18:錆び釘亭 ≪ラスティネイル≫
25/02/18 誤字脱字の修正、ならびに表現の一部見直しを行いました。
「余談だけどさ、シティにはまだ入っていないんだろ?てか、許可証もらった?」
「はい、初めてです。許可証も大丈夫、だと思います」
鼻歌交じりに歩いていたロアンさんが僕に聞いてきた。一応気にしてくれているようだ。
坂道を登って大きな門の前に立つ。
人が通るときはこの大きな門をわざわざ開いたりしない。脇に通れる道があるからだ。
何度か見てるけど、何度見ても…なんかアンバランスなんだよなぁ。大きな門で作りも立派なんだけど、その城壁が立派過ぎると言うか、大き過ぎると言うか。
先頭を行くレイアさん、その後にガイアさん、ロアンさん、そして最後が僕。
順番に許可証を見せ、問題なく通過する。
僕も彼らに続いて通ろうと貰った印章指輪をみせる。
その瞬間にゲートを管理しているシティガードたちが一斉に敬礼。
「え、お前、何者なの?」
ロアンさんが調子外れな声で聞いてきた。
「ただの冒険者なんですけど…たぶん」
3人とも、一瞬何が起こったのか理解できなかったらしい。そりゃそうだ、この事態を引き起こしたと思われる僕が一番驚いている。
ああ、誓約書にあった一文を思い出した。
・街の統治者の権威に礼節をもって接すること
これは冒険者に限った話ではない、と言うことか。ああ、「役立ててくれたまえ」とはそういう意味か。
僕は驚きもあったが、それ以上に呆れた。
普通、街の治安を預かるような、というか仮にも統治者の一人に数えられる人が、ちょっと出の冒険者に権限を渡しちゃダメでしょ?
「後程ゆっくりと経緯を説明させていただきます。まずはこの辺で落ち着ける宿をご紹介いただけませんか?
荷物も置きたいですし」
僕がそう告げると、「とりあえず『ラスティ』に行くか」とレイアさんが答えて歩き始めた。
門の内側は囲い地になっていて木製ではあるが頑丈そうな木製の柵で囲われており、同程度の木製のゲートがある。
頭の上には港湾管理者の執務室件自宅
二つ目のゲートは普通に通ることが出来た。
ゲートを抜けて城壁内部を見ると、その異様さに少し驚く。
上から眺めるのとはまた違った雰囲気だ。
巨大な建物の残骸と思われる巨石、コンクリートの塊?そう言ったものが点在して、迷路の様相だ。見通しは良くないし、日当たりもイマイチだ。
ここからはこの都市の上にあるアーチのしか見えない。形状は南西から北東にかかる虹のような感じ、ただ大きく傾いているし、常識的にこの形状でこの角度で崩壊していないのが不思議だ。
「ああ、あのアーチな。不思議だが倒れねえんだよ。お偉い魔法使い先生たちが調べても、何なのかわかんねぇらしいよ」
見上げてしばし固まった僕の様子にロアンさんが解説してくれた。
ハーバーからシティにつながる門は港湾門と言うらしい。そのまんまだ。
ああ、簡単におさらいしておかないと。
ストームポートの街は南の大陸の北にある半島の東側に位置する。町の南側が大きな湾になっている地形で街が海に接しているのは南側のみ。そこがハーバーになる。ハーバーはシティの中心から見ると南西方向にあって、ハーバーゲートはシティのほぼ真南に位置する。
ゲートから直進してすぐに右折。そのまましばらく進むと、少し窪んだ小さな広場があって、その広場の北側に錆び釘亭があった。
「ここだよ。俺たちもここを定宿にしてる。とりあえず入ってお前の部屋を確保するか」
レイアさんはそう言うと宿の中に入っていくので僕もついて言った。
中はかなり広い。気まぐれロブスター亭の倍くらいはある。調度品は一般的な酒場なんかと変わらない感じで雰囲気も然りだ。
人影はまばら、自由に使える掲示板があるのも<ロブスター>と同じ感じだ。
「とりあえず部屋確保して来なよ、とりあえず3日分かな。これからの話、ああ、これまでの話もそのあとだ」
ロアンさんがテーブル席に座ると僕に行ってきた。キョロキョロと周囲を見回してるのをみて、レイアさんが教えてくれた。
「一番奥の小さめのカウンターが宿の管理だ。行ってこい」
建物の入り口から見て真っすぐ突き当り、一番奥に当たる場所に小さなカウンターが見える。カウンターの向かって右側に幅広の階段が二つ。どちらも昇り。左側には小さな扉が4つほど並んでいる。カウンターには受付と思われる若い人間の女性がいるので、そこに行って「部屋をお願いしたいんですが」と話しかけた。
「いらっしゃいませ。当店は初めてでいらっしゃいますか?」
想像を少し超えた感じのハイテンションで聞かれ、僕は少し…引いた…いや、気後れしながら、はい、とだけ答える。
「では簡単にですが当店のシステムをご説明させていただきます。当店は…」
彼女のハイテンションは僕にはその、…刺激が強すぎる?
