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God Bless You !!  作者: 灰色狼
第一章 嵐の港町 ~ストームポート~
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8:聖なる血 《サンクトゥム・サングィネム》

25/02/18 誤字脱字、および表現の一部変更を行いました。



 オーガスタと一度分かれてから、奥に向かい隠し扉の脇に用意された土砂と岩の小山を見て、とりあえずは足りると判断すると、もう一度作業に当たってくれる人を集める。そして、これからこの土砂でここにある通路を埋めることを説明する。

 まずここの隠し扉を開けて、開けっ放しの状態で中をのぞく。ちょい先の地下迷宮側の隠し扉が閉じていて、何も侵入してきていないことを確認する。

 次にハンマーを借りて、奥の隠し扉の丁番部分を壊す。これで<扉>としての機能は失われるので、怪しいと思われても探査には引っかからないだろう。

 それからこの通路を埋める指示を出す。

 まずは大急ぎで1メートルくらい埋めてほしいと告げる。石を適当に山積みにしてもらって構わないので、可能な限り早く、30分ほどでそこまで終わらせて欲しい。

 そこまで終わったら休憩でもして少し待っていて欲しい。

 お願いをし終わるとさっそく作業に入ってもらう。


 僕は急ぎ足で桟橋に向かう。

 そこには4人のシティーガードを連れたオーガスタが待っていた。


「お待たせしました」


 そして地図を見せてもらい、桟橋近辺にある下水道入り口の場所を聞き、一番桟橋の端側、北側の入り口から中に入ることを提案。

 現地まで同行はするが、今日は奇跡がもう使えないので援護は出来ない旨を伝えると「心配ない」とオーガスタは答える。


 鍵で扉を開けて下水のメンテナンス路に入る。扉を開けてすぐに階段があり、15段ほど上がると水平な通路になる。ここまでは一人が通れるほどの狭さなのだがそこから急に様相が変わる。

 細いトンネルを抜けると縦横3メートルくらいの広いトンネルだ。向かって右側に通路があって、左側の大部分が水路になっている。

 この水路は前述の通り下水道なので、何と言うか、いろんなものが流れているし、臭いもキツイ。詳細は不要だろう。

 水路を5分ほど歩くと右手に3段ほどの階段とその先に扉があるのを見つけた。


「この扉は何ですか?」


 僕の問いかけに、隣でたいまつを持っていたシティーガードの一人が答えてくれた。


「下水道の枝道です。実際のところこの先は下水道に関係なくて出入りする必要が無いので、扉を設置して遮断してるのです」


「ではたぶんこの扉の向こう側です。開けていただけますか?」


 なるほど、下水道として利用しているが大々的な探索は行っていないので、枝道は危険を未然に防ぐために塞いであるのか。

 定期的に蟲だの何だのが湧くのは納得だ。

 兵士の一人が階段を上がって扉の鍵を開ける。2重ロックでかなり複雑な鍵のようだ。

 二つのカギを開けると扉表面にあった歯車が回り、ロック本体が解除される。


「ではお先に」


 僕はそう言ってから、扉の中に入る。

 ん。。。見た感じさっき来たところのように見える。位置関係から間違いないと思うが、構造がどこも似通っていて断定できない。

 印をつけておけば良かった、悔やんだが始まらない。


「たぶんこっちですね、進みましょう」


 僕は声をかけてから進み始める。

 

 10分とちょっと歩いたか、コボルドの死体を発見。間違いない、この通路だ。


「あと5分ほど進むと現場に到着します」


 そう告げて歩き続けた。


 幸いなことに現場には追加の脅威は無かったし、何か荒らされたり持ち去られたりもしていないようだ。

 数人のシティーガード達が手分けして周囲を調べている。

 一通り見て回ってきたオーガスタは僕の所にやってきて、彼女の知っている情報を合わせて解決してくれた。


「こいつは聖なる血サンクトゥム・サングィネムの連中だな」


「サンクトム・サンギネン?」


聖なる血サンクトゥム・サングィネムだ。カルト集団だよ。虚無の血(ブラッドオブヴォイド)って呼ばれる連中は知っているか?」


「ええ、虚無の血なら知ってます。狂った教信者ですね」


「その教信者たちの一派が聖なる血サンクトゥム・サングィネムだ。もっとも、一派なのか、派生なのか、はたまた元祖なのかはよく分かってないが」


「どちらにしても狂信者には変わりないですね」


 僕は今の説明に違和感を覚えた。分派にせよ派生にせよ、聖印は似ていることが圧倒的に多い。同じ神、もしくは神に類するものをあがめる場合、聖印は同じか解るレベルで似た形になるはずだ。ところが黒マントが身に着けていた聖印は僕が全く知らないもの。まあ、それが聖印ではないのであれば話は別だが。


