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エルフの里は焼かれがち  作者: 北川やしろ
1. エルフと私
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1-5. 私の存在

 テントの群れの中をズンズン進むと、目の前に明らかに他のものとは違う立派なテントが現れる。

 目的地は間違いなくこのテントなのだろう。

 アイリスはそのテントに近づくと入り口で立ち止まった。


 「里長(さとおさ)、連れてまいりました」

 

 アイリスはテントの中へ声をかけた。

 「入りなさい」

 すぐに中から男性の声が返ってきた。

 アイリスは返答を聞くとチラリと私に視線を送る。

 これから中に入るという合図だろう。

 私は再び黙って頷いた。



 「失礼します」

 アイリスは凛々しい声をテント内に響かせ入室する。

 こんな声も出せるとは知らなかったと意外な姿に感心する。

 彼女に続いて入室する。

 アイリスは私をテント中央まで誘導すると私の後方に下がった。

 エルフの作法はわからないのでとりあえずお辞儀をすることにする。

 顔を上げテントの中を見渡すと7~8人のエルフが半円状になって座りこちらを見ていた。


 エルフ達は私をジロジロと見つめと何やらソワソワし始める。

 ある者は腕を組みう~んとうなり、またある者は隣の者とヒソヒソと耳打ちして何やら言葉を交わしていた。


 「さて、カトリーナ殿…で間違いはないのだね」


 真ん中に座る髭を蓄えたエルフは私に向けて口を開いた。

 彼が話し始めると周りのエルフ達は背筋をピンと伸ばした。

 その反応からおそらく彼が里長(さとおさ)なのだろうということがわかった。


 「はい、私がカトリーナです。この度は助けていただきましてありがとうございます」

 私の言葉を里長(さとおさ)は表情一つ変えずに聞いていた。

 「イリスから聞くところによると、記憶がないということらしいが本当かな」

 「はい、気がつくと森の中に倒れていまして…。一体何が起こったのか、ここがどこなのかもわからず途方に暮れていたところをアイリスさんに助けていただきました」

 ふむ、と里長(さとおさ)は髭を撫でながら時折相槌を打ちながら私の話を聞いていた。

 「見たところ君はダークエルフのようだが…。それで間違いないのかな」

 里長(さとおさ)はどこか戸惑っているような物言いで私に問うた。

 「えっと…、実は私も先ほど自分がダークエルフのような見た目をしているということに気がつきまして…」

 私の答えに周囲が一斉にざわついた。


 「自分の姿に気がつかないわけがないだろう!」

 エルフの一人が私を指差して叫ぶ。

 確かにその通りだ。それは誰よりも私が一番思う。本当に何故気がつかなかったのだろう。

 思い当たる節があるとしたら、アイリスに引き回され、容姿を含めて自らのことを確認する余裕がなかったということくらいだ。


 「きっとエルフの姿を真似した人間です!すぐに捕まえましょう!」

 先ほどのエルフは続いて私を拘束することを提案する。

 そうだそうだと言う声がちらほらと出始める。

 その間里長(さとおさ)は腕を組んで目を閉じ何か考えてるようだった。

 いろんな想像が頭の中を駆け巡る。

 私は捕まってしまうのか、捕まったらどうなってしまうのだろうか。

 様々な意見が飛び交い騒然となる。そんな時だった。


 「待って下さい!」


 周囲の怒号をかき消すほどの大声がした。アイリスだった。

 突然の大声に今までの騒々しさが嘘だったように静まり返る。


 「カトリーナさんは間違いなくエルフ族です。間違いありません」


 アイリスは私がエルフだと主張した。

 「イリス。その根拠は一体何だい?」

 それまで黙っていた里長(さとおさ)が口を開いた。

 「はい。まずカトリーナさんは私と共に樹上を移動してここまで来ました。もし人間だったとして、彼らは木から木へ飛び移って移動することが出来ますか?そんなことは不可能です。しかし彼女はそれをやってのけました。だから彼女は絶対に人間ではありません」

