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God Bless You !!  作者: 灰色狼
第一章 嵐の港町 ~ストームポート~
38/90

36:両雄相立つ ≪トゥーヒーローズ≫

25/02/19 誤字脱字の訂正、および表現の一部変更を行いました。



 その日の朝は普段よりも少しバタバタと始まった。

 僕はいつも通りに皆より早めに目を覚まし、不寝番のザックに声をかけてから瞑想を始める。

 その途中でイシュタルが人数分の食事を運んできてくれたので、コマリとローズさんが対応してくれたようだ。

 瞑想中なのでどういう話があったかは分からないけど、コマリの声が少し楽しそうだったのが印象的だ。たぶん彼ともっと早くに話をしたかったんじゃないかと思う。

 寝たまま運ばれた後も目を覚まさなかったGさんがようやく起きて、今日の呪文の準備を始めたようだ。

 他にもエウリが来たようだが、僕が瞑想中なのを知って帰ったらしい。

 朝の支度が終わると早々にキャンプを畳んで移動の準備。僕たちは比較的身軽だが、聖炎(ホーリーフレイム)の皆さんは本格的な天幕を片付けなければならないのでそれなりに時間がかかる。

 僕たちの朝のペースはそれほど変わっていない。周囲の聖炎の人たちの一部がバタバタといそがしそうにしていただけだから。



 朝食をとりながら、コマリからイシュタルが昼前には迎えに来るので、その時は代理の人も一緒に来てほしいと伝えられた。

 正午に決闘開始だから、行ってそのままという運びになるのだろう。

 司教に時刻は伝えてあるから、これは後で伝えればいい話なので、食事が終わってから、僕はエウリを訪ねる。

 何か要件が?と尋ねると、司教が少しだけ話を聞きたいから出発後にローズを伴ってきてほしいとのことだった。

 急ぎではないし、その通りにすればいいだろう。


 彼らの準備が整うまでの間、朝のリラックスタイム。

 イシュタルが持ってきた朝食の中に昨日飲んだ黒くて苦い液体が含まれていた。木製のポットに7人分のカップ。

 素朴な造りではあるがなかなか味わい深い造形で、木製なので厚みはあるものの使い勝手も悪くない。

 ドロウのお茶は今日はあらかじめミルクで割られており、それ以外にも少しスパイスの匂いがした。

 コマリに聞くと、種を炒るときに香り付けを行うために薬草などを一緒に火にかけたり、煎じる際に、他の物を混ぜたりもするそうだ。

 口にすると昨日の印象とはかなり違う。ミルクのお陰で口当たりが柔らかく飲みやすい。ほのかな甘みも感じられる。

 そう思って昨日のお茶を思い出したら、これがコマリ仕様であることに気がついた。

 なるほど、これは万人に受け入れられやすい。

 茶器にせよこのお茶そのものにせよ、質素な暮らしぶりに見えるが非常に高い文化水準であることは間違いない。

 ドロウの文化に触れるのも悪くないな。でもこの後はその最たる伝統行事が控えているのだ。

 もちろん僕が戦う訳じゃないが、冷静でいられるほど他人事ではない。

 だけど、不思議と僕は落ち着いていた。

 ふと思う。

 僕はあの人のようになれるだろうか。

 それは分からない。でも、少なくともあの人の友として恥ずかしくない自分でありたい。

 そんな事を思えるくらいに余裕があった。

 僕が落ち着いていられるのは不思議なことじゃない。

 あの大きくて力強い人が僕に勇気を与えてくれているからだ。

 そうしているうちに聖炎の出発準備ができたようだ。

 

「僕たちもそろそろ行こうか」


 みんなに声をかけて再び村に向かう。


「出発!」


 聖炎でも声が上がる。この声はマッカランさんかな。

 先ほど伝えられたとおりに先頭を歩く司教の脇に向かう。ローズさんを伴って…なぜかコマリもついてきた。ま、問題ない。


「お呼びと聞きましたが?」


 僕は並んで司教の横を進む。


「うむ。少しだけ族長の戦い方を教えて欲しくてな。おそらくは無策で圧倒できるほど弱くはなかろうからな」


 それはその通りだと思う。

 僕はローズさんの方を向いて「いいのかな?」と小声で尋ねる。


「族長は大抵の武器を使いこなされますが、最も好まれるのはドロウの短剣(ドロウロングナイフ)と蠍の尾と呼ばれる刀折り(ソードブレイカー)を用いた2刀での戦い方です」


