27:作戦会議 ≪ウォーカウンシル≫
25/02/19 誤字脱字の訂正、および表現の一部変更を行いました。
「いや、参ったな」
隣で膝をつき動けなかったレーベン卿が立ち上がりながら呟いた。
僕も立ち上がり、彼に歩み寄る。
「レーベン卿、ありがとうございました」
僕は深く一礼する。
「いや、見事だったよ。反論する余地すらない。しかも最後にとんでもない隠し玉まで用意していたとはね。
エウリシュア・レーベンだ。エウリと呼んでくれ」
彼はそう言いながら右手を差し出す。
しっかりと互いの手を握って、その時、初めて気づいた。
「失礼ですが、もしかしてハーフエルフなのですか?」
僕の言葉に彼の表情がわずかに曇ったのが見て取れる。
「今まで気が付かなかったのかい?確かに私はハーフエルフだ」
彼は少し引きつった作り笑いを浮かべた。
こういう反応は何度も見たことがある。ハーフエルフによくある反応。
彼らはエルフに対してあまりいい感情を持っていないことが多い。
「そうでしたか、名前を伺うまでは気づきませんでした。失礼しました。エルフの兄弟よ」
最後のエルフの兄弟はエルフ語で言ってから遠慮なく抱き付く。
彼にとってはかなり衝撃的な出来事だろう。
ハーフエルフに良い感情を持つエルフは少ないのだ。
彼らは多くの場合、エルフの一族からは人間とみなされ、人間からはエルフとみなされる。
居場所がなく、時を共有できる友もいない。
結果ひどい孤独感を感じて、こじらせているケースが圧倒的に多いのだ。
聖炎で、こうして聖騎士として地位を築いている彼は、かなりの努力をしてきたに違いない。
困惑したままの彼から離れて、とびっきりの笑顔で彼に問いかける。
「どうしたのですか?」
「どうしたのですかって、そりゃ驚くだろう。いきなり抱き着かれるとは思っていなかったし」
「ああ、失礼しました。こちらに渡ってきてから、エルフらしいエルフをまったく見かけなくて。
話によれば多くはないけど多少はいると聞いていましたからね」
「エルフらしいエルフって、だから俺はハーフエルフだぞ?」
「少なくとも半分はエルフなんですよね?だったら兄弟じゃないですか」
「お前変わってるな」
「よく言われますよ。僕は生粋のエルフですが、人間に育てられたので。
まあ、エルフで1、2を争う変わり者の自覚はありますよ」
彼が最初から僕に突っかかり気味だったのは僕がエルフだったからだろう。今はわだかまりが少し溶け、彼の本音が垣間見える。
少しうれしい。
あ、コマリとNDR114放置しちゃってる。急がないと。
「では後程軍議の場で」
慌てて二人の所に行くと、僕を待っていた監視役のパラディンが拘束具のカギを投げてよこした。
「ありがとう」
そう言って二人の手錠を外し、二人を連れて僕らの天幕に向かう。
あれ、正式な契約とか保証金の話はまだだけど、問題ないよね。彼らが渡してくれたんだし。
3人に改めてNDR114とコマリを紹介してから、僕は軍装の準備をする。慌ただしく鎧を着こんで調整。
そして天幕から出る。
5人は何か話をしているが内容は分からない。僕が外に出てきたのを見てレイアが近寄ってくる。
「問題はなさそうですね」
いろんな意味を含めて僕はレイアに言う。
「ああ、ドロウと戦ったことも多少話をしたこともあるが、あれ程友好的な奴は初めてだよ。お前は人たらしの才能があるみたいだな」
「お褒めに預かり光栄です」
僕は芝居がかった一礼を返す。
「で、さっきの話からすると、これから軍議に参加するんだろ?」
「はい、その通りです。レイアさんにも参加いただいた方が良いかと思ってるんですが」
「その話も含めて、なんだがな、アレン。お前、うちの部隊長にならないか?」
結構突拍子もない話だ。僕は驚いて聞き返す。
「つまりパーティリーダーって事ですよね?僕は新参ですし、レイアが続けた方が良いのでは?」
