26:審判 ≪ジャッジメント≫
25/02/19 誤字脱字の訂正、表現の一部見直しを行いました。
翌朝、いつもと違う奇跡を準備して動き出す。
休息は何とか足りた。ひどい疲れもない。僕は気力体力共に十分。
「戻ったのがずいぶん遅かったけど、いい男でも見つけちゃった?」
僕の顔を見るなりロアンがからかってくる。
「僕は見ての通り美しいですからね。男も女も引く手あまたですよ」
「おお~なかなか言うねぇ」
そうしていると簡単に支度を終えたレイアも出てくる。
今日は帰りの打ち合わせをするらしい。
打ち合わせの時間まで余裕が十分あるのを確認して、まだ起きてきていないGさんから毛布を剥がし、無理矢理起こす。
「年寄りはいたわるもんじゃぞ!」
はいはい、お爺ちゃん朝ですからね、ご飯にしますよ。
そう言ってGさんの不機嫌はあえてスルー。
パンと薄いお茶をすすりながら、ざっくりと事情を説明する。
「そうか、あのレーヴァはアレンの戦友だったのか。ドロウの娘の事情も分かった。」
レイアが状況は理解できたと述べる。そして言葉を続けた。
「朝一で相談という事は、方針も決まってるんだろう?」
お察しの通りです、はい。
「まず、この方針を勝手に立ててしまったことを謝ります。ごめんなさい。
ですが、今日裁判が行われる流れですと時間がありませんでした。
その上、皆さんを大きな危険にさらすことになる可能性もあります。
ですので作戦参加自体は皆さんでご判断ください。
最悪の場合は僕一人でも実行します」
僕は真剣な覚悟の表情で告げる。
「アレンの覚悟は伝わったよ。じゃが、肝心な内容は聞いておらん」
僕は作戦の概要を説明する。
話し終えてしばしの沈黙。
「まあ、最初の段取りと金の心配は要らんな。その程度なら貸してやる」
「いやいや美味しいところレイアちゃんに持ってかれるの癪だから。そんな面白そうな話は私も乗るからね、半分づつ貸してあげることにしよう」
どういうわけか、二人は勝手に盛り上がっている。
Gさんが少し冷静に口を開いた。
「まあなんだ、博打を討つにして、仕込みは出来とるにしても、勝てるとは限らんぞ?」
「その時は先に言った通り僕だけでも」
「なんともならんからな。まあなんじゃ。仲間が頭を下げて頼んどるのはむげには出来ん。おぬしも含めて最低4人はおるからのう。
そのうえで、じゃ。4人で討ち死にせぬためにも、この博打は勝ってもらわんとな」
僕は4人と視線を交わし、黙って頷く。
作戦開始だ。
まずは街の統治者から預かった親書を手渡しに行く。
朝一番に訪れるのは、非礼に当たらなくもないが、そうは言っていられない。
聖炎の本部になっている天幕に向かい、入り口にいる警備兵にレイアが告げる。
「街の統治者の親書をお持ちした。司教ギヴェオン殿にお目通り願おう」
一介の冒険者とは思えない堂々たる姿に、警備兵の方の腰が引けている。頑張れ従騎士。
少々お待ちを、と言って中に入って行き、小声で何かを相談しているようだったが、
「入り給え」
と短く力強い声が中から聞こえてくる。
「失礼する」
レイアも短く答えてから中へと入る。僕も後に続く。
中はかなり広い。天幕とはいえ、いくつかを連結させて運用しているようだ。入ってすぐの天幕から右奥につながる別の天幕に案内される。
「お食事中に失礼。私は冒険者のレイアと申します」
そういって一礼すると机の最奥に座った人物が口を開く。
「構わんよ、私がセーブポイントを預かる司教、アーノルド・ギヴェオンだ」
思い出した。この人は聖炎のパラディンでかなり名の知れた人だ。聖炎の黄金の剣って異名だったっけ。
かなりしっかりした体格なのが鎧越しに見て取れる。短く切りそろえた白髪の頭髪と威厳のある髭。
そして鎧すら射抜きそうな鋭い眼光。
優雅さと力強さを兼ね備えたこの人の声は周囲を圧倒する存在感を持つ。
レイアは全く動じてない。この人も底が知れない。
「司教様に書簡を預かってまいりました。直接手渡しするようにと言い使っておりますので、失礼します」