なので内容を掻い摘んで要約すると、
客室には一般とセキュアがあって、一般は所謂宿屋と変わらない。その手のお約束も同じ。セキュアはほぼ全ての条件に対して安全対策が施されており、保証こそないが、その手の事故が起きたことが無いのが自慢らしい。最新の高級ホテルにも引けを取らない、そうだ。
こう言っている間も彼女はハイテンションでしゃべっているが、その、頭に入ってこない。
一呼吸している間に彼女の話は終わったようだ。
「お部屋はどのタイプをご希望なさいますか?」
彼女が僕に問いかけてきたので、ちゃんと理解できてるのか自身の無いまま、
「セキュアの一番安い部屋をお願いします」
「セキュアシングルBですね、少々お待ちください」
話が通じてよかった。彼女は何かの操作盤をいじりながら、話を続ける」
「料金は一泊当たり金貨10枚です。何泊ご利用でしょうか?」
高っ!と一瞬思った。はっきり言ってボッタくりレベル。お願いした建前、断りにくい。僕は小市民気質だ。
「3泊お願いします」
「畏まりました、全額前金にて金貨30枚をお願いします」
言われるままに革袋から白金貨を3枚出す。
「お部屋の準備がすべて整いましたので、今よりご利用いただけます。滞在中はこちらのカギを常にお持ちください。出入りの際は必須となりますので無くされませんようお気を付けください。それではごゆっくりどうぞ」
そう言って一礼して、彼女の仕事は終わったようだ。
カウンターの上に置かれた鍵、小さな金属板を手にして、階段の方に向かおうとすると
「お客様、セキュアルームはこちらの扉からどうぞ。どの扉をお使いになっても問題はございませんので」
そう言われたので向き直して扉の方に向かう。どの扉も開いていて、かなり狭い小部屋のようだ。正直意味が分からない。
が、彼女の説明をちゃんと聞いていなかったので、知ったかぶり、というか、どうにでもなれと言うやけくそ気味で一番手前の部屋に踏み入る。
自動的に入ってきた扉が閉まり、カチッと鍵のかかる音がすると一瞬部屋全体が明滅。入ってきた扉が勝手に開いた。
「?!」
そこは少し狭めであるが設備のちゃんと整った個室。
「転移魔法の類か」
一人用として広めに感じるベッドに、飾り気は無いが上質な調度品。最低限度であるが、一通りの作業が出来そうなテーブル。
専用のトイレとシャワーブースもある。設備的には高級宿クラスだ。窓こそないが、故にこの部屋に外部から侵入するのは容易ではない。
出入口が機能しなくなったら、脱出できないのが難点だな。
そう思いながらも、値段だけの価値はあるとは思う。
とりあえず装備以外の荷物を部屋に置いてロビーに戻る。
「お待たせしました」
「戻ってきたか。ちょっと待ってろ」
僕が戻るとレイアさんが奥のカウンターに行って何か話をしている。
「オッケーだ、行こうか」
レイアさんは戻ってきてそう言うと一同は席を立ち、階段の方に向かう。会議室を借りたらしい。
階段を上がって何部屋かあるうちの一つに、ここだ、と言って入って行く。
最大で10人程度が座れるスペースがあり、黒板も設置されている。
「どこに聞き耳があるか分からない状況で話すのはなんだし、ま、個室なら問題ないだろうって事で」
4人は席に着き、まずレイアさんがこれからの予定について話し始める。
3日後にグループはストームポートから南にあるセーブポイント、と呼ばれる前線基地のようなところに向かうそうだ。
小型船でストームポートの対岸にあるラストチャンス、と言うの集落に行った後、陸路で南下、数日の所にあるのがセーブポイントとのこと。
