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エルフの里は焼かれがち  作者: 北川やしろ
2. ラグナシティ編
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2-16. エルフと人間

 食事を終え、しばし団欒を行った後、私はアリスにエルフの里での裏切り行為、そしてその後起こったエルフ壊滅作戦を出し抜いた方法を話した。

 アリスは終始目を輝かせて話を聞いていた。

 その背後でセバスチャンも時折驚きながら真剣な眼差しで話を聞いていた。


 「ふぁ~」

 アイリスがあくびをした。

 「お疲れのようですし、今日はこれくらいにしてはいかがでしょう?」

 セバスチャンは私達にそう言ってお開きにすることを提案した。

 「そうですね。まだまだお聞きしたことがありますが、今日はもう遅いのでこのあたりにしましょう」

 アリスはセバスチャンの提案に乗った。


 「部屋はいくつかありますので、そちらかこちらの部屋をお使いください」

 リビング・キッチンを除いても4~5部屋はあった。

 その中の2部屋を紹介された。

 「この町で商売を始めようと思いまして。商品を保管するため少し広い物件を借りたんです」

 アリスはそう言った。


 部屋の中にはまだ何も入ってなかった。

 「いつから商売を?」

 「実はまだ許可が下りてなくて…」

 アリスは肩を落として言った。

 「(わたくし)だけでなく多くの方達が新たな商売を始めようと申請をしているみたいなんです。でもあまりお店が増えると元からあったお店に影響が出るからと、昔から商売を行っている方々が許可することに制限をかけるよう圧力をかけているみたいなんです」

 「そうなんだ」

 アリスも大変だと思いながら私は休むことにした。

 一応用心のためにアイリスと一緒の部屋で寝ることになった。



 ◇◇◇



 ふと夜中に目が覚めた。

 隣の布団ではアイリスが豪快な寝息を立てて眠っていた。


 扉の隙間から明かりが漏れてるのに気が付いた。

 どうやらまだ誰か起きているようだ。

 部屋を出てリビングに向かうとそこにセバスチャンの姿があった。


 「どうかなされましたか?」

 セバスチャンは私に気付くと声をかけた。

 「いえ、ちょっと目が覚めただけです。セバスチャンさんはまだ休まれないのですか?」

 私は何気なく訊ねた。

 「ははは。執事の仕事は主人が寝てからが本番ですから。アイリス…、ではありませんでしたね、アリス様が不自由なく過ごせるようにするのが私の仕事ですから」

 セバスチャンはにこやかな笑顔を見せた。

 アリスはその容姿から忌み嫌われていると言っていた。しかし彼からはそのような気配はなく、むしろ強い信頼関係があるように見えた。


 「いつから執事はされてるんですか?」

 「アリス様がお生まれになられたときからですので16年になりますね。早いものです」

 セバスチャンは目を細めていった。

 「私はもともと軍にいましてね。自分で言うのもなんですが、それなりに人望もあって出世もしたんです。ただ権力争いに巻き込まれてしまいましてね。それで軍を辞めようと思っていたんですが、ちょうどそのときにアリス様がお生まれになられ、そのお世話をするように申し付けられたんです」

 「そうだったんですね」

 「まぁ仕事と言いながらも、内容は完全にただの子育てでしたよ。それまで仕事ばかりでまともに我が子の子育てにも参加しなかったのに、他人の子育てをすることになるとは思ってもみませんでした。同じくらい我が子の子育てもしてと言われたのですが、そんな余裕はありませんでした。結局自分の家庭はそっちのけでいた結果、妻は私に愛想をつしてどこかへ行ってしまいましたよ」

 セバスチャンはそう言って笑ったが、私はどうしてよいのかわからず、愛想笑いを浮かべるしかなかった。

 

 「ところで、リーナ様はアリス様をどう思いますか?」


 「はい?どう思う…ですか?」

 先ほどまでの和やかな感じとはまったく別物の雰囲気をかもし出してセバスチャンは私に訊ねた。


 「はい。この方は人間でありながらダークエルフとして見られる運命を背負っておられる。しかし姿はそうであっても中身は人間なのです。人間でもダークエルフでもない。あなたはアリス様はどのような存在だとお考えでしょうか?」


