19:ストームポート案内所 ≪イフユーアコンフューズド≫
基本的にストーリーに影響しない話となります。
説明主体の話になりますので、この世界や勢力関係などに興味の無い方は読み飛ばしていただいても差し支えは無いかと思います。
ただ、後に解説無しに固有名詞が出てくることがあると思いますが、その際にここに記載がある可能性が高い事をご留意ください。
この世界に興味をお持ちいただいた方は是非ともご一読ください。
25/02/18 誤字脱字の修正、一部表現の変更を行いました。
25/04/06 脱字の修正をしました。
ミーティングが終わって解散となり、とりあえず街の中を見て回るかな、宿を出ようとしたところ、ロアンさんが声をかけてきた。
「この街は初めてなんでしょ?迷子になるよ?あたしを雇わない?」
渡りに船だ、と思うが、雇わないと来たか…当然ながら料金は冒険者基準なんだろうな…。
そんなことを考えている間を読んでか、続けて話しかけてくる。
「料金は街歩き中の飲食代と、今夜の晩飯をもってくれればそれでいいからさ」
そう言ってウインク。
最後のウインクが、妙に怖く感じたが、それくらいならとお願いすることにする。
「ざっとまず概要を説明しとくよ」
そう言ってシティの構造に関して説明してくれる。
「南にあるハーバーゲートからまっすぐ行くと倉庫街がある。さらにその先には中央広場と中央市場、そんでもってその先に統治者の館があって、さらにその先に天上神の教会があり、北の城壁に達する。これが中央の縦のラインの位置関係だ。ここまではおっけ?」
僕は頷く。まずは中央公園を目指して歩くことになった。歩きながらも説明が続く。
中央市場は、大きなテント状の建造物で、中には売買資格を持っている商人たちの小店舗が並んでいるそうだ。基本ここで手に入らないものは無い。
キャッスルってのはここの地権者が住んでるお屋敷だね。
説明は中央広場から西に向けて説明されてゆく。
中央広場西側に銀行がある。銀行は現金類の預かりだけでなく貴重品の預かりも行い、その安全を保障する。
「銀行の口座と貸金庫は作っておいた方が良いよ」
とロアンにも勧められる。彼女の話だと、主大陸と同じギュンターテクニカの運営だが、本土とはここでの契約の都合上異なる面もあるそうだ。
ギュンターの提供するサービスは、どこの銀行であっても同じサービスを提供する点にあるのだが、ここだけは例外で、現金に関しては共通で扱えるが荷物に関してはここの支店だけ独立した扱いになっている。南の大陸からの物の持ち出しに関する規制だそうだ。誓約書にも似たような文言があった。
この世界の技術集団に関して少し説明しておこう。前段として同業者組合は文字通り同じ生業を持つ者たちが、交渉やいろんな便宜を図るうえで結成する集団だが、それを世界的にまとめてた、ある種の大元締め、と理解していれば大筋で問題ない。
この世界にはいくつかのテクニカが存在し、その出張所的なものが、ストームポートにも存在している。ここでストームポートに支店を持つテクニカと支店は無いけど知っておくべきテクニカをまとめて解説しておきたい。
≪ギュンター≫
金融業を中心とした事業を展開している。金庫などとも呼ばれる。
世界各地に国境をまたがって支店を展開し、各支店間であれば共通の預かりと引き出しのサービスを提供する。(それが金庫に入る物であればなんでも)
関連して護衛や警備を引き受ける組織も持っている。
≪オライエン≫
古くからある物流と輸送の業務を一手に引き受けるテクニカ。街道整備や宿場町整備なども出資し、営業権を持っていたりもする。
有名なのは高速鉄道鉄道と言うものを大陸内にし敷設し、高速大量輸送という物流の新時代を作った(一部の主要都市で運用されている)。ここでは陸上輸送を必要とする土壌が無いので、今のところ存在感が薄い。
≪リーランダ≫
物量を握るもう一つのテクニカ。主に海運を担っており、近年は飛空艇の運用に成功している。新興であることもあり、オライエンに比べれば規模は小さいが、少なくとも南の大陸においては大きな影響を持つ。
≪トランスポーター≫