その場で一礼して司教の方に歩き出す。
その動きに司教の後ろにいた警備兵、同じ食卓にいた3名の聖戦士が一斉に立ち上がり、剣を抜こうとする。
ギヴェオン司教が無言で手を上げ、制する。
レイアは司教の前まで進み、蝋封された手紙を手渡す。片手で。
「確かに受け取った」
その言葉に一礼すると元の位置まで下がって、もう一度礼をする。
その時点で周囲の緊張が解けて時が動き出す。警備兵は一歩下がり、パラディンは席に座りなおす。
「何が伝言を預かっておるか?」
ギヴェオンの問いにレイアは一言
「早めに目を通していただけるように、と」
「そうか、分かった。ご苦労だったな」
このタイミングで僕は彼の言を遮って一歩前に進みながら、
「猊下、発言の許可を頂きたく存じます」
その場に跪き、首を垂れる。
ちょっとだけレイアの前に出た位置。レイアはその場に立ったままだ。
前に立ったパラディンが
「何者かは知らんが無礼…」
そこでパラディンの動きが止まる。レイアが彼に一瞥をくれた。多分だけど殺気孕みで。
場の空気が一瞬で張りつめる。動じていないのはレイアとギヴェオン司教だけだろう。
「よい。申してみよ」
待っていたその言葉。僕は少しほっとしながら頭を上げ、話始める。
「私は天上神教会に席を置く、アレン・ディープフロストと申す聖職者にございます。
まずは、ご無礼の段、ご容赦ください」
「うむ。謝罪を受け入れよう。続けよ」
「昨夜の事件の裁判につきまして、お願いがございます。私を虜囚の弁護人として、参加させて頂きとう存じます」
「それは何ゆえか、理由次第によっては許可するが?」
「はい。これは全くの偶然ではあるのですが、虜囚のうちの一人、レーヴァと私はいささか縁がございます。
気になりました故に、昨夜見張りの方にお願いして話をさせていただき確認が取れました。
彼は私と共に戦ったかつての戦友です。
かつての仲間であの男の実直なことはよく存じております。故に聖炎の慈悲にすがり弁明の機会を与えていただけるよう、お願いする次第であります」
「なるほど、そなたの言い分は正義に照らして、異を唱えること叶わぬな。弁護人として同席することを認めよう」
「猊下、お戯れを!」
彼の左がわに座る一人のパラディンが、司教に異を唱える。
「そこのクレリックが申すことは理に適う。戯れとは…いや、そうだな。レーベン卿、そなたが告発人を務めよ。私が判事を務めさせてもらうことにする」
「猊下!!」
レーベン卿と呼ばれた少し小柄な男は司教に食って掛かるが、司教はそれを意に介さなかった。
その様子に僕は淡々と
「猊下と聖炎の神のご慈悲に感謝申し上げます」
そう言って一礼し、許しを得てから、レイアと天幕を後にした。
外に出てから数歩歩いた後、
「まずはお前の思惑通りになったな」
レイアがポンと僕の肩を叩く。
「まだ序の口ですよ。それにしても、レイアさん、あの場で切り合いでも始まるんじゃないかとびくびくしたんですけど。」
僕の言葉にレイアは笑い声をあげて答える。
「いや、なかなかの傑物をみてな、つい嬉しくなっちまった。悪かったな」
そう言って笑いながらポンポン僕の肩を叩く。
まあ、なんだ。レイアって頼りになる姉御、だよね。
さて、次の段階に入らないと。
「そいじゃ後は頑張れよ」
そう言ってレイアは去っていった。僕は檻の方に向かって歩く。
話が広がるのが早い。見張りに立っているパラディンは僕が弁護人になる事をもう知っていた。
彼に虜囚と少し話をしたいと言うと、ああ、どうぞどうぞ、と笑顔で通してくれる。
昨夜の話も広まっている。この感じだと、僕の予想通り、いい方向に向かっている。
NDR114とコマリにまず順調に進んでいること、そしてその後の段取りをいくつかの注意点を交えて説明した。
最後に、
「大丈夫だ、きっと上手く行く」
そう告げた時、使いの従騎士がやってきて、30分後に裁判を開始する旨を伝えられた。