「俺は前衛だからな。乱戦になったら全体を見渡すのは難しくなる。
だが、基本お前は中衛か後衛だ。盾にならんこともないだろうが、剣もろくに振れないからな」
「ひどい言われようですね。確かに前では肉盾くらいにしかなりませんから言い返しませんけども」
「新参古参は関係ねぇし。お前の判断力と状況対応能力を考慮しての事だ。その方が多分安定する。
もちろん、全部丸投げなんてしないさ。サポートはきっちりしてやる。どうだ?」
これから軍議に入る事を考えれば、今決めておくのは確かにその通りだと思う。
僕が少し考えているのを見て、レイアは追い打ちを掛けてきた。
「とりあえず、権限移譲って事で、代理から始めてみるか。うん、そうしよう」
強引に権限を押し付けられた。
「ほらほら、軍議に遅れるぞ。うまく立ち回れよ。俺たちはここで待ってるからさ」
結構強引に追い出されてしまった。
確かに今回は僕の発案だし、一々発言を交代することを考えればその方がスムーズに進むのは間違いない。
「おし!」
気合いを入れ直して本部テントに向かった。
軍議が始まるまではまだ10分ほどはあるだろう。
天幕まではすぐにたどり着いたので、少しどうしたものか、と思っていたら
「アレン君」
と声を掛けられた。
天幕から出てきたレーベン卿、エウリだ。
「そんなところで突っ立ってないで、中に入って」
天幕に招き入れられる。
各分隊長と思われる聖戦士がエウリの他に3人。僕の姿を確認すると、皆立ち上がってこちらにやってくる。
近づいてきた面々をエウリが順番に紹介してくれる。挨拶を交わし握手。
立っているのもなんだから、と軍議用に用意されたテーブルに着くことを勧められ、僕はそれに従った。
正面が空席で左右に二人ずつパラディンが座る。僕の席は今空席の対面。
彼らの末席に座らせてもらった方が気分的に楽なんだけど、と思うが、こちらに、と指定された以上、そこに座るしかない。
先ほどの裁判の話で少し盛り上がっていると、警備兵が奥の幕を開く。
その音と同時に4人のパラディンはその場に立ち上がり、僕も一呼吸遅れて立ち上がる。
ギヴェオン司教の登場だ。
「楽にしてよろしい」
そう言いながら司教は席に着くと、パラディン達がそれに続き、僕もさらに続く。一同の着席を待ってから司教は続けた。
「ディープフロスト卿、軍議を始める前に協議したいことがある」
僕はすぐさま立ち上がり、右手を少し上げる。発言の許可を求める挙手だ。
それを見て司教が大きく頷く。
「発言をお許しいただき、感謝いたします猊下。
私を卿と呼ぶのはどうかお止め頂きとうございます。
私は貴族に列するものではございませんし、教会の代表者でもございません。
司祭はおろか助祭でもございません。このような場にいること自体が…」
司教は手を挙げる。発言を止めろ、という意味と捉え、僕はそこで口を噤む。
「エウリシュア、エルフとは口数が多いものだな」
「猊下、同感にございます。ですが、猊下の皮肉にも聞こえるのは小官の未熟さ故でございましょうか?」
司教は愉快そうに笑うと、
「エウリシュア、より精進いたせ。
さて、アレン。お主の言い分は分かった。だが、一つ尋ねたい。お主が教会に属するようになったのかは最近の事か?」
「恐れながら申し上げますと、猊下がお生まれになるよりは昔の話かと」
「ほう、それで見習い以上、助祭未満とは、どういうことか」
「大変申し上げ難い事ではございますが、…教会と言う組織にはあまり興味がありませんでしたので、
端的に申し上げれば、面倒でございます」
それを聞いて司教は一瞬固まった後、大笑いした。
「なるほど、そなたが口にするともっともに聞こえる。いかにも、な話だ。
もっとも、お主の才能はその面倒な場所でこそ、役立つであろうに」
「過分な評価恐れ入ります。ですが、教会での立場は確かに力をもたらしますが、同時に責務から逃れることが叶いません。