輸送業を行うテクニカの総称。一般的にオライエンとリーランダの二つの事を合わせて用いる。
実際、南の大陸の事業においては≪トランスポーター≫として合同の事務所を開いている。
≪レイブンズ≫
軍事力を提供する集団。傭兵ギルドなどと呼ばれることもある。彼らの組織の防衛の為以外には、自らの益の為に武力を用いないことを宣言しており、それは創設以来破られたことは無い。王侯、権力者たちに一定の信頼を持っており、総合力で各国の持つ軍隊には及ばないが、小領主程度は軽くあしらえる兵力を持っており、各国も一目を置かざる得ないという実情もある。一方で信頼されてはいる者の、契約が成立すればいかなる相手にも戦力を提供するというスタンスが、権力から嫌われているのも事実である。防衛線を行う部門はギュンターと協力関係にあるらしい。
≪シェラスコ≫
医療に特化したサービスを提供するテクニカ。高度な医療技術と、神秘の力を用いて、短期的から長期的な介護まで広く行う。
治療を行う必要があるものには治療を行う、そこに金貨がある限り。というポリシーの元、多くの場所に治療士を派遣しており、冒険者たちの要請に応じての派遣も行う。
≪フェイラン≫
芸能や歓待に特化したサービスを提供するテクニカ。優れた情報機関としての側面を持つことは周知の事実である。要請に応じて彼らが提供可能なサービスを提供する営業形態で、大都市などに宿屋、レストランなどを出店もしている。暗殺部隊があるという噂もあるが、これは公に肯定されてはいない。
≪シェラスコ、フェイラン≫
南の大陸においてこの二つのテクニカは、共同運用の形を取っている。
囲い地においては、文字通りありとあらゆる癒しと快楽のサービスが提供されている。
≪ケイニス≫
このテクニカはストームポートに進出してきていないが、影響という点で世界的に大きいので取り上げておく。彼らは魔法と技術の融合を日々探求する集団で、その成果物を販売して成り立つ。彼らの有名な創造物としては、ギュンターのボールト、オライエンのレイルエクスプレス、リーランダの飛行艇などが挙げられる。これらと同じものをケイニスから買う事は不可能ではない。だが、買えたとして運用できるかは別の問題となる。錆び釘亭のセキュアルームはケイニスの技術と推測できる。
あと彼らの創造物で有名なものが人造人間である。先の大戦争の最中、不足する兵士の穴埋めのために作られたゴーレムの類が元になったと言われる。改修を重ね、自立して判断、行動を起こせるようになった彼らは人造人間と呼ばれるようになった。終戦後自立して意識を持つと認定された彼らは人類の一部として認められた。一方ケイニスは終戦時に交わされた条約の中で新たに人造人間を作り出すことを禁止された。
条約のこの条項は現存3か国に加え、他の勢力(テクニカや教会、至高の賢人会など)による強い後押しがあったとされる。
ここからはテクニカ以外の覚えておくべき勢力について少し書く。
≪至高の賢人会≫
テクニカではないが、南の大陸にも彼らの管理する塔がある。ストームポートのすぐ外側、フリーダムゲートを出てすぐ北側に塔を建てている。
これは街の統治者との協議の結果認められた。
至高の13賢人会は魔法使いたちによる研究機関で、もともと13人の魔法使いによって創設されたと言われる。
魔法使いは、希望すればだれでも加入できる。加入者は魔法の基礎技術を学んだり、魔法行使に必要な品物の供給を受けることが出来る。
裾野は広いが、一方で閉鎖的でも知られ、中核をなす魔法使いたちが何者で、何を研究しているかなどは公開されていない。
≪カシュラート王国≫
現存する3国の一つ。旧王国の色を最も濃く残す国でもある。僕が南の大陸に向かう船に乗ったのも、この国だ。
主大陸の南西方向に国土を持つ。安定した気候により食料の生産力は3国内で一番。人間が主要種族であるがハーフフットも多い。
≪セルベック皇国≫
現存する3国の一つ。大陸の南東側に領土を持ち技術革新が進んだ地域である。主要種族は人間。ドワーフも他よりは多く住む。
気候は温暖であるが、湿地の割合が多く、農業に向かない地域が少なくない。
