14:想定外 ≪アウトオブサイト≫
25/02/18 誤字脱字の修正、および表現の一部変更を行いました。
合計5人で倉庫街を目指して歩いていると、僕の姿を見かけた街の人たちが挨拶したり、声をかけてくれたりする。
もちろん知ってる人なんていない。
笑顔で手を振り返したり会釈を返したりしていると、
「なに、あんたって有名人なのか?」
レンジャーの青年、えっと、マクガイバーじゃない、マクゲインだ。が、話しかけてきた。
「そうでもないと思いますよ?私はまだこちらに渡ってきてから1週間も経っていませんし」
「じゃあさ、これはどういうことなの?」
「私にもよくわかりませんが、街の皆さんが信心深いからでしょう」
田舎町に逗留した時などはこういう状況になるし、あんまり不思議には思っていない。
そんなもんだ、と思っていたわけだが、改めて問われると、なぜだろう?と思ってしまう。
倉庫街に入ると人影が急にまばらになる。
繁華街や桟橋に続く作業路に近いあたりには人影もそれなりにはあるが、奥に進むにつれて少なくなっていく。
さらに数分歩いて、歩みを止める。
「ここですね」
グラントは言った。
そしてすぐに、かなり大きめのスライド扉に手をかける。
「ちょっと待って!」
たまらず僕は声を上げた。
「ちょっと待ってください、最終確認はしましょうよ?準備を少ししましょうよ」
扉を開けたら基本は探索と殲滅となるはずだ。ただし、入っていきなり戦闘になり、最悪先手を取られる事態も十分に考えられるだろう。倉庫一つの大きさは洞窟や迷宮に比べればかなり狭い。戦闘は早い段階で起こると考えるべきなのだ。
そのうえ僕は急遽参加しているので、彼らの戦闘スタイルも技量も知らない。援護の基本方針は考えておきたい。
何にせよ無鉄砲が過ぎる。
「午前中に内偵はしてあるんだ。リアーとプローラの報告によると、中にいるのは全部クモで、小型のが8~10、大型の奴が1。
だからフロントが俺とマック。2列目に3人並んでもらって神官さんは真ん中にいてくれればいい。そんでもってヤバそうだったら治療をしてくれ。
中に入ればお約束通りの探索と殲滅で大丈夫だろう。俺たちの動きについてきてくれればいいし、基本、神官さんは安全だ。これでいいか?」
少し面倒そうにグラントが説明し、僕の返答を待っているようだ。
何度か修羅場を潜り抜けて自信もついてきた頃か。危ういなぁ。
「了解しました、祝福を入れますので、終わり次第行動開始で」
「んじゃ、頼むよ」
短い会話を終えて僕は聖印を宙に描く。
「神よ、我々に悪に打ち勝つ力をお与えください。神の祝福」
「行こうか」
グラントは短く告げて扉を開けた。
扉の中は広い倉庫で空…奥の方に大きな木箱がいくつか積んであるのが見える。
所々に大きめのクモの巣。近くには繭のように見える糸の塊。
静まり返って入るが、時々何かが動く音がする。
奇襲があるとすれば上からかな。
そんな事を思っていると、ゆっくりと進み始める。行軍隊列は説明の通りで、僕の右前がマクゲイン、剣を腰に吊るした状態で弓を構えたまま前進してゆく。左が前がグラントだ。長剣と盾を構えて周囲を警戒しながら進行するオーソドックスなスタイル。
僕の右側にリアーが左にプローラが周囲を警戒しながら進んでいく。
「右子蜘蛛が3」
「左子蜘蛛2」
二人のローグがほぼ同時に声を上げる。
ほぼ同時にマクゲインが矢を放ち、一呼吸遅れてプローラが矢を放つ。僕は上を確認すると案の定一匹子蜘蛛が降ってくるのを見つけた。
右腰のダガーを抜くと素早く天井方向に投げる。天井から射し込む光が何度か乱反射し子蜘蛛の頭部に深々と刺さった。
その死体はそのまま僕の脇に落ちてきて、ダガーを回収する。
「いい腕してるじゃん」
プローラが一言つぶやいてから2射目を放ち、子蜘蛛を射抜いた。