 人間とエルフ。

 人間なのに人間と認められず、でも本当のエルフでもない。

 それが今のアイリス・ニードル・ソルガムという存在だ。

 それはまるで私自身のことを言われているようにも思ったが、私が元人間である転生者であるとうことはまだ二人には言っていない。

 彼はおそらく、ダークエルフである私にアリスがダークエルフとして生きる道があるのか聞きたかったのではないか。

 勝手にそう判断した。


 「見た目がどうとか、中身がどうとかはわかりません。でも本人がどう思っているか、じゃないでしょうか。本人が人間だと思っていれば人間ですし、エルフだと思っていればエルフです。それを決めるのは私達じゃない。本人です。ですが私は彼女がどちらを選んだとしても関係なくこれまでと同じように付き合いますよ。人間かエルフかなんてどうでもいい。彼女は彼女以外の何者でもないじゃないですか?」


 これは逃げだ。

 何だか上手いことを言っているようではあるが、そうじゃない。

 人間とエルフ。どちらかなんてわからない。

 だって、今の私だってどちらかわからないのだから…。

 だからこの言葉は私自身に向けたものでもある。

 決して彼女に対してだけの言葉ではない。


 『人間』と『エルフ』。『加藤李衣奈』と『カトリーナ』。

 私もどちらで生きていくべきなのか、そろそろ本当に決断しなくてはいけない。

 そう強く思わされた。



 「そうですか」

 セバスチャンは黙って私の言葉を聞くと頷いた。

 「確かにその通りですね。私はアリス様のことを思っていたようで、本当は周りで彼女の存在を疎ましく思っている人達と同じだったのかもしれませんね」

 「そんなことはないと思いますよ」

 彼からはそのような気配は微塵も感じなかった。

 しかし胸に秘めた本当の気持ちまではわからなかった。


 「正直、これからどうして言ったらよいのかわからないです。私が元気でいるうちは大丈夫でしょう。しかし、それもそう長くはないでしょう。その後はどうなってしまうのか。彼女はきちんと生きていけるのか、それが心配でならないんです。アリス様はどちらの世界でも生きていくことが出来るのでしょうか?」

 セバスチャンは真剣な眼差しで私を見つめた。

 その瞳には一点の曇りもない。これが彼の本当の気持ちなんだ。


 「実のところ、私も少々訳ありでして。それで言ったらアリスと同じような立場だったんです。それでもエルフの里は私を受け入れてくれました。こんな私でさえ受け入れてくれたんですから、アリスが助けを求めれば、彼らはきっと受け入れてくれると思います」

 「本当ですか!?」

 セバスチャンは目を見開いて言った。

 「それに人間の世界も案外見た目を隠して仕事って出来るものですよ」

 私は現世にいたときのことを思い出した。


 度重なる事故により、私は酷い見た目をしていた。

 季節問わず長袖を着用し、帽子とマスク、サングラスをかけ出来るだけ肌を露出させないようにしていた。

 それでも私は社会人として仕事をこなし、普通の人と同じように日常生活を送っていた。

 もちろん表に出る機会は他の人よりも少なかったが、仕事内容によっては表に出る必要のない仕事なんていくらでもある。

 アリスは多くの知識を持っている。

 であれば、その知識を活用した仕事をすればいいのだ。

 大学教授や研究者。彼女の知識を使えばすぐにでも成れそうだ。

 それに、この世界でも身を隠していても大丈夫そうだということを、今日(昨日?)私はすでに確認していた。


 「私、こんな見た目ですけどローブを被って市場の中を歩いたんです。でも誰も私がダークエルフだなんて気付かなかったんですよ。確かサハラン?とか言うのと間違われたみたいで。だから、そのサハランのフリをしたりしていれば意外に大丈夫なんじゃないでしょうか」

 完璧だと思って話した内容ではあったのだが、セバスチャンは困ったような表情をした。

 「サハランですか…。それは少々難しいかもしれませんね」

 「難しいですか?」

 「ええ。少し前ならまだしも、今この国ではサハラン族は『神聖教会(しんせいきょうかい)』による迫害が始まっていますからね」

 「迫害?神聖教会(しんせいきょうかい)?」

 何やら物騒なワードが飛び出してきた。

 しかし思い返せばユリウス達が何か言っていなかったか?

 記憶を呼び起こす。


 『ほら、王都ではサハラン族の立ち入りが禁止され始めただろ?近いうちにこの国から追い出されるんじゃないかって。』

 『この辺りはまだ教会の支配がきつくないからな。でも正直時間の問題じゃないか?』


 「あっ!?」

 何やら点と点が繋がってきたような気がした。

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