皇国の名の通り、一代限りの皇帝が権限を持つことは定められているが、絶対的な権力者ではない。議会も一定の権限を与えられており、そのバランスによって政治が成り立っている。次期皇帝の選出に関して明文化されていないので、この先どうなるかは注目されている。
≪ノースランド連合≫
一応国としての体は為しているが、議会を中心とした合議制の政治体制。ただし、地方ごとに有力者が存在し、国内の諍いは絶えない。
主要種族はここも人間であるが、他に比べると圧倒的に人間外人類が多い。それらの小集団がそれぞれの地域を統括しているので、一つの国にちゃんとまとまることは無いだろう。線引きも上記2か国、それ以外、と定められた感が拭えない。
大陸のほぼ北側全域がこの国の領土とされており、面積、人口とも推測ではあるが最大と思われている。
お察しの通りディープフロスト郷はこの国の北方にある。僕は実は行った事が無い。
あと覚えておいた方が良いのは…気になる人もいるだろう、奴隷制度に関してだ。
結論から書くと奴隷制度は存在する。ただし奴隷に関しては色々と制限が課せられており、周知はされているが、あまり一般的には見ることは無い。
まず、生まれながらの奴隷は存在しない。何らかの理由で奴隷に落とされるのだ。
奴隷は時限奴隷と終身奴隷が存在し、その字を読んでのごとくだ。
奴隷は所有者に、奴隷の安全を確保する義務が生じるので、面倒と考える人も多い。
一方で、そこまで厳密に権力者が管理しているわけではないので、ひどい扱いを受ける奴隷も少なくないと聞く。
まあ、一般人ですら、どこで死んでも気にされない世界だから、仕方ないと言えば仕方ない。
奴隷は婚姻は許されない。もし子供が生まれた場合は、その子は奴隷ではないので自由民ではあるが、奴隷には親権も認められない。
引き取り手が見つかれば上等。孤児院に引き取られれば運がいい。
引き取り手を探す、という事が行えない以上、残りの、いや大部分が 多くは…捨てられる。その後は運命次第、となる訳だ。
ちなみに教会に捨てられる子供は後を絶たない。教会では見捨てることはしないので多くの場合は教会で育てられる。
≪教会≫関して
教会と言うと一般的には天上神教会を示すことが多い。ただ、教会と呼ばれる組織はもう一つあってそれが聖炎だ。
≪天上神教会≫
8柱の神を崇める教団で僕もここに属している。
祭神は
太陽の神、月の神、裁きの神、武勇の神、水の神、大地の神、炎の神、風の神。
それぞれの神様はいくつかの権能を司り、人の都合によって祈る神様を替えるのも珍しくない。
全体的に緩い感じなのが特徴だ。
≪聖炎教会≫
聖なる炎を唯一神として崇める集団。聖なる炎がなんであるかは僕の理解の範疇にない。だが悪い神様の類ではないらしい。
法と秩序、正義と良き行いを推奨する。
戒律はかなり厳しいと聞く。一般信者はそうでもないが、聖職に着く者は厳しい修行と、厳しい戒律によって鍛えられるそうだ。
害はないし、たいていの所で歓迎されるのは我々と同じ。
特色としては、聖職者の割合が比較的特殊かな。聖戦士の数がものすごく多い…気がする。
彼らは基本善良で、我々とライバル関係にある訳でもない。共闘することも実際に多いと聞く。
これとは毛色が違う所として一応は天上神教会に含まれるが別組織として
≪修道会≫の存在がある。ここは自らを鍛え律し、神の教えを体現すべく日々努力する集団。うちの教会内にある聖炎みたいな連中だ。
一般的に悪魔と呼ばれる連中も、実は天上神教会と関わりがある、ともいえる。
ここだけ切り取って告げ口とかしないで欲しい。大いに怒られる、では済まない話になるから。
彼らは地獄の神々と呼ばれていて、もともとは天上神の一族だったらしいが、人に対する方向性の違いで分裂したようだ。
終末の王、暴虐の王、疫病の王、飢餓の王、死者の王、忘却の王
以上の6柱が代表格とされている。
彼らを崇拝する宗教組織もあるようだが、基本的にろくでもない奴ら、と言っておこう。
神様の親せきを悪く言うようで少し心苦しいが、この6柱は、関わると間違いなく不幸になると思っていていい。
