12:ハーバーの休日 ≪ハーバーズホリデイ≫
25/02/18 誤字脱字の修正、および表現の一部を見直しました。
久しぶりに昼間っから、浴びるように飲んだ。
2樽なんて全然足りなくなってさらに3樽追加して…あとはよく覚えていない。
エルフは眠らないし、酔っても眠くなることはない。でも酩酊に陥ることはある。僕自身の名誉のために言っておくが僕は酒に弱いわけではないし、酒癖も悪くない。
暗くなるころにはそこらじゅうで雑魚寝する人が出る状態で、今は静かなものだ。もうすぐ日付が変わる。
なんかすごく長い時間を過ごした気がしてるが、南の大陸に到着してから、4日過ぎた。あってるよね。
潮の香りもスラムの雑多な悪臭も今は心地よくすら感じられる。
今夜は雲が厚くて月の場所が分からないが、もう少しすれば東の雲の上に姿をお見せ下さるだろう。
なんか、当初の予定と随分変わってしまったが、これも神のお導き。
結果的に救われた人がいて、シティに行く算段もついて、良いこと尽くめじゃないか。
こうやって気分よく酒を飲んで、みんなで笑って。
こんな時間が続くと良いのに、と思わずにはいられない。
なんとなく、歌を口ずさむ。
エルフの祝い唄の一つ。
少し陽気なテンション高めの曲なのだが、テンポをきわめて落として、子守唄風だ。
呪歌の能力が使えれば、魔払いのひとつでも歌う所だが、僕の吟遊詩人の技術じゃ、何回もは歌えない。
だからこれはただの子守歌。
でも気持ちは込めるよ。安らかな眠りが皆に訪れますようにと。
ひとしきり瞑想した後に、神に祈りを捧げる。いつもの手順で奇跡の力をお願いする。
いつも通りに奇跡を行使する準備が出来るのであるが、少し違和感を覚えた。
多分だけど、聖職者としての能力向上の時期に来ている。
この世界にはレベルという概念がある。能力を計る目安の一つだ。
ちなみに僕は聖職者の職能5レベル、吟遊詩人の職能1レベル。冒険者のレベルは、そのトータルで表現するので僕は6レベルだ。
大前提としてレベルありき、ではない事を強く言いたい。レベルが上がったから強くなるのではなく、経験を積んで強くなったからレベルが上がる。
適切な経験を積み、日々精進して、頃合いを見て訓練士の元でそれを認定されるとレベルが上がったという事になる。
トレーナーは専門の技術を持ったそれぞれの職能をもつ専門家だ。認定するための技術を学んでおり、どれくらい出来るのか、を見極める。
例えば聖職者の訓練士は彼自身も聖職者であるが、レベルが高いとは限らない。
技術の内容が理解できればトレーナーが務まるので彼らが高レベルとは限らない。一般的にトレーナーは引退した元冒険者がやっていることが多く、レベルも3~5くらいの人が多いらしい。トレーナーからは必要なら技術や知識を学ぶことが出来る。そしてレベルを認定してくれる。
だが、肉体的能力や、呪文の行使能力は経験と共に向上するのでトレーナーを必要としない。
わかりにくい説明をしている自覚はあるんだけど、実際そうなのだから。
例を一つ挙げると、辺境で活躍する聖職者がいて、彼のレベルを4とする。だけど彼が僕よりも多くの奇跡を使いこなせることがあるのだ。
理由は彼が認定を受けていないから。
知識の量ではトレーニングを受けている僕の方が知識の絶対量は多い可能性があるが、彼の方が経験豊富で多くの奇跡を使いこなす。
そういう状況が実際に存在する。特に犯罪にかかわるような連中はトレーニングや認定を受けられる機会が無いのも事実だ。
レベルを偽るものも少なくない。高く言って高難易度と思われる依頼を受けて、前金をせしめてトンズラする奴もいれば、レベルを低く言って油断させたり、実際にはより高レベル相当の戦闘能力があるものもいる。
レベルは信用できる場合は目安となるが、そうでない場合は、意味を持たない。
ちなみに職能レベルが10を超えると、自己申告の世界だ。
それくらいになると技術なんかを認定できる人がいなくなる。自分のレベルが上がった自覚はあるのでトレーナーは不要となる。
常に新しい経験を求めるのが能力向上の秘訣だそうだ。
ちなみに能力的にレベルは計れる。奇跡の行使回数とか、魔法の使用可能回数とか。そう言うのがレベルを定める基本になっているらしい。
そんなことを言っているうちに、違和感の正体を僕の中で突き止め、行使できる奇跡の数が増えていることを確認した。
神様に感謝だ。
いつもより長く準備の時間が必要だったが、これも神との対話と思えば楽しくすらある。
この規模の街であればトレーナーは探せば見つかるだろう。教会にもいるはずだし。何食わぬ顔して申請すれば問題なくレベル認定されるだろう。