僕は了解した旨を伝えると彼らにもう一度言った。
「うん大丈夫。僕は少し準備があるからまたあとでね」
そう言い残し自分の天幕に戻った。
そして20分後。
僕は礼拝用のローブを身に付けて、聖印を首から下げ、ベルトにボトルポーチだけの装備で、急遽設定された法廷に立つ。
本部テント前、この砦のほぼ中央に設置された机3台、椅子5脚だけの野外法廷だ。
一般的に野外で行われる裁判、普通は公開裁判が一般的であるが、多くの場合は処刑の場でもある。
形式としての裁判が行われ、判決前には周囲の民衆から「殺せ」の掛け声が止まらなくなり、判決と同時に激しい投石が始まる。
これで死に至ることは滅多にないので、その場で公開処刑となる。と言うのが一般的だ。
重犯罪に手を染めたものを、民衆の怒りが捌く、ある種のガス抜きのためのショーとして行われるわけだ。
幸いにしてここは民衆に囲まれる事無く、周囲にいる殆どが秩序を重んじ、正義を為すことが人生、そんな聖炎の関係者で埋められる。
何か間違いがあったとしてもリンチになる事はない。
そうは分かっていても緊張はする。
そうこうしているうちに被告人二人が連れてこられ、僕のいる所のテーブル後ろに置かれた椅子に座らされる。
僕は振り返って二人を見る。
二人とも緊張しているように見える。僕は二人に笑顔でウインクして見せた。
それからちょっと後に告発人を務める、レーベン卿と呼ばれていたパラディンが席に座った。
開始時刻よりも少し早く、判事を務めるギヴェオン司教が正面に座ると。
「早速だが始めようか。告発人、罪状と理由、求刑を述べよ」
重々しい声が周囲の雑音を打ち消すと、レーベン卿はその場に立ち、司教に一礼してから語り始める。
淡々とした調子で罪が読み上げられていく。
彼があげたのは4つの罪。
・殺人未遂
・傷害
・治安を乱した罪
・社会に対する潜在的な罪
この4点だった。
上二つは文字通り、ということだ。
治安を乱した罪と言うのは、警察権の委譲を受けている聖炎の指示に従わず、逃亡したことが罪として挙げられている。
最後の社会に対する潜在的な罪、これは解釈によってどうとでもなる、いろいろな意味において便利で難しいものだ。
今回の場合は邪神を崇める一族であること、社会適合できなかったレーヴァと言うことでこの罪が適用されると説明があった。
罪状と適用理由の説明が終わり。状況の説明が行われる。
現場にいた哨戒部隊の報告に基づいた状況が説明されている。これは客観的な事実として淡々と説明されてゆく。
内容は概ね僕がNDR114から聞いた話と食い違わない。極端な主観が混じらない辺りは、さすが聖炎と思わせる。
そして最後にこう締めた。
「以上の刑の累積により、処刑が妥当と判断します。以上です」
「さて、次は弁護人、貴殿の番だ。始めなさい」
ギヴェオン司教の声が響く。
僕は立ち上がり一礼をした後に一歩動いてから話を始めた。
「猊下、まず最初に虜囚に話を聞きたいのですがご許可をいただけますでしょうか」
「よろしい、許可する」
「ありがとうございます、ではまず。」
そう言ってから判事の前まで移動して振り返り。この法廷の中央部に向けてシンボルを宙に書く。
「真実の間」
うっすらと魔法の光が満ちる空間が出来上がる。
「告発人殿、呪文の効果を確認されますか?」
僕はこの呪文が正しく機能しているかを確認するかの可否をレーベン卿に問いかける。
この呪文は領域内に入ったものが嘘を付けなくする効果の呪文だ。呪文の効果に抵抗は出来るが。
レーベン卿は「貴殿を信じましょう」と言ってくれたので、彼に一礼してから続ける。
「では、レーヴァマークイレブン、NDR114、領域の中に進んでください。呪文には抵抗せずに受け入れること」
「はい」
NDR114が呪文領域に入り影響下に入ったことを確認して続ける。
「では、言いたくない話を無理にする必要はありません。その判断はあなたに委ねられます。
その上でこの場において貴方の口にする言葉が、真実であることを誓ってください」
