2-11. アイリス・ニードル・ソルガム その3
「『神眼』開始」
アイリスの瞳が見開かれる。
瞳孔が開き中から白い光のようなモノが見えた。
『神眼』。
本質を見抜くことが出来る特殊スキルだ。
嘘も隠している秘密もすべてが丸裸にすることが出来る。
しかし見られている相手はそのことに気付くことはない。
知らないうちに情報を奪うことが出来る相手からしたら厄介なスキルだ。
「この子が言ってる内容に間違いはないわ。本質も人間のものしか感じない」
目を閉じてアイリスは言った。
どうやら王女は本当に見た目はダークエルフだが、中身は人間ということのようだ。
何だか少し親近感を感じた。
「魔力もないの?」
「うん、感じないね。他の人間達とまったく同じ。僅かでもあればわかるんだけど、残念ながらそれも感じないね」
何と、それでは本当に私と同じではないか!?
違うとしたら私は本質もエルフということになっているくらいだ。
「もしかして、さっきのって『神眼』ですか!?」
今後のことについて考えていた私達を尻目に王女はどこか興奮気味に声を上げた。
「ええ。そうですけど?」
見つめらたアイリスは少し戸惑いながら答えた。
「禁書で読んだことはありましたけど、まさかこの目で直接拝見できる日が来るとは思ってもみませんでした!」
「禁書?」
王女はさらに興奮気味に前のめりに話した。
しかし私は彼女の『禁書』という発言が気になった。
「はい、エルフ族など人間族以外の他種族のことが書かれた書物のことです。王城の図書室にはそのような禁書扱いの書物がいくつかありまして、その中のエルフ関連の書物に載っていました。まさに人智を超えた特殊スキル!これぞエルフの力じゃないですか!?」
王女は随分楽しそうに目を輝かせていた。
「そんな書物読んで大丈夫なんですか?」
そもそも読むことを禁止されている書物だから『禁書』なのだ。
そんなもの読んで本当に大丈夫なのだろうか?
他人ながら少し心配になる。
「それは問題ありません。昔は厳しく管理されていたそうなんですけど、司書が廃止されて以降、誰も書物を管理する人がいなくなってしまい、勝手に読み放題の状態になってしまったのです。しかし、そんな古臭い本を読むのは幽閉されて時間だけを持て余し続けている私ぐらいでした。しかし残念ながら、今の王族や貴族は誰もそのような歴史的な書物を読む人はおらず、ただ場所を取るという理由から全ての書物が焼き捨てられることになったんです。ですので今はもう原本はこの世に存在していないので、読んだとか読んでないとかもうそんなことを言っている状態ではなくなってしまいました」
王女は少し悲しそうに言った。
「『書物を焼くものは、早晩、人間を焼くようになる』なんて言うけど、この国は大丈夫なんですかね?」
私には関係ないことではあるが、そんな話を聞かされてはこの国の行方をつい心配してしまうではないか。
しかし何気なく発した言葉に王女は目を見開くと私の元にすばやく駆け寄ってきた。
「なんと言うことでしょう!あなた様はそのことを理解されておられるのですね!?」
何故か王女は歓喜の声を上げ、私の手を握り締めた。
「えっ?どういうこと?」
何が起こったのかわからず、私はただ困惑しながら興奮している王女を見つめた。
「その『書物を焼くなんとか』ってどういう意味?」
私と王女のやり取りを見ていたアイリスは言葉の意味がわからず頭に?を浮かべていた。
「書物を大切にしない国は歴史上の失敗を繰り返して、そのうち自分達の国の人間も大事に出来なくなる、みたいな意味だよ」
私はアイリスにもわかるように意味を説明した。
「その通りです。ですが今この国はまさにその道を辿ろうとしています。それに気付いていながら何も出来ないことを私は非常に悔しく思っています。ですが、まさかそれを理解している方がいらっしゃったとは思いもしていませんでした!」
王女は少し興奮気味に鼻息を荒くした。
「そう。リーナはすごいんだよ!何てたって半年前の壊滅作戦だってすべての計画を事前に見抜いて人間達を出し抜いたんだから!」
何故かアイリスが自慢げに胸を張った。
「あなた様はリーナさんと言うのですね!ぜひともいろいろとお話をお聞きしたいですわ!」
王女はますます目を輝かせ、鼻頭がくっつくんじゃないかという距離までぐぐっと顔を近づけてきた。
こんなに近くで見詰められたことは記憶にない。
恥ずかしさもあり、思わず身を捩って距離を取ろうとした。
「どうかされましたか?リーナ様?」
それでも王女は気付いていないのかすぐに離れた距離を詰める。
「いや、ちょっと距離が近くて…」
思わず言ってしまった。
しかしアイリスといいこの世界の女性達は妙に距離が近いような気がする。
これがこの世界の常識なのだろうか?
「えっ?あら!これは失礼いたしました」
王女はハッと我に返り顔を離し、握っていた手も解くと少し顔を赤らめて謝罪した。




