44:魔法使いの弟子 ≪アプレンティス≫
25/02/20 誤字脱字の訂正、ならびに表現の一部見直しを行いました。
僕は宿に戻って遅めの朝食兼昼食を取る。
ここをHQと定めたが、オーナーには了解を取っていなかったので、使わせてくださいと改めてお願いすると、
「そういうことなら、もちろん使ってくれ」
と二つ返事でOKしてくれた。
しかも従業員たちは避難させるが、オーナーはここに残るという。
さすがにそれはマズいと思うので、避難を勧めるが、
「俺までいなくなったら誰が料理を作るんだ?」
この一言で拒否されてしまった。
彼に言わせれば、魔獣の襲来だろうがドロウの襲撃だろうが、いちいち逃げてちゃ商売にならない、だそうだ。
開拓者魂は分かるけども、向こう見ず過ぎるのでは?と正直思うのだ。
後で聞いた話ではあるが、この宿の主人はラストチャンスの最古参の一人だそうだ。
その後、Gさんの所に行ってみると、コマリが何かを分厚い本に書き写していた。
写本でも作っているのかな?そう思ってGさんに尋ねると、
「わしのスペルブックから、とりあえず使えるものを書き写させているのだ」
だそうだ。
一日当たり書き写せる量に制限があるらしく、とりあえず必要な分を移すのに、二日はかかるらしい。
魔法使いは自分の呪文の書を各自が持ち、その中から当日使う魔法を準備する。
本人のスペルブックは他人には見せないものだ、と言う話を聞いたことがあるが、その辺は平気なのだろうか?
「書き写しなら減るものではないし、問題なかろう」
なんだそうだ。
「コマリは魔法の才能は申し分ないからな、ちょっと訓練すればいい魔法使いになる」
うん、お爺ちゃんが孫に魔法を教えてる感じなのかな。
そこで、僕も魔法を教わりたいんだけどと言うと、
「吟遊詩人の魔法に関しては、精霊使いと同じで教えようがないんじゃ。まあ、これでも読んでみろ」
と言って巻物を渡される。
「一応、鎧だの盾だのは外しておけよ」
そう付け加えられた。
魔法使い用の巻物は使うこともあるから、なんか今更な感じだ。
言われた通り鎧を外してからシャツにパンツのラフな格好になって、巻物を確認してみる。
うん、初級呪文の魔法の読解だ、奇跡の力にも同じ効果のものがある。今日は準備はしていないが。
この巻物は秘術魔法の巻物、のようだ。ようだ、と言うのは奇跡の力を発揮する巻物と非常に似通っていて、わずかに使われている言葉に違いがあったりするけど、教会などで使われるものとほとんど違いはない。
読んでみろ、と言う意図が少々分からなかったが、発動させてみる。
発動する際の力の流れ方や、僕に対する影響の仕方、どう違うのか少し悩んだが、断言する。同じものだ。
そこで僕は頭の中で小さな違和感を感じる。
秘術魔法と、信仰による奇跡の力が同じ?
僕は試しに奇跡の力を発動してみる。自分に対して、軽度の治療をかけた。
もちろんダメージなどないので目に見える効果は無いが、確かに奇跡の力が発揮されている。
そして次の瞬間にハッとなった。
僕は、奇跡の力以外で軽傷の治療が行える?