今日からシティ側に入ることにしたので、しばらく港湾地区に来ることもないだろう…あ。レイアさんたちと約束があった。彼らが訪ねて来るまでは待ってた方が良いかな。若干僕は自分が難アリの状態だとも思うので、彼らの誘いに乗ってパーティに入ることは躊躇われる。
でも、彼らとは少し話してみたいと思っている。厳しい捜索や討伐の類は僕一人ではどうにもならないだろうし。
と言うわけで、スラムの人たちが動き始める時間になったので、声をかけて宿に戻る事を告げる。
荷物をまとめて、ロブスターへ向かった。
「続けての朝帰りとは、お盛んだね、神官さん」
ロブスターのお姉さんに今日もからかわれる。
「こう見えて僕は人気者なんです」
と笑顔で返すと、朝食を出してくれた。
「昨日は無理を言って申し訳ありません」
と彼女に言うと
「うちも稼がせてもらってるからね」
とウインクしてくれた。
正直反応に悩んで固まってしまったが、彼女は愉快そうに笑いながらカウンターの奥に消えた。
食事を終えてから、一度部屋に戻る。体を拭いて、服を着替えて。
ああ、明日は洗濯した方が良いな。
毎日着替える冒険者なんていない。いや冒険者に限らず一般の人もそうだ。
毎日着替えて、毎日体を洗うのは貴族くらいのもので、一般的な習慣とは言えない。
衛生的な観点からすれば、毎日綺麗にした方が良いんだけどね。
そのあと放置していた戦利品、黒マントの所から回収した奴、をチェックする。
巻物は全部魔術師用。4枚あったが、僕のバードの技術じゃ心もとない。失敗確率がかなり高くなるので、実戦では使えない。売るか。
3本のワンドはいずれも未使用品のようだ。フルチャージだと売っても高くなるし、ラッキーだ。
ワンドと言うのは魔法使いの使う杖の事。ここでいう魔法使いとは秘術魔法(ウイザードなどが使う)と神秘の力(クレリックなどが使う奇跡など)の双方の総称だ。前にも少し言った気がするが、一般的には全部似たような魔法として一括りに認識されているのでこういう呼び方になる。
呪文効果が発動できる状態で封じられており、簡単な操作で魔法の効果を発揮させられる。
もちろん、そもそもの呪文を使用できるものにしか使えないが、ちょっとした裏技も存在する。チャージが尽きたら終了だ。
大きさ的には細く短い。30cm~60cm程度のものが一般的で、杖の一種ではあるが武器のような使い方は出来ない。
ついでに他の杖の種類を上げておくと、ロッド、スタッフなどがある。順番に大きくなっていくと思ってくれればいい。これらは振り回せば棍棒と同じくらいの武器にもなる。
一本ずつ手にしてみる。一本目はクレリック用。さらにラッキー。軽度の治療のワンドはとにかく助かる。
もう一本は魔法の矢。魔術師用ではあるが、これなら使える。最後の一本は魔法使い用で、電撃だ。
電撃ってロマンがあるけども…今は僕には使えないから、換金するとしよう。お金は大事。
ダガーは、分からないな。見た感じ悪くないんだけども。昨日貰ったダガーよりは劣る感じだから、高品質かな。追加の効果があるかもしれない。
ローブは刺繍が施されており使われている生地も上質だ。
あ、ローブと言うのはんと…布で作られた衣類で、儀式服とか儀礼服とか呼ばれる貫頭衣の事だ。デザインや造りは、まあ色々ある。外套として使われるマントとは異なるものだ。僕の礼拝服もローブの類という事になる。これで伝わるかなぁ。
僕が使うことは無いだろうから、ダガーとローブは売却。
ポーションは…ん。どれも効果は分からない。妙に毒々しいのもあるし、鑑定してもらうか。
指輪が2個。一つは手に取ってすぐわかった。蓄魔の指輪だ。手順に従って魔法の効果を込めて置き、後に任意に発動することが出来る。これは優れもの。容量はおそらく3。これは取っておこう。
もう一つは身に付けてみて気持ちが悪くなった。すぐに取り外す。
何らかの防御系の指輪のようだが、残念なことに僕には使え無さそうだ。使用者に制限があるタイプの指輪だ。
たぶん属性縛りじゃないかとおもう。悪い奴専用みたいな感じのもの。売れるかなぁ。
後は革袋を調べ中の宝石を確認。金貨2000枚相当の宝石が入っていた。これもラッキー。
あ、ハーバーマスターからもらった革袋も確認しておかないと。
ふむ、太っ腹だな。こっちの袋は3000枚相当の宝石が入っている。
宝石は高額硬貨の代わりにも用いられるので、実はある程度規格化されている。もちろん換金する場合には厳密に計量されたりするが、直接宝石で取引が行われることも珍しくない。魔法の品物なんか高価なので良く用いられる。
あれ、貨幣の価値って説明したっけ?