ラストチャンスは一昔前に、南方に向かった冒険者達が命からがら帰路につき、ここまでたどり着ければ助かる、そんな事から付いた名前らしい。
距離的には船で順調なら1日、多少トラブルがあっても2日で着く。
セーブポイントはそこから陸路で4日ほど行ったところ。だがその行程は平均5日との事だった。
「平均、と言うのは何か理由があるんですか?」
何となくではあるが、今の『平均』と言う響きに違和感を覚えたので聞いてみる。すると脇に座って居眠りしていたガイアさんが素早く答えた。
「いい質問じゃな。南の大陸は呪われた大陸という通名もあるが、まさにそう呼ばれる原因の一つなんじゃよ。
この陸地内では時間と空間が不規則に歪んでおってな。同じところを同じ速度で移動したとして、毎回かかる時間が変わるのじゃ。
これは忘却の王の呪いとか旅人の呪いとか呼ばれておる。
過去には…」
「つまりは、旅するのに必要な時間が毎回違うって事だよ」
ガイアさんの話の途中だが、長くなると判断したロアンさんが割って入る。
「なるほど、南の大陸の入植が進まないのはそういう理由があるんですね」
「入植が進まないのはそれだけが理由じゃないが、ま、地図すらマトモに作れないのはそれが最大の理由だ」
レイアさんが「お手上げ」のポーズでそう告げた。
「それで、セーブポイントには何をしに?」
「セーブポイントに運ぶ物資の護衛が主な仕事だ」
一呼吸おいてレイアさんは続ける。
「そっちが今回のメインではあるが、ハーバーマスターから個人的な書簡を託されている。届け先は聖炎の司教だ」
ああ、これは何となく理解できる。聖炎とは天上神の教会とは別の宗教組織だ。僕も詳しくは知らないが、基本的には善良であると認知されている。一定の実績もあるし、信用しても大丈夫な連中だとは思う。が、個人的に僕は彼らが好きではない。僕には彼らのやり方は急進的すぎるし、もっと思慮深くあるべきだと感じている。
話がそれたが、これは闇司教に関わる話だと推測できる。このタイミングで冒険者に冒険者を使って繋ぎを付ける。僕にその線を想像しないのは難しい。
一仕切り話を聞き、今後の予定を理解したので、今度は僕が話をする番だ。
「それでは僕のここまでの経緯を話しますね」
そうして僕はストームポート着いてから印章指輪を手に入れるまでの経緯を説明した。
話し終えると、結構重たい空気。最初に口を開いたのはガイアさんだった。
「なるほどのう。堕落した司祭とはなかなかの大物じゃ。今回の依頼も全く無関係とはいえん気がするしの」
僕と同じ推察のようだ。ロアンさんはさして気にする様子が無い。レイアさんは何か考えているようだった。
「直ちに何か影響がある訳じゃないし、今は覚えておけば良い、って程度の話じゃん」
ロアンさんが彼女の思っていることを率直に口に出す。
結局のところ何をどう考えたところで、できることは何もない。それは僕も同じ意見だ。だけど彼女はそれを直感的に割り切っている。
すごい事だなと、僕は感心した。
「そういう訳で、とりあえず情報共有はこんなもんでいいだろう。出発の予定は明々後日の午後だ。大きく予定が変わる可能性もあるがその時は連絡が来る」
そうレイアさんが言って解散となった。
皆が部屋を出ていくときに僕はレイアさんがポロっと漏らした言葉を耳にした。
「運命は廻る、か」
すごく意味深な言葉にその意味を尋ねたいと思ったが、彼女の纏う空気がそれを許さなかった。
僕はこの事も覚えておこう。そうしてその場は流すことにした。