 アイリスは身振り手振りを交えながら答えた。

 人間ではないと言われてしまうことに対しては少し複雑な気分になるが、確かに彼女の言うことが確かならばここまでの私の行動は人間では不可能なものと言わざるを得なかった。

 「人間達によって強制的に生ませられ、スパイとして育てられた可能性もあるじゃないか。エルフというだけで信用するわけにはいかない」

 アイリスの主張に先ほどまで私を捕らえることを求めていたエルフの一人が反論した。

 確かにそうだ、と周囲が再び騒ぎ立て始める。

 「その可能性はどうなのかね」

 喧騒の中、里長は再びアイリスに訊ねた。

 「それもあり得ません」

 「何故そう言い切れる?」

 アイリスがきっぱり言い切ると、反論したエルフは眉をひそめ怪訝な表情で問うた。

 

 「『神眼(しんがん)』で見たので間違いありません」


 「し、『神眼(しんがん)』だと…」

 『神眼(しんがん)』という言葉にテント内が騒然となる。

 『神眼(しんがん)』って何だ?

 私だけ意味が分からずポカンとする。


 「レノン殿。本当にその者には『神眼(しんがん)』が使えるのですか?」

 エルフの一人が里長(さとおさ)を見て訊ねた。

 どうやら里長(さとおさ)の名前はレノンらしい。重要な人物のようなのでしっかりと覚えておくことにしよう。

 「アトラ殿はノースフォレストの方でしたね」

 「えぇ。そうです」

 「ではご存じないのも当然。確かにイリスはレアスキル『神眼(しんがん)』を保有しています。なので彼女を偵察に出していたんです。カトリーナ殿に出会ったのは想定外のことですが」

 レノンはお手上げというような仕草をすると首を数回振る。

 どうやら私の存在は彼にとってあまりうれしい出来事ではなかったのかもしれない。


 「なるほど、わかりました。であればリーナ殿はエルフで間違いないようですね」

 アトラと呼ばれたエルフはレノンの言葉に納得をしたようだった。

 何が起こったのかわからないうちに勝手にエルフたちの理解が進んでいく。


 「ごめんなさい、アイリスさん。何が起こっているの?」

 私は首だけ振り返ると手を口元にあてアイリスに今何が起こっているのかを訊ねた。

 「私の鑑定スキル『神眼(しんがん)』でカトリーナさんを鑑定させてもらった結果、カトリーナさんは間違いなくエルフ族で間違いないということになったわけです」

 アイリスは小声で私に手短に説明する。

 わけです、と言われてもわからないことのオンパレードだ。

 「あの、『神眼(しんがん)』って何ですか?」

 なにやら重要なキーワードらしい『神眼(しんがん)』ことについて私はアイリスに訊ねた。


 「『神眼(しんがん)』というのは、対象物の思考や本質を見抜くことができる鑑定スキルです。ですから相手がどんな隠し事をしていても全て見抜くことが出来るんです。とてもレアなスキルでこの村でこのスキルを持っているのは私だけなんですよ。」