私の生き様からすればそれは鎖となりましょう」
「そなたの神に対する信仰は疑わん。ましてや天上神教会の話だ。わしは何も言わん。
だが、個人的に一つだけ忠告しておく。そなたの力を羨むものも多くおろう。おのずと敵もまた増える。
その生き方、決して楽ではないぞ。もっとも、そなたがそれに気が付かぬ訳もないか」
「猊下より賜りましたるお言葉、しかと心に刻みます」
そう言って深く一礼した。
「話がそれたが本題に戻る。まずは奴隷譲渡の契約に関して、清算しておきたい」
え、まずは金の話から?僕はちょっと意外に感じた。
「後々でも良いと思っておったが、この流れでは先にした方が良いと考える」
なるほど。確かに僕たちが死んでしまっては一文にもならない話になってしまいかねない。
「はい、仰せのままに。で、猊下はいか程が妥当とお考えでしょうか?」
「6か月の短期契約だ。優秀な剣奴として金貨2000枚。娘の方は正規の値段で考えれば金貨500枚。
ただし、競りにかけたら双方5000枚を超えるであろうな」
彼は俗世での奴隷の扱われ方をよく理解している。
二人とも一度奴隷の身分に落ちれば一生を奴隷で過ごすことになるだろう。
現在の契約は6か月であるが、色々と理由を付けて延長の流れになる。法の規定など意味を持たなくなるのだ。
片方は戦力として極めて有用。片方は性奴隷として長きにわたり稼げることが容易に想像できる。
それが分かっているから、僕は彼らの限定所有権を求めたし、彼らもそれに応じる形に納得したのだ。
「猊下のご判断は適切かと存じます。ですが、この場で決めるとなると、決済も即刻をお望みかと存じます。
ストームポートまで戻れば、金貨1万枚ご用意できると思いますが、この場にて、となりますれば、多くの額は用意できません」
「そうであろう。なので単刀直入に聞きたい。いくらなら用意できる?」
いきなり直球勝負がきた。
駆け引きは得策ではないと判断する。
「恐れながら今用意できる金額となると、即答は出来ません。一度私の仲間に相談せねばなりません」
「そうだな。ではそうしてもらおうか。
一度そなたは戻って額の算定をせよ。早急にな。
その上でその二人を連れて戻って参れ。よいな」
「仰せの通りに」
僕はテントを離れて急ぎ足で戻る。
僕に聞かせたくない話でもあるのだろう。それはいいだろう。彼らが信頼に値するのは間違いないし。
僕らの滞在しているテントに戻ると、急いでレイアとロアンに現在の所持金額を訪ねる。
二人とも大しては持っていないぞ、と言いながら確認して、
「金貨2000枚と宝石類が金貨20000枚相当だ」
「金貨2500枚と宝石が金貨50000枚相当かな?」
「なんでそんなに持ってるんですか?」
ちなみに僕の所持金は金貨500枚ほど。散財した直後なので銀行にも大して残っていないくらいだ。
「なんでって、旅先でも金は要るし、場合によっては交渉事もあり得るからさ、当然じゃない?」
勿論、銀行にならもっとあるけどねと付け加え、ロアンが事も無げに言う。
頭の中でそろばんを弾いてから、二人に金貨を全て貸してもらうことにする。
二人はそれだけで良いのかとか言いながら僕に手渡してくれた。
証書は後で作りますから、と言うと二人そろってそんなもの要らない、と言うので
<利子>を説明してから、二人の了解を得る。
背負い袋に借りた金貨を入れて、近くにいたNDR114とコマリを連れて天幕に戻った。
天幕に入るとテーブルにいた5人がこちらを向く。
司教は思った以上に早かったな。
そう言うと椅子に座るように勧められる。
僕は椅子を後ろに引いてコマリを座らせると、テーブル際に立って司教に一礼した。
その様子を見た司教は何かを察すると椅子を二つ、僕の所に運ばせてくれたので、NDR114をコマリの隣に、僕はテーブルに着く位置に座る。
