降る。
いきなり発動に失敗。少し格好悪い。
もう一度振ると今度は正しく呪文が発動した。
矢からの防御、飛び道具からの防御に特化した呪文だ。
「戦力としてはそれほど大きくないが、与えるインパクトはかなり大きいだろう。大物が釣れるとは思わんか?」
「いや、大物は逃げるんじゃないですか?ただ、取り巻きは必死に食いつくでしょうね」
司教が笑う。ああ、最初に囮役をお願いしたときの自信ありげな顔はこれだったのか。
どんだけ隠し玉を持ってるんだろうか。しかも伝説的な魔法の品とか。まあ、確かにこの人自身が伝説的な存在だから当然なのか。そんな事をふと思う。
少し離れたところからエウリの
「そろそろ始めましょうか?」
と言う声で僕は我に返った。
Gさん、レイア、コマリを集めて、聖職者の奇跡の力を行使する。
状態確認、コマリに献身の盾を施して、準備はとりあえずOK。
パラディン達は騎乗し、ランスを装備している。
最後尾でゴールドドラゴンの背にまたがり、ひときわ大きなランス、竜騎兵の槍を手にしている。
最前列で防衛指揮を任されたパラディン、デニスが、「動き出したようですな」と声を掛けてきた。
同時にオリヴィアの指示で各隊の攻撃が始まる。
「では私も行ってまいります」
エウリは箱を抱えて、右足、左足の順でトントンと地面を軽くけってから、
「はばたけ」
と口にした。彼の足元に白い半透明の翼が現れて大きく羽ばたくと、そのまま急速に上昇していく。
「ラストチャンス西端に敵の奇襲。スコーロウが数体、突然出現して乱戦になった模様。後続の敵部隊は塔からの集中攻撃で前進を阻んでいますが、被害が出始めている模様です」
ラッシャキンの部隊が配置してあるから総崩れになることは無いだろうが、スコーロウの数によってはかなりの被害が出るはずだ。
僕が考えあぐねていると、
「少し運動をしてくる。各員いつでも出られる準備をしておけ」
そう言って司教が飛び立った。
低空飛行気味に味方陣地の上を旋回してから西端に向かう。
目の前でも突撃してきたドロウたちとの戦闘が始まっていた。
堀の火の勢いはかなり衰えていること、先ほどに比べて敵が密度を下げて広い範囲で一斉に来ている事で、防護柵まで迫られる数が先ほどまでよりも若干多い。持ちこたえているが、突破されない保証はない。
始めよう。僕は決断した。
「オリヴィア、2番3番の塔の魔法攻撃を南街道沿いに3斉射ほど集中させて。2,3,5番のカタパルトも正面に火力を」
Gさんに、集合している騎馬隊に対して加速をかけてもらう。
「道を開け!」
前に展開していた聖炎の聖戦士とザックが左右に広がって道ができる。
「突撃!」
マッカランの掛け声とともに10騎が走り出す。
通過後にまたそこを塞ぐように戦士たちが道を塞ぐ。
「オリヴィア、司教に矢は放たれた、と伝えて」
程なくして低空飛行で敵を煽りながら騎馬隊の後ろの位置に付けると、一気に追い越して先行。
騎馬隊は目の前のドロウの歩兵たちを槍で突き飛ばしながら殆ど速度を落とさずに突き進んでいった。
「うまく釣れてくれよ……」
僕は遠ざかる後姿に祈る。
緩衝地帯を抜けてセーブポイントに向かう道に騎馬隊が入った。敵の全面に展開するドロウの部隊を抜けたようだ。
もうそろそろ、合図があるはず。
時間が過ぎるのが遅い。とてつもなく長く感じられる一瞬。
「発光信号を確認。南街道沿い、およそ250メートル」
「Gさん!」
オリヴィアの報告に僕はGさんに声をかける。
僕たち4人は近くに集まっていて、Gさんは加速の呪文を、僕は祝福を行使。
それぞれが相手の左肩に手を添える。
そしてGさんは次の呪文を行使した。
「瞬間移動」
僕たちはその場から、何かに吸い込まれたかのように消えた。