続けてマクゲインも2射目を放ち、子蜘蛛を射抜く。
二人ともいい腕だと思う。
右から接近してきた最後の一匹の子蜘蛛がプローラめがけて直進してくるのを、近接戦闘の距離に入ると同時にグラントが一太刀。
6匹の子蜘蛛は10秒ほどで沈黙した。
警戒は続ける。
「ファーストステージクリア、ってところかな?」
マクゲインの声にグラントが答える。
「セカンドステージがすぐ始まるみたいだぜ?いや、親玉かな」
奥にある積まれた木箱の上に先ほどの子蜘蛛の3~4倍大きな個体がのそりと動くのが見えた。
恐らくあいつも我々を捉えてる。
「散開!」
僕は反射的に叫ぶ、大蜘蛛の類は粘着性の糸を吐いて来ることが多い。固まっていればまさに一網打尽で洒落にもならない。
周りの連中の反応も悪くない。
「あれの脚は俺が止めておく、まず片付けやすいのから潰してくれ。神官さん援護を頼む!」
グラントが前から接近してくる子蜘蛛を切り払いながら、大蜘蛛に突撃。その後ろ数歩離れた位置から、マクゲイン周囲の子蜘蛛を打ち減らしていく。
ローグたちは左右に散開、僕もグラントへ援護が届く位置まで前進。
これなら行ける。
そう思った瞬間鋭い殺気のようなものを感じて左側に向けて盾を構える。
盾をに響く鋭い金属音。
「いつから気付いてたんだ?」
「最初からさ」
悪びれる様子もなく、プローラが少し距離を取って身がまえる。
その動きに合わせて僕は腰のポーチから鉄の釘のようなものを取り出し、そのままと聖印を宙に描き奇跡の行使を行う。
奇跡の行使の隙を狙ってプローラの鋭い突きが僕を狙ってくる。
それは織り込み済み。盾でそれを受け止めて、集中を切らさずに
「神力の呪縛」
振り返りざまに後ろにいるはずのもう一人のローグ、リアーに向けて奇跡が発動される。
予想通りの位置で前衛二人に対して呪文を行使する体制に入っていたリアーは不意打ちのような拘束を避けることが出来なかった。
「まあいい、だがこれ以上は予想してなかっただろう?」
「負け惜しみを」
プローラの言葉に次の攻撃の準備をする。
が、次の瞬間、信じられない光景がそこに広がった。
「グラント! マクゲイン!!」
叫びは間に合わない。
倉庫奥にあるクレーンの操作台付近から、火球が飛来すると、グラントの後ろ辺りで爆発する。
「火球、…だと?」
二人は炸裂する炎に包まれて焼かれる。
炎が収まった時に、彼らはかろうじて立ってはいたが、深刻な状況であるのは間違いない。
グラントが大蜘蛛の前足の一撃を盾で防ぎ、一歩、二歩と後退する。
「治療を…」
弱々しい声が聞こえてくる。
少しずつ彼に近付こうとするが、プローラの攻撃は早く的確で僕の足を止めさせる。
「思った以上にやるじゃないか。でもどこまで防ぎきれるかな?」
プローラは自分の優位を確信して楽しんでいる。伏兵がいる、つまりこの依頼そのものが罠だった訳だ。
「悪党に負けはしない」
自分を奮い立たせるように僕は叫ぶ。だが、実際に絶望的に近い状況だ。
このままではジリ貧。立て直す手立てを。
僕は再びプローラの攻撃を無視するように奇跡の行使体制に入る。
「ほら隙だらけだぜ」
プローラはそのタイミングを逃さない。視界から消えるような動きで僕を翻弄しながら、背後に回り込むようにステップする。
こちらの意図を見透かすかのように。
右手で聖印を切り前方に向かって呪文を発動しようとしたときに
「詰み」
思わぬ至近距離で奴の声がした。
僕の構える盾のさらに後ろ側から、僕の脇腹に、深々と、短剣が突き立てられていた。
鋭い痛みと、それに続く体の血が逆流するような冷たい感覚。毒だ。
視界の先でグラントとマクゲインが二人とも蜘蛛の糸に絡め取られて身動きできなくなっているのが見える。
大蜘蛛はゆっくり彼らに近づき始めた。




