2-27. 大災害、その後
落雷からおよそ半日。日もどっぷりと暮れ、暗闇が広がる中、赤々とした炎と白い煙が立ち上っていた。
町は未だに燃え続けていた。
そんな町を背後に、パチパチと音をたてる焚き木を多くの人が囲んでいた。
「これからどうなさるおつもりですか?」
隣に腰を下ろしたアリスが私に訊ねた。
「私達は一旦里へ戻ります。今回のことと、新たに知った事実を一度報告しないといけないので」
「戻って来られますよね?」
縋るような瞳でアリスは私を見つめてきた。
「それは…」
これ以上は何も言えなかった。
今、私はエルフの里では嫌われ者状態だ。
しかし、この町では命の恩人だの救世主だのという扱いを受けている。
居心地がいいのは、この町の方だった。
しかし、そう簡単に物事は進まない。
何故なら、本当にこの町が安全かはわからないのだから。
それに王国と教会。どちらもエルフを目の敵としている。
私がいることで、関係のない人達を巻き込んでしまうかもしれない。
そう思うと、簡単に返事は出来なかった。
「あっ!?雨だ!」
アイリスが空を見上げていった。
ポツリポツリと雨が降り始めたかと思うと、途端に本格的に激しく降り出した。
人々はテントの中に一斉に避難した。
「テント、作っておいてよかったね」
一緒にテントに入ったアイリスは静かに言った。
「うん。そうだね」
私はそれだけ答えると黙って空を見上げていた。
雨は翌日も振り続け、止んだのは降り始めから2日後のことだった。
◇◇◇
降り続いた雨によって火は完全に鎮火していた。
生き残った住民と共に私は完全に焼け落ちたラグナシティの捜索に参加した。
「誰かいるか~!」
ユリウスが声を張り上げる。
返事が返ってくることはなかった。
焦げくさい臭いとともに、思わず吐き気を催すような異臭が漂っていた。
木材が積み重なったように見える黒い塊があちらこちらに見える。
おそらく生き物だったものの成れの果てだ。
その事実に気付くと、気分が悪くなりその場に座り込んでしまった。
「大丈夫か?」
「はい。すいません、大丈夫です」
ユリウスの伸ばした手を掴んで立ち上がると、再び捜索を開始した。
町の北部。軍の駐留地だった場所へ進むとユリウスの足が止まった。
「なんてこった…」
目の前に広がる光景に愕然としていた。
駐留地は周囲を高い壁でぐるりと取り囲まれていた。
壁のすぐ下は深く掘り込まれ、水が張られていた。
敵の侵攻を防ぐ目的と防火用水として利用するためなのだが、その見た目は高い壁で囲まれた島のようだった。
しかし今目の前に高い壁はなかった。
深く掘られた堀も崩れた瓦礫ですっかり埋まっている。
島のようになっていた駐留地部分には、地面が見えないほど一面黒い塊に覆い尽くされていた。
地面は平らではなく、かつて生き物だったものの成れの果てによってこんもりと盛り上がっていた。
「出口は橋一本だけ。その橋が焼け落ちてしまえば、脱出は不可能だ」
ユリウスはそれだけ言うと力なくその場に膝から崩れ落ちた。
周囲を壁と水で囲まれた駐留地は火災において安全な場所とされていた。
しかし炎は高い壁も水の張られた堀も越え、駐留地に襲い掛かった。
外敵から身を守るために作られた高い壁によって、逆に逃げ込んだ人達は逃げ場を失ってしまったのだ。
結局、生存者は誰一人確認されなかった。