 あ、いいんだ。

 刀折りとは盾の代わりに使うことの多い防御的な短刀の事で、峰の部分に刃を押さえるための大きく変形した鐔のようなものがある。これは一例で使い手の好みによっていろんな形態がある。


「良いのか?そなたの族長の敵であるぞ?」


 司教も同じことを思っているようだ。


「ええ、構いません。すでに司教の戦いぶりは報告しております。むしろ教える方が公平でしょう」


 ローズさんはさらっと答えた。

 その答えに司教は頷いてから、


「そうか、ではそなたが公平と思う範囲で族長の戦い方を教えてくれ」


「族長は私の師に当たります。私はまだ族長から一本を取れたことがございませんので、それ程の情報を教えることは出来ませんが」


 そう前置きして少し考えた後に続ける。


「族長の戦い方の基本は、優れた体術によるものです。2刀での戦いを好まれるのも体術を生かしやすいからと考えます。

 族長は左利きで、左手にドロウの短剣を、右に刀折りを持たれます。左右の腕の力の差は誤差と言って良いレベルです」


「なるほどな、それだけ聞ければ十分だ。ありがとう」


 司教が礼を言ってローズの言葉を遮る。

 が、言葉を続けた。


「必要ならあらゆる手段を用いる方です。暗器や毒の使い方も一流であると留め置きください」


「うむ。心遣い感謝する」


 そんな会話が終わるころには集落が見えてきた。

 数にして20人。多くは無いが、全員が銀色に輝く揃いのプレートで武装しており、全員が整列すると、それなりに壮観だ。

 柵越しにこちらを見ているドロウの衛兵たちが緊張しているのが見て取れる。多分だけど蠍神(スコルピウス)の司祭を討った話が噂になっているのだろう。

 囲い柵の外側の切り開かれた部分に、聖炎は陣を張る。

 予定の時刻までは2時間ほど。特にすることもなく、コマリと共通語の勉強を兼ねた話をする。

 折り目正しく整列を続ける聖炎の皆さんたちとは、ずいぶんと雰囲気が違う我々のパーティ。

 なんか少し彼らに申し訳ないけど、そこは気にしないことにする。


 2時間なんてあっという間だ。

 気がつけば昼近くになっていて、イシュタルがやってきた。


「そろそろお時間ですので、移動をお願いします」


 イシュタルの言葉に僕は頷いて立ち上がる。

 僕は司教の天幕に向かい、そろそろお時間ですが、お支度の方は、と外から声をかけると


「わかった、今行く」


 そう帰ってきた。

 待つほどの時間は経たずに司教が出てくる。

 いつもと同じ銀色に輝く重装鎧(フルプレート)に同じく銀色の大型盾(ナイトシールド)、普段使っているのとは違う少し大きめの片手剣(ロングソード)

 ほぼ普段通りの出で立ちだ。何か特別の策がある感じには見えない。

 司教は、出てくると近くにいたマッカランに、戻るまでの指揮権委譲を伝え、エウリと聖戦士(パラディン)ではない聖職者(クレリック)の一人、恐らくはここで最高位の人なのだろう、に声をかけて供をせよと命じた。そして僕に向かって言う。


