2-12. アリス誕生
「そう言えば自己紹介がまだでしたね。カトリーナです。リーナと呼んでください」
私は自己紹介をした。
異世界転生者だとか、元は人間だったとかということは伏せておいたほうがいいだろう。
「私はアイリス・エルフィンクロイツイースト・アルカディア。イリスって呼んで!」
私の背後からアイリスはひょっこりと顔を出して自己紹介した。
「まぁ!アイリスだなんて、私と同じ名前ですね!」
アイリスという名を聞くと、王女は驚きの表情をした。
そう言えば、王女の名前もアイリスだったっけ?
「ちょっとややこしいね」
思わず口にしてしまった。
「そうですね。このような名前を付けるなんて、絶対にありえないことですので。まさか同じ名前の方がいるとは思いもしていませんでした」
王女は困ったような顔をした。
「確かにアイリスなんて名前、普通付けないもんね」
アイリスは王女の言葉に頷いた。
しかしまぁ、絶対にありえないとはまたすごいことを言うものだ。
アイリスにしても、おそらくエルフを救ったという女神の御伽噺が由来だと勝手に思っていたのだが、やはり名付けには相当ハードルが高い名前なのだろうか?
「『アイリス』っていう名前って一般的じゃないの?よく付けられそうだけど?」
私は二人に訊ねてみた。
「そうですね。『アイリス』の名は“災厄の悪魔”の名前として忌み嫌われていますので」
「えっ!?“救済の女神”じゃないの?」
王女の言葉にアイリスは驚きと疑問の声を上げた。
「救済ですか…。確かにエルフの皆様の側から見たら、多くの命を救った女神と言って過言ではないですね」
王女は少し考え込むと納得したように呟いた。
「やっぱりエルフにとって、アイリスという名前は特別なものなの?」
私は改めてアイリスに自身の名のことについて聞いてみた。
「私達は特に特殊なスキルや戦闘能力に長けた選ばれし存在だけが名乗ることを許される由緒ある名前とされてるんだ。私は『神眼』を持っていたし、里随一の戦闘能力と盗撮力を持つ長の娘でもあったから名づけが許されたんだ」
アイリスはそう言った。
やはりアイリスはエルフ達にとって特殊な存在なのだと改めて思わされた。
では、エルフの世界では名誉ある名ではあるが、人間の世界ではどうなのだろう?
「人間側からは違うんですか?」
今度は王女に聞いてみることにした。
「私達人間側からは多くの国民を殺害した悪魔とされています。ですから絶対にその名だけは名付けることはないんです。そのようなな名を付けられたということは私が父達からどのような存在として扱われていたのか、ご理解いだけますでしょうか」
私の問いかけに悲しげに王女は語った。
「なるほど。ではアイリス呼びは少し失礼になるのかもしれませんね。どうお呼びしたいいでしょう?」
見た目はエルフだが中身は人間である。
であればその名で呼ぶのはあまりよくない気がした。
「そうですね。私としては気にしてはいないのですが、外では絶対にその名を口できませんから、不便は不便ですね。しかし父から貰った唯一の贈り物ですから、まったく違うものにするのも心苦しくて…」
王女は少し複雑な胸のうちを吐露した。
「大丈夫だよ!」
少し重苦しい空気もお構いなしに、アイリスが力強く声を上げた。
何か言い案でも思いついたのだろうか?
「リーナは頭が切れるんだから、何か新しい名前付けてあげたら?」
「えっ!?」
突然アイリスがとんでもないことを言い出した。
まさかの私に丸投げである。
全然大丈夫じゃないんですけど!
「確かにリーナ様はすごく賢い方のようですので、それもよいかもしれませんね」
何故か王女も乗ってきた。
どうしてそうなった?
二人は期待に満ちた目で私を見た。
そんな目で見ないで欲しい。
どうやら断ることは出来ないようだ。
「新しい名前かぁ…」
ペットも飼ったことないし、もちろん子供を生んだこともない。
何かに名前を付けるなんていう経験はほとんどない。
さて、どうしたものか?
王女の口調からして『アイリス』という名前を大きく変えてしまうのは嫌なようだ。
しかし、そのままでは不便ときた。
名残を残して別物にするとは。ここは注文の多い料理店ではないんだぞ!
「う~ん」
私は頭をフル回転させて考えた。
そして、一つの答えを出した。
「『アリス』なんてどうかな?」
「「アリス?」」
二人のアイリスが同時に声を揃えた。
エルフの世界では愛称として最後の3文字だけを残すという風習があった。
それでいけばイリスと同じ呼び名になってしまう。
では別の1文字を取ってはどうだろうか?
『アイリ/アリス/アイス』
何となく語呂が良さそうなのはこの3つだったが、さすがにアイスはどうかと思うので選考漏れとする。
完全にエルフというわけではないのでエルフ式の略称からは少し捻りを加え途中の文字を消去してみると残ったのは『アリス』だった。
『アイリ』も捨てがたかったがあまりにも『アイリス』に近過ぎるような気がした。
アリスも同じと言われればそうなのだが…。
私は選考理由を二人に説明した。
「『アリス』ですか…。素晴らしいと思います。ありがとうございます」
どうやら王女も気に入ってくれたようだった。
こうして本名はそのままに王女改め通称アリスが誕生した。