冒険者の中には彼らの名を口にする者もいたりするが、恐怖には負けないという意思表示であることがほとんどだ。
一般的にはこの名を口にする者はいない。ある種の忌言葉でもある。
長くなってしまったが、僕はその間に銀行で口座を開設し、1年分の費用を支払った。
預けるほどの荷物はまだないが、ロアンさんはすぐにいるから用意しとけって、と言うので言うとおりにする。
銀行を出て、西に向かい、フリーダムゲート前まで来る。うん、どこかで見た造りにそっくりだ。ただしこちらの方が警備が厳重に思える。
その脇にある居酒屋不死鳥亭を指さして、場所的に便利なんでこっちの方が冒険者は多いよ。でも騒々しくてね。
とロアンが付け加えた。
しかし、ロアンさん、よく食べるな。道端で時々見つける甘いものなんかを、ひっきりなしに食べてる感じ。
金額は大したことないからいいんだけど、僕の財布の事情よりは彼女の腹の方が心配になる。
ハーフフットの年齢は分からないから断言できないけど、多分若いんじゃないかな。種族的には人間よりは長生きらしいけど、エルフから見れば短命種ってらしい。
それに加えて甘いものを中心に良く食べてるところが、そもそも小さい種族であることもあり、子供のように見えたりする。
なんとなく、和やかでこういうのも悪くない。なんか親戚の子供の面倒を見る叔父さんの気分だ。
不死鳥亭で軽くお茶してから再び歩き出した。残るは東側だ。
中央公園から東側に並ぶのが3国の領事館と各テクニカの表の事務所。あと街の統治者の直営の買取所が並んでいる。
建物としてはそれほど大きくは無いがどれもかなり金が掛けられているのが見て取れる。
商人の達のほかに買取所ってどういう事だろう。ロアンに聞いてみる。
「詳しい事はあたしも知らないけどさ。流行りとか、好き嫌いなく、基準通りに買い取ってくれる。あと商人たちではなんだか分からないようなものも買ってくれるよ。
面倒な時はまとめてここでボーンと売り払う事も結構あるかな」
手間がかからない、か。まあ、ある意味便利ではあるし、何と言うか、時間を気にする人間らしい考え方だ。
「買取所で引き取ったものは、ちょっとするとここで売りに出される。これも一定基準に従って、流行り廃りも関係なくね。
運よく出ものを見つけることもあるし、時々は覗いた方が良いかもな
っと、肝心なことを忘れてた! ここは冒険者からの委託品をオークションにかけてもくれるんだよ、一番大事な事だった!」
「高く売れなければ手数料分損するけど、人気の品はここに並ぶよ。まあ、法外な値段が付くことも多いけどね」
「ちなみにオークションの手数料ってどれくらいなんです?」
「落札額の10%かな。だから売れなかった場合は10%安く売ることになる」
後で知ることになるのだが、商人たちは自分で捌けそうなもの、買得品、長期在庫にならないものを買い取ってくれる。言い方を換えればそれ以外は買わないのだ。一方シティ外に持ち出しができる権力者は、売り先を外に求めることが出来る。なるほど、オークションも含めて金が回る仕組みが作られている。
その奥の壁面付近にはテクニカの囲い地が並んでいる。そんなに広くないエリアであるが、それでもそれぞれが中央公園くらいの広さがあるらしい。
そこは協定により治外法権が認められている地帯で、中で何が起きても街の統治者はノータッチという事らしい。
ああ、気合い入れたが東側は意外とさらっと、って感じだった。
「一通りは説明できたと思うよ、分かんないことはまた聞いてくれればいいし」
ロアンさんは満足げに言う。
「今日はありがとうございました、陽も落ちてきましたし戻りましょうか」
僕が言うと彼女はすぐに
「お礼を言うのはまだ早いと思うよ?これから晩飯だしさ」
そう言ってウインクして見せる。
なんかロアンさん楽しそうだな、そう思い素直に聞いてみる。
「ああ、そりゃ誰かにごちそうしてもらえるって気分が良いじゃない?幸せな気分になれるんよ」
こんなことで彼女が幸せを感じてくれるのなら、悪くないな、なんて思う。
そしてその数時間後、食事の請求書を見てから、彼女に奢るのは年に一度だけにしよう、心に固く誓った。