覚えておいてね。
1白金貨=10金貨=100銀貨=1000銅貨
あとは半貨ってのある。一般的には銅貨の半分、って事だ。単純に割ったもの。
半分あるのかないのかで揉める事が多いので他の貨幣ではあまり使わない。
これで大丈夫かな。
ひとまず換金するものは換金してしまおう。魔法薬や魔法の巻物も補充したいし。
宝石を革袋に仕舞い、腰のロック付きポーチに入れる。
荷物袋に鑑定してもらう品物、ローブにダガーにポーション類に指輪一本、スクロールと、ワンド一本。
回復のワンドは腰のベルトに差しておく。
部屋の中を一度見渡してから、僕は部屋を出た。
店を出て通りを歩く。
まず最初に尋ねたのが
<魔導師カルバーンの店>
アイテム鑑定も承ります
という看板の出ていることろだ。
扉を開けようとするとロックされている。ノックしてみるか。
ドアを2度、3度と叩くと中から声が聞こえてくる。
「ご用件を」
商売人と言う感じのしない不愛想な声だ。
「鑑定と、いくつかの品物の買取をお願いしたいのですが」
僕が答えると少しの間があってから。
「お入りください」
事務的な響きの声と共同時に、錠前が外れる大きな音がする。
僕は扉を開けて中に入った。
店内はさほど広くなく、装飾っ気のない簡素な造りだ。カウンターが奥にあって、その向こう側に店主と思しき壮年の男性(人間)の姿が見える。
カウンターは金属製の格子になっていて、刑務所の面会室を想像させる。
「鑑別は1点につき金貨5枚、鑑定は1点につき金貨125枚。買取は品物を見てからになる。うちは未鑑定品は買い取らないから、まずは鑑定してもらうことになるよ。品物を見せてもらおうか」
カウンターの奥の男がぶっきらぼうな口調で声をかけてきた。
スクロール4枚。ポーション5枚。指輪1個、ローブにダガー。あとはポーションっと。ああ、電撃のワンド。
「武器や防具はうちでは買い取らない。それぞれにもっていくことになるな。鑑定は出来るが、そっちでもやってくれるはずだ。買取前提ならその方が実入りは良い。
あと、ポーションもうちは専門じゃない。もちろん鑑定は出来るが、足が出ることになりかねないから、これも鑑定含めて薬屋に持ち込んだ方がいいぞ」
意外に親切に教えてくれる。店への入り方などで、僕が新参者なのは解ってるだろうし、ボッタくることだって出来るだろう。まあ、長い付き合いになる可能性もあれば信頼問題もあるか。僕が聖職者であることもプラスしているかもしれない。いずれにせよ御指南いただけた訳だし、それに異を唱える必要はない。
ちなみに鑑別と鑑定は少し違う意味で用いられる。鑑別は鑑定を行う人物が経験や知識を総動員してその品物の価値を見極めることで、鑑定は魔法を用いて、その能力や使用法を詳細に調べる事を意味する。勿論、例外と言うものはどこにでもあるのだが。
「では、スクロール4枚を鑑別で、指輪は鑑定をお願いします。あとワンドなのですが鑑定は必要ありませんのでそのまま買取でお願いします」
「買い取るワンドは?」
「電撃のワンドでチャージ50の新古品です」
「ワンドの買取が金貨12000枚、スクロールの鑑別は必要ない、指輪の鑑定に金貨125枚。こちらの支払いが金貨21460枚。ここまではいいか?」
「はい、それでお願いします。」
店主はスクロールをチェックし、開けてみてそこに書かれている内容を確認する。続けて台座に置いた指輪に向かって小さな声で呪文を唱えるとしばらく目を瞑った。一つ大きな息を吐いてから、結果を告げる。