「さあ、行こうか」


 特別に緊張感は無く、いつもと同じような振舞い。

 少なくとも僕から見て、普段との違いは全く感じられない。

 だからこそ周囲には動揺も高揚感もない。全てがいつもの通りだ。

 意図してにせよ、せずにせよ、指揮官はこうあらねばならないのは僕にも理解できる。

 僕は一礼した後に先導して歩き始め、イシュタルに向かって頷くと彼を先頭に、僕と僕のパーティメンバーが続き、その後ろに司教が二人を伴って進む形だ。

 ゲートを通り、少し遠巻きにこちらを見ているドロウの群衆の中を通って、広場に向かう。

 そこはかなりの数のドロウたち集落民が集まっており、自然と形成された円形の闘技場の様相となっていた。

 イシュタルとローズさんは中央付近まで進み、この二人が決闘の見届人であると告げる。

 そこにラッシャキンが姿を現した。

 周囲のドロウたちのボルテージが上がる。口々に族長の、一族最強の戦士の名を叫び、称える。

 ヘルメットの代わりに大きな額当てのついた、冠を思わせるヘッドバンドに深く赤いマント。黒光りする硬質な何かで作られた胸当て。

 同じ材質の脛当てと小手。腰のあたりに剣を吊るしているようだ。

 数歩進み出てラッシャキンが立ち止まる。

 ドロウとしては長身だが、やや華奢にも見える。だが、彼の風格は、まさに王者のそれだ。

 それと入れ替わるように、僕たちは決闘を見守る輪の位置まで下がった。

 司教と族長の視線が交差する。

 周囲の歓声が聞こえなくなるくらいの集中がそこにあるのを感じる。

 二人の戦いはすでに始まっているように感じられた。


「双方とも準備は良いか」


 ローズさんの声が響き観衆が静まり返る。

 すぐさまに司教が手を挙げて答えた。


「戦いの前にわが神に祈りを捧げる時間を頂きたい」


 その言葉にラッシャキンは


「最後の祈りだからな、それくらいの時間はやろう」


 と挑発的に返した。

 司教は軽く一礼すると、族長に背を向ける形で地面に膝をつく。

 そこに随伴していた聖職者が立って、祈りの言葉を述べる。

 いくつかの奇跡が施される。身体強化、一時的な体力、神の祝福。

 それが終わるとクレリックは一礼して僕たちの所まで下がり、ゆっくりと立ち上がった司教は改めて族長の方に向かい、ヘルメットの頬面を下ろしてから、剣を抜き胸の高さに掲げて、不動の姿勢を取った。

 その姿を見てからローズさんが宣言する。


「一族の習わしに従い、族長への挑戦を始める」


 そう一言言って彼女も観衆の輪まで下がった。

 族長は腰のあたりから剣を抜く。左手に幅広の短めな刀、ドロウロングナイフを。右手に赤く塗られた蠍の尾が刀身に沿うように生えている短刀。

 司教は左手の盾を正面に対して構え、右手に握る剣を自分の後方やや下に構えた。


「はじめ!」


 短い合図と同時に、二人はくしくも同じ言葉を発した。


加速(アクセラレート)


 同時に双方輪の中央に向かって猛然と移動する。

 司教もかなり早く移動したように感じたが、輪の中央に達することなく、ラッシャキンの初撃を盾で受けた。

 そこからラッシャキンの凄まじいまでの連打が繰り出される。

 弾かれた短剣の勢いを殺さぬまま、半回転しながら短刀の鋭い突き、さらに再度左手の短剣が外側から薙ぐ動きで胸元を狙う。

 司教は的確に盾で交わしながら剣での突きを見せるが空を切る。

 その剣の引き際に合わせるように再度左手の握る鋭い刃が司教の体側を狙ってくるが、引く剣の角度を替えながら刃の向きをそらす。

 同時に盾で相手の体ごと大きく押し込んで少しの間を取る。


 ほんの5、6秒の間に繰り広げられる攻防。

 僕の目には互角、やや族長が攻め押しているように見えたが、隣で見ているレイアは違う確度から見ているようだ。


「おっさんの今日の得物は片手半(バスタードソード)だ。俺は、近距離戦は避けて間合いを取った戦い方を選択するんだろうと思っていたが、そうじゃない。盾をしっかりと構えるクローズドポジションで、防御的な戦い方だ。だとすると扱いにくい片手半を選択した意味が分からねぇ」


 バスタードソードは片手でも両手でも扱える剣だ。僕は使ったことがないので詳しくは分からないが、通常は片手で使うには重すぎるそうだ。

 確かにロングソードに比べて長さもあるのでアウトレンジで戦うには向くのだろうが、小回りが効かなそうに思える。


「これも何か考えがあってのこと、でしょうか?」


「なんとも言えねえな。想定していたよりも相手の手が早く数が多いので、想定した戦い方が出来ねえだけかもしれねえ」


 こうしてレイアと話をしながらも二人の攻防は続いている。

 大きく振った左手のロングナイフを小さく身をかわして相手の回転が自分を過ぎたタイミングでバスタードソードを鋭く振りぬく。

 がそこにはラッシャキンの姿はない。彼は回転の速度をそのまま落とさずに、しゃがみこんだ姿勢で、回し蹴り。司教の足を刈り取るような技だ。

 司教はその動きをあらかじめ予想していたように右足の角度をわずかに変えて脛で受け止めると、自分も体重を落としながら盾のエッジを使いラッシャキンの止められた足を狙う。盾が地面に深く突き立てられた時にはラッシャキンは素早く態勢を立て直して司教の真上を横切りながら司教の首元を狙い鋭く切りつける。