「私は誓うべきものを知らない。なので、私自身の名誉と、貴殿らの信ずる神々に誓おう」
「結構です。では、まず貴方が今回の事件に至った経緯を簡潔に話してください」
「はい、私はこの大陸に渡ってから、自らを求める旅に出たのです。そして---」
先ほどの説明で簡潔に言うポイントは指示してある。彼はそれに的確に従っていた。
生贄となるコマリを連れての脱走、追撃から逃れ、ここにたどり着き、聖炎と交戦した経緯を語った。
「ありがとう。ではもう一つ教えてください。
いま語られたあなたの行動は、誰かの指示によるものですか?それともあなた自身が選択し、決断し、行動したのですか?」
「すべては私自身が決断し、行動しました。誰からの指示も受けておりません」
「最後にもう一つ。あなたはパラディン達を殺すつもりでしたか?」
彼は少し考えてから口を開く。
「殺そうと思ってはいません。逃れることに精一杯でした。
ですが、それでも彼らが執拗に追ってきたので、殺しても仕方ないと思ったのも事実です」
「ありがとう、NDR114。席に戻ってください。次にコマリ、こちらの領域内に進んでください」
僕の指示に従いコマリは魔法の領域内に進む。
「では、まず、あなたが誰であるか、教えてください」
「私は、ドュルーワルカの一族、ラッシャキンの娘、コマリ。蠍神の妻たる者」
周囲よりどよめきが上がる。邪神の名が口に出された、しかもその妻だと名乗ったのだ、当然の反応と言える。
「まずは先ほどのNDR114の話の内容は間違いないですか」
「間違いない。ただ、少し違う。私は逃げる良くない思った」
片言の共通語であるが十分これで十分だ。周囲は彼女の言葉を正しく理解できている。
「良くないと思った。それはどうしてですか?」
「私、蠍神の妻になる娘。一族の誇り」
さらにどよめきが大きくなる。僕はそれを気にすることなく、質問を続ける。
「コマリ、あなたの年齢を伺ってもよろしいですか?」
「39」
「ドロウの基準が私には分からないのですが、エルフの認識では随分と若く感じられます。あなたの部族で成人の儀は何歳で行われますか?」
「年は決まってない。認められれば成人の儀。多くは80くらいで成人の儀」
「なるほど、そうなんですね。ご結婚されるにはまだ随分と早い事は分かりました。では、蠍神の妻になる、と言う意味はご理解されていますか?」
「…」
「質問を替えます。蠍神の妻になると、今のあなたではなくなり、今のような暮らしが出来なくなる、という事は知っていますか?」
「知っている」
「あなたはそれで良いのですか?」
「…」
「もう一度伺いますね。誇り高きドロウの娘よ、あなたに問います。あなたの望みはなんなのですか」
僕は少し声を高めて強い問い放つ。神を演じるかのように。
「…わたし、生きたい。もっといろんな事知りたい。でも、一族の誇り守れない!何をすればいい・・・」
コマリはその場にうずくまり、言葉は弱々しく始まり、弱々しく終わった。静まり返った広場に、小さな泣き声が続く。
僕はコマリの元に行くと膝をついてそっと彼女の肩を抱く。そして耳元で彼女にだけ聞こえるように
つらかったね。でも、よく頑張ったね。あとは僕に任せて。
そう言ってから立たせて、椅子まで連れてゆく。彼女を椅子に座らせてから彼等が立っていた法廷の中央に立つ。
「何の茶番だ!」
レーベン卿が僕に向かって僕に言う。
この人も真っすぐな人だ、真っすぐゆえに行動が読みやすい。
僕は彼に向かい会釈をすると気を取り直して言葉を紡ぐ。
「あのレーヴァは自らの信念に従い、少女を救おうとした。
追手との戦闘で極限状態にありながら、それでも生き抜こうとした。
その状況下で、パラディンたちに遭遇し、静止の命を受け入れることが出来ただろうか?
彼が生き、守ろうとしたことを、誰が咎められようか。
私は、彼の行いは称賛こそされるべきで、罰せられるべきではないと考えます。
ではドロウの少女は?