恐る恐る、自分の中で魔法の効果を思い描きながら、発動のカギとなる魔法文字を使った魔力の回路を宙に描く。
それから呟く。
「軽度の治療」
見た目は何も変わらないが、確かに魔法は発動した。
奇跡の力ではない、魔法の力での治癒魔法。
頭の中でもやっと存在していたものが、急速に輪郭を為して、形になる。
「そうか、秘術魔法と、神秘の力、そう言う事なんだ」
自然と口から出た言葉だ。
僕は奇跡の力とは神より行使を許される奇跡の力、と認識していた。大きな意味でそれは間違いではないが、一般に言われるようにその奇跡の力も魔法なのだ。魔法使いたちが使う魔法は、魔法使いが自らその魔力の流れを組み立てて、作用を及ぼす力にする。その準備として、今日使う魔法の構築を行っているのだ。
聖職者は、その準備の段から少し違って、魔力の組み立てやその作用を神から毎朝教わっているようなものなのだ。原理などは知らなくても使えるが、そこに発現する力はやはり魔法なのだ。吟遊詩人や精霊使いは呪文の書を持たない。自分の中にある呪文しか使えないからだ。だからこそ朝に特に準備が必要ない。
ウイザードはその知力によって魔法を組み立て、聖職者は祈りによって力を授かる。吟遊詩人や精霊使いは感覚やイメージで魔法を使う。
僕の中ですごく合点がいった。
「ほう、悟りを開いたような顔じゃな。その様子ならば、お前も訓練すればいい魔法使いになるじゃろうに」
Gさんは僕の様子を見ていたらしい。
「少しだけ魔法を理解できた気がします」
「それはなかなか言えんセリフじゃな。だが察するにお前さんの理解は正しいだろうよ」
頷きながらなんだか満足そうに見えるGさん。続けてこう教えてくれた。
「吟遊詩人の魔法と魔法使いの魔法は似てはおるが、質は異なる。経験する事柄も違うでな。それゆえ魔法使いが使わんような魔法が使えたりもする。もちろんわしらが本気になって研究すれば同じ効果を再現は出来るじゃろうが、それは効率が良くない。心術や音に関しての魔法は吟遊詩人の方が向いておるとは思わんか?」
「たしかに、Gさんの言う通りだと思います」
「なのでちゃんと吟遊詩人の魔法を使おうと思ったらトレーナーを見つけ、一度はトレーニングを受けておいた方が良い。あと、聖職者は重装備でも魔法は失敗せんが、魔法使いは防具を身に付けると失敗する可能性が高くなる。吟遊詩人も重装は出来んだろうから、その辺もちゃんと確認せんとな」
「はい、ありがとうございます」
多分だけど、僕は吟遊詩人というものを今初めてちゃんと理解した気もする。最初に身についたクラスなのに。
でも、出来ることが急に広がった気がするのは少しうれしい。
身に付けたい技術もあるし、その部分は少し訓練をしないと、とも思った。
「はー。やっとおわったー」
コマリの声だ、でも、なんか片言感が無い。
どれどれ、と言いながらGさんがコマリが写した内容をチェックしている。
「コマリ、急に言葉を覚えた?」
「うん、言葉の本質?みたいなことを教わった。そしたら共通語、急に普通にしゃべれるようになった」
若干ドロウ語で話しているのと雰囲気が違う気もするが、確かにほぼほぼちゃんと話せてる気がする。ああ、全般的に言葉遣いが子供っぽいのか。
イメージの問題なんだろうけど、片言の時の方が大人っぽく感じたのは多分間違いないと思う。
「それは凄いね。一日も経ってないのに、そんなに喋れるようになるのは」
「コマリすごい?旦那様の妻になれる?」
いや、そう言う話とはまた違うからさ。
「うん、コマリは本当に凄いと思うよ。でもちゃんとした結婚はまだ先だからね」
Gさんがスペルブックをチェックしてから、問題ないと判断した。
「魔法に関してはこんな所じゃな。続きは明日。で、この後はもう少しお勉強が必要じゃな」
「えー、もうたくさん勉強した?もっとするの?」
「魔法使いとして学ぶべきこと、学んだ方が良い事、訓練すべきことはまだ多い。特に基礎の教育はお世辞にもちゃんとは受けておらんからな。
さあ、もうひと踏ん張りじゃ」
コマリは少々膨れている。たぶん飽きてきたんだろう。
「一息入れませんか?お茶か何か貰ってきます」
僕はそう言って下に降りてから、店主のおじさんに、お茶を二つと、少し甘いものを用意してもらい差し入れた。
「僕は搬入と陣地の準備を見に行ってきますね、コマリ、もう少し頑張ってね」
「コマリ頑張るー」
その声に送り出されて、港の方に向かう。