「集めることが出来る金貨全てをご用意いたしました。5000枚。正規の取引価格としても十分ですし、
諸般の事情を考慮しても納得していただける金額だと思います」
「額の交渉は必要ないのか?」
意外そうに司教が言う。彼が予想した額よりも多いのだろう。もちろん値切りたいが、ここは見栄を張るところだとも思う。
「はい、必要ありません。聖炎の皆様には感謝の言葉もございませんので、こちらの誠意として受け取っていただけると幸いです」
「貴殿の申し出、受けよう。これで清算は終わりだ。
時にそなたはそこの二人をすぐに開放するつもりであろう?」
「はい、それでは罰にならぬと仰せられれば、そうも参りませんが」
「いや、それは良い。であれば正規の手続きは省略という事で良いな?」
正規の手続きを踏むとなると、まず二人に奴隷の契約をさせて従属の輪をはめる。次にその権利を譲渡し、最後に権利の破棄と従属の輪の破壊を行う、と言う手順が必要になる。
いちいち書類を制作しなければならないし、従属の輪という魔法の道具を2つ無駄に使うことになる。つまりは双方の同意のもとでこの過程を省き、手間と時間とお金を節約しようというわけだ。
司教の実務的な判断だし、形式上とはいえ、二人に奴隷契約をさせずに済む点もメリットに感じる。
「ご配慮に感謝申し上げます」
僕は司教に一礼をする。
4人の分隊長の一人、たしかデニスと言う名のパラディンが発言する。
「ではこのまま軍議に入りたいと思います。彼ら二人にはこの場にとどまってもらい、地域の事情などを提供していただきたいがよろしいか?」
その場にいた全員の沈黙をもって了となす。
「ではまず、司教猊下にご意見を賜りたい」
そう言って司教に向かい一例をすると司教がそれに答える。
「情報が少なく想像の域は出んが、敵の斥候と戦闘になる可能性は高いとみている。アレン、貴殿の意見を聞きたい。全体の段取りを含めてな」
僕はその場に立ち上がり説明を行う。
「まず、猊下のお見立て通り、今日中恐らくは今晩、敵の追跡部隊との戦闘が考えられます。
敵の数はそれほど多くないと思われますので、夜襲の可能性が高いと思われます。
また、こちらの方が数的有利ですので、引き返して援軍を呼ぶ可能性も否定できません」
一息ついてテーブルの地図を見る。
「コマリ、この地図で集落の位置を教えてくれないか?」
僕は振り返り彼女に聞くと、彼女は頷いて立ち上がり、テーブル前に進む。
地図をみて少し考えた後、この砦を示す位置から南西にある地点を指し示す。
「正確、違う。この辺り、おおよそ」
「君が歩いてどれくらいで到着できるかな?」
「まっすぐなら4夜。この地図、無い。正確、ちがう」
少し意味を計りかねたので、コマリにドロウの言葉で説明してもらう。
僕はその言葉を確認を入れながら地図にいくつかの情報を書き込む。
そしてコマリにいくつかの確認をしてからその場の人たちに説明する。
「まず、この地図に書き込んだ情報について説明します。
中間地点にあるのが、丘と言っていますが、悪霊の類が良く出るので墳墓の類ではないかと思われます。
ドロウはここを迂回するので、直線なら4日だが通常は5日かかるそうです。
次に、ここに書き込んだ線は大地の裂け目が点在して、その中に丘を抜ける洞窟のようなものがあるそうです。
大きな蠍の巣があって、通常はドロウも使いませんが、一部のドロウはここを通過することもできるようです。
ここを使えば直線で移動するのとほぼ変わらない時間で到達できると言っています」
「発言の許可を」
NDR114が口を開いた。僕は一度司教に視線を送り、彼が頷いたので、NDR114に何だろう?と尋ねてみる。
彼は一礼すると前に進み地図を指でなぞりながら説明した。
「この地図のこのルートが今回我々が辿ってきたルートになる。
このルートは丘も裂け目も迂回して、結果的に5日ほどでこの砦に到達した。