 司教は振り返りもせずに剣を担ぐような姿勢でラッシャキンの刃を反らし、今度はラッシャキンの着地のタイミングを狙い回転しながら剣を振るう。

 ラッシャキンは着地と同時にそのまま前方に転がって振るわれた剣の下を潜り抜け距離を取って立ち上がった。


「こんな動き、事前の打ち合わせなしで出来るものなのですか…」


 僕は驚きを隠せない。これは剣舞や曲芸の域だ。


「俺には正直なところ自信ねえよ。だが、目の前で繰り広げられてるのが事実ってことだ」


 レイアも二人の戦いに目を奪われている。

 僕は司教の戦い方が、彼らしくないように感じられるのが、すごく気がかりだ。

 反撃はしているが、ラッシャキンの攻撃の手数の多さがやはり目立つ。

 彼を殺すことなく勝利するという僕の願いが、司教の足かせになっているのではないだろうか。


 気がつけば周囲の観衆も静まり返っている。

 思わず息をのむ。その緊迫感に、呼吸すら忘れてしまいそうになる。

 緊迫した二人のやり取りから誰もが目を離せなくなっている。


 その間も二人は激しくぶつかり合う。

 どちらにも致命傷は無いが、盾に付けられた傷の数が徐々に増えてきているのが見て取れる。

 戦いが始まってから5分は経たない。だが感じる時間はそれよりもはるかに長い。

 さらに何度かの攻防の後に、二人は少し大きく距離を取る形となった。

 どちらの手も届かない距離で睨み合いとなる。

 その時、司教は盾を脇へと投げ捨てた。

 え?っと僕は彼が何をしているのか理解できない。

 司教はラッシャキンに対して半身に構える。剣を両手に持って。

 そして小さく何かを呟いた。何を呟いたかは分からなかったが、手にした剣が淡い黄金の輝きを放ち始める。

 司教は少し腰を落としたかと思うと、猛然とラッシャキンに突進した。

 ラッシャキンも司教めがけて走り始める。

 交錯する少し前に司教が剣を振るう。ラッシャキンは一度その場で足を止めて横一文字に放たれた黄金に輝く閃光を見送り、再び懐に入ろうとする。

 がそれよりも一呼吸早く薙いだ勢いをそのままに上段から袈裟斬りに次の一撃が放たれた。


悪を討つ一撃(スマイトイービル)!」


 司教がはっきりとそう告げる。

 その瞬間にラッシャキンは自分の勝利を確信したはずだ。

 この一撃を受け止めればもはや奴の身を守るものは何もない。と。

 ラッシャキンは右の短刀蠍の尾(スコーピオンテイル)で司教の一撃を止めて捻り、その剣を殺す。

 はずだった。


「なにっ?!」


 確かにスコーピオンテイルは司教の剣を噛んでいたが、その勢いを殺すことは出来なかった。

 剣の勢いはそのままラッシャキンの腕を不自然に曲げ、そのまま彼の体ごと押しつぶした。

 司教は素早く剣を一度引き一歩踏み出しながら、地面に倒れ込んだラッシャキンの喉元に黄金の刀身を突きつける。


「悪を討つ一撃は不発か。貴殿が悪党なら、命は無かっただろう」


 あれだけ激しい攻防が、一瞬にして結末を迎える。

 見ている人たちは何が起こったのか理解できない。


「貴殿の勝ちだパラディン。止めを刺せ」


 ラッシャキンがギヴェオンに向かって言う。


「勝負はついたのだ、その必要はない」


 その言葉にラッシャキンが声を荒げる。


「敗者に対する情けのつもりか?私を侮辱するのか!」


 少し言葉を強めて司教は言った。


「勘違いするな。未だ蠍神の使徒である貴様に懸ける情けなど持ち合わせておらん。

 だが、わが友が貴様を殺さずに勝てと無理難題を押し付けたのだ。

 その男なら迷わずこう言うだろう。

 『誇りのために捨てる命があるなら、守るべきもののために使え』、と」


 歯ぎしりを隠さないラッシャキンであったが、その左手に持ったドロウロングナイフを手放し、自らの胸を手で叩いた。


「そこまで!」


 ローズさんの声が響く。

 僕は全力で走って司教の脇を抜けてラッシャキンの元に向かう。


「ねぎらいの一言もあっても良いものを」


 後ろから司教の声が聞こえたが、心の中でそれは後程と言って、ラッシャキンの腕の状態を確認する。

 派手にねじれていて何か所か骨折しているようだ。


「少し傷みます。我慢してください」


 そう言って腕の向きを正しい方向に動かす。


「・・・!」


 かなり痛いはずだ。だがラッシャキンは歯を食いしばり声を上げない。

 僕は腕の位置や向きが正しい事を確認してから、シンボルを空に切って祈る。


重症治療(キュアシリアス)


