2-28. 帰路
生存者の捜索を終えた翌日、私とアイリスはエルフの里への帰還するため避難所を後にしようとしていた。
「お気をつけて」
見送りに来てくれたセバスチャンが声をかけた。
「ありがとうございます。いってきます」
手を振ってラグナシティから立ち去る。
一緒に来ていたアリスは何も言わず、どこか寂しそうに手を振り返してくれた。
アリスも連れて行ってはどうか?という話もあった。
しかし、見た目はエルフでも中身は人間のアリスに半日の樹上移動は厳しいだろうということになり、彼女はラグナシティに残ることとなった。
最初は駄々を捏ねていたアリスだったが、最後は納得したように引き下がった。
しかし未だに少し拗ねていた。
幸いにも今のラグナシティの人々は人間以外の種族にも寛大だ。
何も心配することはないだろう。
「ずっと来てたのに、人間達のこと何にも知らなかったよ。あんな人達もいるんだね」
アイリスは遠ざかるラグナシティの人達との交流を思い出しているようだった。
意外なほど町の人たちは私達エルフに対して友好的だった。
エルフと見れば躊躇なく殺しに来る。
それがエルフの里における人間の常識だった。
実際にそういう行為が行われたのだから、そういう認識になるのはしょうがないことだと思った。
しかし、ラグナシティの人達はまるで別の生き物のようだった。
大人も子供もエルフに怖がることなく近づくと親しげに会話を楽しんだ。
食事も一緒に取った。歌も歌った。踊りも踊った。
そんな人間達の姿はアイリスにとって、今までの常識がすべてひっくり返るほどの衝撃的な出来事だった。
「話を聞く限りでは、今のラグナシティに住んでいる人達はこの国の中で特殊な状況に置かれている人達って感じだから、この町以外の人間はイリスが思っているような人達だと思うよ」
「そっか。あんな人達がもっと一杯いてくれたらいいのに」
アイリスがポツリと呟いた。
その願いは私も同じだった。
◇◇◇
町を出て半日。
かつて隠れ潜んでいた岩壁までやって来た。
「やっとここまで来た。あと少しだね」
「うん。急ごう」
見慣れた景色に私達は少し安堵の気持ちを持って先を急いだ。
しかし、すぐにアイリスが異変を察知した。
「ねぇ、何だかちょっと焦げ臭くない?」
「えっ!?そうかな?私にはわかんないけど…」
鼻に神経を集中させるがよくわからない。
ラグナシティで散々色々な臭いを嗅ぎすぎたせいで、鼻が馬鹿になっているのかもしれない。
私は両手を広げてわからないをアピールした。
しかしアイリスは確かに異臭を感じているようだった。
「ラグナシティで嗅いだのと同じような臭いがする」
「えっ!?本当に?どっちの方から?」
「あっちから」
鼻をヒクヒク動かして臭いを嗅ぐと、アイリスは新たに出来た里の方向を指差した。
「あっちって…、里の方じゃん」
「急ごう!」
アイリスの表情が強張った。
大急ぎで里へ向けて移動を再開した。
急ぐこと約10分。
仲間はずれにされ、一人里を見つめ愚痴をこぼした木の上に私は降り立っていた。
そこから見える光景に私は呆然と立ち尽くしていた。
小さな川沿いとその周辺の森が跡形もなく焼け焦げていた。
そう、エルフの里が焼けていた…。