 アイリスは誇らしげな表情を浮かべる。

 きっとそれくらいすごいスキルなのだろう。

 しかし私は別のことで頭がいっぱいになっていた。


 本質や隠し事を全て見抜くことが出来ると彼女は言った。

 ということは彼女には私の素性が全てバレているということではないだろうか。

 恐る恐るアイリスを見る。

 「どうかしましたか?」

 私が向けた不安げな視線にアイリスは戸惑ったような声を上げた。

 どうやら私の考えていることを彼女は理解していないらしい。


 「あ、あの…アイリスさん。私のこと、本当はわかってるのですよね?」


 答えが怖かった。

 しかし聞かざるを得なかった。


 「本当のこと…ですか?」

 アイリスは私の問いかけに少し考え込む。

 その時間が私にとっては途方もないほど長く感じた。

 彼女は私のことをどう思っているのだろうか。

 冷や汗が背中を伝う。

 しかし彼女は私の予想していたものとは違う反応を見せた。


 「あぁ、あれのことですね。大丈夫です、心配いりません。確かに大変なことだとは思いますけど。でもちゃんと話したらきっと皆さんわかってくれますよ」


 アイリスは少し考え込んだ後、何だかよくわからないことを言い出した。

 大変?一体何のことだろう。


 「カトリーナ殿。どうかしたかい?」

 里長(さとおさ)レノンが鋭い視線でこちらを見ていた。

 どうやら私たちがコソコソと話ているのが気になったようだ。

 「あっ、いえ。聞いたことがない単語が多くて。アイリスさんに説明してもらっていただけです」

 「そうだったのか。それは失礼したね。」

 レノンの視線がそれまでのものに戻る。

 一瞬見せた警戒心。どうやらまだ私は完全に受け入れらているということではないようだ。

 気を付けないと発言一つで全てがひっくり返る可能性はまだ残っている。


 「ところでイリス、お前はまだ何か言うことがありそうだな」


 レノンは私とは異なりアイリスに対しては鋭い視線を見せた。

 その視線にアイリスはビクリと反応する。

 どうやらレノンにはアイリスに何か引っかかるものを感じたようだ。

 アイリスは私の方にチラリと視線を送ると、「大丈夫、私が何とかするから」と私にだけ聞こえるくらいの小さい声を発するとレノンの前に出た。


 「はい、実は一つご相談したいことがあります」


 「何だい。言ってごらん」

 「実はカトリーナさんは…、魔法が使えないようなんです」

 「……何だと」

 アイリスの発言にレノンの表情が明らかに変わった。

 同時にこれまで落ち着いていた場の空気が一変した。



 「そんなことはありえない!」

 「どういうことだ?『神眼(しんがん)』で見たのではないのか?」

 「話が違うぞ。そやつはエルフだとはっきり言ったではないか!」

 次々とエルフたちが悲鳴にも似た声を上げる。

 魔法。それはファンタジー作品における定番能力だ。

 しかしそんなものは存在しない。それが私たちの世界の常識だ。

 しかしエルフたちの物言いから、今私がいるこの世界では当たり前に存在している能力のようだ。

 まさにファンタジー世界ではないか。しかしアイリスは私にはその魔法が使えないと言った。

 それは一体どれほど重大なことなのだろうか。


 「イリスよ。どういうことか説明しなさい」


 怒号が飛び交う中、レノンがポツリと呟く。

 それほど大きな声ではなかったが、その声は何故かはっきりと聞き取る事ができた。

 声色から感情を読み取ることはできなかった。

 しかしその発言を聞くや否や全員がピタリと発言をやめ、静寂が広がった。


 「はい。『神眼(しんがん)』でカトリーナさんを鑑定しましたが、彼女には人間族による影響は何もみられませんでした。ただ彼女には魔力の核が見えませんでした。ですので恐らくカトリーナさんは魔法を使うことが出来ないと思われます」


 アイリスの説明をレノンは目を閉じながら聞いていた。

 眉間にしわを寄せ、何かを考えているようにも見える。


 「それでも彼女はエルフである…、ということで間違いないのだね?」


 絞り出すようにレノンはアイリスに訊ねた。

 「はい、間違いありません。カトリーナさんからは混じり気のない純粋なエルフの本質がはっきりと見えました」

 「…そうか。…なるほど、わかった。お前がそう言うのなら、そうなのだろう」

 レノンは神妙な表情を浮かべアイリスの言葉に耳を傾けるとポツリと呟いた。

 「レノン殿、一体どういうことですか。私たちにはさっぱり意味がわかりません。説明願います!」

 一人のエルフがレノンに食って掛かる。

 確か彼はアトラと呼ばれていたエルフだ。

 彼同様、私も説明は欲しいので今だけは彼に賛同したい。


 「魔力がないのにエルフだなんて言われても、そんなこと受け入れられるわけがないじゃないですか」

 「そうです。我々が受け入れられるような理屈がないと納得出来ません」

 アトラの発言に続いて次々にエルフたちがレノンに言葉を投げかけた。

 その言葉たちをレノンは黙って聞いていたが、発言が途絶えるとゆっくりと目を開けると口を開いた。

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