23:ジャングル ≪ジャングルジャングル≫
25/02/18 誤字脱字の訂正、一部表現の変更を行いました。
夕刻まで休憩なしで歩き続けて、ジャングルの中の少し開けた場所を確認してから、そこで今日の行軍が終了した。
歩くことには慣れているが、このところ少し運動不足だったかもしれない。思った以上に足に疲労が蓄積している感じだ。
荷物が軽くなっていなかったら、もっとキツく感じただろう。
キャラバンの荷車が円形を描くように並べられると、御者たちがその中央で火を焚きはじめる。
その周囲3方向に冒険者グループがそれぞれ集まって火を起こす。
この辺は冒険者のセオリーと変わらず、各パーティが各自時間を決めて見張りを立てるそうだ。
護衛任務だからと言って特に変わることは無い。
野営の準備が始まるとレイアはロアンに周りを見ておいて、と告げた。
「がってん承知」
そう言い残すとロアンは夕闇のジャングルに消える。
単独行動で大丈夫なのだろうか?
「あいつが不意打ちとか食らうレベルなら、キャラバンは全滅するだろうよ」
レイアさんはさらっと言うと、鎧を外し始めた。
プレートを外し終えると、今度は荷物から軽装の皮鎧を取り出して、それに着替え始める。
プレートメールは防御力は高いが重く動きづらい。休憩はそのままでも取れるが、休息をとるのは無理だ。
だから野営の際はこういった軽装鎧を持ち歩くのが一般的だ。もちろん、持って歩ける場合は、であるが。
ホールディングバッグのような装備が無いとそうはいかない。だから駆け出しの冒険者は長い行軍を必要とするような任務は受けないし、受けた場合は鎧を着ない状態で夜を過ごす。
夕闇に溶け込む赤い薄明りの中で、レイアのシルエットは美しく見えた。少なくとも僕が見惚れるほどには。
見張りの順番が、レイア、ロアン、僕の2時間ごと、僕は少し長く3~4時間を受け持つことになる。
エルフは眠る必要が無い。休息の為の瞑想の時間も短くて済む。
ジャングルの中は夜でもかなり湿度が高く、温度も高く、正直不快だ。
除虫菊の粉末を薪で燃やして虫よけにするが、小さい虫は構わず寄ってきたりする。
眠っていても、あまり疲れは取れそうにない。
早くたどり着けるといいな。そう思いながら夜は更けていった。
翌朝、手早く朝食を摂って出発の準備が進む。僕は見張りの時間中に今日の奇跡の準備は終わっていたが、この準備時間を使ってGさんは呪文の準備をする。十分な休養後でないと呪文の準備はできないので、魔法使いは夜の見張りを免除されることが多い。
程なく出発し、昼に一度休憩。
その後、ちょっとした事件が起きてキャラバンは停止することになる。
昼過ぎて順調にジャングルの中の道を進んでいく。
僕は突然の出来事に何が起きたのか分からなかった。
前日同様荷車の後ろに座っていたGさんが、その姿勢のまま宙に浮いて静止している。
彼の時間だけが止まっているかのようだった。
「ロアン!!」
荷車の上に立って周囲の警戒をしているロアンを呼ぶ。
ロアンはこっちの様子を見て、事態を把握したようだ。彼女は「またか」と小さく漏らすと
「レイア!」
と前方のレイアに指示を出し、キャラバンを停止させた。
この時Gさんは後続の荷車のライノスの鼻先で静止した状態だ。ライノスに匂いをかがれたり、舌で舐められたりしている。
ライノスは草食と聞いているので齧られたりする心配はないだろう。
「警戒してくる」
ロアンがジャングルに向かって走っていく。
僕も周囲の警戒に立つ。
「ちょっと気になるので哨戒中だ、この場でこのまま待機!」
レイアは大きな声で後方に叫ぶ。
伝言ゲームの要領で「待機!」の声が後方に伝えられていく。
僕も周囲の警戒を行いながら、レイアに尋ねた。
「一体何が起こってるんですか?」
レイアは少し笑いを堪えながら僕に答えた」
「たぶん、何もない。詳しい話は夜にでもしよう」
そこまで言って彼女は小さく噴き出した。
Gさんはライノスに髪をむしゃむしゃと咥えられて、涎まみれになっていた。
数分経つと、Gさんはその場に普通に立っていた。そして「うげぇつ」と締まりのない声を上げる。
後続の御者がその声にGさんがそこにいる事を知り、その様子を見て大笑いし始めた。
そしてさらに数分後、ロアンが周囲の哨戒からもどると、Gさんを指さしながら一仕切り笑い、そして
「周囲に問題なし」と告げると、レイアの掛け声でキャラバンは再度進み始めた。
僕には何が起こったのか全く分からなかったが、Gさんが正常な状態ではないことは理解できた。
後で説明してくれるということだから、それでいいだろう。
その後は順調に進み、2泊目の野営となった。
野営に適した場所が見つからなかったので、今日は一列縦隊のままでのキャンプとなる。
道の真ん中で火を焚くのもどうかとは思うが、基本的にここを往来する人はいないので、それほど問題は無いだろう。
先頭と中ごろの左右、そして最後尾と5か所で野営の準備が始まる。
食事の時に事の顛末の一端が語られた。
その内容は、僕の常識を超えていて、理解は出来なかったが納得できる話でもあった。
Gさんは何らかの理由で、不定期に次元の干渉を受けることがあるという。
「お爺ちゃん、時々魂が抜けちゃうんだよねー」
ロアンの言葉はある意味、一番説得力がある。
