45:嵐の前 ≪カーム≫
25/02/20 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。
非戦闘員の避難も順調に進み、ドロウの非戦闘員を退避させれば完了、というところまで来た。
順調に物資も運ばれてきており、堀も順調に作られている。防護柵は一応の完成を見て、監視塔を建てる作業が進んでいる。
四日ほどで、おおむねの準備ができつつある感じだ。
思っていたよりも進捗が早く余裕がある。
早々にカタパルトは4基目まで届いており、組み立ても終わっている。
幸い最初に来た少し変わったものはあれだけで、残りの3台はシンプルなスイングアームのカタパルトだった。
まだバリスタは届いていないが、組み立ての必要はなく、使い方もシンプルなので問題ないだろう。
ドロウの弓兵隊が使う長弓も届き始めている。複合弓もある程度は混じっているし、品質も悪くない。軍隊で普通に使われるレベルだ。だがちょっとだけ困ったことが。
ドロウの人たちは、使い慣れた短弓の方が良い、と言う人が圧倒的に多く、人間社会製のロングボウを使いたがらないのだ。
一部の人はコンポジットを使う選択をしてくれたが、大多数が「自分の弓」を使うという。
もちろん慣れた方が狙いやすいし当たりやすいのだが、曲射で長射程の攻撃を考えているので短弓では射程が足りなくなる。
実際に試してもらい、射程の違いを実感してもらったのだが、
「こんな打ち方じゃ当たらない。あなたは弓の使い方を知らないのか?」
と言われる始末。
いや、まあ、おっしゃることも分かりますけどね。
そこで、どういう効果があるのかを実際に試してもらうことにした。
6部隊のうち2部隊を攻撃側と防御側に分けて配置。攻撃側はジャングルの中から防衛陣地を目指して突撃してもらう。
防御側は矢じりを外し、皮を二巻きした矢を射ってもらう。
槍は穂先を皮で巻き締めて、怪我はできるだけしないようにする。
配置についてもらっている間に僕は町中に戻っていくつか指示を出してから、模擬戦闘の会場に戻って、開始を宣言する。
良い憂さ晴らしなのだろう。攻撃側はとても生き生きとしているように見える。まあ、良いガス抜きかな。
攻撃側がジャングルから見え始めると、防御側は号令に従って曲射の一斉射撃を開始する。
号令に合わせ、狙いもそこそこに発射。
一度に100本ほどの矢が降ってくる。接近してくる攻撃側は、当然のように盾でよけ、あるいは掴んで直撃を避けるが、すべてがそう上手く行くとは限らない。
何人かは矢の直撃を受ける。もちろん、痛い程度なので、気にせずに走ってくる。
堀に差しかかると進行速度が遅くなり、堀のすぐ後ろに固まった状態になる。
少しずつ堀から這い出してくると、一方的に弓による狙い撃ちが続く。
一部が防護柵にたどり着いて、超えようとすると柵の反対側から槍で突かれる。
そこまで約5分。ここで僕は終了の宣言。ラッシャキンが双方に割って入って、少し乱暴に止めて回る。
「お疲れさまでした。この時点で攻撃側で無傷な人はどれくらいいますか?」
手を挙げたのは20名ちょっと。
「全く矢が当たらなかった人は?」
約半数に減った。
「革巻きの矢でもちゃんと当たればそれなりに痛いと思います。その矢がちゃんとした矢じりだったらどうでしょう?」
「確かに刺さるだろうが、そのくらいではドロウは止められない」
誰かが叫んだ。その声に多くの者が同意し、次第に大きくなっていく。
「それはおっしゃる通りです。ですが、今回は防衛の為の仕掛けを全部使ったわけではありません。
想像してください。今超えてきた堀がもし油が燃える火炎地獄だったら?」
それを想像しているのだろう。静まり返る。
「矢の他にもこういうものが飛んで来たら?」
僕は合図を送ると、完成済みの監視塔から赤い光点がジャングルに向かって飛翔し、地面に触れて爆発する。
これは、レーヴァの魔法兵により放たれた火球だ。
「他にもこういうものも飛んできます」
僕は再度合図を出す。監視塔の上で了解の応答があり、さらに町中に何かが伝えられると、一呼吸置いてからわずかに風を切る飛翔音が聞こえる。
そしてドスンという鈍い音とともに、離れたところで木製の箱が砕け散り、ジャングルの方向に向けて拳大の岩を撒き散らす。
「あれは石だけですが実戦では油を混ぜます。先ほどの火球が近くに飛べば、あたりは火の海になります。
防御側の方にお尋ねします。先ほどの堀が仮に火のカーテンのように燃え上がっていたら、その向こうの敵を正確に狙えますか?」
返答はない。
「敵も同じです。こちらの攻撃は敵の位置を予測して攻撃できますが、向こうは同じことは咄嗟にはできないでしょう」
静まり返ったドロウたちを前に僕は話を続ける。
「こんなのは誇りある戦士の戦いじゃない。そう思う方が多いでしょう。そして、その通りだと思います。
ですが、我々は生き延びて新しい未来の為に戦うのです。そのために今は戦士の誇りをしまってください。
名誉のために敵を討つのではなく、誇りのために死ぬのではなく、今隣にいる仲間を守るために戦ってください。未来のために生きてください」
そう言って僕はその場を後にした。
最終的には彼らが個人で判断すべきことだとも思う。戦士の誇りをかけて敵と戦いたいと望むものがいるかもしれない。
でも、それは僕が否定して良い事じゃない。僕には決められない事だ。