港には船の姿は無く、僕と一緒に来たコンテナがいくつか積まれた状態になっている。
港で作業している人にお願いして、大きな木箱を開けてもらうと、三つに分解された梱包された、カタパルトが出てきた。
台車部分は一つのコンテナに組まれた状態で収納されていて、タワーの部分が1梱包で、もう一つがアームのようだ。
サイズ感からすれば中型のカタパルト。スイングアーム+スリング式だ。設置するのに移動は可能だが、実際に射出をするには固定しないと無理そうだ。
だが、ここのクレーンを使って組み立てられるし、設置場所までは移動もできる。訓練は街の外に移動させればいいし、ここで使うには理想的だ。
基本的に木製ではあるが、軸受けや軸、荷重のかかる巻き上げ機の歯車などは金属で補強が施されており、精度もそこそこありそうだ。
フルサイズの樽を投擲するには力が足りないと思うが、ハーフサイズのものであればそこそこは飛ばせそうだ。
組み立てはそれほど難しくないが、なんせ大きいし重い。クレーンを活用して組み立てる。
完成までに1時間はかからなかった。組みあがった形は僕が戦場で目にしたことは無いタイプ。
カウンターウエイトや射出物はない状態での動作確認に入る。
海に向けて設置してから、操作員以外は離れてもらう。
リリースポイントの指定は行わずに、二人ががかりでテンションロープを巻き上げて、アームを降りた状態にし、ロックギアをセットする。
ロックギアをリリースするロープを引くと、
ブウン
と勢いよくアームが大きく振られ、そのまま振り子のように動いている。
動作は問題ないが、一つ気になったことがある。アームの先のスリング部分が正しく弧を描かなかったのだ。
射出物を付けていないからかもしれないが、正しく弧を描かなければスリングがある意味がない。
あとスリングのリリースのタイミングの指定方法がよくわからない。
スリングがなければ、スイングアームを止める位置がリリースポイントとなるわけだが、この構造だとそのあとのどこかで、スリングのロープを片側か両側のいずれかをリリースしなければ、勢いそのままに一回転したスリングがアームなり本体なりに激突してしまう。
振り子の動きが落ち着いてから機構を確認する。アームの途中にリリースするための機構が用意されているのを確認した。
金属製の大きめなバネと、歯車がいくつか。スリングに一定のテンションがかかった時点でリリースされる仕組みらしい。
テンションの強さは調整できるようで、なるほど、確かに自動でスリングがリリースされる仕組みのようだ。
これを考えた人はなかなか賢い。でも、実戦向きじゃない。これって射出物の重量が一定でなければ都度調整が必要になる。カタパルト用の規格弾みたいものがあるならいいけど、そうでない場合は、どうするのだろう。
とりあえずこの機構は使わない方針でスイングアームの先端に少し延長するエクステンションと射出物を乗せる籠かトレイを用意することにする。
ある程度強度が担保できれば機能する。なのでまだ避難していない職人さんを見つけてこんな感じでよろしくお願いします作成を依頼、シティガードから二人ばかりその手伝いをお願いして、堀と柵の進捗を見に行く。
あれ?作業をしていないのだろうか?と思ったら、ドロウの人たちは部隊編成を行っている最中だった。
少し遠目から様子を見ていて思ったが、4部隊だと少し部隊当たりの人数が多いかもしれない。部隊の指揮官は置くとして、横に並べる編成だと目が届かない可能性もある。
一方で指揮官を増やすことにはデメリットもある。少し悩んだが、ラッシャキンに声をかけ、申し訳ないけど、全部で4部隊でお願いしていたが、6部隊に編成してもらえないかと伝える。方法は同じで、上位と下位の二つに分けたのちに、それぞれを6分割、そして上位と下位を組み合わせる。これが一部隊。
ラッシャキンは構わんが、なぜだ?と聞いてきたので、部隊運用が柔軟に出来るから、と説明する。
基本的に南門を挟んで3部隊ずつ配置するが、敵の進行に応じて4対2など、柔軟に配置変更がしやすくなる。
「なるほど、ではそれでいこう」
そう言ってラッシャキンはみんなの方に戻っていく。
この手の団体行動は得意ではないだろうが、何とか機能するようになってほしい。
個人の力による戦闘ではなく、軍団としての戦力になるには避けては通れないから。
そしてその軍団としての戦力こそが、数で抗争を仕掛けてくる相手に確実に勝つ手段となる。




