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エルフの里は焼かれがち  作者: 北川やしろ
2. ラグナシティ編
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2-20. 雷鳴

 はぐれた。


 やはりというか案の定というのか。

 市場は人で埋め尽くされ身動きをとるのもやっとの状態だった。


 聞いた話ではこの町の人口は10万にほど。

 その全ての人がここら一帯に集まっているのではないかと思うほど、人で溢れかえっていた。


 「はぐれないようにしないとね」

 「うん。手でも繋ぐ?」

 そんなことを言ってからしばらくして、私達は離れ離れになってしまっていた。



 次第に身動きが取れなくなりはじめると、完全に人の流れが止まった。

 人の流れはないはずなので、普通ならばその場で止まっているはずだった。

 しかし、気が付いたら隣からアイリスは姿を消していた。


 幾多の危険任務を経験してきた彼女であれば、これくらいのことは多分大丈夫だろう。

 むしろ大丈夫ではないのは私の方だった。


 「おい!押すな」

 「誰だ!足踏んでるぞ!」

 「押すのは止めろ!店が壊れる!」

 身動きが取れない中、後ろから押され始めた。

 周囲から悲鳴と怒号が飛び交うようになる。


 これ、本格的に不味くないか? 

 雑踏事故の恐怖が頭をよぎる。


 そんなことを思っていると、ポツリポツリと雨粒がロープに打ちつけ始めた。

 「なんだよ!雨まで降ってきやがった。最悪だな」

 近くの男性が空を見上げて呟いた。

 私も空を見上げた。


 上空には真っ黒な雲が一面を覆っていた。

 チカチカと稲光が音もなく雲の中で蠢いているのが見えた。

 すると突然冷たい強風が市場を吹きぬけた。


 「冷た!でも人だかりで蒸れて暑かったからちょうどいいぜ」

 吹き付ける冷風に人々は迷惑どころかむしろ心地よさを感じていた。

 確かに熱気でムンムンとし、不快指数も上昇していたであろう中では、吹き抜ける冷風はとても気持ちが良かった。


 私は再び空を見上げた。

 ふと視界に高く聳え立つ教会の時計塔が目に入った。


 教会の威厳と存在を示すように町のどの位置からでも見えるように塔は設計されたのだとセバスチャンは言っていた。

 塔の側面には四方に金属で出来た時計が設置してあり、その上には時報を伝える鐘が吊り下げられていた。

 そこだけ見るとヨーロッパの古い町並みか中世の世界観を思わせる光景だった。

 そこにライトアップ用の照明が取り付けられているのが少し不釣合いに見えた。

 塔の側面に這うように設置されている照明用の電源ケーブルが風に揺れていた。

 『しかし高い塔だよな…。これだけ高いと雷が落ちても文句は言えないな』

 私は時計塔を見上げながら心の中で呟いた。

 そして同時にハッとあることに気付いた。



 何もない開けた場所に天高くそびえる塔。

 真っ黒い雲に覆われた空。

 雲の間からは落雷まではいっていないが、放電現象が見える。

 そして突然吹きつけ始めた冷たい風。



 すべての点が線で繋がった。

 私はこのあと起こるであろう出来事を経験したことがある。

 危険はすぐそこに迫っている。

 すぐに逃げなくては!

 まさにそのときだった。

 


 バリバリバリ!

 ズドーーーーン!



 巨大な一筋の稲妻が空を引き裂いた。

 空から放たれた閃光は時計塔目掛けて一直線に降り注ぐと、地面の底から響き渡るような地響きを上げた。


 「キャァァァァァァァァァ!!!!!!」

 「何だ!?」

 「落ち着け!落ちたのは教会だ!ここは大丈夫だ!」

 あちこちで悲鳴が上がる。

 人々はパニックになるが、市場の店主達は落ち着くように市民をいさめた。

 それが功を奏したのか次第に人々は落ち着き始めた。


 しかし、本当の悲劇はここから始まった。

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