ドロウもこのルートに沿って追跡してきているだろう。
ここと、ここがドロウの追跡隊と遭遇した位置になる」
僕は彼にいくつか尋ねる。
「それぞれの遭遇の際の人数と、ドロウたちの特徴を教えてくれないか?解る範囲で構わないから」
「敵の数は正確ではないが、最初の遭遇は恐らく5名。構成は4名の軽戦士、おそらくは探索者、追跡者、などだろう。ジャングルでの戦闘に精通している。もう一人は蠍神の神官。
2回目の遭遇は全部で6名。うち2名が前回遭遇したレンジャーとクレリック。残りの4人のうち3人はいずれも軽戦士。もう一人が恐らく暗殺者。
上手く撒けたので殺したのはアサシンだけだ。いずれも集落では見たことのないものだった」
「ありがとう助かったよ」
そう彼に告げると、彼も一礼し、元の椅子に座った。
「では、この情報を踏まえて、私の作戦案をご説明いたします」
僕の建てた作戦案は次のようなものだ。
まず、聖炎の部隊を4つに再編成してもらう。一隊は少数精鋭で、2部隊は通常に近い編成で、ただし従士は伴わない。のこりが砦に残留する部隊。
我々のパーティはNDR114とコマリを加えた6名編成で本日夕刻出発する。ルートはNDR114とコマリが逃走してきたルートに近いが、より直線的に少しでも早く進める進路を取る予定。出発のタイミングで追撃部隊の攻撃が予想されるので、その際は聖炎の支援を求める。
翌朝になって守備兵力以外の3部隊が出発。我々の後を進んでもらう。僕たちは夜間行軍し、聖炎の隊は日中行軍。宿営地点は出来るだけ同じ位置なのがベストであるが、そこはマストではなく流動的に。
順調に進んだら5日後、我々がコマリの氏族の説得に当たる。できれば半日以内に移動を開始する予定。
来たルートを砦に戻る。2部隊がドラウ氏族の先頭、後方で警護に当たり、少数精鋭の部隊が遊撃の役割。最後尾、殿を僕らのパーティが務める。
「大前提として、聖炎の部隊は進路に迷ったり、敵の襲撃を受け被害が出た場合には、撤退をお願いします。
そのような事態は無いと思いたいですが、絶対はありませんので。
考慮する点として、忘却の王の呪いがありますが、これは考慮しません。
なので進行に差異が出るとは思いますが、気にせず臨機応変に対応しましょう。
もう一つ判断に悩んでいるのが洞窟です。これは事前に潰せた方が良いのですが、戦力を裂くことになります。
事前に潰してから、ですと敵にこちらの攻勢を教えることにつながりかねません。
皆さんのご意見を賜りたく、お願い申し上げます」
「万が一とはいえ、進軍を開始した我々が、簡単に撤退などは出来ん話だ」
パラディンの一人、マッカランがそう言った。プライドの問題だし、そう言うとは思っていた。
「その点についてですが、少なくともドロウの氏族を連れ出す前に、敵に捕捉されますと、その時点で作戦遂行の可能性が下がります。
進路を迷い、氏族の護衛に付けなければ、皆さんに出張っていただく意味がなくなります。
皆さんがドロウのアサシンに後れを取るとは思いませんが、ジャングルにおける戦闘で一日の長が彼らにあるのも事実です。
無用な犠牲は避けたい。ですからご理解いただきたい」
そう言って僕はマッカランに深く一礼する。
「忘却の王の呪いはどうするのだ?考慮しないと言ったが、そもそも同じペースで進めるのが前提なのだから考慮しないわけにはいかないと思うが」
別のパラディン、ソウザが突っ込んできた。まあ、これももっともな話だよね。
「発動するかどうか、その結果がどうなるのか分からない以上、考慮するのであれば全軍で固まって移動するしか手はありません。
それも方法としては有効だと考えますが、必要以上に時間がかかってしまった場合、砦の防衛が気になります。
この点は先ほどの撤退の理由でもあります。
夜間行軍する我々と日中行軍する聖炎の部隊は夕刻にかなり接近、もしくは連絡の取れる距離にあることが予想されます。