僕は言いたいことは言った。それをどう受け取るかは、彼ら次第だ。
街中に戻るとオリヴィアが出迎えてくれる。
「カタパルトも問題なしでした。監視塔からの視野も良好です。この距離であれば、ジャングルからの攻撃を受けずに魔法攻撃が可能です」
「他の3台も大丈夫?」
「調整がまだですが、問題はありません。今日中に4基とも調整を終わらせる予定です」
「ありがとう、残りの監視塔も急いで組んでもらわないとね」
「了解しました、引き続き作業を急がせます。師匠、その、ご提案があるのですが」
「何だろう?聞かせて」
「はい。鉄の監視団の配置に関してですが、以下の事をご提案します。
第一に監視塔には魔法攻撃兵を2名ずつ配備。残りの2名は攻撃用のワンドではなく、致命傷の修復を装備し、本陣に待機。
ワンド装備以外の兵は、ドロウの各部隊に1名ずつ、2名をカタパルト周辺に、残り3名は聖炎と行動を共にさせます。
本陣にて私は各員の指揮を執りつつ、師匠の指示を各部隊に伝える役割を担います」
「配置に関してはそれでもいいと思うけど、指示を伝達する役割って、伝令を出すって事?」
「以前に私は部隊指揮用として作られた個体であることはご説明したと思います。そのための機能として、部隊内の兵士とリンクをすることで、彼らのステータスの監視と情報伝達が出来るのです。聖職者の状態確認と魔法使いの言伝の呪文の効果に似ています。これは特に意識することなく常時使えるのです」
「すごい能力じゃない。なるほど、それで指示を伝える訳だね」
「はい。管理できるのは20名までと上限がありますが、その場に行かずとも各部隊に師匠の指示を伝えることが可能です」
聞いて驚いた。確実に指示を現場に出せるなんて、戦争の常識を変えてしまうほどの力がある。
大規模な戦場においては伝令役を務めるローグだったり場合によってはウイザードだったりいるけど、レーヴァに限れば全員に、瞬時に指示が出せる。
「それって結構離れてても大丈夫だったりするの?」
「実際にどれくらいの距離まで機能するものなのかはわかりませんが、この数日の感覚ですと少なくともラストチャンスの範囲程度でなら問題はありませんでした」
「そっか、何にせよ、それは非常に助かる。あ、そうだ、聖炎に3名と言っていたけど、冒険者チームに一人ずつ配備にしよう」
「はい、了解しました」
そこまで話したところにラッシャキンが走ってきた。彼にしては珍しく緊張しているように見える。
部族内で反乱とか起きたのではないでしょうね…
「族長、ローズからのメッセージが届いた。指導者スコーロウを確認したと。現在我々の集落跡にいるようだ」
「どれくらいの数かわかりますか?」
「スコーロウだけで総数50ほどらしい」
いくつかの判断を行って、最初の指示を出す。
「司教とシティガードの指揮官に本部に集合するように伝えてください。あとラッシャキン族長とオリヴィアも同席を願います」
急ぎ宿の一階に。
程なくして司教とシティガードの指揮官がやってくる。
「敵の総大将を補足しました。場所は旧ドュルーワルカの村で、エルダースコーロウ以下約50のスコーロウを確認したそうです」
その間にもいくつか報告が立て続けに入ってきた。
「村の南方の3氏族の村から兵士が移動中の模様、それぞれ、400、400、500。想定される目的地はドュルーワルカの村」
ラッシャキンに3人から報告が立て続けに入ってきたようだ。
僕は彼らにくれぐれも気づかれないように追尾して欲しいと伝えてもらう。見つかるくらいなら見つかる前に戻るようにと、添えて。
地図上に今の敵の分布をコインで示して、状況を整理する。
「恐らくドュルーワルカの村で集結して進軍するつもりですね」
僕はそう言い、ラッシャキンに移動中の3部族がドュルーワルカの村に到達するまでの時間を尋ねる。
「一番早いのが2日、3つ目が到着するのは3ないし4日後くらいか」
「という事は彼らが順調に動けば12日後にはここに来ますね」
「そうだな、その計算で良いと思う」
「それなら、今計画している準備は全部間に合います。で、奇襲の話なのですが」
一同の注目が僕に集まる。
「当初はこのタイミングが第一候補でしたが、今回は行いません。理由は敵が開けた場所にいるので奇襲が難しい事、および敵に十分な戦力があるからです。
投入できる戦力を考えると、エルダースコーロウを討ち取るのは不可能でしょう」
「ではどうするのか」
司教が聞いてくる。
「とりあえずは迎撃準備を進めて、可能なタイミングがあるようであれば奇襲を掛けます。
次に想定しているのは集結後に移動を開始した直後と、ここまで来てから、そして開戦後です。おそらく戦闘開始後の可能性が一番高いでしょう」
「それは正しい判断だろう。今のところ、こちらの想定通りに事は運んでいる。ならば、今後も想定通り進む事を祈り、チャンスを待つのが正しいだろうな」
司教はそう言った。
今の段階で敵との接触時期が明確になったことを共有し、今後の準備を進めていくことを確認した。
短い会議は終わった。
翌日、ドロウの非戦闘員を乗せて船が出た頃に、再び報告が入る。
別動のスコーロウの司祭の一団を確認。これもドュルーワルカの村に向かっているようだ。
僕は偵察隊に今後は集まって行動をするように伝えてもらい、動きがあるタイミングで報告をお願いした。
できればエルダーの位置を監視しながら、敵の追尾をしてもらう。
刻々と針が進んでいく。