「スクロールは魔術師向けで、第一段階呪文が2枚、油脂と恍惚、第2段階呪文が屍人の接触と第3段階呪文が吸血鬼の接触。買取価格は全部で金貨550枚だ。
指輪の方だが、少し特殊だな。吸血の指輪、着用者がダメージを与えるたびに着用者のダメージを極小回復させるものだ。武器に付与されてるのは時々見るが、指輪ってのは珍しい。ああ、属性指定、悪、か。
この指輪は呪われた品じゃないが、教会辺りならまず破棄される。この手のものでも引き合いが無いわけじゃないんだが…」
言葉が濁る。僕の顔色を窺っているようだ。まあ、悪の品物を流通させるのは、「まっとうな」商売とは言い難い。
だけどそこは僕はあまり気にしないので満面の笑みで答える。
「でしたら可能な額で結構ですので引き取ってください」
「だったら、全部まとめて、金貨12500枚の支払い、で手を打たないか?」
「はい、それで構いません」
「ちょっと待ってくれ、今買取の証書を作るから」
そう言って羊皮紙に買い取った品物と額、鑑定料などの明細を書いてゆく。
僕はそれなりな値段で売れるものだなと、悪の指輪の値段を考えていた。道具なんて使う人次第だからなぁ。ま、使うのは悪人決定なんだけど。
そんなことを思っているうちに彼は書類を書き上げて、その証書に彼の作成を意味する印章の魔法を唱えた。
「支払いは現金と宝石との混合で構わないか?」
「もちろん」
「んじゃ、これにサインしておいてくれ。金を持ってくる」
僕は渡された書類に目を通して、さっきの話と相違ない事を確認すると、署名する。
買取価格も鑑定料も主大陸とあまり変わらない。大都市から離れるにつれ買取が安くなり販売が高くなるのは仕方ない事だと思う。ここの値段設定は大都市よりも少し安いかなくらいだ。何となく、この街の実情に触れた気がした。
奥に下がっていた店主が戻ってくる。
「待たせたな、確認してくれ。鑑定書付きのダイヤモンド1個と白金貨200枚、金貨500枚。絞めて金貨12500枚分だ」
目の前で数えながら説明するのを聞き、「確かに」そう言って袋ごと受け取る。
この金額を見て一般の人は恐らく驚くだろう。生活水準にもよるが、一般人の一月の生活費はざっくり金貨10~15枚ほど。
冒険者になろうとする人が後を絶たないのはこの辺の事情だ。
冒険者の物価もかなり高いが、それでも暮らしぶりはかなり変わる。
そしてスリルと富を求めて深みにハマり、道を踏み外したり、返らぬ人となったり。
大半が儚く消えてゆくのだ。これは人間に限った話ではない。ハーフフットも、ドワーフも、エルフも例外ではない。
無論、僕も例外ではない。金銭感覚も、生死の感覚も。冒険者って生き物は多かれ少なかれ狂った連中なんだ。
「またお世話になるかもしれません、今日はこれで」
そう言い残し店を後にする。
そんな感じで次は薬屋、防具屋でローブは鑑定してもらった結果、使えそうなので手元に残すことにし、武器屋と回って処分するものを処分し、必要なものを買い足すと昼を過ぎていた。
のんびりしていていいなぁ。
午後の日差しを見上げてから、宿に戻って治療セットを手にすると、僕はスラムに向かうことにした。
治療の経過を診た方が良い人もいるし、薬を塗りなおす必要もある。
この後を考えれば、それらが自分で出来るようにしておかないといけない。
施しを与えるのは簡単だ。だけどそれだけでは人は救えない。