冗談は置いて、干渉を受けている間はGさんの時間は停止しているようで、その症状の出方は大きく分けて3種類。
今日の状態が固まる。完全に静止してしまう。
二つ目が、彼の時間だけが徐々に遅れていくディレイ。最後には静止することが多い。
3つ目がその場で何かしているアクションを繰り返すリピート。
いずれも少し経つと回復するらしい。
僕は気になったので聞いてみる。
「交戦中にそうなったらまずいのでは?」
「そうなんだよねーそれはすごくマズイんだよねー」
「ちょっと前に他のパーティと共同討伐に行ったんだが、その最中に固まってな。
幸い討伐には成功したんだが、被害が大きくなったことがある」
レイアさんの説明に僕は少し深刻な面持ちになった。
一通り考えを巡らせた後に
「まあ、事前にわかっていれば対処のしようもあるでしょう。もしGさんが聖職者で、僕が前衛職とかだったら、脱退も検討するところですが。
大勢は影響ないでしょう?その分は僕も穴埋めできるように頑張りますし。僕もGさん好きですからね」
そう言うと今まで沈黙を守っていたGさんが重く口を開く。
「すまん、迷惑をかけることになるが…」
「らしくないですよ。言ったじゃないですか、僕はGさんが好きなんです」
そう言ってにっこりと笑って見せる。
「アレン~~」
感極まったのかGさんが僕に抱き着いてきそうになったので、すかさず盾でブロック。
「桶を借りてお水を用意しますから、まずはその涎を何とかしてくださいね」
乾いたライノスの涎は、なかなかキツイ臭いを発していた。
ロアンが素早く桶を借りてきてくれたので、神様にお願いしてそこに水を満たす。
こんなことに奇跡の力使っていいのか…と思わなくはないが、「神様も大目に見てくださるでしょう」と自分に言い聞かせ、それ以上は考えないことにした。
この夜は孫に介護されながら風呂に入るお爺ちゃんの様子を遠目に見ながら、更けていった。
「調子に乗るな、この色呆けジジイ!!」
ロアンの声がジャングルに響き渡った。
夜襲の類もなく順調に3日目だ。この分だと早く任務も達成できそうだな。
そんなことを思いながら朝の出立の準備を続ける。
ああ、これは慢心。帰り道もあるのだし、まだ気を緩めてはだめですね。神様、僕の慢心をお許しください。
その日もトラブルはなく、平穏で平和な日だった。
暑苦しいのは変わらないが、3日目にもなると少しは慣れてくる。
体が順応しているのだろう、水の消費も少し少なくなった気がする。
夕刻にさしかかり、そろそろ野営地を探すかな、などと言い始めた時、ロアンが何かを察知し、レイアはキャラバンを止めた。
僕はGさんが普通に居眠りしていることを確認してから、「何事?」と聞くとこちらに向かってきていたレイアは
「この先に何かある。現在偵察中だ。このまま待機」
と後続に伝えた。
待つこと10分ほど。
偵察に出ていたロアンが戻り、こう告げた。
「砦がある。警備は聖炎の連中みたいだよ」
レイアは何かを考えている。
日程のちょうど半分くらい。ラストチャンスとセーブポイントの中間地付近に警備の拠点を設けた?
そんな事を考えていると、レイアが判断を下し後続に伝える。
「大丈夫だと思われるが、慎重に越したことは無い。うちのパーティが先行して様子を見に行く。もし赤の信号弾が上がったら、急いで引き返せ」
そう言うと僕たちはレイアを先頭に歩いていく。
普通の進行速度で10分ほど進むと、広く切り開かれた一帯に差し掛かり、その先の木製の柵とゲートが詳細に見える。
ゲートまで30メートルくらいに近づいたタイミングで兵士が叫んできた。
「静止せよ、何者か!」
手には柄の長い戦斧のようなものを持っている。鎧一式は僕も知っている聖炎のものだ。
レイアは馬車を制止し、兵士の問いに答える。
「我々は物資輸送のためセーブポイントに向かっている途中だ。聖炎はなぜこのような場所に関を築いているのか」
少し、向こうからの返答に間があり、緊張感が否応なしに高まる。
「狐にでもつままれたか?よく来たな。物資輸送感謝する」
と、返答があった。後に、付け加えられる。
「ここが、セーブポイントだ。予定よりも早く着けたんだろ?ラッキーじゃないか」
にわかには信じられない。
レイアも判断に迷っているようだ。
向こうはこちらの反応に覚えがあるようだ。
「心配は要らない。ここは間違いなくセーブポイントだ。わが神、聖なる炎に誓って偽りはない。
神官もいるようだし、悪看破を用いると良いだろう」
レイアと僕は顔を合わせて頷くと宙に神の印を描き、行使を宣言する。
「悪看破」
敵意が無いことを示しながら僕はゆっくりと近づく。
悪意を持つ反応は全くと言っていいほど感じない。
そのまま近づき、手の届くところまで達すると、
「よく来たな若い聖職者よ、異教であっても善き旅人は歓迎だ」
そこにいた衛兵の一人が右手を差し出す。
「歓迎に感謝いたします。聖炎の使徒の方々」
僕はそう言って右手を握り返した。
とりあえず僕とGさんはその場に残り、レイアとロアンは後続を連れて来るべく一度下がっていった。
15分後。
木製のゲートが開かれキャラバンが中へと入っていく。
こうしてセーブポイントへの旅は予想外に早く終わった。
帰り道はあるが、荷物を護衛しなくて済む分、圧倒的に帰りは楽なはずだ。
僕はそう思っていた。