「この男が身に着けてるあの首の印章は聖なる血サンクトゥム・サングィネムのものですか?」


「私はそう聞いているよ。この街でも、何年かに一度くらいは事件を起こす困った奴らだ。深刻な被害になった例は今のところないけどな」


「迷惑な話ですね」


「ああ、迷惑極まりないよ。ジニー、ゴルドー、アンザ、奥の部屋の祭壇をぶち壊してこい、地面の魔方陣も使えない程度にな。ザルワン、入り口の見張りにつけ」


 オーガスタは指示を飛ばして、机周辺を調べている。

 僕は少し手持無沙汰で、考える。

 が、あれこれ思ったところで情報が根本的に足りていない。なので一つ方針を転換することにした。


「オーガスタさん、少しお話があります」


「なんだ?戦利品に取り分に関してか?」


 意図して言ったか分からないが、僕が言おうとしていたのはまさにそれだったのでドキッとしてしまう。たぶん顔に出ただろう。


「お察しの通りです。状況を鑑みて悔い改めることとしました」


「懺悔を聞こうか、神官殿」


 オーガスタが、にやりと人の悪い笑みを浮かべる。


「基本的に討伐に当たったのは私で、その戦利品に関しては正当な権利を有していますよ?」


「悪かったよ、冗談が過ぎた、で、神官殿の話とは?」


「はい、戦利品として確保した中に、書状らしきものが数枚、あとこの男のものと思われる日記らしきものがあります」


「ほう」


「それで、これらに関してはシティーガードにお渡しした方が良いのではないかと思ったのですが」


 この話を聞いてオーガスタが考え込む。そして声を低くして言った。


「…それは貴殿が持っている方が良いだろう。万一<大物>の名前でも出てきたら、握りつぶされる可能性がある」


「…それはそういう可能性があるとお考えになって、と思ってよろしいのですか?」


「…明言はできん。私は権限を持たない一士官に過ぎない。だが貴殿は教会の伝手を使えるだろう?」


「おっしゃることは理解しました。私ごと握りつぶされないように注意します」


 オーガスタは再度にやりと笑い、そして声を上げて豪快に笑った。


「貴殿はなかなか豪胆だな、アレン殿」


 方針転換は失敗したが悪い気分ではない。僕も笑いながら答える。


「私も冒険者の端くれですよ、隊長さん」



 作業を終えて外に出るとすっかり日が傾き暗くなり始めている。

 黒マントの死体は一緒に運び出された。身元を照合するのに必要になるかもという事だった。

 今回の事件は偶然物音を聞きつけたシティガードの一人の進言によって調査に入ったところ、遭遇戦となって今の状況となった。

 被害者としてスラムに暮らす2名の夫婦と記載される。

 名前もないし娘の存在も書かれない。埋められる通路の記載もなしだ。

 これでいい。


 外に出てから挨拶をしてスラムに戻る。作業している音は迷宮内には聞こえなかったので、予定通りに作業が進んだのだろう。随分と待たせてしまった形になる。

 途中でブットバルデ家により、エリーの状況を見てから、「すぐ戻りますので、もう少しお願いします」とアナスタシアの母親に声をかけてアナスタシアに手を振ってから最奥に急ぐ。作業員たちは何か話をしていたようだが、僕が来るのを見ると全員がすぐに立ち上がった。


「大変遅くなって申し訳ない」


 開口一番そう言ってその場で深く頭を下げる。彼らは口々に、神官さんにそんなに頭を下げられたらこっちが困るとか、どうせ暇なんで気にしないで下さいとか、次々と声が上がった。

 今日の作業はいったん終了として、明日続きをお願いしたい旨を告げる。出来るだけ早く作業したいので明日は何人か声をかけて人数を増やし欲しいことを伝えて解散となった。

 一人が明日は船荷を積む作業なんで申し訳ない、と言ってきたので、もちろんお仕事を優先してください。と声をかけ、ありがとうと、言いながら銀貨1枚を握らせる。彼は受け取れねえよ、と言ったが、労働の対価は受け取る権利があると僕は思うので、


「では誰かが困ったときに使えるようにあなたが預かってください。お願いします」


 そう言って頭を下げる。

 ここまでされては彼も断れなくなったのだろう、「預からせてもらうよ」と言って去っていった。

 誰が困ったときに使っても構わない、もちろん、彼自身が困ったときに使ってもいいのだから。


 こうして一通り今日すべきことを終えたので、そこに置いてある僕の荷物を持って、再びブットバルデ家に戻った。

 アナスタシアとその母親は自分の小屋に戻っていき、少し静かな時間が訪れた。

 エリーの状態は安定しており、止血による壊疽も起きていない。もしかすると、呪いの影響で壊疽は起きないのかもしれないが、起きてからでは遅いので注意は続ける。広場に治療道具その他を置いているのを思い出して取りに行く。

 スラムでは、荷物を置きっぱなしで無くならないなんてことはあり得ない。だけど、ここの人は僕のものだと知っているので持って行ったりはしない。信頼を得ることが出来ている証拠だ。

 診察道具と布を回収し、今日使った残りの薬は、とりあえず置きっぱなしで良いか、重いし。

 三度ブットバルデ家に戻ると、椅子に腰かけてようやく一息だ。


 とにかく長い一日だった。

 これだけ目まぐるしくいろんな事をやったのは5年ぶりくらいか、ああ、そうだ。従軍して砦の防衛戦に参加してる時だ。そんなこともあったなぁ。

 こんなことを思い出すなんて、さすがに疲れているようだ。

 ポーチから時計を取り出す。これはゼンマイで一定間隔の時間を教えてくれるものだ。機械仕掛けの砂時計と言えばわかりやすいだろうか。

 ネジをいっぱいに巻くと1分ごと、10分ごと、1時間でベルが鳴る。1時間を超えるとその時間の正確性は保証されない。

 時計の脇にあるボタンを押して10分ごとにだけ鳴るようにしてから竜頭を押し込む。あ、ちなみに1時間ごとのはキャンセル出来ない。

 机の上に極小ランタンを置いて灯す。

 とりあえずの準備は完了だ。

 鎧を外して、リラックスできるようにする。

 外し終わったころに10分のベル。

 エリーの止血帯を緩めて指先の血色が回復するのを待ち、再度締める。

 僕は瞑想状態に入りながら10分ごとにこれを繰り返す。

 一時間に一回は時計のネジを巻くのも忘れないようにして。。

 そうして夜は更けて行った。


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