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エルフの里は焼かれがち  作者: 北川やしろ
1. エルフと私
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1-4. 誰?

 細い通路を進むと開けた巨大な空間が現れた。

 まさか洞窟の内部にこんな空間があるとは思わなかった。


 空間の中は薄暗く、壁のところどころに松明を差し込むことにより明かりを取っていた。

 改めて周囲を見渡すとキャンプをするときのテントのようなものがひしめき合って立っている。

 その光景は少し異様だった。


 「お疲れのところ申し訳ないのですが、ひと段落したら里長に会ってもらえますか?」


 「里長?」 

 アイリスは申し訳なさそうに言う。

 まぁ、それはそうだろう。どこの馬の骨かもわからないよそ者を里においておくというわけにはいかないだろう。

 「わかりました」

 私は了承の返事をした。

 「では、私の家へいきましょう」

 アイリスはホッとしたような表情を浮かべると私を自宅へ招待した。



 同じようなテントがひしめく中を進む。

 形は基本的に同じではあるが、テント生地の色が違うテントがいくつもある。

 テントの隙間からかすかに視線を感じる。

 しかし気にせずにズンズン奥へと進む。


 「さぁ、着きました。汚いところですけど、どうぞ」

 無数に並ぶ同じようなテント群の中、一つのテントの前でアイリスは立ち止まると私をテントへ招き入れた。

 アイリスはテントに吊るされたランプを灯し私を誘う。

 アイリスは私が中に足を踏み入れると、入れ違うようにテントから出て行ってしまった。

 一人テント内に残された。

 ランプに照らされ、ぼんやりとテント内の様子が浮かび上がった。


 隅に藁がこんもりと積み上げられている。

 どうやら彼女のベッドのようだ。

 数枚の衣類と思われる布が地面に散乱し、ベッドの反対側には弓矢の入った籠と小さなテーブルが置かれているだけだった。


 「この時間だと湯浴みも水浴びも出来ないので体を拭く程度しか出来ないんですが…」

 外から戻ってきたアイリスはそう言うと、水の入った桶とタオルと思われる布切れを私に差し出してくれた。

 「ご親切にありがとうございます。私がいただいていいんですか?」

 私は恐縮しながら訊ねた。

 「ええ、疲れているでしょうし、是非。私は一旦里長に偵察の報告をしてきますので、先にさっぱりしちゃっててください」

 アイリスはそう言い残すと足早にどこかに行ってしまった。



 「意外といいヤツだな」

 一人残されたテント内で私は呟く。

 汗を掻いているのかはわからない。

 しかし慣れない樹上移動の緊張による疲れがあるのは確かだ。

 そして何より見たことも聞いたことのない異世界のような場所にどうやらやって来てしまったという現実を受け止めるには、さすがに幾多の事態を経験してきた私でも時間が必要だった。

 そのため体を拭く程度でもリラックスが出来るのは願ってもないことだった。


 テントの奥へと移動すると、まず顔を拭こうと受け取った桶に布切れを浸し取り出すと水分絞る。

 桶内に波紋が広がりそして静まる。

 ランプに照らされた水面に私の姿が映り込む、はずだった…。


 「えっ…、誰…これ…?」


 水面に私の知らない顔がくっきりと映り込む。

 サラサラとした長い銀髪に細く整った輪郭。長い睫毛に二重瞼、くっきり切れ長で朱色をした瞳は少し妖艶な印象を受け、シャープな鼻立ちが外国人を思い出させる。

 肌色は浅黒く尖った両耳が髪から飛び出しチラリと見える。


 これは一体誰だろう。

 自分の目を疑い目を擦る。

 しかし水面に映るのは相変わらず見たことのない美女の姿だった。


 そもそも私という人間は、普段陽に当たる機会が少ないため、私の肌は不健康な青白い色をしていた。

 ショートカットの黒髪にぼっちゃりした丸顔。少し腫れぼったい一重瞼に小さい瞳、低く丸い鼻。チビで手足は短く、悲しいかな胸もない。体のラインにくびれはなく、若干ポッコリしたお腹が気になり始めていた。

 とはいえ元より火傷や感電による皮膚の爛れ、事故などによる大小の傷が体中あちこちに残っていた。

 そのため出来るだけ外出を避け、外出する場合には季節問わずマスクや長袖服で地肌を覆い隠す生活だった。とても美人とは言いがたく醜悪な見た目をしているのが私だった。

 生きているだけで丸儲けというある芸人さんの言葉を座右の銘にし、見た目のことはとっくに諦め、そもそも鏡を見るという習慣すらなくなっていた。


 しばらく見ないうちに美人になっていました、ということはさすがにないだろう。

 今更ながら恐る恐る全身を見る。


 露出している肌は顔同様浅黒く、手足はスラリと長い。胸には見たことのないほどの大きな二つの果実がたわわに実り、お腹りはキュッとくびれ、張りのいいお尻がセクシーだ。

 ノースリーブのような衣服とショートパンツという人生において着用した記憶のない衣服を着用していた。

 汚れかもと思い肌をごしごしと擦ってみる。

 肌色は変わらない。

 尖った耳と浅黒い肌色。これはもしかしてダークエルフというやつなのではないだろうか。

 知っているファンタジー知識を総動員する。


 ダークエルフ。

 同族以外の種族との交流はほとんどなく、自然をこよなく愛し、身体能力が極めて高い。

 そして大抵何故か居住地の里が人間やモンスター、自然現象などによって壊滅していたり、しかけていたりする。

 近年では脳筋で残念でエロいというイメージが定着しつつあるが、これは正確なものではないだろう。

 しかしこうして考えると、相次いで不幸に見舞われるという点で私とダークエルフは似ている境遇にあるなと思ってしまう。


 情報が少なくかつ偏りすぎていて本当のダークエルフとは何なのかがわからない。

 姿は似ていたとしても、私は本当にダークエルフなのだろうか?

 黒人キャラと日焼け肌キャラは見た目は確かに似ている。

 しかしベースが日本人なら黄色人種で日焼けして浅黒い肌色になっているのと人種が黒人なのとでは遺伝子レベルで異なる生き物であり、同じものでは決してない。

 だからまず私が本当のダークエルフなのかどうか確かめる必要がありそうだ。

 ダークエルフ族がいれば話は早いが、例えいなくともエルフ族ならその違いがわかるかもしれない。幸いなことにここはエルフの里だ。


 「カトリーナさん。今大丈夫ですか」


 私が改めてマジマジと体のあちこちを確認していると外から声がかけられる。

 大丈夫ですと返事を返すとテントの入り口が開かれた。

 「里長がお呼びです」

 アイリスは今までとは異なり神妙な表情で私に声をかけた。

 あのアイリスの態度がこれほど変わってしまうとは、里長とは一体どんな人なのだろう。

 しかし今の私に断る権利はない。

 黙って頷きアイリスと共にテントを出た。

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