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エルフの里は焼かれがち  作者: 北川やしろ
1. エルフと私
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1-9. 疑念

 「ごめんなさい」


 タマラに二人が連行されてから私の時間感覚では約30分。

 タマラと共に二人が戻ってくると、エライザは私に頭を下げた。


 「リーナ、エライザに悪気があったわけじゃないの。彼女は本当に優しくていい子だから」

 必死にアイリスはエライザのことをフォローした。


 「そんなこと思ってないよ。知らない人に警戒するのは当然だよ」

 私は出来るだけにこやかな雰囲気で答えた。


 「きっとイリスが取られちゃうと思ったんだよ。昔から仲良しだからね」

 タマラは二人に先ほどまでとは違う優しい目を向けた。

 「そんな、取るだなんて」

 私は慌てて否定する。

 「何?嫌なの?」

 エライザが私を睨む。

 「やめなさい」

 タマラがすぐさま口を挟む。

 「違いますよ。私とイリスは昨日あったばかりだから。それに今の私はイリスの行為に甘えているだけだから。いつかはここから離れることになるだろうから」

 「えっ、ここから離れる…」

 私の何気ない一言にアイリスの顔が曇った。


 「そりゃ、いつまでもイリスのお世話になるわけにはいかないだろうし」

 「……」

 しょんぼりというよりどこか悲壮感を感じた。

 「イリス、何も今日明日のことじゃないんだから」

 タマラがすぐさま慰めに入った。

 一体どうしたんだろう、と困惑していると、エライザと視線があった。

 エライザはため息をつくと私の元に近づき耳元でささやいた。



 「イリスにはお姉さんがいたの。でも人間達に捕まってしまって殺されてしまったの。イリスはお姉さんのこと大好きだったから…」


 なんとアイリスには姉妹がいたとは初耳だった。

 「それと今の状況に何か関係があるんですか?」

 私はエライザに話の続きを催促する。


 「そのお姉さんは金髪が基本のエルフでは珍しく銀髪でね。瞳の色も私達のような瑠璃色ではなく赤い瞳をしていたのよ。まるであなたみたいに」


 「えっ!それじゃあ、イリスのお姉さんってダークエルフだったんですか?」

 「そんなわけないじゃない。お姉さんは普通のエルフよ。あんたとは違って白い肌の普通のエルフよ」

 エライザは少し怒ったような乱暴な口調だった。

 そんなに怒らなくていいのに…。


 「だからあんたにお姉さんの面影を重ねてるんだよ、きっと。だからあんたのこと必死になって守ろうとしてるんだよ。お姉さんに似たエルフをまた失いたくないってね」


 ずっと疑問だった。

 アイリスは何故私に対してこれほど優しく、親身になってくれるのか。

 その理由が判明した。


 「やっと最近になってお姉さんのこと忘れられてきたのに、あんたが現れちゃったからまた思い出しちゃったじゃない。どう責任とってくれるのよ!」

 「えぇ…、責任って…」

 そんなこと言われても困る。

 そもそも私もこんな姿になるとは思ってもみなかったのだから。


 「出来るんだったら私がイリスの隣にいたいんだから…」


 エライザは口を尖らせて不機嫌になる。

 「じゃあエライザさんがいてあげたらいいんじゃないんですか?」

 当然の疑問だった。

 したかったらすればいいじゃないか。何故しないのだろう?

 「それは無理だよ。だって私は…」

 そう言うとエライザは私の耳に手をあて周囲に聞こえないようにすると、こう言った。



 「男だから」



 「!?」

 思わずエライザの体を凝視した。


 金髪の長髪に色白な肌、スラリと長い手足に尖った耳。アイリスとよく似た外見。

 言われてみたら衣服に隠れて体型まではよく見えないので今の状態では男か女かはっきりとした判断は出来ない。

 しかしエライザの声はトーンもレノンのような低さはなく紛れもなく女性の声色だ。

 これで男?どう見ても女ではないか。


 「何?」

 私の恐ろしいものを見たかのような視線にエライザは眉を(ひそ)めた。


 「えっ…、本当に?」

 「そうだって言ってるでしょ。でもイリスには言わないでよ」

 エライザは口止めする。

 「どうしてですか?」

 「どうしてってそりゃ、イリスはこのこと知らないから」

 「はぃっ?」

 どういうことだ?なんでもわかるスキル『神眼(しんがん)』をアイリスは持っているはずなのではなかったのか。

 そのスキルを持ってして知られていないとは一体どういうことなのだろう。


 「イリスには『神眼(しんがん)』があったはずでは…?なのに知らないの?」

 「当たり前じゃない。あのスキルはそうバンバン使えるものじゃないの」


 そうだったのか。

 『神眼(しんがん)』はそんなに頻繁(ひんぱん)に使用できるものではないらしい。

 ではその貴重な一回を私に使ったということになる。

 私のことを相当警戒していたということなののだろう。


 「それに私とイリスは赤ちゃんのころからの幼馴染。そんなスキルなくてもお互いのことはよく知ってるから私に対して使うっていう発想がないんだと思うよ」

 なるほど、確かにそうだ。

 親しい人ほど疑うということをしなくなる。

 その結果、実は黒幕はその人でした、なんていうことは小説の定石でよくあることだ。

 灯台下暗しというか、何と言うか…。


 「で、でも、同居している人はたくさんいるって」

 昨夜アイリスが言っていたことを思い出し、問いかけた。

 「馬鹿言ってるんじゃないわよ!さすがに同性同士ならまだしも、夫婦でもない男女は同居はしないの!」

 エライザはアイリスに聞こえるんじゃないかと思うほどの叫び声を上げる。

 が、すぐに気が付いたのか声を押し殺し再び私の耳元でささやいた。


 「告白とかしないんですか?」


 「なっ!そ、そんなこと、するわけないじゃない!!」

 エライザは叫ぶ。

 その声にアイリスとタマラがこちらを見る。

 私は大丈夫ですから、と合図を送り、二人を安心させた。


 「私はそういうのはいいの。ただイリスの近くにいれればそれで」

 ぶっきらぼうにエライザは答える。

 ただその視線の先にはアイリスがいた。


 「本当ですか?」

 「どういうこと?」

 「本当にそういう気持ち、ないんですか?」

 念押しした。

 恋の恨みは恐ろしいから。


 「ないない。イリスには失礼だけど、まったく」

 「家族になりたいとか、その…、二人の間に子が欲しい…とか?」

 恐る恐る聞く。

 「は?何それ?」

 エライザは訳がわからないという顔をした。

 「いや、そのままの意味ですけど」

 「ないない」

 あっさり否定された。

 エライザの恋愛感とは一体どうなっているのだろう。


 「私はただイリスが笑っていてくれればいいの。だからどこの馬の骨かわからないあんたがイリスを悲しませるようなことがあったら承知しないっていうこと」

 それは同感だ。

 アイリスにはあの弾けるような笑顔をしていて欲しい。そう思った。


 「だけどさ」

 「ん?」

 突然エライザの視線が鋭くなった。

 「なんかあんたさっきから変なこと言っているよね?気付いてる?」

 「変なこと?」

 はて、何だろう?首を傾げる。


 「ふーん、気付いてないんだ。じゃあ、やっぱりあんたエルフじゃないんじゃない?」


 「えっ!」

 エライザはアイリスとタマラに聞こえるように大声を出した。

 二人が再びこちらを振り向いた。

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