 神の癒しの力が彼の腕を正しい状態に戻していく。

 軍隊で培った医療技術の一つが役に立つ。

 無理な状態で治癒を施すと、急激な回復の過程で別の骨折が生じたり、場合によっては後遺症を残して治癒したりする。

 酷い骨折の場合はより上位の再生(リジェネレイト)の奇跡が必要となるが、今回はとりあえず問題なさそうだ。


「とりあえず大丈夫そうですね」


 僕はラッシャキンに声をかける。

 ラッシャキンは起き上がると僕の前に膝をつく。


「戦いの決着がついた。新たな族長がここに指名されたのだ。

 もしこの戦いに異議を唱える者がいるなら名乗り出よ。

 見届人である私か、名誉の戦いを終えた前族長が、その剣によって話を聞く」


 そう言ってシンボルである杖をローズさんが僕の所に持ってくる。

 そして小さな声で「受け取りなさい」と言うので、とりあえずは受け取った。

 これで良いのかな?という疑問は少し感じるが、ローズさんの視線で我に返る。

 やんなきゃいけないことがたくさんあるじゃないか。


「族長として、最初に恩赦を行う。ラッシャキンは類まれなる武を持つ優れた戦士だ。一族の為に彼らの力は必要である。

 よって、この場を持って、ラッシャキンの追放を免除する」


 できるだけ大きな声で宣言する。

 幸いにして異を唱える者はいない。

 僕はラッシャキンに立ち上がるように促した。


「次に族長として命じる。我々は蠍神と決別し、この地を離れて別の場所に移る。

 出立は明日。それまでに出立の準備を完了させよ」


 ふう、と一息入れてからもう一つ。


「最後にこの場でラッシャキンを族長代行に任命する。

 詳細はラッシャキンに従え、以上、早々に準備にかかれ」


 少々芝居がかってわざとらしくはあったが、多分意味は通じていると思うので良しとする。

 わからなかった人は共通語の分かる人に聞くだろうし、そのあとは族長代行が上手くやってくれるだろう。


「お前の言葉、確かに胸に刻んだ。もとよりその覚悟ではあったが、改めて部族のためにこの命を捧げる事を誓おう」


 ラッシャキンが僕の前に改めて膝をついてそう言った。

 …僕、今ラッシャキンに何か言ったっけ?恩赦の話かな?

 よくわからないから軽く流して返事をする。


「戦い終わってお疲れのところ申し訳ないですが、皆さんの移動の指揮をお願いします」


「もちろんだ。貴殿の我が一族に対する配慮に感謝する」


 そう言って、握手を交わすと、イシュタルと共に去っていった。

 これで、とりあえずは落ち着けそうなので、離れたところで治療を終えて憮然とした表情のギヴェオン司教の所に行き、まずは礼を言う。


「この度はご尽力いただきましたこと、本当に感謝いたします」


 司教はその言葉を聞くと憮然とした表情を崩すことなく、言い返してきた。


「峠を乗り切ったのは間違いないが、これからの方が大変かもしれんぞ。特に、政治的に、な」


「なるようにしかなりませんし、なるようになりますよ」


 僕は全く根拠なく、無責任な言葉を返す。


「そういう所はエルフらしいな。私は気に入らん」


 そう言う司教の前に僕は膝をつく。そして


「今回の御恩は決して忘れません。いつになるかは分かりませんが、必ずやあなたの友として、力になりましょう」


 このセリフに司教は憮然とした表情を解き、少しいやらしく見える笑いを浮かべてこう返してきた。


「うむ、友として申し分ない言い様だな。だが、高くつくぞ?」


 僕はまだ、この人には到底敵わない。

 武力において勝てる日は決して来ないと思う。それでもいつか、何かでこの人に並び立てる、この人の友として相応しい存在になりたい。

 その後僕たちは外にいる聖炎のみなさんの所に戻った。

 移動の準備が必要のない僕らは、今日はこのままのんびりだ。

 と、その時は思っていた。





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