見かけ上の同一集団を作るための方策です。先行する部隊と後続の部隊の進行が逆転するような事は無いのでは、と思ってます。
いずれにしても想像の域は出ませんが、作戦を実施するなら、最善と考えます」
今度はエウリが突っ込んでくる。
「で、抜け道は潰すべきだろう。護衛の2部隊のうち片方を封鎖に向かわせた方が良いのではないか?放置して先回りされ挟撃でもされたら目も当てられん」
そう、まさにそこが悩むところなんだよね。
だから作戦説明、最後は出来なかったんだけど。
話を聞いていた司教がここで初めて口を開く。
「作戦案はおおむね了承だ。最善策と思える。
抜け道を塞ぐ作業だが、別戦力をもって当たるのが良いと思うが、どうであろう」
「別戦力、とは?」
僕は、別戦力?どこにあるのそんなもん。と思いながらも聞いてみる。
「おるではないか、うってつけの人材が。エウリ、そこに置いてある金を持って、物資護衛に来てる冒険者を雇ってこい。
気前よく全額で払うと言ってやれ。まあ、ここで出せる額はそこの金貨以外にはないがな。
うまく話をまとめてこい。今すぐに」
そうか、確かに11人の冒険者がいる。彼らに支払う報酬を見越しての現金決済?
ちょっとね。開いた口が塞がらない感じ。うん。僕はボケボケだ。上に立つ人って、こういう部分での視野が広い。戦略眼って言うやつか。
「・・・(にやり)」
司教の<にやり>に僕は一礼して応じる。
この男、腕っぷしが強いだけじゃない。
「途中までは我々聖炎隊と移動して途中から抜け穴に向かってもらう。最低限出口を塞いでくれればそれでいい。もし探索したいと思うならそうしてくれても構わんしな」
こうして作戦は決まった。
本部天幕では人員配置に関しての協議が続けられている。
僕はコマリ、NDR114と天幕に戻って軍議の内容を説明。夕刻の出立に向けて準備を始める。
正直に言って先行する僕たちのパーティの負担は大きい。特に警戒の任を一手に引き受けるロアンの負担は相当になるはずだ。
だが皆の士気は高い。彼らに加わって本当に良かったと思う。感謝なんて言葉じゃ足りないくらいだ。
僕はそんな事を思いながらNDR114とコマリに話をする。
「もう二人とも自由の身なんだけど、なし崩し的に付き合ってもらうことになって申し訳ない。
特にNDR114はこの作戦に加わる必要はない。コマリはどうしても付き合ってもらわないといけないんだけど」
そう言って深々と頭を下げる。
「これはもとより私の氏族の運命の話だ。それに私があなたについていくのは当然のこと。
あなたが付いて来るなと言うならば、勿論私はそれに従い、この場で自ら命を絶つ」
コマリがドロウ語でさらりと怖い事を言う。そこまで思いつめなくてもいい話、だよね。
コマリに続いてNDR114が告げた。
「あなたは私の主人に相応しい。だが、あなたは私の主人ではないという。私はあなたの意思を尊重する。
だから、私は自由意思により、あなたと共に戦う」
義理堅い奴だな、NDR114。ここでふと思いつく。
「NDR114、もし君が嫌でなければ、君に名前を贈りたい。NDR114も悪いとまでは言わないけど、その人間ぽくない感じがするんだ」
「なるほど、個体識別コード、は個体を分類するものではあっても名前ではない」
僕はふと閃いて、口に出した。
「ザック、と言うのはどうだろう。思いつきなんだけどさ、呼びやすいし響きも悪くない。
そうだな、ザック・・・、ザック・ワイルド、どうかな」
「ザック、私の名前はザック。感謝するアレン。わが戦友よ。私の生きてきた中で最も素晴らしい贈り物だ」
このネーミング悪くないとは思う。
けど後になって冷静に思うと、頭の中にちょっと前の幸福感が残ってたんじゃないかって。
ザック…背負い袋を意味する、方言にあるんだよね、ザックって。。。