一族を思い、自ら生贄になる覚悟を決め、その運命に従おうとした。
だが、結果的に逃れ、聖炎の諸氏に保護されるに至り、
かつて崇めた神への決別も厭わず、自らの生への希望を語った少女は、罰すべき存在なのか。
私は彼女は救われるべき存在と考えます」
ここで一呼吸入れる。周囲の人々は黙ったままだ。
「告発人は先ほど茶番とおっしゃったが、私はこの法廷を茶番の場にするつもりはない。
償うべき罪は償わねばならないと考えております。
彼等が生存するため、と言う理由が人を傷つけて良い理由とはなりません。
人命が損なわれる可能性もあったと言うのも事実でありましょう。
そこで、告発人にご提案申し上げます。
被告人は有罪、刑は6か月期限の奴隷契約。
ただし、考慮すべき事情もあるという事で、6か月間の身元は私預かりとする。
もちろん、奴隷の権利譲渡として一定の金額を私がお支払いします。
それは負傷者への今回の事件に対する賠償とお考えくださればよいかと思います。
誰も損をしません。いかがでしょうか?」
「私に引き下がれと言うのか」
レーベン卿は苛立ちを隠しもせずに、僕に言った。
僕は少し恭しく一礼して見せると
「そうではありません、双方とも納得して終わろう、と申し上げている次第です。
どうでしょうかレーベン卿、ご同意いただけませんでしょうか」
レーベン卿は何かを考えていたようだが、意を決したようにギヴェオン司教に向かって言った。
「猊下、私は弁護人の提案に賛成いたします。譲渡金額は別途交渉でまとめる、という事で良いかと」
彼の言葉を聞いてから、僕も司教に向かう。
「猊下双方の同意が得られたものと思います。ご裁定を」
司教は静かに頷き、そして宣言した。
「裁定は下された。以上をもって本法廷を解散する」
この声を聞いたのち、すかさず今日一番の大きな声を上げる。ここからが本番、第2ラウンドだ。
「猊下、お耳をお貸し頂きたい事があります」
僕の発言に周囲の人々がざわめく。
「裁判はもう終わったと。裁定は下ったはずだが」
ギヴェオン司教は少し不思議そうに僕を見た。そして何か考えたようだが
「申してみよ」
静かに言う。
僕は大きめの声で周囲にも十分聞こえるように司教に言う。
「裁判は確かに終わりましたが、まだ片付けねばならない問題がございます」
「ほう?」
「先ほど申しました通り、コマリはまだ自由ではありません。私たちのパーティはこれより彼女の一族の集落へ救出に向かいたいと考えております。
もし、お聞き入れ頂けるのであれば、共に蠍神の尻尾を蹴飛ばしてやりましょう」
僕の声に反応して、周囲のパラディン達が時の声を上げ、聖炎を称える叫びをあげる。
「ふむ、元よりこれが狙いか」
「弱小の小賢しさ、お許しください」
僕は否定も肯定もせずにその場に頭を垂れる。
「恐れながら猊下、聖炎の聖名を知らしめる絶好の機会と心得ます。我々と共にドロウたちの救出にご協力ください」
レーベン卿の思わぬ援護。そしてそれに続く周囲の歓声。
僕も自然と昂揚を覚える。
が、
「調子に乗るなよ、小僧!」
司教の威圧が周囲に一気に広がり、空間を支配する。
「そなたの浅知恵で、神より預かりし者たちを死地に赴かせるわけにはいかん」
僕はあえて立ち上がり、一歩だけ右に移動し彼を見据える。
すごい圧力だ。軽く流すとか絶対に無理。
だけどわかる。僕は試されている。それにここまで来て、引くわけにはいかない。
コマリとその一族を開放する。
そのために手段は選べない。
歯を食いしばって僕は言う。
「誰一人として死なせはしません」
「戦場をなめるな!」
「なめたことは一度もありません!」
一歩も引いてはならない。
「ふんっ!」
司教のその一声で威圧が止まる。
後ろに控えていた警備兵(多分従士だろう)が地面に腰を抜かしたように座っているのが見える。少し可哀そうだ。
「いいだろう、今回はお前の煽りに乗ってやる。
半刻のちに軍議を開く、各分隊長は本部に集結せよ、あと、そこのエルフ、お前もだ」
彼は振り返りもせずに去っていった。
正直生きた心地はしませんでした。はい。
なんか司教って呼ばれる人はみんなろくでも…、とんでもな…、凄い人たちばかりだ。
とりあえず準備段階として満点の結果になったし、良しとしよう。
少し安心すると僕はその場に座り込んでしまう。あれ?
従士が可哀そうとか言ってる場合じゃなかった。
なんか、格好つかないな。




